ゆっくり魔理沙はご満悦だった。
今までお友達のゆっくり霊夢たちと思う存分ゆっくりしていたからだ。
日があるうちはぽかぽかとしたお日様の下で草原を走り回り、蝶々を追いかけばったと一緒に飛び跳ねる。
お腹が空いたら蝶々やばったを食べたり花の蜜を吸ったりした。
夜はゆっくり霊夢たちの巣で、夜通しゆっくりとおしゃべりに興じたり、星を眺めて眠ったりした。
この数日間は、ゆっくり魔理沙にとって本当に幸せな日々だった。
もっとゆっくりできるといいなと思いながら、ゆっくり魔理沙は自分の巣に戻ることにした。
お友達のゆっくり霊夢たちは、もっとゆっくりしてほしそうだったが、たまには別のゆっくりをしたくなるのだ。
「ゆっくりしていってね!」
おおよそ四日ぶりに巣に戻るゆっくり魔理沙。
その巣は落雷で死んだ木の洞だ。
ゆっくり魔理沙一匹には広すぎるが、自分が気に入ったものを並べたりできるから、そこはまさに楽園だった。
巣の周りには緑鮮やかな木々が立ち並んでおり、草も豊富で色とりどりの花々が思い思いに咲き誇っている。
そばには川も流れていて、そこで暮らしている限りゆっくり出来ないことなどないと思える。
大勢でゆっくりするのもいいが、一人でゆっくりするのもまたいい。
ゆっくり魔理沙は久しぶりにするそれに、期待で目をぎらぎらさせながら飛び跳ねていた。
鼻息も荒く、興奮で頬ははちきれんばかりにふくらみ、いつも以上に赤らんでいる。
焼け焦げが目立つ折れた木が見えてきた。
そこには四匹のゆっくり魔理沙たちがいた。群れのようだ。みな微笑みながらゆっくりしている。じつに楽しそうだ。
同種のゆっくり同士には、基本的に縄張りの意識はない。
だから帰ってきたゆっくり魔理沙は元気よくその群れに飛び込み一声あげた。いつもどおりの鳴き声だ。
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
次々と聞こえるそれはやまびこのようだった。
帰ってきたゆっくり魔理沙は手近なところにいた中くらいの、と言っても帰ってきたゆっくり魔理沙と同じくらいのゆっくり魔理沙にほお擦りをした。
「ゆぅ~」
「ゆゆゆ」
気持ちよさそうな声をあげて親愛の情を返す中ゆっくり魔理沙。
その様子を微笑ましそうに見ている群れの長だろう大ゆっくり魔理沙。これは帰ってきたゆっくり魔理沙よりも一回り大きい。
明らかに繁殖経験ゆっくりだ。きっと群れの仲間はこれの子供たちなのだろう。
しばらく五匹でゆっくりしていたが、小さな声が聞こえてきた。
「おかーさーん、ゆっくりしようね!」
「しよーしよー!」
「ゆーゆー!」
大きな木の洞から小さなゆっくり魔理沙が三匹でてきた。中ゆっくり魔理沙よりも一回り小さいそれらは、今まで眠っていたのか大きなあくびをしている。
「ゆゆっ!?」
帰ってきたゆっくり魔理沙は戸惑いの声をあげた。
今、小ゆっくり魔理沙たちが出てきた見覚えのある洞は、自分の巣ではないか?
そんな疑問を抱いたゆっくり魔理沙をよそに、小ゆっくり魔理沙たちは大ゆっくり魔理沙に頬をこすられて気持ちよさそうにしている。
「ゆゆゆゆっ!?」
いぶかしげな顔をしながら、ゆっくりと巣に近づいて、中の様子を探るゆっくり魔理沙。
「ゆ゛っ!?」
中は酷い有様だった。ゆっくり魔理沙が集めた宝物の鳥の頭蓋骨は粉々に砕かれていてもはや白い残骸だ。
布団代わりに敷き詰めた草は半分以上がむさぼられていたし、後で食べようととっておいた桃はどこにもなく、代わりに食べかけのカボチャがでんと置かれていた。
なかでも一番嫌だったのが、巣の中から自分の臭いがまったくしないのに、それとは違うゆっくりの臭いがしていることだった。
急にゆっくり魔理沙の頭に餡子が上る。
その視線の先には飛び跳ねている小ゆっくり魔理沙の姿があった。
「ゆぅううーーーっ!」
跳躍し、小ゆっくり魔理沙の一匹に体当たりする。
「ゆぎゃっ!!」
吹っ飛ばされ転がる小ゆっくり魔理沙。
続いて他の小ゆっくり魔理沙を弾き飛ばそうとするが、それは出来なかった。中ゆっくり魔理沙が思い切り体当たりしてきたのだ。
「なにするのー!」
「ゆぐっ!」
家族を攻撃されて、こちらも頭に餡子が上った中ゆっくり魔理沙。威嚇なのか「ぷんぷん!」といいながら帽子のリボンをひときわ大きく広げている。
他の中ゆっくり魔理沙も無言でにじりよってくる。
弾かれた小ゆっくり魔理沙は、ほかの小ゆっくり魔理沙たちと一緒に、大ゆっくり魔理沙にすりよって慰められていた。
体勢を立て直したゆっくり魔理沙は、その場で勢いよく飛び跳ねて声高に訴える。
「ゆっゆっ!わるいのはそいつらだよっ!」
「わるくないよっ!まりさたちはいいものだよっ!!」
すぐさま言い返す中ゆっくり魔理沙。リボンはまだ大きい。
言い合いは続く。他の中ゆっくり魔理沙もそれに混じる。
「ゆぅ~、ここはまりさのおうちなのっ!ゆっくりしないでね!」
「なにいってるの?ここはまりさたちのおうちだよ!!!」
「ちーがーうーの~!まりさのおうちなの~~!いいからさっさとでてってね!!」
「いやだよ!ここはまりさたちがゆっくりするおうちだよ!!」
「ちがうもん!ちがうもん!!はやくでてけっ!」
地団太を踏むように小刻みに跳ね続け、顔を真っ赤に染めてゆっくりしないで叫ぶゆっくり魔理沙。
中ゆっくり魔理沙たちは、そんな様子を餡子が腐ったようなものを見る目でみつめている。
「ここはまりさたちがみつけたんだよ!」
「まりさたちのおうちだもん!ゆっくりしないでさっさとどっかいってね!!」
「はやくきえてね!まりさたちはゆっくりするから!」
「「「ばーかばーか!うそつきー!どっかいけ!!かえれー!!!」」」
ゆっくり魔理沙は三匹に立て続けに言われてとうとう怒ったのか思い切り飛び掛った。
「いいからさっさとでてくのーーー!」
体当たりされて転がる中ゆっくり魔理沙。それを見て勝ち誇るように鼻で笑うゆっくり魔理沙。
「なにするのーッ!!!」
「ゆ゛ッ」
同時に重い音とともに潰されるゆっくり魔理沙。大ゆっくり魔理沙が飛び乗ったのだ。
すぐさま中ゆっくり魔理沙のもとへと跳ねよる大ゆっくり魔理沙。だが中ゆっくり魔理沙は大丈夫だと言うように跳ねている。
そのままゆっくり魔理沙へと向かう。
「ゆ~~」
体を起こすと、ゆっくり魔理沙は中ゆっくり魔理沙に囲まれていた。いや中ゆっくり魔理沙だけではない、六匹の群れが全員でゆっくり魔理沙を取り囲んでいるのだ。
ゆっくり見渡したところ、逃げられるような余裕はなかった。とたんにきょろきょろと慌てるゆっくり魔理沙。
「ゆっゆっゆっ?」
なぜ囲まれているのかゆっくり魔理沙には理解できない。自分はただ、自分の巣でゆっくりしたかっただけなのだ。
「ゆー!」
べよん。
小ゆっくり魔理沙が体当たりする。少し痛かったが、すぐにしかえそうとするゆっくり魔理沙。
しかし逆側からも体当たりされる。
「ゆぅっ!!」
そちらを向く。
すると背中に衝撃が。
「ゆぐっ!?」
ほどなくゆっくりリンチが始まった。
大ゆっくり魔理沙がのっかり攻撃し思い切り飛び跳ねる。
まわりで中ゆっくり魔理沙は三方向から勢いよく体当たりをする。
その隙間からは小ゆっくり魔理沙が噛み付いているのが見える。
みんな思い思いの方法で、ゆっくり魔理沙に暴行を加えている。
ゆっくり魔理沙は最初こそ反抗的だったが、ものの数秒もしないうちに号泣し、命乞いの声をあげていた。
しかし群れの攻撃はやむどころか弱まる気配すらない。ぼこぼこぼこぼこといい音がしている。
それに混じる悲鳴や泣き声。なにかが飛び出る音。
「ゆっゆ゛っゆっゆ゛っゆっゆ゛っ!!!」
「いや゛っ!いや゛っ!よじでっ!びゅっ!」
「ぐるぢいよ!だぢでっ!やべでぇっ!!だぢでよおおお!!!」
「どお゛じでごん゛な゛ごどずる゛の゛ぉ゛お゛ぉ゛!?」
「い゛や゛ぁあ゛ぁぁぁ゛ぁ゛ぁあ゛ぁ゛ぁぁぁ」
「も゛う゛や゛め゛て゛ね゛っ゛!」
「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛」
「ゆ゛っぐり゛じだい゛よ゛ぅ」
「ゆ゛……っぐり゛……ざぜ……でぇ……ぜっぜっ」
「……ッ!……ぅっ!!…………っ」
ぴくぴくと動くゆっくり魔理沙のようなもの。
それは涙と鼻水、よだれや泥で汚れきっており、餡子まみれで帽子もこれ以上ないほどによれて、ところどころに噛み跡が見える。
もはや虫の息でゆっくりとしているゆっくり魔理沙。
「ゆっ!」
仕上げとばかりに大ゆっくり魔理沙はそれに思い切り体当たりをする。
餡子を撒き散らしながら声もなく転げていくそれを追いかける三匹の中ゆっくり魔理沙たち。
それは近くの川岸でゆっくりと止まった。
その様子に明らかに不満顔で膨れていく三匹。顔を見合わせると、何かを決めたように頷く。
「「「ゆぅ~う~うぅ~っ!!!」」」
声を合わせて、三匹は汚れたゆっくり魔理沙を川に投げ入れてやった。
「「「ゆっくりしんでね!」」」
汚れたゆっくり魔理沙が川をゆっくりと流れていく様子を、げらげらげらげらという笑い声が見送っていた。
ぶくぶくと泡をだしながらゆっくりと薄れていく意識の中でゆっくり魔理沙は思った。
こんなことならゆっくり霊夢たちの巣でもっとゆっくりしてればよかった……と。
おわり。
著:Hey!胡乱
最終更新:2024年04月04日 15:01