柔道



「姿勢をただし・・・礼ッ!!」
「「「お願いしますッ!!」」」

張り裂けんばかりの掛け声と共に今日も鍛錬がはじまる。
白い道着に包まれたイカツイ男達、彼等はヤワラの道に生きる柔道家である。
日々休む事無く己の肉体と技術、そして心を磨き上げ更なる高みを目指す。
そんな空気を台無しにするよう、やや遅れて気の抜けた声が上がる。

「「「ゆっくりしていってね!!」」」

何事かと玄関を振り向くとそこには1m以上はある、大きなゆっくり達がうごめいていた。
このゆっくり達、その体の大きさにものを言わせ冬ごもり中の群れを襲っては食料を奪い生活していた。
だがそんなことを続けていれば、いずれは周辺からゆっくりが居なくなる。
そうしてあても無く彷徨っていたところ、玄関を開けっ放しにしたこの建物が目に付いたのだ。

「ここはゆっくりできそうだね!! きょうからここを まりさたちのおうちにするよ!!」

人間を目の前にしてのおうち宣言、ふてぶてしいことこの上ない。
だがゆっくりにしては巨体を誇るまりさ達は自身に溢れている。事実、幼い子供や年寄りとは互角に渡り合えるだろう。
それを耳にした館長は重々しく述べる。

「君達は道場破りかね?」
「どーじょう? まりさたちはここで ゆっくりするんだよ、おっさんたちは さっさとどこかいってね!!」

問いかけに対しボスまりさは胸を反らし答える。館長以下門下生達はこれを挑戦と捉えた。

「ふむ。ならばまりさ君、ここは一つ試合で決めようじゃないか」
「しあい? ばかなの? そんなにいたいめにあいたいの?」
「まぁ聞きなさい。君達は強い、だが我々にも意地があってね。お互いが総力戦となると大きな被害が出てしまう。
 そうなることは君達にとっても好ましくないと思うんだがどうかね?」
「なにわけわからないこといってるの? まりさたちがまけるわけないでしょ? いいかげんさっさと・・・」
「待って、まりさ!! あの人間の言うことも一理あるわ」

ここでぱちゅりーが口を挟む。そうしてボスまりさの側により、ヒソヒソと耳打ちしはじめた。

「私達が負けるなんてことは万が一にも無いわ。でもここで人間の提案を呑んでやっつけると、人間は私達に恐れをなして服従するわ。
 そうすれば美味しいご飯を用意させていつまでもゆっくりすることが出来るわ」
「ゆゆ!! さすがぱちゅりーなんだぜ!! 」

そうして駄々漏れのヒソヒソ話はようやく終わり、改めてボスまりさは館長に向き直った。

「おっさん!! かんだいなまりさたちは しあいをやってやるんだぜ!! わかったらさっさとじゅんびするんだぜ!!」
「そうか、ならばルールを決めよう」


そうしてぱちゅりー立会いのもと、館長とボスまりさの間で以下の取り決めがなされた。

  • 1対1の5試合を行い、ゆっくり側は1勝でもあげることが出来れば勝利とする
  • 降参、あるいは気絶など試合続行が不可とみなされた場合負けとする
  • 人間側は蹴りや突きといった打撃を禁ずる、ゆっくり側は攻撃手段を制限しない


「ゆっへっへ、こんなにゆうりな じょうけんを とらせるなんて、にんげんは ほんとうにばかだね!!」
「違うわ、まりさ。ぱちゅりーが利口すぎるのよ」

ゆっはっはと笑うゆっくり一行、もう既に勝った気でいるらしい。
一見ゆっくりに有利に見えるこのルールだが、その実、人間側に大きな不利はない。
というのも、そもそも柔道には打撃技がほぼ存在しないのだ。
また如何に背中から落とすかを前提に考えられた技では、頭だけしかないゆっくりを判定するのは極めて難しい。
そこで手っ取り早く、反則を取らせず試合不能にしてしまうこの形式を取ったのだ。


「それじゃさっさとおわらせるよ、ここはまりさがでるまでもないから、そっちのまりさがいってきてね!!」
「ゆっくりわかったよ!!」

ボスまりさに指名され、一回り小さなまりさは威勢よく応える。
一方の人間側も選手を選抜する。選ばれたのは100数キロを誇る巨漢であった。

「うす!! 行って来ます!!」

そうして両者赤畳の前で向かい合い、やがて審判の合図とともに中央まで歩みよった。


「はじめぇッ!!」

「おうっす!!」
「ゆっへっへ、ゆっくりしんでいってね!!」

先に仕掛けたのはまりさだった。男の足に向かい、助走をつけ勢いよく飛び掛る。

「ゆっくりもらったぶべべべべべ!!?」

だが渾身の体当たりは半身をずらした男の足払いで軽くいなされてしまった。
それどころか受身も取れず顔面から畳に突っ込んだまりさは、勢いがとまらず2転3転してようやく止まった。

「ゆぐぐぐ・・・な、なかなかやるんだぜ!!」

まりさは体勢を持ち直しながら苦々しく男を睨みつけている。

「ちょと審判!! 今あの人間まりさを蹴ったわよ!! これはルール違反よ!!」

すかさずぱちゅりーが審判に物言いをあげる。だが審判はこともなげに返す。

「今のは足払いと言って蹴りではありません。足の甲や脛ではなく、あくまでも足の裏面で相手を掬い上げる技です」

こうもきっぱりと言い返されては、ぱちゅりーはただむきゅきゅと唸るしかなかった。

「つぎこそはきめてやるんだぜ!! ゆりゃあぁっぺぺぺぺぺ!!!??」

またもパスンと決まる足払い、まりさはビデオの再生のようにまたも畳に突っ伏した。

「ゆぎぎぎぎ・・・もうやだ!! おうちかえる!!」

そう言うとまりさはその場にへたり込んでしまった。事実上の降参であるが、ゆっくり側は頑としてそれを認めない。

「まりさは参ったと言ってないわ、あれは隙を伺っているだけよ!!」

とは言えいつまでもこうして居る訳にはいかない。そこで男はまりさに詰め寄った。

「ゆふん!! とびかからなければなにもできないんだぜ? おじいはさっさとかしこいまりさにこうさんするんだぜ!!」

涙目になりながらも悪態をつくまりさ。
それを見て男は足の指で器用にまりさの帽子を摘み上げると、無言でそれを踏み潰した。

「ゆぎゃああああ!!? なにしてるのおおおおお!!!??」

男は帽子を足蹴にしたまま、ずーりずーりと摺り足でうろつきはじめた。

「まりさのぼうじざんいじめるなあああああっべべべべえぇぇぇ!!!??」

たまらず飛び掛るまりさ、だが空いている足で難なく払い飛ばされる。
そして、そうしている間にも軸足の下ではざりざりと帽子が嫌な音を立てている。

「やべろ!! いまずぐやべろおおおおおお!!!」

帽子の悲鳴を耳にし、またも飛び掛るまりさ。冷静さを失ったまりさに、もはや勝負は付いていた。

「ゆっぐぐぐ・・・ごべんなざい・・・もう、ゆるじでぐだざい・・・」

その後、ゆうに数十回は畳を舐めさせられたまりさは、顔が擦れ上がり真っ赤なミミズ腫れに覆われていた。

「まりさ、試合放棄とみなし勝負あり!!」

審判が声高に告げる。人間達の拍手とゆっくり達の侮蔑に包まれながら、まりさは悔しさのあまり涙した。

「にんげんさんヒグッ、はやぐヒグッ、ばりざのエグッ、おぼうじヒグッ、がえじでぐざい・・・」

嗚咽交じりに力なく請うまりさ、男はそこでようやく忘れていた帽子から足を退ける。

「あ」
「ゆっぎゃああああああああああああ!!!!!!」

そこにあったのは帽子だった何かだった。
巨漢の男の足裏と畳表にすりすりされ続けたそれからは、かつての面影は見受けられなかった。
ツバだけが残されたそれは、さしずめ薄汚れたシャンプーハットだった。

「ばりざ、ぢゃんど、まいっだっ、じだの、にぃ!!!」

限界を越えたまりさの目からはボロボロと大粒の涙が零れ落ちた。
そうしてまりさは、すまなそうな男の視線と審判に促され、ゆっくりの陣営へと戻りついた。

「ゆっぐり、がえっで、ぎだよ・・・」

精一杯告げるまりさ。そんなまりさを待ち構えていたのは想像も付かない言葉であった。

「え? きたないごみはさっさときえてね」
「ゆ・・・?」

一瞬なにを言われたか解からなかった。思わず涙も止まるまりさに更なる追い討ちが掛けられる。

「そんなきたないぼうしをかぶってるなんていなかものね」
「けがらわしいんだねー、わかるよー」

口々に浴びせられる暴言、その一言一言は傷付いた体を内から、更に抉り取っていく。
そうしてまりさは力なく道場の隅へ向かうと、壁に向かってブツブツと呟きはじめてしまった。



「それじゃあつぎはだれがいくんだぜ?」
「ふふふ、ここはとかいはなありすにおまかせよ!!」

そう言って前に出てきたのはありすであった。

「むきゅ!! ありす、人間は疲れているわ、これはチャンスよ!!」

先程の試合のせいか、巨漢の男は汗をダラダラと流し体からもうもうと湯気を立てている。
だがその実は息も切れておらず、ようやく体が温まってきたというところなのだが。

「あらあら、だらしないのね。 そんなのじゃ、いなかものですっていってるようなものよ?」

もう勝った気でいるのか、ありすはニヤニヤと余裕の笑みを浮かべている。

「それでは両者前に出て・・・はじめ!!」


「しになさい!!」

先に仕掛けたのはありすであった。審判の掛け声と共にありすは勢いよく跳躍する。
男がそれをこともなげにいなすと、先程のまりさ同様ありすは顔から畳に飛び込んだ。

「うびぃっ!!? ゆぐぐぐぐ・・・」

ピクピクと震えながら痛みに耐えるありす。ようやくの思いで顔を上げると、その瞬間ありすの体は宙を舞った。

「ゆわぁ、おそらをとんでんへいぃぃぃ!!!??」

一瞬の浮遊感を味わった直後、ありすは脳天から杭打ちのように畳に突き刺さっていた。
一体何があったのか、男の視線から追って見てみよう。



「しになさい!!」

そう言って仕掛けてきたありすをいなすと、畳に突っ伏しているその背後にしゃがみこむ。
そして、ありすが身を起こした瞬間に両頬を掴んで一気に膝のバネで飛び上がった。
背筋を曲げず相手に密着して固定し、また起き上がりの勢いを利用することで力を要することなく相手を持ち上げる。
そうして最高点まで達すると、後は地面まで一直線・・・男の得意技、裏投げである。

結果、ありすはお決まりの台詞を最後まで言い切る事無く舌を噛み、あまつさえ頭のカチューシャはぱっかり2つに割れている。
対し男は投げの最中に素早く身をよじり、着地と共にすぐ動ける体制に入っていた。

「いぢゃああああ!!!!! ありふのひだだだあああああんお!!!??」

わんわんと鳴き声をあげるありす、だが男の追撃がそれを許さない。
男はありすの底面から背中へ両腕をまわし平面を力いっぱい握りこんだ。
そうして腋を締め、胸で圧迫しながらギリギリと固めこんだのだ。
太い指がズブズブと食い込み、柔らかな肌は畳と道着の荒い抱擁でざりざりと磨り減っていく。

「あ、が、が・・・・・んあっ!!?」

突如としてありすの口内を塩気が覆う。
何事かと目を凝らすと、視線の先には滝のように流れる男の汗があった。

「ふぅ・・・ふぅ・・・」
「あがががががががががが!!!!!??」

べっとりとした男の汗が次々とありすの体に染みこんでいく。
口は圧迫され閉じることが出来ず、まともに声を出すことも出来ない。
ありすは長い長い時間をかけて、ゆっくりと塩漬けにされていった。


「ありす、試合続行不可能とみなし勝負あり!!」

10分も経過したところでようやくありすは解放された。
そこにはただ涙を流し、白目を剥いて、全身に真っ白な塩の結晶を噴かせた饅頭の姿があった。


「しょっぱいしあいだったね」
「きたいはずれもいいとこなんだぜ」
「疲れている人間にも勝てないなんて、ありすはとんだ田舎物ね」

またも浴びせられる罵詈雑言。だがありすは答えない。

「ありふ、もうりゃめぇ・・・おひおが、ひゅっひゅひひゃうのぉ・・・」

塩分に毒されたカスタードは、既にありすを遠いところへと連れ去っていた。
ゆっくり達は汚れ物を摘むように髪の先を咥えてズルズルと引きずっていく。
ありすは体が擦れる度にビクビクと跳ね上がっている。
そして隅まで運ばれ壁に叩き付けられたところで、んほぉっと一声あげて動かなくなってしまった。


「まったくふがいないやつらなんだぜ・・・つぎはだれがいくんだぜ?」
「ゆゆ!! つぎはれいむのばんだよ!!」

ぽいんと跳ね出たのはれいむ、胸を反らしゆっへんと威張っている。

「でもしあいのまえにれいむのおはなしをきいてね!! そのにんげんさんはおおきすぎるよ!!
 じじいたちはそんなひきょうなことばかりして、ばかなの? しぬの? わかったらさっさとちっこいのとこうかんしてね!!」

この一声にゆっくりの群れはゆーゆーと沸き立つ。

「さすがれいむなんだぜ!! ひきょうなじじいはゆっくりしね!!」
「わかるよー、にんげんはひきょうなんだねー!!」
「むきゅん!! か、賢いぱちぇと同じ考えをしているなんて、れいむもなかなかね!!」

こうして沸き立つゆーいんぐを収めようと、館長がれいむに語りかける。

「ふむ・・・確かに体格差があるのは卑怯かもしれんな。ならばれいむ君、君が自由に相手を決めるといい」
「ゆっふっふ・・・はじめからすなおにすればいいんだよ!! それじゃそっちのちっこいじじい、とろとろしないでさっさとしてね!!」

指定された男はニヤリと笑うと赤畳に向かった。この選択が間違いであったことをれいむはまだ知らない。

「それでは・・・はじめぇっ!!」

「ゆっふっふ、ゆっくりしないでいくよ!!」
「ほう、なかなか気が合うじゃねぇか。俺もゆっくりしてるのは・・・苦手でね!!」

言うや否や男は物凄い速さで動き始めた。対峙しているれいむには文字通り消えているように映るだろう。

「ゆっがああああああああ!!!!??」

きめぇ丸も驚きの速さ、ゆっくりが生理的に受け付けないその動きにれいむは思わず気絶しそうになる。
柔道の軽量級と重量級ではまったく別物と言っていい程に違いがある。
がっつりと組合う重量級に対し、軽量級はその身軽さを生かした素早い組み手争いが武器となる。
常に動き続け攻め続ける試合運びはコマネズミのようでもある。
だがその実、トリッキーな動きに反しその技は全てにおいて必殺の威力を秘めている。
ゆっくりにとってある種最悪な相手である。そして軽量級にはもう1つ大きな特徴があった。

「ゆ・・ぎ・・もう・・だめ・・ゆびゃあっ!!!??」

スパァっと乾いた音が響き、意識を手放そうとしたれいむを激痛が襲う。

「おいおい、いくら何でも早すぎだろう? せっかくなんだから楽しんで行けよ・・・な!!」
「ゆべべぶばべびぼばばばぁべぶぅ!!!!!!」

そうして繰り出される蹴りのラッシュ、パァンと音がするたびれいむの顔が大きく歪む。

「ちょっと審判!? あれは反則行為じゃないの!!?」
「あぁん? どう見たって足払いだろうが!! 素人が一々つまんねーことで水挿すんじゃねぇ!! てめぇが相手してくれんのか!!?」

審判よりも早く返事をする男、その切り刻むような視線に晒され、ぱちゅりーは押し黙り震えるしかなかった。
事実、男は足の側面や内踝を用いた打撃に要点を置いたものを数発に一度織り込んでいた。
しかし、これは素早く手数の多いこの試合に置いて見咎めることが難しく、ましてゆっくりには捉えられない速度であった。

「もうやだ!! おうちかえぶぅぅぅぅ!!!??」

降参を告げようとするれいむの口に男の足が刺さる。
れいむはこの時になって、ようやく男の目に宿る狂喜に気付いたのだ。

「ごめんごめん、よく聞こえなかったよ・・・ねぇ!!?」
「うがっっっぴぷ!!!??」

ズボっと引き出された男の足先には真っ赤に震える雫のようなものが摘まれていた。
のどを抉られ、れいむは降参を告げることが出来なくしまった。
軽量級のもう一つの特徴、それは非情にドSが多いことである。
重量級は比較的温厚な者が多いのに対し、軽量級は攻撃的な者が多い。
これは柔道に限らず一般的に言えることなのだが、体の小さな者は舐められないようにと強気になることが多い。
スポーツや格闘技に順ずる場合、闘争心と相成ってそれが如実に現れる。
この男も類沿わぬドSっぷりであった。それもこの道場で一、二を争う程のだ。

そうして男はのどちんこを無理矢理れいむの口に突っ込み、頬を払い嚥下させた。
ゆえゆえと必死に戻そうとするれいむ。その揉み上げを引っ掴むと、それを両足で挟み込み腕ひしぎのように絞り上げ始めた。

「ういいいいいいいい!!!??」

あまりの激痛に涙をダクダクと流しながら必死に声を上げようとするれいむ。
だが言葉は出てこず、残された揉み上げでテシテシと畳を打ちギブアップの意を告げようとする。
男はこれを見て意外な行動に出た。

「なぁお前ら。お前えらのれいむは強いな!!」
「ゆ、ゆゆ!?? そうだよ、れいむはとってもつよいんだよ!!」
「そうかそうか、なられいむが降参するはずなんてないよな!!」
「あたりまえだよ!! そんなこともわからないなんて、にんげんはかわいそうだね!!」

「だ、そうなんで試合は続行ということで」
「!!!!!!!!」

止めに入ろうか迷っていた審判を制し、男は腕の力を強めていく。
れいむは、まさかの仲間の言葉に声にならない悲鳴をあげる。そうしてその悲鳴は本当のものとなる。

ブチブチッ

「んあああああああああ!!!!!」

髪の束が鈍い音をついにれいむの皮膚を離れたのだ。
鈍さの中にも鋭さを孕んだ、何とも言えない独特の激痛がれいむを襲う。
その威力は凄まじく、潰れた喉から精一杯の嗚咽が流れ出る。

「いやー、ギブアップしないなんて強いねれいむ!! 俺、びっくりしちゃったよ!!」

またもぎゅうぎゅうと揉み上げを口に詰めながら男が告げる。
そうして男はもう一方の揉み上げに手を伸ばし

「んんんんんん!!! んんんんんんんんんんんんん!!!!!」

たところで、激しくいやいやをするように体を揺するれいむに遮られた。

「流石に2本とも失くすのは心苦しいかい?」
「んー!! んーー!!」

男の言葉に必死に頷くれいむ。額を擦りつけまるで土下座のようである。

「じゃあ・・・耐えてみせろよ!!」

次の瞬間、れいむの体は畳を跳ねていた。
男が揉み上げを両手で掴み、勢いよく引いたのだ。

「んいっ!!? んおっ!!? んむっ!!?」

ぼいんぼいんと全身を打ちつけながら鞠のように弾むれいむ。
これは引き出しと言って相手の上体を引き込み、姿勢を崩す技の応用である。
中腰の姿勢で腋を絞り、両腕で相手の道着を固定し勢いよく引き込む。
そうして体勢の崩れた相手に止めとなる技を放つのだ。
だが今のれいむには牽制技のこれでさえも必殺の威力となって襲い掛かる。
声というより最早音となったそれをあげながら転がるれいむ。
それもやがてしなくなり、しばらくするころには黒い筋が畳に残されるようになった。
そこでようやく審判の声がかかり、試合は決着を迎えた。

「まったくれいむはくちだけだったんだぜ」
「ほんとうにつかえないわね」
「やっぱりれいむは馬鹿でダメね」

口々に好き勝手のべるゆっくり達、その中心にドシャリと音を立てあるものが放り込まれた。

「「「ゆ、ゆわああああああああ!!!??」」」

それは顔面の皮膚半分が削り取られたれいむであった。うつろな目で宙を見ながらヒューヒューと空気を漏らしている。

「なんなら道場片してる間に纏めて相手してやろうか? 俺はいつでもオーケーだぜ」

語尾にハートを付けながら男が言う。その手はべったりと黒く染まっている。

「や、やめておくんだぜ!! そんなことしたらにんげんさんがかわいそうなんだぜ!!」
「へぇ〜、優しいんだね!! それじゃあグダグダ言ってねぇで黙ってろや、カスが・・・」
「「「!!!!!!!!!!」」」

男の一声で群れは縮み上がり、皆一様にピタリと口を紡いだ。



「いやー、すいませんね!! 手間かけさせちゃって!!」

15分後、ようやく綺麗になった畳の淵で男が言う。
リラックスした男に対し、まりさ達は戦々恐々だ。

「それじゃあつぎは・・・」
「ちぇんよ!! あの素早さに対抗できるのは群一番素早いちぇんだけよ!!」
「あにゃ!!!?? わからない!!! わからないよおおおおお!!!!!」

逃げようとするちぇんを押さえつけ、ずりずりと押しやるまりさ達。
とうのちぇんは試合前からボロボロと泣き崩れている。

「それでは・・・はじめぇっ!!」

「おんしゃーす」
「あにゃああああああ!!!」

パニックに陥ったちぇんは出鱈目に飛び回る。
それが偶然にも足元に入り、男はバランスを崩し尻餅をついた。

「とっととと・・・やるじゃねぇか」
「いける!! きいてるよちぇーん!!」
「あにゃにゃ!!? うにゃあああああ!!!」

仲間の声援で我に帰ったちぇんは、チャンスとばかりに踊りかかる。
だがそれは、無残にも顔面に突き刺さった男の膝により崩れ去った。

「わがらないいいい!!! わがらないよおおおぉぉぉ!!!」

顔を畳に擦り付けながら、ピコピコと激しくしっぽを振るう。
今ので折れ飛んだのか、辺りには白い破片が散っている。

「おーっとここで寝技チャーンス!!」
「にゃにゃ!!?」

男は叫ぶと両足でバックリと挟み込む。

「あにゃあああ!!? くしゃい!! くしゃいよおおおお!!!??」

顔面が丁度男の股座に押し付けられる。激しい運動で男はビショビショの蒸れ蒸れである。
蟹挟みの要領でギチギチと締め付ける。本来ならば太ももで相手の頚動脈を圧迫するのだが、ゆっくりに首は無い。
そこで、変わりに男は両膝をコメカミの部分に当ててグリグリと抉りこんでいく。

「おにょにょにょにょにょにょ!!!!!??」

腰を揺すり下半身全身で攻め上げる。そしてこの動きは思わぬ効果を発揮する。

ブボボ、モワッ・・・

「おうふ・・・」
「あにゃ・・・・・!!!!!」

腰の動きに刺激され、腸の運動も活発になったのだ。
立ち込める臭気に白目を剥いて痙攣するちぇん、今にも死なんばかりの形相である。

「いかん!! どっせい!!」

慌てて男は足を外すと、両足をそろえて顔面に叩き込む。ちぇんは奇しくも死の直前でこちらへ帰ってくることが出来た。
審判には「払いのけです」と苦しい言い訳をし、どうにか注意を貰うだけで事なきを得た。

「あんまり早いとつまらんだろ? ゆっくりしていってね!!」

男は未だ意識の朦朧とするちぇんのしっぽを掴むと、気合一発投げはなった。

「やあっ!!!」
「にゃがっ!!!??」

ビターンと派手な音を立てて畳とキスをする。ちぇんの体は衝撃の余り平たく伸びている。

「どうよ俺の一本、いや二本背負いと言ったところか?」

ネジネジと2本の尻尾を弄びながら男が訪ねる。

「わから、ない・・・わか、らない、よ・・・」
「そうか、そりゃ残念だ。なら解かるまでたっぷり味わってくれや」

必死の返答にも素っ気無く、男はまたも腰を落とし構えを取る。

「まって!!わかる!!わかもとっ!!?」

言葉の途中でしこたま顔を打ち付け、受身もとれずプルプルと伸びた体で震える。

「はいはい、どんどんいくよー」
「まttぷぷっ!!? おねがいしまっぷ!!! まそっぷ!!」

ビッタンビッタンと餅つきのようにリズミカルに投げ続ける。
ちぇんは降参を告げきることが出来ず、この無限ループから抜け出せなくなってしまった。


「はぁー、流石に疲れたわ・・・」

10分もすると、もはやちぇんはゆっくりではなくなっていた。
平たく伸びきった体は数倍にまで広がり、さしずめマンタのようになっている。
男はそれをくるくると巻くと、2本のしっぽで止めて巻物のように仕上げてしまった。

「わ・・・わから・・ない・・・よ・・・」
「ちぇん試合続行不可能とみなし、勝負あり!!」


勝敗はついた。だが今までのように罵るゆっくりはいない。
いくら餡子脳でもようやく自体が不味い方向に向かっていること、次は我が身かもしれないことを理解していたのだ。

「次が最後な訳だが、もちろん最後はお前だろ? まりささんよ」

丸めたちぇんを突きつけられてボスまりさは真っ青になって震えている。
ぐりぐりと突っつかれて真一文字だった口を緩める。そこでまりさは最後の手段に出た。

「みんな!! みんなでかかれば にんげんなんていちころだよ!! ゆっくりしねえぇぇ!!!」
「「「ゆっくりしねえぇぇ!!!」」」
「うわったったっと!!?」

突如として襲い来る饅頭雪崩に男は飲み込まれる。
まりさは勝利を確信し、そのこころには淡い希望がともった。
だがしかし

「「「うらぁっ!!!」」」
「「「ゆびいいぃぃぃぃ!!!??」」」

屈強な男達が次々に押し寄せ、まりさ達は四方八方に吹っ飛ばされた。

「なにずるのおおぉぉぉぉ!!!?? いっぱいくるなんでひぎょうでじょおおお!!!!!??」
「いやいや、先に仕掛けてきたのそっちだろ?」
「 こちとら約束を守らん奴に容赦するほど甘くないし優しくもないんでね」
「まぁそんなわけでだ・・・」
「「「ゆっくりしていってね!!」」」
「「「いやあああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・」」」





「で、反省したか?」
「「「ゆっぐりずびばぜんでじだっ!!!」」」

道場にはボロボロになった饅頭が整列し、深々と頭を下げていた。
対しイカツイ男達は腕を組み何やら話し込んでいる。

「しかしお前達これからどうするんだ? よもやまた人間を襲う気か?」
「もうぞんなごどじまぜんんんん!!! はんぜいじまじだあああ!!!」
「とは言え、そうするとお前達野垂れ死ぬぞ?」
「やでずうううう!!! じにだくなあああああい!!!」

館長はふぅと一息つくと、意を決したようにまりさ達に言い放つ。

「なら冬の間はここに居なさい。食事も多少は用意するし、寒さも凌げるだろう」
「ゆゆゆ!!!??」

思いも寄らぬ館長の提案に目を丸く見張って驚くゆっくり達。

「ただし!! お前達のその曲がった根性を叩き直してやるから、覚悟しておくことだな」
「あ、あ、ありがとうございまずううううう!!!!!」
「れいむ、よがっだねええええぇぇぇ!!!」
「おにいざんだちがじんのどがいがでずうううう!!!」

涙を流し、全身全霊で喜びを現すゆっくり達。館長は優しく微笑み、そして手を叩いた。

「おーい、準備できてるかー?」
「うっす!! いつでもいけます!!」

パンパンと手拍子に呼ばれて坊主の男達が手を光らせやってくる。その手には鋭い剃刀がそれぞれ握られていた。

「ゆ・・・おにいさん、それ、どうする、の?」
「ああ、これで髪を剃るんだよ。髪が長いと練習中に巻き込んだりして大変だからね」
「ほーれ動くと危ないからな、大人しくしてろよ」
「や・・・やめ・・・おうち、かえゆから・・・ゆるし・・・」
「はっはっは!!遠慮するなって!! それじゃあいくぞー」


「「「ゆあああああああああああああ!!!!!???」」」




春はまだ遠い。




終わり



柔道知識はにわかです、色々変でも目を瞑ってくださると幸いです

ムクドリの人

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2022年05月03日 21:40