史上最弱が最も恐ろしい

まえがき
 いじめの描写がぬくいです。
 人間さんが酷い目にあいます。
 れい無双します。れいむは負け犬のがデフォって人には向きません。
 ドスまりさが出ますが、そこまで無双してません。
 パロディもします、舞台は現代。














(スーツの男がマイクを入れる)

 さて、皆さん。およそ生物の欲望は究極的に言えば二つしかないという説をご存知ですか?
 すなわち、「個の生存」と「種の生存」です。前者は自分が生き延びること、後者は子供が生き延びること
 と置き換えてもらっても構いません。この二つは、究極的には相容れないものです。

 ゆっくり達もそうで、その好対照がまりさとれいむです。

 まりさは個の生存を極めて大切にします。都合の悪いことがあればほかのゆっくりに責任転嫁しますし、
 生き延びるためにかなり小賢しいことをします。

 れいむは反対に種の生存を重視します。自分が犠牲になっても子供を救おうとするケースが多いのはこれに
 由来します。

 別にどちらが良い、悪いの問題ではありません。人間の目からすれば、個の生存を重視する者は自己中心的で
 気に入らず、種の生存を重視する者は尊いという用に映るかもしれませんが、それはあくまで人間の道徳観であ
 ることを留意してください。


 ところで、ゆっくりれいむに対して、皆さんはどういう印象をお持ちでしょうか?
 「愚鈍の代名詞」「特徴ないのが特徴」「母性が強い」辺りが多いのではないでしょうか。

 悪知恵が働き、突然変異で巨大化するまりさ、高度な知能を持ち、参謀的なぱちゅりー、
よく分からないけどいろいろと凄いありす、高い戦闘能力を誇るみょん、機動力に富むちぇん。

 通常種がこのようにそれぞれ得意とするものがあるのに対し、一見するとれいむは何ら脅威
 を持たないように思えます。

 しかし、皆さん忘れないでください。史上最弱が最も恐ろしいのです。






(照明が暗くなる)








 人間が暮らす村の裏には巨大な山があった。そこには20以上のゆっくりの群れがある。
 “うらじーみる・いりいち・れーむん”(以後れーむん)はその中の一つの群れに生まれた。
 まりさとれいむを親に持ち、8人姉妹の3女というテンプレ乙と言わんばかりの家庭だった。

 生活は豊かとはいえなかったが、かといって餓死するほどのものでもなく、可もなく不可もないといったところか。
 それなりの生活を続け、成体の一歩手前となったとき、れーむん一家に悲劇が襲った。

 親のまりさが死んだ。
 まりさは群れの戦闘部隊に所属しており、れみりぁとの戦闘で名誉の戦死を遂げた。

 親のれいむは片親となってしまったが、群れは戦死したゆっくりの家庭に毎週定期的に食料を提供することになっていたから、
 なんとか、生きていけた。

 そんな中、れーむんの人生を変える出来事があった。

 その年の夏は梅雨が長引いたせいで、群れ全体が食料不足となったのだ。
 親のれいむも必死に食料の調達に勤しんだが、奈何せんれいむ種は狩りが苦手だ。
 苦労の甲斐なく、れーむんの妹2匹が餓死した。どちらもまりさ種だった。


 れーむんはそれなりに育ってたこともあり、何とか生き延びていた。
 ある日、狩りの帰りにれーむんはまりさとありすの夫婦の発言をたまたま聞いてしまった。
 この夫婦は群れの食料配分をしていることもあり、れーむんにも顔なじみだった。


 「れいむのいっかがしょくりょうのはいぶんをふやしてほしんだってさ。」
 どうやら、自分達が噂になっているらしい。


 「おお、うざいうざい。」
 「れいむなんてかりもできないおにもつなのにね。」
 「おお、ごくつぶしごくつぶし」


 「むれのためにまりさがゆっくりできなくなったからって、ちょうしにのらないでほしいわね。
  れいむのおちびちゃんもみんなれいむよっ!?おおきくなったってむれにこうけんできないわ。」
 「おお、むのうむのう」

 まりさとありすは食糧不足の中、群れの食糧管理について必死にやりくりしていた。 
 どのゆっくりももっと食料を寄越せと請求するが、無いものは無いのだ。
 本心と言うわけでもなかったが、群れ全体からの無茶な要求に疲労し、辟易してつい愚痴を言いたくもなろう。
 まりさとありすもまた、全然ゆっくり出来ていなかった。 

 なるべく、ほかのゆっくりに聞こえないところで話していたので、れーむんに聞かれてしまったのはいくつかの
 偶然が重なった結果だった。


 ………れーむんはじっと唇をかんで耐えた。
 れいむ種がほかのゆっくりと比べて能力不足であるのは事実であったが、こればかりはしょうがない。
 天は天の上にゆっくりを創らず、天の下にゆっくりを創らず、などというわけでは決してなかった。
 れいむ種は何処まで行っても、れいむ種というだけでこのような理不尽な扱いを受けるのか。


 この時より、ある決意を胸に秘め、れーむんは死に物狂いで勉強をした。れーむん、生後7ヶ月目のことだった。


 一念は岩をも通すと言うべきか、れーむんはめきめきと頭角を現し、成体になる際には、群れのぱちゅりーが教える学校にて
 全科目でぶっちぎりの一位を取って卒業した。科目の中には狩りや戦闘、繁殖から群れの統率まで含まれていた。


 誰もが、れーむんに期待した。
 れーむんの輝かしい未来を羨んだ。


 だが、意外なことにれーむんは群れを去ることにした。
 成体となった際、群れを離れようとするゆっくりもいないわけではないが、危険な上に実入りも少なく、よほど群れに不満を持って
 無い限り、そのようなことはしない。
 しかも、珍しいことにれーむんが去る際に、優秀でれーむんの友といえるゆっくりれいむが何匹も同時に群れを去ると言った。





 れーむん達が去ってから1ヵ月後。
 群れには妙な話が流れていた。
 なんでも、ゆっくり会の中でも最下層の扱いを受けるれいむ種が平等に生活できるゆっくりプレイスがあるのだという。


 にわかには信じられなかったが、試しに行ってきたれいむの話しによると、そこはれいむによる、れいむのための、れいむの場所だった
 そうだ。


 あるれいむ一家は移住することに決めた。 
 この一家は片親だった。つがいとなってまもなく、まりさがすっきりーして子供が全てれいむであったことから巣を去った。
 あるれいむ一家は移住することに決めた。
 この一家は子供の大半が障害持ちだった。母性が強いと専ら噂されるれいむの反応を見るために人間が片手間でいじめた。
 あるれいむ一家は移住することに決めた。
 親のれいむは飾りがなく、左頬のゲロイド跡が痛々しかった。人間の畑に行った際、つがいのまりさに捨てられたのだ。
 あるれいむ一家は移住することに決めた。
 このれいむも片親だったが、子供は大半がありすだった。



 さらに、3ヵ月後。
 中規模の勢力を誇る群れが壊滅状態に陥ったと言う噂が流れた。
 なんでも、れいむだらけの群れに襲われたらしい。
 れいむ種のゆっくりプレイスに移住を決意するれいむはますます増えた。
 最もスタンダードなゆっくりと言われているれいむだけに、移住者の数は膨大だ。


 1ヵ月後
 攻略不可能と言われていたゆうかりんの花畑が破られた。
 流石のゆうかりんといえども、多勢に無勢だった模様。
 各群の多数派を占めるれいむ種の移住により、群同士の戦力構造に大きな変化が生じている。
 もうれいむ達の群れは軽く最大勢力と化していた。


 その3ヵ月後、信じられないことが起こった。
 山の中では最強を誇る、ドスまりさ率いる群れが殲滅された。
 ゆっくり達に衝撃が走った。通常のゆっくりの戦闘力を10とするならば、ドスまりさのそれは100どころの話ではない。
 単純な戦闘力だけで言えば、人間はおろか、ツキノワグマとも互角以上に戦えるドスまりさを倒せるゆっくりなど存在するわけ
 が無い。






 “その日”は特に何ら変わりないものであった。
 ドスまりさは群れのゆっくりを引き連れ、ゆっくりしていた。
 ここには、餌となる植物や昆虫が豊富で水場も近い。野生の動物も少なく、捕食されることもさほど多くない。
 ゆっくり同士の縄張り争いにおいてはドスがいる以上、連戦連勝だった。
 秋が深まったこともあり、ドスまりさやぱちゅりーの努力のおかげで群れは皆冬篭りの準備も万端であった。
 まさに、ゆっくり達の楽園と言ってよかった。


 夜。ゆっくりたちが寝静まった頃にことは起きた。


 ドスまりさは振動と、怒声と、悲鳴で起きた。
 あわてて外に出たドスまりさが見たものはこの世の地獄だった。

 おびただしい数の死体に紛れ、生きているゆっくりもいた。生きてはいたが……。

 あるまりさは半身が喰われていた。
 あるありすは底辺を毟り取られ、袋叩きに会っていた。
 あるまりさは両目を齧られ、何も出来なかった。


 そして、目の前にいる………。


 れいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむ


 荒野を覆いつくすという言葉がこれ以上相応しい状況もないだろう。
 ドスまりさの群れは比較的少数精鋭主義だったものの、それでも群れ全体で100匹はいた。

 ところが、目の前にいるれいむ達はどうだ。どう少なく見積もったところで1000は下るまい。



 あっけに取られたが、所詮はれいむ種の群れ。
 雑魚どもがいくら集まったところでドスまりさの敵ではない。

 怒りに身を任せながらもドスまりさは相手の戦力を測り、自身で勝てると踏んだ。



 とりあえず、3発打てるどすすぱーくでれいむたちを蹴散らした。
 だが、いくらどすすぱーくが強力であろうと、平地に散らばっている者を殲滅するには到底至らない。
 1/10程度は減らしたものの、依然圧倒的な量を誇る。

 仕方なく転がって潰そうとするも、れいむ達はそれを待っていたかのように、雑木林の中に逃げ込み、投石による攻撃に移行した。


 ドスまりさは確かに強い。だが、それは所詮何の遮蔽物もない平地でのことだ。
 木が生い茂る場所での押し潰しや転がりによる戦闘行為は不可能だし、最大の頼みであるどすすぱーくも口から発射すると言う構造上、仰角がかなり制限される。
 ゆえに、高低差のある場所で戦えば、ドスまりさには何の反撃手段も無い。

 人間がドスまりさを駆逐する際に位置にさえ気をつければ、数人でも戦えるのはこのためである。


 れいむたちの襲撃は止まらない。
 群れの参謀に近い位置にいるものは真っ先に狙われ、ほぼ皆殺しにあっていた。




 かろうじて、軽症で生きているまりさは目の前のれいむ達が違う生物に見えた。

 全く、死ぬことに躊躇いを持っていないのだ。
 むしろ、死を望んでいるかのようでもある。


 実は、戦闘に出ているれいむは群れとの間にある約束をしていた。
 すなわち、自分達が死んだら必ず子供達を育てると……。 
 元々このれいむ達は狩りがさほど得意ではないどころか、苦手といって良い。
 本来ならば、子供達を育てる余裕など全く無い。だが、れいむ達は可愛い子供を殺すことなどできなかった。
 そこで、れーむんは約束した。戦って、死んだら占領した食べ物と縄張りを遺族に優先的に分配すると。

 れいむ達は喜んだ。自分達が死ねば可愛い子供は生き延びることができる。
 どうせ、自分が育てても子供全員の育てきるのは不可能に近い状況だ。
 なれば、わが身一つで子供達を救えるのならば安いものではないか。


 れいむ達は生き延びるわけにはいかなかった。
 喜び勇んで一番戦闘が激しい場所に飛び込んでいく。


 ほどなくして、まりさはれいむに囲まれ、ゆっくり出来なくなった。


 れいむ種は一般に戦闘能力が低い。ましてや、れーむんの群れで戦闘に出ている者は栄養状態も良くない。
 高度な戦闘訓練も経ていないため、一対一ではまず少数精鋭が揃うドスまりさの群れには勝てない。
 なにしろ、ドスまりさの群れのゆっくりは力をあわせれば、捕食種たるれみりぁさえも撃退させることができる
 ほどだ。

 だが、集団戦なら話は別である。
 10倍の戦力を持って初めて戦えと言うのは古くからの格言ではあるが、こと戦闘においては物量がものを言う。
 さらに、れいむ達は群れのために個を捨てることができる。群を抜けようとする者には“粛清”が待っている。
 どのれいむも、群れの生存を第一に考えるのだ。
 そのチームワークは、あくまで自身が生き残ろうとする他の群れの追随を許さない。


 れーむんはれいむ達に一匹につき、一つの指令のみを与えた。「飾り、左目、右目、底辺」のいずれかのみを専門的に狙うように
 徹底的に反復練習させた。
 ドスまりさの群れは賢く戦闘経験も豊富なために、一匹一匹が臨機応変に動くが、れいむ達は鉄砲玉そのものだ。
 どうせ、すぐ死ぬのだから高度な作戦など遂行できるわけが無い。それに、没個性の集団はそれだけ代わりを作りやすい。
 そこでは、個の意思を排除し、組織のいち歯車として一つの命令のみを忠実にこなす。いや、代わりがいくらでもいると言う
 意味では歯車というより、螺子とでも言うべきか。一匹一殺の玉砕精神ですらなく、一匹が相手の一つのパーツを奪うこと
 を期待する作戦なのだから。
 個々の戦力としては弱いが、圧倒的な物量戦と団結力に基づく玉砕戦法、そして執拗なゲリラ行動。れいむ達の強さはそこにあった。


 ドスまりさは戦況が不利であることを理解して、生き残りを集めて退却することにした。

 れいむ達は執拗に追った。

 ドスまりさ達がどこに、どれだけ逃げようと、占領した場所を確保するための人数以外は全て追撃に回った。
 危険である夜も追撃を緩める気配は無かった。追撃部隊、食料の現地調達係、休憩中の部隊の三つに分かれてローテーションし、
 ドスまりさ達に徹底的に追いすがる。 
 野犬やれみりぁに発見され、喰われたゆっくりが出ても関係ない。
 いや、減るどころかむしろ日に日にれいむ達が増えている気がする。


 ドスまりさ達は追い詰められていた。
 元々、奇襲を受けてほとんど食料を持たぬまま逃げたのだ。
 加えて、日夜を問わない攻撃。
 ドスまりさが蹴散らそうにも、数が多すぎてその間にほかのゆっくりが襲われる。
 常に木を薙ぎ倒して移動するドスの疲労もたまる。
 寝ることも、食事を取ることもほとんど叶わず、少しずつ、その数を減らした。





 襲撃から1週間後、ついにドスまりさの群は首領たるドスまりさを除いて、全て息絶えた。
 そして、今回の首謀者が現れる。
 言うまでも無く、れーむんだ。


 「ゆっふっふっふっふっ」
 「いい・・・よのなか・・・じぶんというものをよくしるゆっくりがかつんだよっ…!
 “およめにしなさい”のはなしでれいむはにんげんさんにかてないけどれいむはじぶんのせいかくとのーりょく
 をよーくしっていたんだよ。ゆっふっふっふっふっ」
 「このれいむたちもそーだよっ!まりさにちめいしょうをあたえるようなぱわーやすぴーどはもってないということは
 れいむじしんがよーくしっているよ。すべてはっ!!」
 「おのれのよわさをみとめたときにはじまるんだよっ!!」
 「ゆっふっふっふっふっ、しじょーさいじゃくが…………………」
 「もっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとも
もっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっとももっともおそろしぃぃいぃぃ  ゆぎぃ~~~~~~~!!」

 変なポーズを決めながら名乗り上げるれーむん。

 「れいむ、どぼじでごんだごどずるの~!?れいむ達の群がゆっくりできなくなっちゃうよっ!!」
 ドスまりさには理解できなかった。群を纏め上げ、群のみんながゆっくり出来るように尽力していたドスまりさからすれば、
 れいむ達の戦法は狂気の沙汰としか思えない。

 「ゆ?ゆっくりなんてだいこんさんといっしょで、かってにうまれてくるものでしょ? いちいちきにしないよっ!!」

 こともなげにれーむんは答える。最優先すべきは「群の生存」。
 次世代の子供達がゆっくりできれば、自分達がどうなろうと構わないのだ。
 そして、群を大切にするということは群以外の者を大切にしないと言うことに近かった。
 拡大した群の食事事情、ゆっくりプレイスの確保、残されたゆっくり家族を養うためにも、れいむ達は侵略を続ける。


 ドスまりさは理解した。こいつ等と話し合いをしても無駄だと。
 もう自分はゆっくり出来ないかもしれないけど、せめて群の仇を取っておこう。
 地を埋め尽くすれいむ達を相手に、ドスまりさの最後の戦いが始まった。


 れいむ達にドスまりさを倒す手段は皆無だ。
 投石や体当たり、あるいはわなを仕掛けたところで蟻が恐竜に勝てるわけが無い。
 ……物理的には、だ。


 れいむ達はドスまりさへの無意味な攻撃を執拗に続けた。
 なるべく平地では戦わず、多少高低差ある場所から木陰から投石を繰り返す。
 ドスまりさがいくられいむ達を潰しても、次から次へと攻撃を続ける。

 こうなれば、いかにドスまりさが強くとも関係ない。
 寝ることも食べることも出来ない。
 動けば動くほどエネルギーを奪われる。 
 かつて繁栄を誇った群の幻影が見え、楽しそうな幻聴が聞こえてなお、れいむ達の攻撃は終わらない。



 最初の襲撃から2週間。
 最後に残ったドスまりさが発狂して滝つぼに落ちた。






(照明が明るくなり、男がしゃべる)


 ご覧になられましたか?
 ゆっくり会では最強のドスまりさが最弱と言われるれいむに完膚なきまでに打ち負かされてしまいましたねぇ~。
 ちなみに手元の資料によりますと、この襲撃でれいむの群は1/3以下になりましたが、2ヶ月もすると移民と生まれてきた生え抜きで数を
 戻したそうですよ。ドスまりさの領土に新参者を住まわせてるとのことです。


 さぁ、れいむがゆっくり会での立ち位置をご理解いただけたと思いますが、実は人間も注意しなければなりませんよ。

 はい、そこの貴方!人間様がゆっくり如きに舐められるわけがないと思ってますね?そうでしょう、そうでしょう。
 皆様そう仰るんですよ。
 では次にこちらをご覧ください。
 これを見た後にも果たしてそう思えるんでしょうかねぇ~。




(照明が暗くなる)





 ある男の日記より抜粋


11月3日

 ついに、念願の暖簾分けをしてもらった。
 苦節15年、ようやく師匠に認められて店を出すことが出来る。

 嫁も喜んでいた。師匠の一人娘だ。暖簾分けと同時に、その……なんだ。
 書くの恥ずかしいな。


11月10日

 店の評判はなかなか良い。元々師匠の天麩羅は評判だしな。
 今となって、師匠の苦労が良く分かるってもんだ。 

 俺も一国一城の主だ。
 嫁のためにもがんばらねーとな。


11月17日

 相変わらず、店には客が絶えない。
 物珍しさだけじゃなく、味が受け入れられている証拠だろう。

 店に奇妙な奴等が来た。生首に似た饅頭、ゆっくりだ。
 なぜか皆紅白で気持ち悪い……。

 残飯で良いから食事を分けてくれないかと言われた。
 冬が近いのに、子供の餌が採れないらしい。

 ふざけんな!お客様に食事を出す店に野良の生物がいたら不味いだろうが。
 追い返すことにした。

 「こーかいしないでねっ!!」という捨て台詞とともに紅白饅頭は帰っていった。

11月21日

 客足がぱたりと止まった。


 原因は分かっている。あのくそ紅白饅頭どもだ。
 昼と夕飯時になると、徒党を組んで店前でたむろして「ゆっくりしていってねっ!!」という。

 最初は珍しがっていたお客様も、絶え間なく続く「ゆっくりしていってねっ!!」にイライラしたのか、
 さっさと帰る。 

 これじゃ商売にならない。
 追い払っても、その場を立ち去ろうとしない。
 どっかに捨ててきてもすぐに戻ってくる。


 仕方ないから、潰すことにした。
 「もっとゆっくりしたかった」という断末魔を上げて潰れるが、不思議なことにほかの饅頭は逃げない。
 皆殺しにするしかないか。


11月26日

 ほとんど、客が来なくなった。

 いくら潰しても、こいつ等は懲りない。
 それどころか、徒党の数が増えている。

 嫁はストレスで倒れた。
 毎日聞かされる「ゆっくりしていってねっ!!」と人間に近い顔が上げる断末魔。
 俺だって正直キツイ。


 だが、保健所に連絡するわけにはいかねぇ。
 食品を扱ってるんだからな。


12月3日

 昨日来たお客様は1人。それもてんぷらを食べてる途中で帰った。

 もう我慢ならねぇ。
 保健所に申請した。

12月4日 

 お客様は誰も来なくなった。

 保健所の奴等は「あのさー、ただ家の近くでゆっくりしていってねと声上げるだけでしょ?
 弊局が対応するのは①家に入っておうち宣言した場合、②人間を傷つけた場合③飼いゆっくり等の飼育物に手を出した場合
 って書いてあるでしょーが。ウチも年の暮れで忙しいんですよ全く」と言う。

 くそっ!!杓子定規で石頭の役人どもめ。
 てめーに俺の苦労が分かってたまるか!!

 今日も潰す。
 明日も潰してやる。
 一匹残らず、潰してやる。


12月8日

 もう、店の周りを歩く人もいなくなった。

 師匠からは嫁のことと店のことの両方で怒られた。
 だが、どうすればいいんだ。

 やつらはくる。いつものように。


12月15日 

 紅白饅頭どもに詫びを入れることにした。
 もう、俺にはどうしようもなくなった。 

12月16日

 「ゆっくりとーさんしていってねっ!!」
 とけたけた笑いながら、あいつ等は俺が作ってやった食事を拒否した。

 今日も、いる。

 打つ手は、ない。 

12月31日

 俺の夢は終わった。
 借りたお金はもう返せねぇ。

 師匠からは勘当された。

 何で…こんなことになっちまったんだ。





(日記はここで終わっているようだ)






(照明が明るくなり、男がしゃべる)



 ちなみに余談ですが、この村では以降、食品を扱う店は必ず残飯を裏に用意しておく様にしたもようです。
 村の実力者がれいむたちと交渉の結果、人目に付かない明け方に受け取るようにしたらしいです。
 無論、保健所と相談して山狩りも考えましたが、全てのゆっくりを駆逐するには膨大なお金がかかるし、
 現実問題不可能に近いらしいですよ。
 事なかれ主義といわれようが、残飯で済むならと、現時点では妥協するしかないというところでしょうかねぇ。



 ゆっくり達が野犬やイノシシとやっていることはほとんど変わりません。
 それらに比べ、ゆっくり達はあまりに惰弱です。
 ですが、彼女たちはしゃべることが出来るのです。  
 ゆめゆめ、そのことを忘れてはなりません。



 最後に、皆様の疑問に答えましょう。
 おそらく、皆様はこう思っていらっしゃるはずです。
 「れいむを馬鹿に出来ないのはわかった。だが、食料はどうなる?
 これだけの群を維持する食料などあるはずが無い」、と。






(照明が暗くなる)






 冬。死をもたらすもの。



 れーむんの群は食糧危機にあえいでいた。
 人間から定期的に残飯を巻き上げているとはいえ、冬場はそうは行かない。
 餌をとるのが苦手なれいむの大群で構成される以上、食料不足はむべなるかなと言えよう。


 このままでは、群全体が崩壊してしまう。


 れーむんは決めた。

 翌朝、ドスまりさとの戦闘で怪我を負ったゆっくりを集めた。
 動物と人間の大きな違いとして、医療技術の有無が挙げられる。
 人間と違い、農耕の概念が無い動物にとり、怪我をすれば餓死することを意味する。
 はっきり言って怪我ゆっくりなどクソの役にも立たない無駄飯食らいだ。

 見捨てることを人間は非道と思うだろうが、ドスまりさでも無い限り、ゆっくり達が
 これを省みることは無い。




 れーむんは説明する。

 「いまのままのむれのかずじゃ、ゆっくりできないよっ!!」

 「……ゆっくりりかいしたよ。れいむのおちびちゃんをゆっくり
 そだててねっ!!」

 「ゆっくりまかせてねっ!!」



 「さぁ、おたべなさいっ!!」
 「さぁ、おたべなさいっ!!」
 「さぁ、おたべなさいっ!!」
 「さぁ、おたべなさいっ!!」
 「さぁ、おたべなさいっ!!」
 「さぁ、おたべなさいっ!!」
 「さぁ、おたべなさいっ!!」


 れーむんの考えはこうだ。

 ゆっくり達は冬篭りでその多くが命を散らす。
 生き残ったとしても、親が犠牲になって子供の食料となる場合が多い。

 だが、それではダメなのだ。死んだゆっくりが集めて食べた食料は無駄になるし、春になって生存能力が無い子供だけが
 生き延びたところで全くの無意味だ。

 全員が平等に10%の確率で生き残るよりも、1/10の群れを支えるべきゆっくりが100%確実に生き残らねばならない。
 群のゆっくりなど、放っておいても勝手に生まれてくるし、春になっていくらでも作ればよい。

 しかし、群の中枢を破壊されてしまっては「群の生存」が不可能になってしまう。

 れーむんは、確実に生き延びられる数まで自主的に群を減らすことにした。その過程で、食料が増えるわけだから非常に
 合理的だ。

 優しいドスまりさなどには考えつかないが、こと群の生存を考えれば有益な作戦と言えよう。







 春になり、れーむんの思惑通り、群は一匹の脱落者を出すことも無く確実に生き残った。
 ほかの群には、有力なゆっくり達が死んだのもあり、戦力ががた落ちだった。
 加えて、群の数を取り戻すため、必死にすっきりーしまくっていた。
 当然、母体は動けないし、何時も以上に餌が必要となる。


 五体満足である、れーむん率いる群がこの絶好の機会を逃すわけが無かった。

 夏になる頃には、昨年20近くあった群はもう一つしかなかった。





(照明が明るくなり、男がしゃべる)




 皆さん、如何でしたか?
 これでも、れいむ種が他の種より劣っていると言えますか?脅威を持たないと言い切れますか?
 これは「種の生存」を重視する、れいむ種ならではの生態系の一例です。
 群で連想するのは賢明なドスまりさが率いる群、徒党を組んでゆっくりを襲うありす、スィーに乗るめーりんだと思います。
 ですが、れいむ種を忘れないでください。
 こと群を作らせたら、れいむより恐ろしいものはありませんよ。ニヤリ





あとがき

 「すぐ死ぬ」「自己犠牲の精神による母性」「群」のキーワードから考え付いた。
 本当はもっと赤い国のネタを使いたかったけど……このソビエトれいむによって、れいむ種が復権できれば良いなぁ。

 いじめ描写が苦手なので、誰か代わりにこのれいむに「ツケの領収書だぜ」してくれたらありがたいです。

かいたもの

 幸せはいつだってゼロサムゲーム
 およめにしなさい
 甘い話には裏がある

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最終更新:2008年11月24日 17:43
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