波乗りまりさ(平穏編)



さて、目の前にありますは中から外を見ることが出来ない水槽。
半分ほど水で満たされている中に、島みたいに出っ張っている場所が唯一の足場だ。
ゆっくり一匹分しかないスペースなので満足に動くことが出来ず、水を恐怖するゆっくりが被るストレスはどれほどだろうか。

しかし普通のゆっくりでは動き回ることが出来ないし、面白くない。
捕食種では飛べてしまうし、泳ぐことが出来る種も面白くない。
そこで、どうにか面白いものは無いだろうかと森を散策している時に見つけたのだ。
帽子を船の代わりにして川を渡っているゆっくりまりさの姿を。

衝撃だったと同時に、コレは使えると虐待お兄さんの灰色の脳細胞が語りかけた。
早速適当なゆっくりまりさを冷却スプレーで眠らせて捕獲し、家に戻る。

とりあえず帽子を外して中を覗くと、棒切れが入っているのを発見。
お兄さん渾身のガッツポーズ!
…が、そんなことをしているうちに目覚めて騒がれると面倒なのですぐさま帽子を戻す。

「よし、それじゃあ本番と行こうか」

小声で気合を入れると、水槽に取り付けた蓋を外してまりさを足場に置く。
ゆぅゆぅと眠っている姿は握り潰したくなるが、そこは我慢。
ゆっくりと蓋を閉めて、中の観察を始めることにした。



「…ゅ…………て……ね…」

ただ寝ているのを眺めていてもつまらないので本を読んでいると、小さく声が聞こえた。
どうやら目を覚ましたようだ。改めて観察を始める。
この水槽は音で外の様子に気づかれないために防音素材で周りを囲ってあり、少々聞き取りづらいのは仕方が無い。

ゆっくりまりさは狭くて思うように動けないので、身を捩りながら周囲を確かめているようだ。
当然周りには仲間など居るはずもなく、あたり一面水で満ちているだけ。
飛び跳ねようとしても、すぐ天井にぶつかりさらに喚き散らしている。
そんなことをしていれば足(?)を踏み外すのは当たり前だろう。
足場からずり落ちそうになるのを必死に踏ん張り、何とか踏みとどまった。

このまま眺めていてもいいのだが、今回はそれがメインではない。

そして用意したのは、ちびゆっくりの焼き饅頭。別に親子と言うわけではない。
ゆっくりだと分からないように削って焼いてあるので、ただの饅頭にしか見えないだろう。
軽く引っ張れば落ちるように括り付けたその饅頭を蓋の一部を開いて中に吊るす。

焼き饅頭の匂いで平静を取り戻したまりさは、自分の横に饅頭が浮いているのを発見した。
食べようと舌を伸ばしてみるが届かない。
饅頭と水面を交互に見ながら絶望している。

「ゆ……り……ちに……ね!」

ゆっくりこっちにきてね、だろうか。
饅頭に話しかけるなどと無駄な行為をすること10分。
それまで絶望で染まった顔をしていたまりさだが、何かに閃いたようだ。

「…れ…ゆ……り…けるよ!」

まりさは帽子を器用に外し、帽子を水に浮かべた。
お、遂に来たかな。
水に落ちないように、帽子に水が入らないように慎重に帽子に乗り込んでいる。
ここで水槽を揺らして落としたい衝動に駆られるが、そこは鋼の虐待ハート。
拳を握り締めながら耐えているとどうやら乗り込めたようだ。

口に咥えた棒切れを動かして饅頭に近づく。
まりさには目の前にある饅頭しか映っていない。
それを確認した俺は、水槽の横に取り付けられている取っ手を回し始めた。
ゆっくりと回すとそれに連動して足場がゆっくりと水の中へ沈み込む。
これで水槽の中にあった唯一の足場も消えた。
そしてまりさは後ろで起こっていることに気づくこともなく饅頭にかぶりついていた。

「…ーし…むー…ゃ…し……せー♪」

その幸せとやらも、後ろに気づいた瞬間に終わるだろうがね…!

「ゆ…く…もど……! ゆゆゆゆ!!!」

食べ終えたまりさが地面に戻ろうと向きを変えると、あったはずの足場が無い。

「じ…ん…ん……ー!? ……くり…く…てな…で……きて…!!!」

足場のあった場所まで戻ったまりさは、ぐるぐると周りに足場がないか探すが見つかるわけも無い。

「か……て…いで…て……よー!! …っぐ…やず…ぜて゛ー!!!」

よほど大声で喚いているのか外からでもそれなりに何を言っているのかがわかる。
暫くの間泣き叫んでいたが、それも段々と聞こえなくなった。
覗き込んでみると、どうやら疲れて眠ったようだ。
眠っている間に落ちないのだろうか…。


疑問は尽きないが、今回はここまでにしておこう。
三日三晩寝ずに作成した自信作が、こうして上手く稼動したので気が抜けてしまった。
一旦睡眠をとることにして、新たな実験をしてみようと思う。
目覚めたときに水槽が餡子で染まっていないことを願いつつ、俺は布団に潜り込んだ。




あとがき。

何度かネタ振りをしてみたものの、誰も書いてくれそうに無いので自分で書いてしまった。
今回は平穏(準備)編。
続きは未定。
物足りない場合は適当に派生させて欲しい。
未定だけど予定しているのは、にんっしんっ編、家族編、津波編の名前だけ。

この馬鹿が書いたもの
ゆっくりのある生活

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最終更新:2022年05月03日 18:40