※この作品の中の幻想郷は、河童達の頑張りもあって比較的文明が進んでいます



「ゆっ!おにいさん、今日はどこにあそびにつれていってくれるの?」
「それは着いてからのお楽しみだよ。とっても楽しい所だからゆっくり待っていてね」
「ゆゆ~、楽しみ~~!!」

ごきげんなゆっくり霊夢を腕に抱えて、大きな荷物を背負い、私は林道を歩いていく。
この霊夢は数日前、単独で我が家に侵入しようとしていたところを捕獲したものだ。
その場でブチ殺してやることもできたが、肉体的な拷問は今まで散々やってきていささか芸がない。
少し考えた末、私はある計画を思いつき、そのためにしばらくこの饅頭を生かしておくことに決めたのだ。
準備が整うまでの間「親切なゆっくりできるお兄さん」を演じ続けたため、今ではすっかり私に懐いている……まぁこの関係も今日で仕舞いだがな。


「おにいさん、いっぱいゆっくりしようね!」
「ああ、たっぷりとゆっくりさせてあげるよ……」


虐待おにいさんとゆっくり霊夢が贈る、そんなとある夏の日のお話。




ーーーゆっくりダイビングーーー





「ゆっ!すっごくおおきなみずたまりがあるよ!」
「ああ、ここが紅魔湖だよ。綺麗だろう?」

私達が訪れたのは、幻想郷の中心に位置する紅魔湖と呼ばれる巨大な湖だった。
全長数キロ、中心には紅き悪魔の住む古城がそびえる、風光明美な場所だ。
今日のような暑い日には、涼をとりに来た周辺の人間や妖精達の憩いの場所となっている。

「ゆゆー!ひろいね、すごいね!!」
「それじゃぁ、近くに寄ってみようか」
わーわー五月蝿い饅頭を抱えて水場に近寄る。
環境汚染とは無縁の幻想郷の中でも、一際透き通った水面が涼しげに揺れている。うーん泳ぎたい。

「ゆゆー、おみずがすっごくあおいよ!きれいだねー」
「この透明度は反則だよなぁ……それじゃあ早速泳いでみようか!」
「ゆっ!だめだよおにいさん、れいむはみずにはいるととけちゃうよ!」

ほう、この饅頭頭も流石にその程度のことは知っていたのか。感心感心。

「ああ、それなら安心してね。このスプレーをかけると君の体は水を弾くようになるんだ」

そう言って荷物から取り出したのは、加工場で最近発売された新商品「ゆっくり撥水スプレー」だ。
これをゆっくりに噴射すると特殊な薬品で体がコーティングされ、最低数時間は水中に入っていても体が溶け出さないようになっている。
用途はゆっくりを使った水仕事用や遊戯用といったほのぼのとした物から、水を使った長時間の拷問用まで様々。
もちろん今回は後者である。折角今まで長い時間をかけて準備してきたんだ。すぐに終わっちゃ勿体無いだろう?

「ハイ、おしまい!これで君も湖の中で遊べるようになったよ」
「ゆゆっ、からだがなんともないよ!つめたくてきもちいい~」

スプレーを終えたれいむを水面に浮かべてやると、最初はビクビクしていたがすぐに大はしゃぎで遊び始める。
水面でくるくる回転したり、水を口に含んで吹出したりしてキャッキャと笑っている姿は正直殺したくなるが、まぁまだ我慢我慢。
一緒に水に入り、一通り遊ばせてやってから、私は再び声をかけた。

「ねぇ、折角だからもっと広いところに出てみないかい?もっと面白い遊びがあるんだ。」



「ゆゆっ、こんどはなにをしてあそぶの?」
あれから私達はボートを借りて、紅魔湖の中心付近へと移動していた。

「ああ、ダイビングといってね、水の中で泳ぐ遊びだよ。それじゃ必要な機械をつけようね。」
言いながら私は、荷物の中から小さめのボンベと水中眼鏡、レギュレーターを取り出す。
これらはゆっくりの体型に合わせて、河童に作ってもらった特注品だ。

「ボンベは背負えたね?じゃ、次にこのレギュレーターを咥えて。離すと水が入ってくるから口を開いちゃ駄目だよ!
 あと、ここについている計器に気をつけて。ここにはボンベの中の酸素の量が表示されているんだ。
 この目盛りが0になるまで潜っていちゃあ駄目だよ。酸素が切れて死んでしまうからね!」

物覚えの悪いアホ饅頭相手に忍耐強く説明しつつ、なんとか器具の装着を終える。
そのままボンベを手で支え、ゆっくりを水中に沈めた。

「ゆゆー!みずのなかでもいきができる!すごいよ!!」

うん、どうやら機械は正常のようだな、さすが河童。
それにしてもはしゃぐのは結構だが、口を離すなと……ってあれ、こいつレギュレーター咥えたままだな。どうやって話してるんだ?

「ゆ?れいむはいわれたとおりにしているよ?」

……どうやら河童の超科学の賜物らしい。ゆっくりなんぞに使うのは豚に真珠以外の何物でもないが……
まぁいいや、クリアな悲鳴が聞けるのはよい事です。

「じゃ、しばらく一人で遊んでいてね。お兄さんは準備をするから」

饅頭を再びボートの上に引っ張り上げ、私は仕置きの最後の仕上げを進めた。
モニターを立ち上げ、ゆっくりのボンベについていたパネルを開き、あるボタンを押す。

「よし……カメラも異常なし、と。上手く行きそうだな。」
「おにいさんがなにをしているかわからないよ!はやくれいむをみずにいれてね!!」
私が調整を済ませている間も、ゆっくりは五月蝿く喋くり続ける。この腐れ万頭が……
沸騰しそうになる頭を必死で落ち着かせる。そうだ、この下等生物に付き合うのもこれで最後なんだ。なんと素晴らしいことか。

「まぁ慌てるな。すぐに連れて行ってあげるよ……地獄にね」
「ゆぅ?」
すべての準備が整ったことを確認すると、私は理解できていない様子の霊夢(+ボンベ)をゆっくりと抱え上げ……

「それじゃぁ…………ゆ っ く り 沈 ん で い っ て ね !!」
「ゆっ!?」

今までのストレスを込めて、水面に叩きつけた。

「ゆぶッ!」

ドボンッ!!



「ふぅ……清々したぜ」

水柱が立ち、ゆっくりれいむの姿は水の中へと消えていった。






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「水深5M」




「……ん……ゆっ!?」

水面に叩きつけられてから数十秒後、ゆっくり霊夢は意識を取り戻した。
どうやらショックで少し気絶していたらしい。早く上がって、お兄さんに文句を言わないと

「ゆゆ?からだがうかばないよ!」

浮上しようと願う彼女の意識とは裏腹に、彼女の体は水中を急降下していた。
通常のゆっくりの体は水に浮くが、くくりつけられたボンベが錘の役割を果たしているのだ。


「ゆゆ~~っ!おにいさん!ふざけてないで引き上げてね!!」

自力で水面に上がることを諦めた霊夢は、お兄さんが助けてくれるのを待つことにした。
この期に及んでも誰かが自分を助けてくれると考えているそのゆっくり脳には、流石におめでたいとしか言いようが無い。


暢気に魚を探したりなどしながら、ゆっくり霊夢は、沈んでいった。


「おにいさん、はやくたすけてね!!」



「水深20M」



「ゆっ!はやくれいむを引き上げてね!今ならおこらないでいてあげるよ!!」

呼吸ができるということもあり、ゆっくりれいむの声にはまだ余裕があった。
もっともわずかな焦りも感じている。体に感じる水温が徐々に冷たくなっているからだ。
一般に太陽光によって海水が温められているのは、赤色光が届く深度十数Mの辺りまで
そこから先は深くなればなるほど極低温の深層水の世界に入っていくということを、霊夢はまだ知らない。

「こんなにさむくちゃゆっくりできないよ!ばかなおにいさんははやくひきあげてね!!」



「水深40M」


「ゆゆっ!寒いよ……それになんだかくらくなってきたよ!」

沈みながら、心細げに辺りを見回す霊夢。
繰り返しになるが、海の中で満足に光が届くのはごくごく浅い位置に限られており
十数Mも潜ればライト無しのダイビングはほぼ不可能になる。

流石のゆっくり脳も不安を訴えてきていたが、まだ彼女はおにいさんが助けてくれるという妄想にすがり付いていた。



「水深60M」


コバルトブルーだった水の色は、今では薄暗い青に変わっている。
先程までは木の葉ほどの大きさに見えていたボートは、今では点のようにしか見えない。
ここでボンベを捨てて力を抜き、水面に上がればまだギリギリで助かったかもしれない。だが彼女はもはやそれどころではなかった

「ゆぐぅ……からだがいたいよぉおお!」

先ほどから、彼女の体に締め付けられるような痛みが加わっていた。水圧である。
10M潜るごとに1気圧ずつ増加するその力は、徐々に霊夢の体を締め上げていく。
だがゆっくりの体は水圧に最も強い球形をしており、中身も水分が豊富な餡子で出来ている。
その特性が、結局彼女の苦しみを長引かせることとなった。



「水深100M」


「いだいいいいいい!もういやだあ゛あ゛!おうぢがえるうううううう!!」

既にボートの姿はとっくに見えない。先ほどまでちらほら見えていた魚影も無くなっている。
沈み始めて数分、霊夢はようやく自分の置かれた状況の深刻さに気付いていた。
だがもう遅い。もはや普通に浮上したとしても間に合わない深度まで、霊夢は降下してしまっていた。




「水深120M」


「水深140M」


「水深160M」


…………

……




「だずげでぇえええ!!おにいざんんんんんん!!!!!」


140Mを越えた辺りから、もはや周りは暗くて殆ど見えない。
なぜ水遊びなんかしてしまったのか、などなぜもっと早くボンベを外し水面に出ようとしなかったのか、
後悔だけを繰り返し、彼女はひたすら奈落の底へと落ちていった。


…………

……








「水深200M」






「ゆぎゅっ!」

衝撃とともに、れいむは自分の体が何か堅い物に叩きつけられたのを感じた。とうとう紅魔湖の底に着いたのだ。
痛みをこらえ、状況を確認しようと周りを見渡すと

「ゆ゛っ……」

そこは数十センチ先すら見えない、完全な闇の世界だった。
この深度になると、水面からの太陽光の到達率は0.5%を切る。深海魚でもない限り光を感知するのは不可能だ。

身を切るような寒さ。体を締め付ける水圧。そして耳を済ませても自分のレギュレーターの音だけしか聞こえぬ静寂。
この世で最も過酷で、孤独な世界に、彼女は一人で取り残されていた。

「いやあああああああ!!だずげでぇえええええええええ!!
 ぐらいぉおおおおおお!!ざむいよおおおおおおお!!ごわいよぉおおおおおおおお!!」

パニックを起こし、泣き叫ぶ霊夢。その声は何処にも反響することなく暗い空間に消えていった。
だれか、だれか自分を助けてくれるものはいないのか。
ワラをもすがる気持ちで辺りを見回す彼女の視界に、何かぼんやりと光るある物が映った。

「酸素残量:50%」

それは、ボンベについていた酸素残量メーターの蛍光盤だった。
食い入るようにその微かな光を凝視する彼女の耳に、ふいに湖上でお兄さんが話した言葉が甦る。

『ここにはボンベの中の酸素の量が表示されているんだ。
 この目盛りが0になるまで潜っていちゃあ駄目だよ。酸素が切れて死んでしまうからね!』



「いやぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」




その数字の意味する所に気がついた瞬間、彼女は絶叫した。
この計器は自分の死刑宣告。ここに書かれた数字が0になった時、自分は窒息し、死ぬのだ。


「だずっ げでっ だれがあ゛あ゛っ!!」

半狂乱で全身を動かし、少しでも水面に浮かび上がろうとするれいむ。だがその体は無情にもボンベで湖底に縫いとめらている。
彼女に出来たのは、刻一刻と無くなっていく酸素の量に怯えながら、芋虫のように湖底を這いずり回ることだけだった。


40%……


30%……


「いやあ゛あ゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!じにだぐないいいいいいいいいいい!!」


20%……


10%……


「おにいざん゛ん゛ん゛ん゛ん゛だずげでぇぇえ゛え゛え゛え゛!!!」


5%……



0%



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ…………ガぼぁッ!!」


数十分後、しかし彼女の中では無限に思える恐怖の時間の末に、目盛りはとうとう0に重なった。
それと同時に大量の水が彼女の口に流れ込んでくる。計器の光も消え、辺りには真の闇が訪れる。

「ゴぱッ みずっ いぎが でぎなっ」

ゴボゴボと気泡を吐き出し、湖底をのたうち回るれいむ。
浸入した水で鼻や喉は焼けるように痛み、窒息の苦しみは彼女の餡子を生きたまま掻き回すようだった。


「いやだぁあ゛ゴブッ じにだぐないあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ゲぼッ」


死への恐怖が、彼女を最後の瞬間まで足掻かせる。その時、奇跡的にボンベと体を結ぶベルトが緩み、彼女の体は開放された。
だが酸欠と恐怖でパニック状態となったゆっくり脳は、もはや上下の感覚すら解らなくなっていた。
浮かび上がろうともがけばもがくほど体は逆に地面に突き刺さり、辺り一面に砂埃が舞い上がる。
そしてゆっくりと、ゆっくりと、もがく体は動きを止めていった。


クライ

クルシイ

サムイ

イタイ


どうして自分がこんな目に会わなければならないのか。自分はただ優しいお兄さんと楽しく遊びたかっただけだったのに。
薄れる意識の中でれいむは問う。だがどう考えても答えは見つからない。


やがて完全に体は動きを停止し


(ゆぐっ……じだ……がっ……た……)


お決まりの台詞を残して、彼女の意識は闇の中へと消えていった。













「……あっはっはっはっはははは!!いやぁ傑作だったな!!!腹が痛い!」

ボートの上で、私はモニターを眺めながら大爆笑していた。
霊夢が沈んでから湖の底で悶死するまでの映像、その一部始終を私はボンベに付いていた小型カメラで見ていたのだ。
録画も可能な優れモノなので、家に帰ったらもう一度見直すことにしよう。全く河童の技術力は大したものである。


「さてと……ボンベを回収しないとな。なんたって特注品だ」


ボンベには釣り糸程の細さしかない頑丈なロープが結び付けてある。それを巻き上げて回収し、
そのついでに死体となって浮かび上がってきたゆっくり霊夢もボートに引き上げる。
絶望と窒息の苦しみでグロテスクに歪んだそのデスマスクは、なんとも笑える代物だった。額に入れて飾っておきたいようだ。

兎も角、今年の夏はこれのおかげ楽しめそうだ……高い金を出した甲斐があったといえる。
次はゆっくりれみりゃでも沈めてみるか……あの再生力なら死ぬまでじっくり楽しめるだろうな。
撮った映像は稗田のお嬢さんにでも売りつければいい小遣い稼ぎになるだろう。
新しい遊びの成功に心を弾ませながら、私はゆっくりとボートを岸へ戻していった。















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蛇足なあとがき


こんにちは。以前ゆっくり改造職人の前編を書かせて頂いたものです。
後編を書いている最中、ふと電波を受信してこんなものを書いてしまいました。色々と突っ込みどころはあるかと思いますがご勘弁をorz
海とか湖って美しくも怖いですよね。足のつかない不安定な体勢、下を見ると光すら届かぬ冷たくて広大な空間が広がっている……
そこで何者かに突然足を掴まれ、引きずり込まれたら……そんな想像をしてしまい、自分は浅い所でしか泳げません。
暑い夏の夜に、ちょっと涼しいゆっくりいじめを。読んで頂きありがとうございました。


書いた人:ケイネスキー

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最終更新:2022年05月03日 18:49