「ゆ~~~~~……」
 ドス魔理沙は悩んでいた。
 秋も終わり本格的な冬が到来する頃、このドス魔理沙の居る巣の中は未だ食料が足りなかったのだ。
「ゆ~~~~~……」
 このままでは冬を越す事ができない。
 最悪の場合、50匹の仲間達は全滅する事だって有りうる。
 既に食料の尽きた森の中で、どうやって不足分を確保しよう。
 その事を、起きてからずっと考えていたのだ。
「ゆゆ!! どすまりさ!! れーむたちがかんがえたんだけど」
「ゆ?」
「れいむたちをかこーじょーにうって、かわりにたべものをかってほしいの!!!」
「ゆ!!」
 思いもかけない言葉だった。
 確かに、それをすれば不足分と欠員分で十二分な量は確保できる。
「だめだよ!!! かこーじょーにうるなんてできないよ!!!」
 しかし、そんな事はドス魔理沙にはできない。
 加工場は自分達を、否、できの悪いゆっくり達を食品に加工する所だ。
 この巣の中のゆっくり達は皆賢く頭も良い。
 そんなゆっくりを加工場に連れて行くことは、絶対にできない相談だった。
「でも!! このままだったらみんなゆっくりできないよ!!!」
「それに、あとでしぬんならいまかこうじょうにいって、たべものをもらったほうがいいよ!!!」
「かこうじょうは、しぬまではゆっくりできるんだよ!! れいむたちはぜんぜんへいきだよ!!!」
「ゆゆ……。ほんとうに? ほんとうにそうおもってるの?」
「「「ゆっくりそーーおもってるよーー!!!!」」」
 答える霊夢達は大粒の涙を流してはいるが、その決意の固さは声から現れている。
「ゆ!! わがっだよ!! ごめんねーー!!! ごめんねーーーーー!!!!」
 その気迫に押され、ドス魔理沙も承諾した。
 その目には、ゆっくり一匹ほどもある涙を浮かべている。
「どすまりざはわるぐないよ!!!」
「そうだよ!! まりさたちがきめたんだから!!」
「ありすたじのぶんまで、ほかのゆっくりをとかいてきにしてね!!!」
 自らの髪飾りを取って、リボンを作りドス魔理沙の後ろ髪に縛り付けるゆっくり達。
 沢山のゆっくり達の思いが詰まったそれが、全てつけ終わったことを確認すると、ドス魔理沙は重い腰をあげた。
「ゆゆ……。それじゃあかこうじょうまでいくよ!!!」
「「「みんな!! ずっとゆっくりしていてね!!!」」」
「「「ゆっぐりするよーーーーー!!!!」」」
 向かい合い、お互いに叫びあった後、ドス魔理沙を先頭に巣から出て行ったゆっくり達。
 見送るのは、残されたゆっくり。
「おかーーしゃん。 まりさおねーーしゃんはいつもどってくるの?」
 幼い赤ちゃんの声だけが、巣の中にズンと響いた。

 ――

「ゆっゆ!!」
「ゆっゆ!!」
「ゆ!! ついたよ!!!」
 ゆっくりなら誰もが畏怖する建物、所謂ゆっくり加工場。
 その建物を目の前にして、ごくりと唾を飲み込むゆっくり達。
 しかし、迷っている時間はない。
「ゆ!! どすまりさ!! いままでありがとうね!!!」
「みんなとゆっくりしてね!!!」
「!! うん!! やくそくするよ!! ゆっくりするよ!!!」
 今生の別れ、それを済ませ一向は加工場の中へと入っていく。
「ゆ!! すみません!! このゆっくりたちのかわりにたべものをくだざい!!!」
 こうして、仲間の命と引き換えに得られたのは、新巻鮭十数匹ほどだった。
 それでも、上々の収穫である。
 これで何とか冬を越す事ができる。
「ゆっゆ!!」
 今、このドス魔理沙にできることは、一刻でも早くこの食材を自分の巣へ持ち帰る事だ。
「ゆ!! どすまりさがかえってきたよ!!」
「ほんとだ!! いっぱいたべものをもってるよ!!!」
「むきゅ!!! あれだけあればらくらくふゆをこせるよ!!!」
「「「「ゆっくりできるよ~~~~~!!!!」」」」
 歓声を上げるゆっくりの巣が段々と近づいてくる。
 皆、ドス魔理沙の帰還とその食材の両方に喜んでいるのだ。
「ゆ~~!! ふっぐりもっでひだふぉーー!!」
 魚を咥えているので口は開けない。
 しかし、あと少し、あと少しでみんなの下へこの食材が届けられるのだ。
「ゆ~~~!! うぐ!!!!!」
「「「「!!!!!」」」」
 ドス魔理沙の体に何かが刺さる。
 大きな、大きな尖ったものがささる。
 まるで、普通の魔理沙に刺したように思えるほど、大きな大きなものが刺さった。
「ゆぐぐぐ!!!」
 余りの衝撃に、思わず咥えていた魚を落としてしまう。
「いぎぎ!! ゆゆ!!!」
 それでも、懸命に拾い直そうと思ったその時、突如上空から飛来した物体が、その魚全てを奪い去ってしまった。
「ふん!! ゆっくりの分際で生意気よ!! これは最強のアタイが貰っていくわ!!」
「ああ!! 中にもこんなに!! あんた達また盗んできたのね!! これはアタイがぼっしゅーするわ!!!」
「やっぱりアタイって最強ね!!!!」
 大量の食料を担ぎ、遠くへ飛び去ってしまった妖精。
 余りの出来事に、全てのゆっくりはただ見つめる事しかできなかった。
「ゆ……? ゆゆゆゆ!!!!!」
「どーじでーーーー!!!! なんでーーー!!!!!」
「ああああ!! どごにいだっだのーーー?!!!!」
「ゆーーー!!!」
 ドス魔理沙達が我に返ったときには、既に殆ど食材が残されていない、風でワラが吹き飛んだ巣が残されていた。
「ゆーーー!! どーーじよーー!!! どーーじよーー!!」
 もう、たとえゆっくりを半分加工場へ持っていっても、ぜんぜん足りないのだ。
 有るとすれば餓死・または凍死のみ。
 しかし、ドス魔理沙の良心がそれを許さなかった。
「ゆ!! みんな!! がんばってなんとかしようね!! これからせいいっぱいはたらけばなんとかなるできるよ!!!」
 ドス魔理沙が思いうかべていたのは、出切るだけ人間の手伝いをして食料を稼ぐ事、もし対価として冬の間置いてもらえるのならば、家族単位で置いてもらう。
 そうすれば、何とか冬を越せるかもしれない。
「ゆ!! がんばるよ!!!」
 淡い期待だが、ドス魔理沙は、失った仲間の為に絶対にやり遂げて見せると心に誓った。
 しかし。
「ゆ!! もうどすまりさはしんようできないよ!!!」
 現実は。
「そうだよ!! いままでどうりきちんとはなしをすれば、もっていかれなかったのに!!」
 そんなに。
「それに、ここはあんぜんだっていってたのに、みんなもっていかれちゃったよ!!!」
 甘くない。
「どうせじぶんだけはとちゅうでおなかいっぱいたべてきたんでしょ?」
「そうだよ!! きっとそうにちがいないよ!!」
「うそをつくどすまりさはゆっくりしんでね!!!」
 一斉にドス魔理沙に飛び掛るゆっくり達。
「ゆゆ!! やめてね!! やめてね!!」
 数の暴力。
 大きな亀も、小さくても数がいれば追い返せるのだ。
「こんなのもういらないよね!!」
「とっちゃおうね!!」
「せっかくれいむたちがのこしていったのに!!!」
 ドス魔理沙の、力の大きさを示すリボンがドンドンと外されていく。
「ゆーー!! やめでー!! いまからでもきちんとふゆをこせるよーー!!!」
「「「「うそをつくのはもうやめてね!!!」」」」
「「「「ゆっくりでていくよ!!!」」」」
 リボンを外され、ボロボロになったドス魔理沙。
「むっきゅ~~~? だいじょ~~ぶ?」
「ゆ~~……」
 残ったのは、今まで良く相談していた一組のアリスとパチュリーだけだった。
「ゆ!! ごめんね!! まりさがばかだったから……」
「むっきゅ!! そんなことないよ!! あれはしかたがないよ!!」
「そうよ!! きちんとじょうきょうはんだんげできていない、ほかのゆっくりたちがわるいのよ!!!」
「ゆ~~~!! ありがどーーー!! ありがどーーー!!!」
 そうだ、自分には未だ仕事がある。
 それは、この二匹が安全に冬を越せるようにする事だ。
「ゆ!! ちょっとまってね!!」
 それを自分の中に言い聞かせ、未だ傷の癒えぬ体を動かして、飛び散った藁を拾い集め洞窟内へ運ぶ。
 少なくなったが、二匹だけなら十分な量だろう。
 それだけ確認すると、壊された扉を直して入り口に戻す。
 あとは、食材だけだ。
「ゆ!! よくきいてね!! これからどすまりさはかこうじょうにいって、ふたりのしょくざいとこうかんしてもらうよ!!」
「「!! だめだよ!!!」」
「さいごまできいてね!! にひきはもうじゅうぶんあたまがいいから、どすまりさがいなくたってひいきだよ!! それに、どすまりさは、すのみんなをまもらなくちゃいけないんだよ!!」
「むっきゅーー……」
「ゆーーー……」
「わかってくれた?」
「「ゆっくりりかいしたよ!! ううーーーー!!!」」
 ドス魔理沙に駆け寄り、ワンワン泣き出す二匹。
「ありがとーー!! ありがとーーね!!!」
 対するドス魔理沙も、大きな涙を浮かべて泣いている。
「……ゆ!! それじゃあどすまりさはもういくね!! あとで、かこうじょうのひとにたべものをもってきてもらうからね!!」
「「ゆっくりまってるよ!!!」」
 巣の中をでると、ドス魔理沙は急いで加工場へ向かった。
「!! ゆっゆ!!」
 途中、先ほど出て行った一家族が死んでいるのが目に入ったが、かまわず突き進む。
「ゆぐぐ!! ゆっゆ!!」
 傷の傷みに耐えながら、漸くたどり着いた加工場。
「ずみまぜん!! まりざのかわりに、すのなかにいるゆっくりたちにたべものをあげてください!!」

 ――

 驚いた職員達に経緯を説明し終えたドス魔理沙は、大きな折に連れて行かれた。
「暫くここにいてね」
 そういい残して、職員は出て行った。
「ゆーー!!」
 ドス魔理沙は気がかりなことが一つあった。
 早く、パチュリーとアリスのもとへ食材を届けて欲しいということだ。
「ゆーー!! ゆーー!!」
「ゆ? どすまりさ? どすまりさだね!!」
「ゆ?」
 自分の隣の檻には、先ほど今生の別れをしたあのゆっくり達がいた。
「ゆ!! みんなーー!!」
 再開できるとは思っても見なかったものとの再開に、ドス魔理沙は涙を浮かべて歓喜する。
「ゆ!! れいむたちをうって、かわりににんげんにたべものをあげるどすまりさはなかまじゃないよ!!」
「そうだよ!! ゆっくりしんでね!!!」
「ゆ? ど、どういうこと?」
「さっきにんげんのひとがはなしてたよ!! どすまりさがれいむたちをうったおかねでにんげんにたべものをもらってるって!!!」
「ゆ!! それはききまちがいだよ!! どすまりさはとられたんだよ!!」
「うそつかないでね!!」
「どうせ、どうせあつめたたべものをにんげんやって、おいしーものでももっらってたんでしょ!!」
「ちがうよーー!! ちがうーーーーのにーーー!!」
 何時もとは全く立場が逆転している。
 ドスまりさが必死に誤解だと言っても、このゆっくり達は信じてくれる気配はない。
 どの位、そうしていたのだろうか。
 気が付くと、再び男が中に入ってきた。
「お待たせ。さいしょにドス魔理沙、君から解体するよ」
「ゆ!! ……はい」
「「「ゆっくりしんでね!!!」」」
 元仲間の罵声を受けながら、職員達に言われるままに解体されるドス魔理沙。
 帽子を取られ、髪を剃られ、ついには頭に大きな穴があけられた。
「ゆぐぐ!!」
 それでも必死に耐えているのは、巣の中にいる二匹のためだ。
「それじゃあ、ポンプを押すよ。そうするとドンドン餡子が吸い取られていくからね」
「ゆ……はい……」
「どすまりさはもっとくるしんでしんでね!!!」
「ちがうよ……」
 浴びせられた罵声に、久しぶりに反論する。
「いいかげんにしてね!! さっきおにーさんたちがきて、れいむたちにきかせてくれたんだよ!!」
「!! なんで!! どーして?」
 呆然としたドス魔理沙は、一番近くにいた職員に呟くように問いかける。
「そのほうが面白いだろ。仲間に裏切られたドス魔理沙なんて」
「ゆ!! ゆーーー!!」
「安心してね。明日になったら巣の中の二匹もここに連れてきてあげるから」
「ゆーー!! ゆーーー!!! うそつかないでn」
「スイッチオン!!」
「ゆぐぐーー!!!! あがががーーーーー!!!」
 スイッチが入れられ、それまで暴れていたドス魔理沙の動きが止んだ。
「あがががーーー!! いぎぎーーーーー!!!!」
 餡子がドンドン吸い取られる痛み。
 想像を絶するその痛みに、抵抗する力もでないのだ。
「あああーーー!!! あががーーーー!!! !!」
 その隣では、楽しそうに笑いながら此方を見ているゆっくり達。
 この瞬間、ドス魔理沙は完全に絶望した。
 もう希望もなくなったのだ。
 ここに居たゆっくりにも誤解され、巣の中ではきっちりと二匹が待っているのだろう。
 その二匹も、加工場にきたら自分を恨むのだろう。
「ゆ…………」
 薄れゆく意識の中、ドス魔理沙は、脇に集められた髪の山に一つだけリボンが残っているのを見つけた。


 この冬、ある村で発生した非越冬ゆっくりの屋内侵入事件は、天狗の新聞報道により、本格的にドス魔理沙駆除の動きに向かわせたという。

 ――
 ドス魔理沙の手引き!!
      ゆっくり越冬せず、民家の食料を奪う!!
   訓練されたゆっくり、訓練元はドス魔理沙!!
           被害多数、老人の餓死数件!!!!
 ドス魔理沙、新たな異変の準備か?
        博麗巫女、自宅被害で漸く駆除賛成!!
 紅魔館!! れみりゃ全滅で漸く駆除に動く、何故今まで見過ごしてきたのか?!!

   ×○年二月発行 文文。新聞スクラップより。

 ――


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最終更新:2022年05月03日 18:49