(第五話 ゆっくりした結果がこれだよ!)
本格的に寝入った最古参アリスの寝床に、騒々しい闖入者が現れたのはそれからしばらくのこと。
「ふううう、ひい……」
笛が鳴るような荒い息に飛び起きたアリスが見たものは、全身を疲労感で満たした姉ゆっくりの姿。
血走った眼にアリスは怯えるが、その目がアリスの姿をとらえて、魂が抜けたような穏やかな眼差しとなった。
「まっでよおおおおお!」
続いて飛び込んできたのは、その姉を追ってきた母まりさと妹まりさ。
期せずして、再び終結したまりさ一家に、ありすの困惑は深まる。
「どうして、戻ってきたの?」
アリスによっては、仲睦まじいその様子が見ていてほっとできたまりさ一家。
再会は嬉しいが、こんな早くできるとは思っていなかった。ただ気がかりなのは、明らかに姉まりさ以外が不本意な表情をしていること。
「どうしてだろ、お別れ、言ってなかったからかな?」
ただ一匹、呆けたような顔で姉まりさが小首をかしげていた。
その言葉に、深くため息をもらす母まりさと妹まりさ。
「よくわからないけど、今日はもうゆっくり休んでね。皆には上手く言っておくから、明日は一日中ずっと休んでいていいよ」
結局、眠たげなアリスの言葉に従うしかないゆっくり一家だった。
疲労と混乱で、まりさ一家は疲れ果てていたのだろう。
まりさ一家が相次いで眼が覚めたとき、すでに日は高く傾きかけていた。
アリスの心遣いの遅い食事を取りながら、ゆっくり一家は話し合う。
が、肝心の姉ゆっくりの様子が相変わらずおかしい。
青い顔でふらふらとして、食事にもろくに手をつけていなかった。
「ごめんね、頭がいたくて」
ぼそぼそと話すが、よほどの苦痛なのだろう。
たらたらと脂汗をかきはじめる。
「今日はありすに休ませてもらう?」
心配げに母ゆっくりがのぞきこむと、姉まりさは気丈に首を横に振る。
「大丈夫、早くここをで……で……っいぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
突然の絶叫に母まりさも妹まりさも声がでない。
いだいいいだいいい、ぎゃあああああ、びゃああああああああ、じぬううううううう、あだまわれじゃうううううう!
のたちまわる、家族で一番我慢強かった姉まりさ。
「ゆっくりしてね! いたいのいたいの、全部おがあざんにとんいげえええええええ!!!」
らちのあかぬことを口走る母と、「おねーちゃんが、おねーちゃんが!」とぼろぼろと涙をこぼす妹れいむ。
どうすることもできず、母まりさは身をすりあわせるしかなかった。
そこへ、飛び込んできたのはゆっくり最古参アリス。
餞別のつもりか、大量の餌を口に含んでやってきたアリスは、すぐに餌を放り捨てて姉まりさの元へ。
「まりさもなの!」
言いながら、そっと寄り添うアリス。
すると、痛みがやわらいだのか息が少しだけ緩やかになり、アリスに体重を預ける姉まりさ。
「まりさ、今日は外にいくことを考えないで! ゆっくり息をしようね、楽しいことを思い浮かべてね!」
溺れる者藁をも掴む状態の姉まりさは、アリスのなげかけた藁にすがりつく。
姉妹がたくさんいた頃の、無邪気な記憶。
それを思い起こして微笑むと、自然と痛みは消えていった。
地獄が終わったことに、安堵から涙がとめどなく流れていく。
「ありがどう、ありすううう! いつもごめんねえ!」
母まりさの感謝に、照れくさそうに頬を赤らめるアリス。
だが、その表情は浮かない。
「村にきたゆっくりが時々、こういうふうに頭が痛くなるみたい。それも、家族で発症したら、その同じ家族も同じようになりやすいみたいだよ!」
その言葉にぎくりとする母まりさ。
そういえば、起きてからずっと倦怠感が母まりさの体を重くしていた。
「は、発症すればどうなるの!?」
勢い込んだ母まりさに、アリスは初めて自分の言葉が必要以上に相手を怖がらせていることに気づいた。
「大丈夫だよ! 頭痛は一日だけで、翌朝にはみんなすっきりーだから!」
その言葉にほっとため息をつき、寝入るわが子を見つめる母まりさ。
妹まりさも笑顔を取り戻しつつある。
だが、母まりさの脳裏に心配事が浮かぶ。もし、脱走中にこの苦痛に襲われたら身動きできず、行動不能となれば、例えそれが
一日だけでも致命傷とならないだろうか。
「一日様子をみてから村を離れたほうがいいよ」
心の底から相手を気遣うアリスの言葉に、母まりさは今日も甘えるしかなかった。
妹まりさの近くから、ぴちゃぴちゃという閉めた音が響いていた。
アリスの家の中が時化って、水滴でも落ちているのだろうか。
だが、妹まりさの頬をくすぐるのはからっとした春先の空気。
音の出所がわからない。
わからないときは人に聞く、眠気にかすむ眼を妹まりさは強引にこじ開けた。
そして、目撃する。
つい最近も、こんな光景を見た。
今は眼にする光景は、あのときから配役を変えただけ。
ただ、妹まりさの受けた衝撃は、その配役を肉親が担っているからだろう。
困惑気味に愛撫を受けるのは最古参のアリス。ひたすらに笑顔で体をこすりつけるのは姉まりさ。
「な、なにじでいるのおおおおおおおおお!!!」
妹まりさの絶叫。
何をしているのかはわからない。ただ、自分が見ちゃいけないのだろうということは、何となくわかった。第一、よだれを垂れ流して
アリスに近寄る姉の顔が許容できない。
欲情のままに舌をのばし、垂れ下がって好色そうな目尻。唇にはいやらしい笑みを張り付かせて、この村で見た中では最も醜悪な笑顔だった。
「ありずううう、どういうごどおおおおおおお!!!」
母まりさの絶叫。
妹まりさと同じ嫌悪を、より深く感じたのだろう。
妹の声に飛び起きた母まりさが血走った眼でアリスを睨みつけていた。
娘の女としての表情に、その情欲をうすうす勘づいてはいるようだが、母としては若い娘よりも成熟したアリスの方に原因があると
信じたいのだろう。
アリスは困惑しきって離そうとしていた自らの体を、母まりさの方に向き直る。
その顔を、べろんと愛おしそうに姉まりさの舌がなめたが、アリスは極力落ち着いた面持ちを崩さない。
「ごめんね、まりさ。その、アリスもわからないの、起きたらこうなっていたの……」
「ほ、本当なの?」
受けれがたい心情で発した母の問いは、あっけらかんとした娘の答えを招く。
「うん、そうだよ! まりさはね、アリスが大好きで大好きでたまらないの! ねえ、もっとすごいことするから、まりさを愛してねええええ!!!」
熱病にかられたような台詞を口にして、さらに派手な音をたててちゅるちゅるとアリスの唇をついばむ。
その情熱に、思わず赤くなるアリスの表情。
「だめえええ!!! ちがうでしょおおお! まりさの子供は、そんなふしだらなゆっくりじゃないでしょおおおおおおお!!!」
裏切られた想いの母の絶叫も、熱い吐息をこぼす姉まりさに通じたふうもない。
「おねえちゃん……」
「お姉ちゃんをみちゃだめ!」
母まりさが妹まりさの前にたち、姉の痴態を覆い隠す。
わが子の間に自分が立ちはだかる状況に、母には混乱のため息がもれていた。
突然の痴ゆっくりと化した姉まりさ。だが、姉まりさには恋人もないし、恋人と語らうよりは野山を飛び回るのが好きな年頃。実際、
ゆっくりまりさ姉妹の中では交尾には疎い部類に入っていたはず。姉まりさの変貌の理由がさっぱりわからない。
とりあえず、アリスにあまり非がないかもしれないけど、一端アリスを追い出して家族で話し合おう。
そう決めたときだった。
杭を脳天から突き刺されたような、すさまじい頭痛。
続いて、ハンマーで上下左右からうちつけられているような短く強烈な波のような激痛。
その苦しさに視界が歪む。
「ゆぎゃあああああああああああ」
のたうっても止む気配もなかった
これは、娘の感じた痛みと同じものだろうか。
こんな痛み、知らない。れみりゃに体半分をくわれた痛みを、なんども繰り返されてもこれほどにはならない。
いだい、いだい、いだいいいいいいい、気が狂うううう。食いしばった口の端から、ぶつぶつと案がこぼれおちる。
「だ、だいじょうぶ、まりさ!」
一番にかけつけてきたのはアリス。
姉まりさを捨て置いて、心配げな眼差しでのぞきこんでくれる。
「大きなまりさまで、頭がいたくなっちゃったの。かわいいそうに……」
いたわりをこめて体をこすりつける。
「おがあざんの、いだいのいだいのどんでげえええええええ!」
妹まりさもよりそって泣きわめいていた。
だが、アリスに言い寄っていた姉まりさだけはその場を動かない。
名残惜しいかのように体をうねらせて、にこにこと笑いながら母親を眺めて声をかけてくる。
「おかあさん、にっこり笑ってね!」
「でっ、できないよおおおお!」
頭が破裂して、死ぬと思えるときに笑えるわけがない。
妹まりさが涙に光る目を細め、すさまじい険をこめて姉をにらんでいた。アリスも困惑顔。だが、はっと息をのむ。
「そうだ、今まで頭をいたいのが治ったとき、みんなにっこりしていたよ!」
むしろ、アリスのほうが信用できる気がして、アリスの言葉に従ってままににっこりする。
けれど、芯をがんがんと打ち鳴らす痛みは吐き気を呼び込んで、衰える気配もなかった。
すると、姉まりさのとんでもない要求が続く。
「それとお母さん、私とアリスが愛し合うことを許してね!」
こんなときに何をいっている。
いや、こんなときだからの要求だろうか。好き勝手な娘が、さすがに憎らしくなってくる。
勝手にして……もう、知らない。アリスと、どうとでもすればいいんだ!
母がそう心の中で吐き捨てたとき、嘘のように治まる頭の痛み。
「ゆうう、助かったああああああ!」
深く一息ついて、へたりこむ。
苦痛から解き放たれると、かわって安らかな眠気が忍び寄る。
甘美な春眠への誘惑。
苦痛の疲労からか、母まりさは抗うことができない。すやすやと眠りはじめる。
一瞬、この異様な嵐が去ったのではないかと、淡い希望を抱く妹まりさ。
「もうお邪魔虫はいないよおおお、ありすううう♪」
だが、待ちかねたようにアリスに身をすりよせる姉まりさによって、その希望は打ち砕かれていた。
再び始まる、濃厚で眼も当てられない欲情の坩堝。
「アリスううううう。まりさは、その優しさにめろめろだよおおおお! だいすきいいいいっ!!!」
その情熱に、ついにふにゃあと表情がほころぶアリス。
気がつけば、ふうふうと短く熱っぽい息。アリスは、急激に発情しつつあった。
愛を確認しあう以前の刹那的な欲情は暴走を呼ぶのだが、母は昏睡し、妹まりさは発情アリスの恐怖を知らない。
「おねえちゃん……」
妹まりさはひたすらに悲しげな視線を姉に向けていた。ひどく遠くにいってしまったような姉の姿。いろんなことを教えてくれて、
危険な目にあうと、いつもまりさの一歩前で守ってくれたおねえちゃん。
そんな尊敬していたおねえちゃんは、もうどこにもいなかった。
さようなら……
妹まりさが一筋の涙をこぼすのと同時に、いよいよ性交が始まる。
「ま、まりさがいけないんだからね! ちょっとだけだよ! ……え゛っ!? うっほおおおお! まさかっ、ぞんなごどまでじでぐれるのおおおお!!!」
「ありすのためなら、なんでもしてあげるうん♪ いやらしいまりざで、ごめんねええええええええ♪」
「あふううううううううう、ひいいいいいいいい、しゅっごいよほおおおおお!!!」
「ゆゆゆゆー♪ ありすもすごいのおおおーん♪ アリスにあいしてもらえて、しあわせー!」
交互にわきあがる、あられもない嬌声。
もう、家族の目などどうでもいいと、野獣のようになりはてた姉。
にこにことしながら、発情の鼻息をふきちらすアリスを受け入れていく。
「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ、イグよおおおおおおおおお! すっきりーーーーーーー!」
二匹反り返って、恍惚に正気を失った顔。瞳がぐるんと上を向きすぎてほぼ白目になっていた。
まりさに導かれて、高らかに達して荒い息を吐き出すアリス。
一方、姉まりさの幼い体を伝って一本の蔓がのびていく。
その様子を見て、アリスは自ら体を離していた。
「ゆ! 一本だけなら大丈夫だね。アリス、まりさの新しい家族のために、頑張ってごはんもってくるよ!」
確かに一本だけなら、まりさの体でもまだ耐えられる可能性がある。
目覚めかけた発情を理性で押さえ込んだアリスは、見事に最良の選択肢を選ぼうとしている。
しかし。
「アリスうううう、もっとじでえええええ!」
「ゆ!?」
驚くアリスに挑みかかる姉まりさ。
「あいじでるのおおお、一回じゃ満足でぎないのおおおお!」
「ゆううううう」
その熱烈さに、次第にアリスの顔が赤らみ、まりさの舌が這うたびに口のはしからよだれがこぼれおちる。
「まっ、まっ、まりさ……」
「アリスううう、せつないよおおお、ありすうううううう」
アリスのあえぐようなつぶやきは、まりさの欲情を受けて絶叫となった。
「まっまりさああああああああ! ぞんなに愛じでぐれでうれじいいいいいいいい! もう、何十本でもこどもづくろうねええええ、
愛の証、ぎざみこもうねえええええ!」
完全な発情に入ってしまった。
すさまじい勢いでこすり付けられるからだ。
もはや煙がたちそうな勢いなのに、受けれるまりさは陶酔の域。これ以上ないというほどに弛緩しきった微笑み。
「ゆうううううううう!」
見せ付けられる子まりさからすると、地獄のような光景だった。
いつまでも続くような嬌声の時間は、それでも、まりさがからだのいたるところから蔓をのばして、触れることできなくなってようやくとまる。
姉まりさは幸せの表情で事切れていた。
栄養のいきわたらない蔓は、一匹も実らずにただのびるばかり。それでも、その小さな実がぶるぶると震えているのが不気味で、
子まりさは目が離せない。
震える耳に聞こえてくるのは荒々しいアリスの鼻息。恐ろしさが、妹まりさの心で渦巻く狂騒をいっそうかりたてる。
「っふうううううう!!」
アリスは、まだ足りないとばかりに熱い息を噴出していた。
やがて、思い出したように妹まりさの方を振り向く。
アリスの視線の先には、怯え震える妹れいむ。
「ゆゆー♪ アリスと永遠の愛をかわすために、こんなところで生き返っていたんだね! うれしいよおおおお、まりさああああああ」
「ぴっぎゃあああああ!!!」
成体アリスの突撃を予感した妹まりさの悲鳴。
姉のようにだけは、死にたくない。
かろうじてアリスから身をかわすと、相手が空気に体を摺り寄せている隙に、母まりさの上によじ登る。妹れいむが知る、世界で最も安全な場所。
「おがあじゃん、おぎでええええ! だずげてよおおおおおお!」
その声と飛び跳ねる振動に、ゆっくり目を覚ます母まりさ。
そして見比べる、発情しきったアリスと朽ち果てた娘。
「まりさあああああ、この次にたっぷり愛してあげるから子供ちょうだああああい」
アリスの勝手な言い草に、母まりさの寝ぼけ眼の表情が変わった。
眠たげな顔から、にっこりとした極上の笑みへと。
「うん! アリスに愛してもらえるなんて、お母さんもうれしいよ! がんばってね、まりさの赤ちゃん!」
言いながら、体をゆすって子供をアリスの元へ放り投げる。
「なんでええええええ!? いっ、いやだああああああ!!!」
「まりさああああ、本気のアリスの第二ラウンドだよおおおおおお……うっほおおおおおおおおおおおおお!!!」
ねっちょりと触れるおぞましさ。その感触が、逃げ出しかけた妹まりさの後ろで蠢きだした。
「やあああ!!! じぬのも、ありずもいやだあああああ! おかあさん、おかあさんっ……おがあざあああああん!」
後ろから犯されながら、母親にぴったり体をよせて、助けを乞う。
「お母さん、子供を二人ともアリスに愛してもらえて、すっごくしあわせー♪」
しかし通じない。
母親にぺったりとすがりついて涙を流す子供に、ちょうどいいとばかりにのしかかるように振動をかけていくゆっくりアリス。
子供の血走っていやいやをする顔を見ながら、母まりさはぽんやりと表情を緩めていた。
ここまで頑張ってこの子を守ってきて、本当によかった。アリスを喜ばせることができるなんて、うちの子供たちは何て幸せ者だろう。
「あかちゃん越しにアリスの振動が伝わるよお。気持ちいいね~♪」
「ぢがううううううう! ぎもぢわるい、ぎもぢわるいよおおおおおおおお、だすげてええええ」
言いながら、こすり合わせて自分の何もかもを奪っていこうというアリスの息吹に去らされるまりさ
これで、本当に好きでゆっくりしたい相手を見つけられないまま、望まぬ子を産ませられて……いや、その子たちも一匹も実ることなく死ぬ。
「おがああああざああああああん、どうじでだずげでぐれないのおおおおほおおおおおおずっきりーじだぐないいいいい!」
「嫌がっている演技がかわいいのおおおおおお! ごめんねえええ、アリスさぎにイグうううううううよほおおおおおお!」
「いやあゝあああああほおおおおおおお……だめええええ、ぎいいいいいいいいっ、ずっきりー! ……ずっ、ずっぎりしだでしょおおお! もういやあああああああ!」
「一回で満足できないんだよね、まりさ♪ アリスもっともっとがんばるよおおおおほおおおおおおお!」
ぴくぴくと震える体に再びの蠢動。
母は断末魔をあげはじめるわが子を前に、満面の笑顔だった。
「ありす♪ まりさの子供をたくさんすっきりさせてあげてね!」
「うん、まりさのためにがんばる! もおおおおっと、アリスの愛をおしえてあげるうううううう!!!」
振動が小刻みに鳴るたび、朦朧としていく子まりさの意識。
間違いなく、死ぬ。
おぞましい感覚にとらわれたまま、お母さんに見捨てられて、死ぬ。
「まりさは……おがあざんの子供なのにぃ……」
死ぬことよりも、ありすのひと時の歓心を得るためだけに、見捨てられることが何より辛く、みじめだった。
何でこんなことに……
あの苦しくても、家族でのりきった旅は、なんだったの?
誰よりも強い絆で結ばれた家族になれたと信じていた。
そして、ここにたどり着いたときの期待と喜びに満ちた自分。
その結果は、これだよ。
あまりの間抜けさに、不意にこみあげてくる笑いの衝動。
「……びゃっははははははは!」
哀れな自分が可笑しくて仕方なかった。
一度笑いだすともう止まらない。
「ひゃひゃひゃひゃ……」
息が苦しくなるだけ笑い転げても、涙と共にこみあげてくる笑い声。
「でへへへへへへへっ! そんなに悦ばなくてもいいのにー、おませさあああああん!」
理性が消えうせたアリスのだらしない笑い声が重なる。
「うふふー、しあわせそうだね! たっぷり愛してもらってね! うふふふ……」
一方、朗らかに響くのは、母の満たされたような幸せの笑い声。
朽ち果てた姉まりさからは、しゃんはーい、ほーらいというささやき声が、まるで笑い声がさんざめくかのように聞こえてくる。
それは笑い声が絶えることがない、微笑みの村のいつもの光景だった。
by小山田
最終更新:2022年05月03日 18:11