「れみりゃさま。今日はハロウィンですよ」
「うっう~~♪ はっどういぃんってなんなのぉ~♪ さっさとせつめいするんだどぉ~~♪」
「ハロウィンと言うのはですね。……………………で。………………おかしを貰って………………なんですよ」
「うっう~~♪ れみりゃははっどういぃんだいすきだどぉ~~♪」
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悪魔の住む屋敷紅魔館。
今日は屋敷中に色々な飾り付けがされているが、それでも悪魔の住む屋敷である。
「がぁ~お~!! お菓子くれないとた~べちゃ~うぞ~~!!」
「キャーカワイデスオジョウサマー」
飾り付けを命令した張本人は、自身の従者からお菓子を次々と手渡されている。
屋敷の中では、メイドたちがお互いにお菓子の渡しあいをしていたり、悪戯を優先させているものがいたりと、まぁそれなりに盛り上がっていた。
「う~~♪ れみりゃもおかしほしいんだど~~♪」
そんな中にいたれみりゃだったが、唯一絶対代わりなんて出るはずもない飼い主の咲夜がレミリア=スカーレットに釘付けであるから、当然誰からも相手にされない。
「う~~!! さっさとおかじをよこすんだどぉ~~!!!」
顔を膨らませて、必死に苦言を呈してはいるが、誰も彼もそんなもの視界に入れていないのだから反応するはずもない。
「うーーー!! おぞとでおがじもらっでくるどーー!! おいしーーのもらっできても、ぜったいにあげないんだどぉーー!!!」
とうとう痺れを切らしたれみりゃは、勢い勇んで正門から屋敷の外へ飛び出していった。
挿し木を出る頃には、既に顔は得意げになっており、心はウキウキの状態で、明かりが大きい方へとゆっくりと飛び去っていった。
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「おかしくれないと、いたずらしちゃうぞ!!!」
「れいむはかわいいなぁ~~~♪ もういっかいいってくれないか?」
「もう♪ おにいさんはしょうがないね!! おかしくれないと、いたずらしちゃうぞ♪」
「く~~~♪ かっわい~~♪」
ここはある人間の里。
飼われているゆっくり達は、飼い主にコスチュームを買って着せてもらい、思い思いに集まって、人間のうちへ行ってはお菓子を貰う。
戻ってくるときには、顔中クリームを付けているか、沢山のお菓子の入った袋を咥えているかのどちらかである。
この日ばかりは無礼講。
バッジを輝かせるゆっくり達も、思い思いの文句でお菓子を強請る。
「ゆゆ!! まりさはすっごくつよいんだぜ!! いたいいたいされたくなかったら、さっさとたべものよこすんだぜ!!」
「オコワイコワイ。コレシカナイケドモッテオキキ」
「ゆゆ♪ ほんとはゆっくりぷれいすにほしいけど、おうちはもうあるからかんべんしてやるんだぜ!!」
一度この台詞を言ってみたかった魔理沙も、ここぞとばかりに高らかに宣言する。
相手も慣れたもので、下手な演技に合わせて、魔理沙の袋の中へお菓子を入れてゆく。
言葉遣いは同じだけれど、今回のやり取りは終始笑顔が混じっていた。
「ゆぐ!! すごいぜ!! ここではゆっくりたちのほうが、にんげんさんよりえらいんだぜ!!」
その様子を見ていた野生の魔理沙が、意気揚々と群に舞い戻って行った。
今年も冬の間の甘味には困らないだろう。
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一方。
「うっう~~~♪ とうちゃくだどぉ~~♪」
れみりゃは無事に人間の里へ着くことが出来た。
「いっぱいおかしもらうんだどぉ~~♪」
ぴょこぴょこ歩きながら、適当な家に目星を付けるれみりゃ。
その至って真剣と言った事をいいたそうな顔で、漸く見つけたのは一軒の家。
「う~~♪ みてるんだどぉ~~♪ さくや……?」
いつもなら返事を返す咲夜が、何時までたっても応答しない事を不振に思ったれみりゃ。
あたりを見回し、咲夜がどこにもいないことを確認すると、最高の笑顔で言い放った。
「さくやがまいごになったんだどぉ~~♪ しょうがないじゅ~さをもつと、くろうするんだどぉ~~♪」
一通り飼い主の事を小ばかにした後、いよいよれみりゃはお菓子を貰う手順を踏む事になる。
すなわち、扉を叩いてお菓子を要求する、という手順である。
「ど~~ん!! ど~~ん!!!」
叩いて出る音よりも、遥かに大きな音を口から出しながら住人を呼び出す。
当然。これほどの音を立てればすぐさまやってくるだろう。
「へいへい。新聞ならよろこん……で?」
「にぱ~~~~♪」
出てきた男が、視線を下に落とすと、そこに居たのは満面の笑みのれみりゃ。
当然。
れみりゃなんて飼っていない男は、何がなんだか分からないといった表情でしばし一人と一匹の間で無言の間が生じる。
「う~~♪ おかしくれないと、いたずらしちゃうんだどぉ~~~♪」
先にこの均衡を破ったのは、れみりゃの方であった。
お得意の踊りを披露しながらの要求。
れみりゃの頭の中では、まさに最高の言い方なのであろう。
「……。わかった。ちょっとまってろ……」
「う~~♪ はやくもってくるんだどぉ~~♪」
話が見えた男が、一度奥へ引っ込む。
それを見て、待ちきれない様子で急かすれみりゃ。
れみりゃの要望どおり、男は直ぐに戻ってきた。
「う? おかしがないんだど~~?」
手に一本のロープを持って。
「うっう~~♪ おかし~~♪ おかs……!!!」
目当てのものが来なかったと、騒ぎ立てるれみりゃを無視し、男は手にしたロープでしっかりとれみりゃを縛っていった。
今まで温室でぬくぬく育ったれみりゃには、この突然の行動にまったく反応が出来なかった。
「うーー!! はなすんだどぉーー!!」
漸く、もがきだしたのは、完全に縛られ、宙吊りにされた後であった。
「やかましい。最近ゆっくりどもが家を荒らす機械が減ったと思ったら、まさかお前らが来るなんてな」
「うーー!! しらないんだどぉーー!! はやくおかしもってくるんだどぉーー!!」
「うるさいって言ってるんだよ!! そうやって人の家に入り込んで来るんだろうが」
「しないどーー!! きょうはおかしがもらえるんだどぉーー!!」
「やっぱりお前らは馬鹿だな。お盆も彼岸も十三夜も十五夜も終わって、ハレの日は当分ないんだよ」
「うーー!! ちがう!! ちがうどーー!!」
平行線の議論が続く中、男はれみりゃを土間まで運び、頭をつぼの中に突っ込んで吊り下げた。
「……!!! ……!!」
何かを話しているようなれみりゃへの興味がなくなったのか、男はしきりに包丁を選んでいる。
「よし」
その中から、一本だけを選ぶと、未だバタバタとうるさいれみりゃへ近づき、そのまま包丁を動かす。
「!!! ……ぐ……~~や!!!」
そこに、幾つかの道具か加わり、さらに数刻の時間が流れた後。
「…………」
気絶したれみりゃ。
既に男によって付けられた傷は回復してきているが、意識が戻るのはもう暫く先であろう。
そして、その男は、今作ったばかりの肉まんを肴に熱燗を飲んでいた。
「いや~~~。冬の間は他の肉が高いからなぁ。思いがけないものが手に入った。今日はツイてるな」
古きよき日本をした幻想郷。
商売は始まったばかりで、まだまだ浸透していない事は沢山存在する。
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「れみりゃさま? れみりゃさま?」
「咲夜さん。あれはこの日の為にレミリア様がやっていた演技ですよ」
「そうだったの。それじゃあ、お嬢様にお茶を淹れてくるわ」
飼い始めたその日から、一度も両者を同時に対面させないように努力したモノが、その日々を思い返しながら、杯を交わしていた。
最終更新:2011年07月27日 23:34