小悪魔×ゆっくり系5 パティシエールな小悪魔

  • この物語は、幻想郷の日常を淡々と描写したものです。過度な期待はしないでください。
  • 原作キャラ崩壊、独自設定、パロディーなどなんでもあり。
  • 良いゆっくりは食べられたゆっくりだけだ。
  • 以上に留意した上でどうぞ。








          パティシエールな小悪魔




幻想郷の霧の湖に浮かぶ紅魔館。
そのキッチンでは、小悪魔と呼ばれる少女が、午後のティータイムに出すお茶請けを準備していた。
紅魔館の通常の食事は、専属の妖精メイドやメイド長である十六夜咲夜が用意するのだが、小悪魔は
手の空いたときなどに、主であるパチュリー・ノーレッジのためにこうしてキッチンに立つ事があった。
理由の半分は、趣味でもあるお菓子作りなどの料理が好きだからなのだが。
赤いロングヘアーを後ろで軽く結わえて、メイド長から借りたエプロンをして、気分はすっかり菓子職人
である。





小悪魔は、スコーンを焼こうと思っていた。
ビスケットに似たスコットランド伝統の菓子であり、英国式ティータイムの紅茶には欠かせないものだ。
そんな考えとともに、人里の加工所から届けられた赤ちゃんゆっくりの10匹入りパックを取り出す。
パックはダンボール製で、外見は卵の10個入りパックに似ているが、中にはピンポン玉ほどの大きさの
ゆっくりれいむの赤ちゃんが詰まっている。
同じ日に生まれた姉妹だろうか、パックにはつい先日の採取日と、れいむ種との種類が記載がされていた。
内側にはゆっくり捕獲袋と同じように、ゆっくりを強制的にゆっくりさせる材質が使われているのか、
騒いだりすることもなく、おとなしく眠っているようだ。
加工所生まれの無菌培養された赤ちゃんゆっくりは、もちろん生で食べても美味しいのだが、一手間加える
ことによってさらに美味しくなり、料理のレパートリーも増やせる便利食材なのだ。
加工所と箱の中で十分ゆっくりしていた赤ちゃんれいむ10匹は、健康状態も問題ない。
パックをあけて逆さにすると、ころころとテーブル上のトレーの中に転がってから、暫くすると目を覚まし
小悪魔に向かって挨拶をした。

「「「ゆっきゅりしちぇいっちぇにぇ!!!」」」

「はーい、皆さんおはようございます。ゆっくりしていって下さいね」

にっこり笑って挨拶を返す小悪魔は、まるで保母さんのようだ。

「ゆゆっ?おねえちゃんはゆっきゅりできるひと?」

「もちろんですよ。これから皆さんには、ゆっくりおいしいお菓子になってもらいまーす」

「ゆーっ!おかし!おかし!」
「おいしいおかしちょうだいにぇ!」
「ゆっくりれいみゅにだべさせちぇ!」

小悪魔の返答に対する赤ゆっくりの反応をみると、どうやら自分たちの運命が良く分かっていないようだ。
おいしいお菓子という単語のみに都合よく反応し、ぴょんぴょんと跳ねておねだりをしている。
さすがは温室育ちの餡子脳だろうか。
ちなみに加工所で慣らされているので、両親が居ない事を疑問に思ったりはしない。

「まずは皆さんに、甘くて美味しい飲み物を差し上げます。長旅でおつかれでしょう?」

そういうと小悪魔は、赤ゆっくりの上から砂糖を混ぜた牛乳をかけてゆく。

「ゆゆっ!ちべたいにゅ!」
「べたべたー!あまあまー!」
「みゅーん、あまくておいちいよ!」
「しっとりー!」
「ぺーろ、ぺーろ、しゃぁわせー♪」

赤ゆっくりは砂糖入りの甘い牛乳を気に入ったようだ。
その皮は牛乳を吸い込んで、つやつやのもち肌になっている。

「次は皆さんをさらふわにしてくれる、魔法の粉をかけますよ」

傍らにおいてある小麦粉とベーキングパウダーの入ったざるを持ち上げてとんとんと叩くと、
赤ゆっくりの上に白い粉が降りかかった。

「わーっ、きれいだにょ!」
「さらさらできもちいいにゅ」
「おねえしゃん、これでれいみゅたちふわふわになれるにょ?」

赤ゆっくりたちは、白い粉が積もるトレーの中でぴょんぴょんと跳ね、キャッキャッとはしゃいでいる。

「そうですよー。さらさらのふわふわになるには、この粉をよーくお肌に馴染ませてくださいね」

そう言いながら小悪魔は、赤ゆっくりを手でころころと転がし、ベーキングパウダーを皮に刷り込んだ。

「ゆゆっ、くすぐったいにゅ!」
「おねえちゃん、れいみゅもやってー」
「れいみゅもふわふわになりたいにょ!」
「けほっけほっ、ちょっとむせたにゅ…」

粉を吸ってむせたのも居るみたいだが、小悪魔は気にしないで次の作業に移る。
赤ゆっくりを鉄板のちょっと浅いトレーに載せ換え、レンガ製のオーブンの前に連れて行く。

「ここは乾燥室みたいなもので、濡れちゃった皆さんを乾かしてすっきりさせてくれます。
ちょっと暑いけど、がんばって我慢してくださいね?
皆さんが大きく膨らんでふわふわの立派なスコーンになれたら、おやつの時間にしましょう!」

「「「「「ゆーっ!!!」」」」」

赤ゆっくりたちは喜んで返事をした。勿論、スコーンとは何のことか、まるで分かってはいない。
はしゃぐ赤ゆっくりたちに向けられた小悪魔の笑顔は、まるで天使のようだ。
そして、ミトンを着けた小悪魔の手によってオーブンの鉄の扉が開かれると、トレーが中に入れられ、
扉がしっかりと閉められた。扉には小さな窓が開いているが、中は薄暗い闇に包まれる。
そして、オーブンの下の釜に薪をくべて、火の勢いを強くした。
昼夜の寒暖の差で実を熟し甘みを増す果物の様に、ゆっくりも「ゆっくり」と「ゆっくりできない」の
ギャップが大きいほど美味しくなると、小悪魔は思っている。
ゆっくりは苦痛によってゆっくりできないと感じると、餡子脳内に現実逃避のための脳内麻薬のような
旨味物質を出す。要するに、持ち上げた後に落とせばそれだけ甘みが増すのだ。
とはいえ、赤ゆっくりたちを慈しむ気持ちに嘘は無い。
美味しい料理に必要なのは、食べさせてくれる食材と、食べてくれる人に対する愛情なのだ。





「これでよし。と」

小悪魔は、砂時計をひっくり返すと、スコーンが焼きあがるまでの間にトッピングの準備をはじめた。
まずは、同じく加工所から届けられた箱から、ゆっくりありすを取り出す。
こちらは直径15センチ程だろうか?赤ゆっくりよりは大きいサイズだ。

「ゆっくりしていますね、もう午後ですよ」

小悪魔が呼びかけるとぱちっと目を覚し、ぼよんぼよんと跳ねながら挨拶する。

「ゆゆっ、ゆっくりしているわ!」

周りを見回したありすは、赤レンガ造りのキッチンが気に入ったのか、早速おうち宣言を始めた。

「ここはとかいはのありすにぴったりのばしょね!
おねえさんはめいどかしら?ありすのゆっくりぷれーすで、やとってあげてもよくってよ!」

加工所で生まれ育ったありすは、人間の恐さを知らない。そこでは、人間は自分の下僕だった。
自分が育てられた場所さえ、恐ろしい加工所の中だったと認識していないのだ。
ましてや、目の前にいるお姉さんが悪魔の眷属で、ここが吸血鬼の住処などとは夢にも思わないであろう。

「ふふっ、生きが良いですね。そういう子は嫌いじゃないですよ?」

勿論、小悪魔は饅頭の戯言にいちいち怒ったりはしない。
にっこりと、慈愛に満ちた笑顔である。
小悪魔はゆっくりありすが十分ゆっくりしていると感じたので、早速作業に移った。
コンロの上で予め熱したフライパンに、ありすを乗せた。足である下顎から、じゅぅっと音がする。

「ゆ゛げぇぇぇぇーーー!あぢゅぃぃぃぃーーー!!やべでぇぇぇぇーーー!!!」

みっともない叫び声をあげるありす。小悪魔はフライ返しでその頭を押さえつけ、下顎を焦がしていく。
ぎゃーぎゃー五月蝿過ぎるので、ちょっと転がして口のほうまで焼いた。
とはいえ、焦がしすぎてはいけない。
クリーミーなカスタードの滑らかさに、ほんの少しキャラメルの芳ばしさが漂う辺りの火加減が難しい。

「ぶぐぅぅぅぅぅーーーー!!」

満足に口も利けなくなったありすは、涙を流しながら小悪魔を見つめている。
その表情は、どうして?と問いかけているようだ。
小悪魔は丁度良い塩梅を見極めると、さっとありすを火から降ろし、テーブルに置いた。
既に足と口の部分は焦げてしまい、飛び跳ねることも叫ぶことも出来ない。
ぶるぶると震えるそれの額に、小悪魔はナイフを突き立てると、頭頂部をくるっと一周切り取った。

「ゅっ!ゅぅ……!ゅっ……」

それに対してありすは、頭を切り裂かれる痛みに耐え、泣きながら震える事しか出来ない。

「さて、どうでしょう?」

頭頂部を取ると、黄色いカスタードクリームが見える。
甘い香りに、かすかに芳ばしいキャラメルのエッセンスが混じる。

「ぅ゛ゅっ!…」

スプーンを差し込んで一掬いすると、ちょっと舐めてみた。

「甘みと舌ざわりはまずまずですね」

図書館へ持っていく頃には、甘みはさらに増すだろうと小悪魔は思った。






「さて、次の子を用意しなきゃ」

ひゅーひゅーと虫の息のありすはとりあえず置いておき、小悪魔は箱からゆっくりぱちゅりーを取り出した。
こちらもありすと同じく、15センチほどの大きさだ。
箱の中で強制的に眠らされていたが、机の上に出して暫くすると目を覚ます。

「むきゅーん!?ここはどこ?あなたはだれ?」

「私はパチュリー様の使い魔で、小悪魔と言います。大図書館の司書をさせてもらってるんですよ?」

「!!むっきゅぅぅーん!ぱちゅりーのつかいまなのね!ごほんをもってきて!ゆっくりいますぐよ!」

挨拶する小悪魔に、勘違いしたゆっくりぱちゅりーは喜色満面になって命令を下す。
ちょっとは疑ったりしないのだろうか?小悪魔はゆっくりぱちゅりーのゆっくりらしい反応に嘆息した。
パチュリー様の形を模したゆっくりとはいえ、この大きさでは大した知恵もなさそうだ。
加工所では親から学ぶ機会も無いので、何も分からなくても仕方が無いのかもしれない。

「大丈夫ですよ、これから大図書館にご案内します。ゆっくりしていってくださいね」

「むきゅーん!ゆっくりはやくしてね!こあくま!…って、へんなおなまえね?ほんとうのなを
おしえなさい!」

小悪魔はちょっと感心する。やはり、ゆっくりぱちゅりー種の好奇心は、他の種より強いようだ。

「それは、禁則事項です。
真の名は、真の主以外には教えちゃいけないっていうのが、小悪魔的物語世界の常識ですよ?」

小悪魔は悪戯っぽく言った。

「むきゅ?しんのあるじって…?」

「はーい、お喋りはここまでです」

小悪魔は天使の微笑みでそう言うと、ゆっくりぱちゅりーの帽子をとり、

「むきゅ!おぼうしとらないでぇーーーー!」

頭頂部に金属のパイプを突き刺した。

「むぎゅぅぅぅぅぅぅぅ!」

白目を剥いて痙攣するゆちゅりー。
小悪魔は、パイプの上から飛び出している取っ手を、ゆちゅりーの中に押し込んでいく。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

ゆちゅりーの中では、パイプの反対側から針金で出来たかき混ぜ棒が、広がりながら飛び出す。
小悪魔は押し込んだ取っ手の先を、ハミングしながら手で揉むようにくるくると回した。

「美味しいホイップクリームになぁーれ♪」

「ゅ゛っ!ゅ゛っ!ゅ゛っ!ゅ゛っ!ゅ゛っ!ゅ゛っ!ゅ゛っ!」

ゆちゅりーの中身は生クリームだが、普通は一部の成分が沈殿して片寄っていたり、固まっていたりする。
こうして空気を入れながらホイップすることで、ふわふわのホイップクリームになるのだ。
こちらも、あまりかき混ぜ過ぎてはいけない。
撹拌し過ぎると、脂肪分が再び分離してバターになってしまうのだ。
ゆちゅりーは、既に中身が撹拌される痛みで意識が飛んでいる。
このままにしていても、暫くは動けないだろう。
小悪魔は適度にホイップした後、再びかき混ぜ棒をパイプの中に引っ込めると、ゆちゅりーの頭から抜いた。
そして、頭頂部の穴に、パイプの代わりに星型の穴が開いた口金を差し込む。
パイプに付いたホイップクリームをちょっと舐めてみる。
こちらはありすのカスタードほど甘くない。苦痛を感じる前に気絶してしまったのだろうか?
ぶるぶると痙攣しているゆちゅりー。まあ、放っておけば次第に適度な甘みになるだろう。

「よし、完成!」

今日のトッピングは、キャラメルの風味が芳ばしく香る、とろけるように甘いカスタードクリームと、
ホイップしたふわふわの生クリームだ。





一方、オーブンの中は、予め100度ほどに余熱がしてあった。
この程度ならサウナと同じで、急にやけどしたりすることはない。
赤ゆっくりたちはちょっと暑すぎると思いながらも、適度にすっきり乾燥すれば、また美味しい飲み物と
おやつの時間が待っていると、優しいお姉さんの言うことに間違いはないと信じてゆっくりとしていた。

「ゆーっ、あついにぇ」
「でもがんばってゆっくりするにょ!」
「ここからでればおやつのじかんだにゅ」

ここで、赤ゆっくりたちの体に変化が起こり始めた。
ベーキングパウダーの発泡作用によって、皮が膨らみ始めたのだ。

「ゆゆっ、れいみゅおっきくなってきたよ!」
「ほんとだ、れいみゅもぷくーってふくらんだよ」
「ふわふわだにゅー」
「しゅごいにぇ、あっというまにおねえちゃんだにょ」

薄暗い中でも隣の様子はかろうじて分かる。皆、外敵を威嚇するときのようにぷっくらと膨らんできていた。
口の中に空気をためて膨らんだときと少し違うのは、目や口などが膨らんできた周りの皮に押されて、開き
にくくなってきたことである。
この時点でも、赤ゆっくり達にはまだ喜んでいる余裕があった。
発泡した皮の断熱効果によって、体内の温度はそれほど上がっていないのである。
しかし暫くして…

「ぐみゅ、ぐるじいにゅ…」
「あ、あづいにょ!」
「もががが」
「ゆぅぅ~」
「ゆっくりできにゃい…」

皮が膨らんできて苦しくなってきたと同時に、周りの温度がどんどんと上がってきた。
まさに焼けるような熱さである。
しかし、すでに元より2倍程に膨らんだ体では、飛び跳ねたりはおろか満足に動くことも出来ない。
目も口も皮の中にめり込んで見えなくなってしまった体を、その場で震わせることが精一杯であった。
こうなってしまうと、中の餡子を吐き出すことも出来ず、目と口をぎゅっと瞑って耐えるだけである。
ぱんぱんに膨らんでいく皮に押された髪の毛やリボンはポロポロと取れ、チリチリと焼けていく。

「ぐみゅぅぅぅ!」
「ぷぴゅるるる」
「ゅ゛っ゛…!ゅ゛っ゛…!」
「…」

熱さと痛みに耐え切れなくなり、ゆっくりと意識を失っていく。
赤ゆっくりたちは、(小悪魔の)希望通り、美味しいお菓子になったのだった。

「そろそろかな…」

小悪魔は砂時計の砂が落ちきったのを確認すると、手にミトンをはめてオーブンの扉を開けた。
むわっとした熱気と共に、小麦の焼ける香ばしいにおいが漂ってくる。
かすかに甘いミルクと餡子の香りも混じっている。
トレーに取っ手を差し込んで取り出すと、そこには黄金色に焼けた10個のスコーンが並んでいた。

「上手に焼けましたー!」

小悪魔は嬉しくなって喝采をあげる。
その笑顔は、トレーをオーブンに入れる前よりさらに嬉しそうであった。
そしてトレーを机に置くと、スコーンになってしまった赤ゆっくりを1つつまんでみる。

「あつっ!」

と、ちょっと涙目になりながらも、手の中でふーふーと冷ましたスコーンを一口味見してみた。

「うーん、美味しい!」
「これならパチュリー様も喜んでくれますね」

ベーキングパウダーによって膨らんだ皮は、外側がかりっと香ばしく、中身はふっくらとしていい焼け具合
である。
そして中心の餡子は、熱々でありながらも瑞々しく、しっとりと上品な甘みがする。
簡単な料理ほど奥が深いというか、失敗するとすぐに判ってしまうものだが、今回は大成功といっていい。
小悪魔は上々の出来に満足すると、用意した茶器とともにワゴンに乗せ、主のいる大図書館に運んでいった。





「小悪魔、ご苦労様」

大図書館の扉をノックして開けると、そこには返事をしたパチュリーと共に、意外な人物が居た。
紅魔館の主、レミリア・スカーレットと、妹のフランドール・スカーレット。吸血鬼の姉妹である。

「今日のお茶の時間は、ご一緒させていただくわ」

「よろしくね小悪魔。」

小悪魔はワゴンの下から予備のティーカップを出しながら、お茶の準備をする。

「今日はゆっくりれいむを使って、スコーンを焼いてみました。
ちょっと多めに焼いてしまったので、召し上がってくださる方が居て丁度良かったですよ」

そう言う小悪魔に、レミリアが面白そうに声をかける。

「へぇ、カスタードクリームのゆっくりありすや生クリームのゆっくりぱちゅりーじゃないのね?」

普段はカリスマらしく高貴に振舞うレミリアだが、親友であるパチェと一緒の時には和んでいるようだ。
パチュリーは、「ぱちゅりー」の話題に、ちょっと嫌そうにジト目でレミリアを見ながら、

「あれは生で食べるのが一番なのよ、焼いたら凝固するか溶けるか、いずれにしても美味しくないわね」

素で返した。

「カスタードとホイップクリームは、トッピングでご用意しました」

小悪魔はそう言って、ゆっくりありすとゆっくりぱちゅりーを机の上に並べる。

「良い匂い!」

キャラメルの芳ばしい香りに、フランが思わず声を上げた。
そうこうしているうちに、お茶会の準備が出来る。

「「「「頂きます」」」」

全員で手を合わせ、神への感謝を捧げる。
悪魔が神に祈るのか?などと思うなかれ。
外の世界の非常識は幻想郷の常識。
そもそも多数の神が普通に暮らす幻想郷で、神を信じるも信じないも無いだろう。
ここでしか見られない、ゆっくりなる珍妙な生物も、きっと神が我々に与えたもうた自然の恵みなのだ。
もしかしたら試練なのかも知れないが。

「あれ?この子まだ生きてるみたいだよ、ほら」

フランはスコーンを手にとって割ってみた。
半分になった餡子を見ると、プルプルと微妙に振動しているように見える。

「餡子まで完全に火が通らないように焼き上げましたから、この子達の意識は今でも絶望と恐怖を
感じているんですよ」

「なるほど、それで甘くて新鮮なのかー。もぐもぐ」

フランはスコーンをぱくつきながら、宵闇の妖怪のような口調で感心する。
周りの皆はその様子を見て微笑む。

「こっちのも美味しそうだね」

フランはゆっくりありすの頭にスプーンを差し込むと、カスタードクリームを一匙掬ってみる。

「ゆ゛ぐぅぅぅぅぅ……」

それまで目を瞑って黙っていたありすだが、流石に中身のカスタードクリームをかき混ぜられると、
目をかっと見開いて苦悶の悲鳴を漏らす。

「甘ーい!」

スコーンにカスタードクリームをつけて食べたフランは、あまりの甘さにびっくりしているようだ。

「こっちはどうかな?」

今度はゆっくりぱちゅりーを逆さにすると、スコーンの上でぎゅぅっと絞った。
逆さになった頭頂部の口金から、真っ白なホイップクリームが、むりむりっと押し出されてくる。

「む゛ぎゅぅぅぅぅぅん!!」

スコーンにホイップクリームのデコレーションを楽しむフラン。
その手で押しつぶされているゆちゅりーは、命の元を搾り取られ、白目を剥いて悲鳴を上げる。

「あははっ!楽しい!」

フランは、妙な効果音付きのクリーム絞り器を気に入ったようだ。

「なるほど、トッピングの容器も含めて全部生きているのねえ。
ヨーロッパ貴族の諺にも、“民百姓は生かさず殺さず”っていうのがあるわ」

「それは江戸時代の殿様の台詞じゃないの?それにこの場合の意味とちょっと違うような…」

レミリアの薀蓄にパチュリーがすかさずツッコミを入れるが、それを気にせずレミリアはスコーンを食べる。

「外はこんがり、中はふっくらしていて、中々のものね。
スコーンに餡子はどうかと思ったけれど、しっとり甘くて、これはこれで幻想郷らしい味がするわ」

レミリアもゆっくりれいむの餡子味スコーンが気に入ったようだ。
中身の餡子の甘みに、トッピングの必要は感じないらしい。
真っ赤な紅茶を飲みながら、ゆっくりとスコーンを味わっている。

「生かさず殺さずかぁ、そういう加減って、難しいんだよねえ」

フランが呟きながら嘆息する。
そんなレミリアとフランの様子を笑って見ながら、パチュリーもゆっくりぱちゅりーを手に取ると、
スコーンの上でぎゅっと絞る。

「ゅ゛っ…!ゅ゛っ…!ゅ゛っ…!」

スコーンの上にちゅるちゅると描かれるホイップクリームの模様を見ながら、パチュリーは思った。
人間の食材になるために生まれてきたこの脆弱なる生物を、せめて残さずに美味しく頂く事が、我々に
出来る贖罪なのだと。
餡子入りのスコーンに載せたホイップクリームの味は、控えめな甘さだった。

「美味しいわね、今度はゆっくりみょん種も使ってみてはどうかしら?
あれはクリームチーズだから、スコーンにもきっと合うわよ。」

パチュリーに褒められると共に、次回のお茶菓子作成の助言をもらった小悪魔は、今日一番の笑顔で返事を
した。

「はい!ありがとうございます!!」





「食材を残さず食べるのが贖罪とは言ったけれど……」

少々うんざりした口調のパチュリー。

「これはちょっと甘すぎるんじゃないの?」

それに答えるのは、こちらもうんざりした感じのレミリア。
「これ」とは、テーブルの真ん中に載っているゆっくりありすだ。
真っ青になった顔色でぶるぶる震えるのに合わせて、くりぬかれた頭頂部から覗くカスタードクリームも、
プルプルと波打っている。
ちなみに、ゆっくりぱちゅりーのホイップクリームは、好評のうちに売り切れている。

「すみません、まさかこんなに甘くなるとは。この子、よっぽどストレスに弱かったんですかね?」

小悪魔が謝る。予想よりも甘くなりすぎてしまったようだ。

「匂いだけで、もうおなか一杯だよ」

フランも持て余し気味のようだ。

「仕方ないわね、咲夜!」

「お呼びですか、お嬢様」

レミリアの呼びかけと同時に、背後にすっと現れる咲夜さん。瀟洒で完璧なメイドある。

「ついでだからあなたも、お茶をご馳走になりなさい」

何のついでなのかはよく分からないが、レミリアの命令でお茶会の参加者が一人増える。
小悪魔は、咲夜の分の紅茶を煎れ直した。

「では、失礼します」

咲夜さんは席に着くと、スプーンでありすの中からカスタードクリームを掬うと、スコーンに付けて食べる。

「美味しい!甘くて美味しいですよこれ!
キャラメル風味のカスタードクリームに、和風の餡子が良く合います!」

とたんに相好を崩し、笑顔で喜ぶ咲夜さん。文字通り花が咲いたようだ。
レミリア以下数名は、見ているだけで胸焼けしそうなのだが。

「意外と甘党なのね、咲夜って」

意外そうにパチュリーが言う。

「流石は自称10代ね」

レミリアは感心したように言う。
どう見てもレミリアの方がお子ちゃまなのだが、これでも500年は生きている。

「自称ではありません、本当です。自分の時間は自分でコントロール出来ますから」

正直なのかはぐらかしているのか、意味深に答える咲夜さん。

「そういえば、小悪魔って年幾つだっけ?」

尋ねるフランに、小悪魔はにっこり笑って答える。

「それは、禁則事項です」










あとがき:

前作、辻斬り妖夢譚では、虐待描写が薄かったのとゆっくりが全然「ゆっくり」って言ってないのに
気が付いたので、今回は色々頑張ってみた。





by 神父


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最終更新:2008年10月09日 02:06
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