ゆっくりいじめ系1490 ちぇんと死に至る病

書きたかった事
  • ゆっくりの動物型妊娠の正体は卵胎生だったんだよ
  • ゆっくりブリーダー
  • 無意識に精神的でしかも真綿で首を絞めるような虐待を目指すよ
  • ちぇえええええん(*´∀`)
注意点
  • 賢いゆっくりが出てきます
  • バッジ設定とかあります
  • 幻想郷の住人が出てきます(村人Aとかじゃないよ)
  • 書きたい事は迷走してます




「むきゅぅ……もうだめね……」
今まさに天寿を全うしようとしているゆっくりぱちゅりーがいる。
息は弱々しく、精根尽き果て眼を開く気力もないようだ。
「ちぇんは……」迫り来る死への不安からかぱちゅりーは伴侶の名を呼ぶ。
「ここにいるよー」
今にも泣きそうな笑顔でゆっくりちぇんがぱちゅりーの正面で声を振り絞る。
二匹がいるこの部屋には無表情な男が肘を抱えた状態で直立している。
男がこうしてゆっくりの静かな死を見守るのは何度目だろうか。
といっても男にとっては死の回数は別段気に掛ける事では無かった。

「ちぇん、…ぱちゅりーとちぇんの子どもたちを……」
「まかされたんだねー、わかるよー」
「それを聞いて…、安心したわ」
この場には二匹の子供はいない。正確にはまだ生まれていない。

「お兄さん…」
「なんだ?」ぱちゅりーの最期の言葉にしっかり耳を傾ける。
「今まで…わからなかったことが、ようやくりかいできたわ……」
男は無言で続きの台詞を待つ。
そして消えていく声だったがしっかりと聞こえた「これが死、なのね……」と。
最期の表情はどこか笑っているようでそれでいて無念が滲み出ている、そんな気がした。



我慢できずちぇんの頬を一筋の涙が流れる。
これまで一緒だったのにひとりこの世に残された寂しさ。
とても利口でいつも笑みを絶やさなかったパチュリーへの愛しさ。
何も出来なかった自分への悔しさ。
ちぇんはすべてに耐えようとしていたが依然涙は止まらなかった。

ちぇんの様子を観察しながら男はそっとぱちゅりーを持ち上げる。
もう既に動く事は無いと分かっていてもこの暖かさからは命を感じずにはいられない。
彼らにあるとするならまだ魂は体の中にあるような、そんな感覚だ。
ぱちゅりーを抱える男に足下のちぇんが物言いたげに見つめてきた。
「もう手の打ちようがない。ぱちゅりーは限界まで生きた」
そう言うとちぇんは肩を落としたように俯き、男は部屋を立ち去さろうとドアに近づいた。

ドアを開けると冷気が廊下から部屋に滑り込んできた。
暖房の効いた部屋からの移動で、もはや意識が無いながらも献体に影響が出ては困る。
刺すような冷気にぱちゅりーを晒さぬよう出来るだけ腕でくるみ部屋に背を向けて呼びかける。
「ちぇん」そう言うと俯いていたちぇんがこちらに顔を向けたような気がした。
「泣きたいときは泣いた方が良い」
そう言い放って部屋を出てドアを閉めると後から悲痛な叫び声が聞こえてきた。



ぱちゅりーを抱えた男はこの家の地下に設けた部屋に入っていく。
まずぱちゅりーの帽子を取り小さい袋に入れ、本体を部屋の中心に鎮座している台にそっと乗せる。
そして男は本来の姿に着替えていった。
白衣を着て、マスクとゴム手袋をはめ、眼鏡をかける。
ゆっくり加工所、ゆっくり生態研究部門で働いていた頃の正装である。
男はゆっくりの研究に没頭するあまり生産的ではないとして解雇されたのだ。
現在は飼いゆっくりのブリーダーとしての表の顔と今でも研究を続けているサイエンティストの裏の顔があった。

まずはぱちゅりーの頭に手際よく電極を左右対称に八本刺していく。
近くにある機械の電源のスイッチを入れると脳波の電気信号として表示される。
この様子だと完全に死の状態に陥るのはすぐだと判断した男は次の機材の準備をする。
部屋の奥にある機械を調整し始めた。
これはゆで卵を輪切りにするようにゆっくりを空気の刃で輪切りにする装置だ。
脳波が完全に止まった電気音が部屋に鳴り響くと急いでぱちゅりーをこの装置に設置した。
死んでからは中身の餡子の腐敗が進行するため時間との勝負となる。

輪切りにし終えたら、真ん中付近の大きい円状のパーツ二つを台に戻して残りを冷凍保存する。
小さいパーツは真空パックに丁寧に詰め込んだ後タッパーで密閉し、同じような容器が整然と並ぶ冷凍庫に入れる。
大きいパーツの一つは餡子だけを取り出しミキサーで撹拌させ、もう一つは目視観察に用いる。

撹拌の作業が終わるまでにぱちゅりーだった物の断面図を写真撮影し、内容物の種類、割合、分布、硬度を調べていく。
一般的に飼いゆっくりは野良のそれと比べ、運動量が少なく、ぱちゅりー種なら顕著になる。
それ故ゆっくりの中身を構成する餡子は体内であまり流動することなく、
色や柔らかさが異なる餡子が眼でも確認できるほど一匹の体内に何種類も見て取れる。
色が薄く硬い餡子はとてもまずく、逆に色が濃く柔らかいものはとても甘くなっている。
そのことからある程度はその餡子を持つゆっくりの生活状況が見て取れるのだが。
「先代のものより明らかに色の濃い部分が多くなっている」
メモを取りながら考えてみるが、男はこの状況に対する原因が全く思い当たらない。
飼育日記を確認しても先代のぱちゅりーと比較したが特に変わったことをした覚えもない。
ぱちゅりー種持ち前の病気の線も考えたが、健康優良児だったことは認められていた程だ。
ふむ、と唸りながら混ぜ終わった餡子を糖度計にかけ、また薬匙で一口すくって食べてみた。
「甘いな……」
糖度計に目をやると値にして5ポイントの上昇が確認できた。
ゆっくり出来ていたはずのぱちゅりーは何故苦しみながら死んだのか?



「ぱちゅりーはゆっくりできたのかわからないよー」
泣き腫らした赤い眼のちぇんは男に呟く。
ちぇんと男は敷地内でも一番広く日の当たる部屋に移動している。
ここからは庭で遊ぶゆっくり達も見えるし、なによりこの暖かさがちぇんにも子供達にも良い影響を与えると判断したからだ。
男はゆったりとしたソファーに腰を掛け、膝の上にゆっくり用座布団にちょこんと座ったちぇんごと乗せている。
「おにいさんはどうおもう?」
「そうだな……」
男は実験室で書いたレポートを思い出しながら考えた。
『……5世代目以降のゆっくり達の内容物の餡子に糖度の著しい上昇という目立った変化
 が現れている。1世代目の平均10.8ポイントから下がり始めた糖度は5世代目で平均1.2
 ポイントにまで減少。しかし6世代目からそれぞれおよそ5ポイントずつの大きい上昇
 率でついに8世代目で平均16.0ポイントに到達した。原因は未だ不明。これらは……』
「私はぱちゅりーは幸せではあったと思う」何故かちぇんの眼を見ながら言う事は出来なかった。

「ちぇん、お前は悲しんでばかりもいられない。ぱちゅりーとの宝物を守っていかなくちゃならないからな」
「うん、わかるよー」
男はそう言ってちぇんの気分を逸らそうと試みる。
二匹の宝物とは二匹の子供達である三個のゆっくりの卵だった。
ぱちゅりーは卵を産んだために餡子の糖度が上がったのか?いいや、それは違う。
これまで男が育てたゆっくり達は最初のものから全て卵から孵化し卵を産んでいたからだ。しかもぱちゅりーの産んだ卵の数は平均より少なかった。



男が加工所から追い出されたのはゆっくりの卵に起因している。
度重なる実験から男はゆっくりの体内妊娠型増殖は実は卵胎生によるものだと気が付いた。
この世には卵を自分の体内で孵化させ、ある程度育った後体外に排出する魚や動物が存在している。
これに注目した男は野生のゆっくり種が稀に鶏のような卵を生み出すことを重視し実験を重ね、
ゆっくりは植物型増殖、似非妊娠型増殖、卵型増殖の3タイプの増殖方法が可能であることを確証させたのだ。

つまり植物型を除けば、ゆっくり達の増殖方法はは卵を体内で孵化させるか、体外で孵化させるかの違いでしかないのだ。
また関連研究により厳しい環境で親が生き残れないため卵を産むのでは無く、
卵を産むからさらに死期を早めていることも発見した。
これは卵の殻を構成するカルシウムが体内孵化の場合ほぼ必要なかったり再吸収されるのに比べ、体外孵化の場合不足した分を補う必要があり、
また卵を産むことによる急激なカルシウム欠乏による運動能力の低下や内容物の崩壊から死に至ると結論づけた。
しかしこれらのゆっくり界の新発見は加工所にとっては意味のあるものではなく、男は解雇を余儀なくされた訳だ。
卵による増殖方法はゆっくりの死期を早めるとはいったものの、勿論きちんとカルシウムの摂取を促せば通常の方法と遜色なく行える。

そうなると俄然卵型増殖の利点が生かせるようになる。
一点目は親の情報を多く引き継ぐ事。
これは生まれた後すぐにでも狩りの仕方や巣作りの方法を親から習わなくてもいい事から分かるように、
多くの記憶情報や行動規範を赤ゆっくりに引き継がせる事が出来る。
二点目は孵化するまでの時間が長い事。
この時間を胎教に利用して生まれた直後から人間界のルールやマナーを憶えた状態に躾けることが可能となる。

この『ゆっくり達を卵で増やす』という方法で男は幻想郷屈指のゆっくりブリーダーの地位を獲得し、
研究施設兼ゆっくり達との家を建てるまでになっていた。
男の育てたゆっくりはとても賢く人間生活にとけ込むには充分過ぎるほどだった。


8世代目ぱちゅりーについて悶々と考えていると呼び鈴がなった。
おきゃくさんがきたよと玄関のほうからゆっくり達の声が近づいてきた。
腰を上がる前に男はちぇんの頭をそっと撫でながら言い聞かす。
「そしたらちぇん、この前のように子供達にゆっくり生きる知恵を授けてやってくれ」
ちぇんは文字を読む事ができる。その為マニュアルを渡しておけば卵の世話ができた。
「わかったよー」
そう言ってちぇんは子供達の元に跳ねていった。

この家を訪れる人は多かったが今日は特に来客の予定は入ってなかったはずだ。
玄関に続く廊下を歩きながらゆっくり達を部屋に入るようにうながしていく。
ふと男はぱちゅりーの死が近づいたときに飼いゆっくりのバッジを認定する機関に近いうちに訪れるよう連絡を入れていたのを思い出した。
訪問させる用件は、ぱちゅりーに与えられた特に優秀であると認められたバッジを返納するためだ。
バッジの流用を防ぐためにバッジのついた帽子ごと返納しなければならないのがいささか辛いところではあるが。
しかしこうもタイミング良く来るものなのだろうかと心によぎったが気に留めなかった。

「お待たせしました」
そう言って男は開けたドアのノブを握ったまま固まってしまった。
扉を開くとそこにいたのは金色の長い髪でところどころにリボンをし、
紫色の瞳で貫くような視線をこちらに向ける女性だった。
「あの、どちら様で?」
少女趣味な洋服をきてフリルの付いた日傘を差すような認定機関の職員を男は知らない。
「はじめまして、私妖怪をやっております八雲紫と申します」
そして扇子で口元を隠しながらさらっと物騒な事を言ってのけた。
「異変を解決するためにあなたを殺しに参りました」

男は咄嗟にドアを閉める。
冗談じゃない! 俺がいつ妖怪に反感を買うことをした。
跳ね上がる心拍数は抑えきれず、思考もうまく回らない。
混乱する頭に最初に思い浮かんだのはちぇんの心配だった。
急いで先程の部屋に戻る。
とこかくあいつだけは逃がしてやらねば。あいつは何かと賢い。
あいつなら他のゆっくりを先導して避難させることができる。
最悪の場合でもその先生き延びる事もできるだろう。

「ちぇんいるか? ちぇん!」
そう言って飛び込んだ部屋には、
「あら、お邪魔しております」と玄関先で見た妖怪八雲紫が既に入り込んでいた。
そしてその手にはちぇんの姿があった。
「……そいつだけは離してやってくれないか」一瞬息を呑んだが、なんとか懇願してみる。
「意外と冷静な人間なのね、血が凍ってる見たい」
口元をゆるめて不敵な笑みを浮かべる妖怪。
どうしていいかも分からずうろたえるちぇんに大丈夫だと無言で男は頷いてやる。

部屋の中にいる誰もが動く事の出来ないほど緊張の糸が張りつめている。
その均衡を崩したのは紫であった。
「貴方はどうしてこの子を解放させたいのかしら」
「それは……」
即座に答える事ができない。何故男はちぇんを離して欲しいと願ったのか。
「それは、大事な大事な実験道具だからよね」
「えっ…!!」自分を抱く突然の訪問者の言葉に驚いたちぇんが彼女の顔を見上げた。
「貴方の知的欲求を満たすためにゆっくりを用いた実験を行った。そして生まれたのが
 ここにいる子達。ちぇん、あなたもその内の一人よ」
紫がちぇんの表情を覗くと驚いているようにみえる。ついでにとどめとばかりに言葉を続けた。
「それに死んだこの子達を貴方、バラバラにして食べてるわね。もちろんあのぱちゅりーも」
男は否定する事は出来ずに沈黙を通す、その男の行動にちぇんは絶望を感じていた。
どうして違うと言わないのか、本当にそんな事をしているのか、今まで育てられたのもそんなことするためなのか。
ゆっくりの中ではゆっくりを食べる事はタブーである。
百歩譲って男は人間であるが、家族とも思っていたものに仲間が食べられたことはショックだった。

「どおじで……」ちぇんが涙が混ざった声で呟く。
「どおじで、ばちゅりーをだべじゃっだの゛おおぉぉぉ!!!う゛ああぁぁぁぁ!!!」

いつか、いつかこの日が来る事は分かっていたつもりだった。
その時は自分の口から伝えたかったが、言う勇気がなかった。
今、紫に自分の裏の顔を告げられ、激しく責め立てられるととても胸が痛んだ。
自分から言えばある程度柔らかい表現で説明できたのかも知れない。
しかし他人に言われたのであれば、取り繕う為の言葉は言い訳に過ぎない
それゆえ男は沈黙を貫き通した。だが解せないのはちぇんの台詞だこれではまるで……。

滝のような涙で泣くちぇんを余所に紫はさらに男を突き放す。
「それとは別に貴方は、ゆっくりという種の存在を脅かす事をしているわね」紫の目がキッと鋭くなった。
「最近生まれたゆっくり達は一見幸せな一生を終えたが、実際の所苦しんで死んでいってている、違う?」
どうしてこの妖怪はここまでの情報を知り得ているのか男は疑問に思った。
「あぁそれ紛れもない事実だ。実験結果がそう示している」
「ならあなたの生み出したゆっくり種の血がなんらかの事故で野生種の血に入り込んだ
 とき、ゆっくりはゆっくりできなくなる。そうなるとゆっくり種がこの幻想郷から消
 えてしまいかねませんので、そうなる前にあなたには消えて頂きます。」
男は身構える。逃げるにしてもちぇんを置いてはいけない。なんとか隙を見つけなければと思案する。



「でも何を苦しむ事があるんでしょう? あなたはわかってますよね、ちぇん」
この台詞もまた紫に先に言われてしまった。自分がわからないことは直接本人達に聞けば良かった。
何がそんなにお前達を苦しめているのかと。
しかし目の前の妖怪は不思議な事を言う。ちぇんはその答えを断言できるような言い方だ。
ちぇんは飼いゆっくりとしては至って普通のゆっくりだ。あのぱちゅりーと同じ八代目ではあったが、
ぱちゅりーほど聡明でもなかったし、どちらかといえばその記憶力や思考力、
また行動パターンなどは普通のゆっくりレベルに近いものがあった。
「ゆっ? おねえさんのいってることはわからないよー」
それも当然だ。ちぇんにはそれほど難しいことは分からないのだ。

「……そう、貴方はとぼけるつもりなのね」

不意に向けられた禍々しい殺気にちぇんは咄嗟に紫の手から足下に飛び降りる。
「わかるよーおねえさんはゆっくりできないひとだねー。ここはちぇんのゆっくりぷれ
 いすだからさっさとでていってね!!」と頬を膨らませて怒るちぇん。
「ちぇんたちはとてもゆっくりできてるよ。おにいさんはわるくないよ!!」
「ちぇん止めろ!」男は慌ててちぇんを制した
紫に対してこれ以上の挑発は良くない。相手の機嫌を損なえば殺されかれない。
しかしちぇんは止めようとしなかった。いつもなら命令はちゃんと聞くのに意固地になっているようだ。
「ちぇんはちぇんだよ!! みんなもぱちゅりーもゆっくりだよ!! ちぇんたちは
 ゆっくりできるからゆっくりできないおねえさんはゆっくりでていってね!!」
「そう。つまりあなた達はただのゆっくりと変わらないし、そこのお兄さんはあなた達
 が苦しむような事はしてない。そう言いたいのね。」
「そういってるのわからないの?ばかなの?」
「えぇ、理解しました。あなたがそう言うならそこの人間は不問としましょう」
「これでおにいさんはかんけいなくなったね」
紫はそう言うとちぇんには興味を無くしたように男の方を向く。
一方のちぇんはとても安心したような表情だ。

ただ二人のやりとりを見ていて男の頭は混乱していた。
先程のちぇんの非難や会話の内容がただのゆっくりのそれと変わらないじゃないか。
飼いゆっくりとしては普通とはいったが、粗暴な野良ゆっくりの様な話し方をしたことは今まで無かったのに。

「ですが」
紫はほっとしているちぇんに再度話しかける。
「ですがあなたは私を侮辱しました。ただのゆっくりならどうなるかわかってわよね」
言い終わるが早いかちぇんは蹴り上げられ空を舞う。
時が速度を緩め、ちぇんがゆっくり回転しながら壁に叩き付けられるまでが男にははっきり見えた。
鈍い音と声にならない音が漏れる。



男はすぐさまちぇんの元へと駆け寄った。危害を加えた紫に目もくれず、ただちぇんの元へと。
「おい、ちぇん! しっかりしろ!」男はちぇんの怪我の様子をくまなく調べながら呼びかける。
体を不用意に揺らしては中の餡子を漏らしてしまうので、見える範囲の穴を手で塞ぎながらちぇんの意識を確認する。

「お…お兄さん……」ちぇんは苦痛の混じる声で男の存在を確認する。
「大丈夫かちぇん! いいからあまり喋るな!」男は蹴られて穴の空いた特に重傷の部分の様子を確認する。
傷の様子は決して良い状態とは言えない。自然治癒は難しくこちらで補修する必要がある。

「お兄さんが、助かって…良かった…よ」

何と言った? いや、誰が言った? ゆっくり独特のアクセントが抜けてまるで人間が喋ったようなそんな言い方だった。
「ちぇ…ん?」男は目の前のゆっくりの名前を問うた。
「そうだよ……、ちぇんだよ」
ちぇんは自分はちぇんだと言う。当たり前だがますますちぇんではないような錯覚に陥る。
「ごめんね…今まで隠してきて……」ちぇんは痛む体のはずだが穏やかな表情だ。
「ホントはねもっと早くこうしてれば良かった……。お父さんも、お母さんも、ぱちゅ
 りーも、他の兄弟もみんなお兄さんとゆっくりじゃない会話したかったんだよ」
絶句している男に優しい目をしたちぇんはゆっくり語っていく。
「私達ね、みんな人間になりたがってた。人間になってお兄さんとお食事したり、手を
 つないで散歩したり、仲良く遊んだりしたかった……。でも私達はゆっくりだった。
 お兄さんは私達をゆっくりとしてとても愛してくれた。だから私達はゆっくりとして
 お兄さんと接した。それでも幸せだった。でもやっぱり人間になりたかった。知識が
 膨らんで、思考が止まらなくなった頃からゆっくりできなくなった。ゆっくりできな
 いから人間になりたかった。人間になればお兄さんの生活を助けて上げられるのに、
 自分達の身の回りのことは自分達で出来るのに。でもやっぱり私達はゆっくりだった。
 お兄さんの不器用だしどこか機械的だけどとても暖かい愛が嬉しかった。その愛に応
 えたかったけど、どうしようもなかった。それが……とても……つらかった……」
ちぇんがそう言い終えた頃にはどちらともなく涙が止まらなかった。
男の献身的な愛が賢くなりすぎたゆっくり達には負担となり、苦しめていたのだ。
この苦しみは精神的苦痛となり、じわじわとゆっくり達の餡子を甘くしていた。
男はいつの間にかちぇんを抱きしめ、ちぇんは抱かれていた。いや、気持ちの中では男
を抱いているのかも知れない。

「紫さんといいましたか、あなたはいつからこの子らのことに気が付いていたんです?」
男は背を向けたまま紫に説明を求めた。どう考えても最初から男の実験を見ていて、
彼らの状態も把握している様子だったからだ。
「私の計算でゆっくりが故意に卵生増殖を始めるのがあと218年先のことと分かってお
 りました。その頃にはゆっくりはゆっくりとしか話せぬ単純な生命体と、体を持ちあ
 る程度人間との共存をなしえた知的生命体の二種類に分化し、知的生命体側がより明
 敏な頭脳を手に入れるための手段が貴方が発見した方法そのものです」

もはや紫からは殺気は消え去り、丁寧な口調で科学者に持論を展開する。
「しかし、あなたはただのゆっくりに対してこの方法をとってしまった。ある程度の記
 憶力、思考力、理解力の向上までは良かったのですがあまりにも賢くなりすぎた。現
 在その子はゆっくりの皮を被った人間と変わりやしません。精神と肉体との乖離が始
 まってとてもゆっくりできる状態でもないですわね」
男が振り返ると紫は部屋の空間にできた裂け目に手を突っ込んでいた。
「貴方の研究した資料をもらっていきます。これらは破棄せず私の信頼するしかるべき
 研究機関に預けます。それとこれらの方法によるゆっくりの繁殖方法が五代目までと
 し、現在ここにいる六代目以降の子達はいっさい外部に出さぬよう。既に人間への譲
 渡行為はあなたも私も許さぬところにあると思っているでしょう」
そして、といって空間からとりだしたのはちぇんの子供の卵だ。
「この子達は私が預かります」
ちぇんは声を出そうとしたが、紫は手のひらを前に出し制した。
「あなたの子供を別に取って食いやしません。然るべき時に孵化させ、しっかり成長を
 見届けさせてもらいます」そう初めて見せる優しい表情でちぇんを説得させた。
「いつから貴方を見ていたか、私は珍しい人間が加工所にいるものだと思いしばらく観
 察させてもらいました。ゆっくりを殺す場所にいながら、ゆっくりを助けようとして
 いたあなたは、少しずつひびが入っていく心に気が付かないでいた。私は少し工場長
 を脅してゆっくり達とあなたが過ごせるようにしましたが、差し出がましかったかし
 らね」

男はゆっくりを愛し、その愛にゆっくりは応えようとした。
人間への思いを強くし男のためになろうとしたが、その気持ちをひびの入った心では気が付いてやれなかった。
ゆっくりは男を愛し、その愛に男は応えようとした。
ゆっくりの未来を案じてゆっくりを賢くしたが、その気持ちをゆっくりの小さな体は受け止めきれなかった。

冷たい心で熱い愛をゆっくりに捧げた男は自分の仕業がゆっくりを苦しめたことを後悔する。
しかしここにいるちぇんはもはや全てを打ち明け、苦しむ事はないのだ。
男もこれから二人で歩む新しい道が見えていた。

「お姉さん」ちぇんが紫を呼ぶ。
「目の前に好きな人がいるときはどうしたらいいかわからないよー」
まるでゆっくりちぇんのように問いかける。男は心に温かさが戻ってきたそんな気がした。

「そんなときはね……ってあらあらお熱いこと」
馬に蹴られる前に退散退散と言いながら紫はスキマに消えていった。




エピローグ
「紫様が直々異変解決とは珍しいですね」
そう言ってペットの八雲藍がお茶を出してきた。
私だってたまには仕事もしたくなるわよ。
「しかし老婆心が過ぎたかしらね」
「紫様はまだまだ充分お若いですよ」
とりあえずスキマに放り込んでお茶をすする。
すれ違う愛があまりにもじれったいからといって手を出すのも考え物か。
うちのペットもあれくらい愛してあげればいいのかしらね。
今度油揚げ風呂にでも入れてやれば忠誠心を取り戻してくれるだろうかと考えながら紫は昼寝を始めた。



おまけ
どたばたと慌ただしく廊下を走りこちらに向かってくる人間がいる。
部屋に入って来るなりこちらに向かって叫んだのは博麗さんだった。
「今、ここに異変は来なかったか?」
「紫さんが…」
「バカモーン!!そいつが異変だ!!」
そう言って走り去る博麗さん。慌ただしい人だ。





……あれ?
虐待はどこいったよ(; `・д´・)
一応精神的にも肉体的にもボコボコにしてるから虐待SSってことで勘弁してくだせい






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最終更新:2022年01月31日 03:36
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