※現代にゆっくりがいる設定です。
※実在動物の生態に関して適当な描写がありますがご容赦ください。
※れいぱーとゲスあり

町内の動物、町内の動物2の続編になります。知らなくても大丈夫です(多分)

【登場動物】
  • ジン
オスの若いシェパード。町に住む農家の飼い犬。畑の番犬(放し飼い)
血統証付、真面目、賢い、変な性格。アザミと仲良し。
  • アザミ
山の猿集団の若年女ボス。色素が薄く体毛色が金に近い茶色。
短気、荒っぽい、姉御肌、楽天的。ジンと仲良し。


「」:人間言葉
『』:動物言葉

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■町内の動物3


桜の花が散り、色彩豊かな花を咲かせていた植物達はその衣装を緑に変え
暖かな空気に気を引き締めるような清涼感を与え始めた頃の話

こげ茶の整った毛並みを持つ、顔が細長い生粋のジャーマンシェパード:ジンは山の麓の農家で畑の番犬をしていた。
つまり広大な畑の野菜を山から略奪しに来る猿、猪、ゆっくり等を撃退するのが役目だ。

血統が良いジンは元々警察犬訓練センターの出身であったが、色々あって現在の飼い主に引き取られた。
そんなこんなで、戦い方を心得ていて物覚えの良いジンに取って畑の番犬はそれ程難しい仕事ではなかった。

さて、そんなジンが仕事で1週間ほど立て続けに猿を撃退した後のある日
畑に隣接する林から一匹の特異な外見を持ったニホンザルがのっそりと姿を現した。

『何だお前?随分変わった見栄えの猿だな。』

ジンが言うように、その猿には普通のニホンザルには見られない特徴があった。
体毛の色が薄く茶と言うよりも金に近い、目も同様に茶と金と赤を混ぜた様な異様な輝きをしている
肌も地肌の色が薄い為、頬や尻の部分がより際立って赤く見えた。
何も知らない人間が見たら新種の猿か、伝説の生き物と間違えかねない姿だった。

『アザミってもんだよ。見てくれはほっといておくれ。最近、ウチの下っ端があんたに世話になってるみたいでね。
 人間の畑は荒らすなって言ってあるんだけど・・・まあ、一応ボスの面子ってもんがあってね』

アザミと名乗る猿は、興奮に肌を紅潮させ鋭い目つきでジンを睨みつけながら、ぶっきらぼうに答える。

『お前が最近来た奴らのボスか?物覚えが悪いやつらだ。猿が勝てるわけ無いだろ。』

対するジンは軽口を叩き応酬するが、心中で油断していなかった。
ボスと称するアザミの体躯はメスにも関わらず並みのオスよりも大きい上に
体には無数の傷跡が見て取れる、相当喧嘩慣れしている証拠だ。

ジンは目を吊り上げながら睨み付け、低い唸り声をあげる。四肢の爪を地面に食い込ませ、脚に限界までバネを溜める。
対してアザミも歯を剥き高い威嚇の声を上げると、後ろ足をグッと折り曲げ力を溜め込む。

『ああ、そうかい?』
『ああ。そうだ!』

そして2匹は大乱闘を始めた。


──── なんて事があったのが一年前


『おーい、ジン!!ゆっくりの繁殖の季節だから"赤ゆ狩り"にでも行かないかい?』
『良い提案だ。背中に乗れアザミ。そっちの方が早い。』

初対面から季節が一周し。決闘回数が二桁を越えた頃から、2匹は種を越えた友人となっていた。

一年前のような晴天の日の午前中
アザミの誘いでジンは番犬の仕事を抜け出し、裏の山に"赤ゆ狩り"に出かけた。

背中に金色のニホンザルをしがみ付かせ、山を疾走するこげ茶のシェパード。
なんとも奇妙な光景だが、彼らはいたって楽しそうだった。
ちなみに"赤ゆ狩り"とは遊び&軽食で、植物妊娠している赤ゆを枝ごと食べる2匹の好物だった。

山には"ゆっくり"が多く生息するとは言え妊娠中のものをピンポイントで探すのは中々難しい。
しかし、植物型妊娠をしている"ゆっくり"はその枝から特有の臭気を発するので
鼻の良いジンには居場所を察知する事が可能だった。

ジンが臭いを追って勝手知ったる山を走ること数分。
一本の木が倒れている林に到着すると地面に鼻を押し付け、念入りに発臭源を確認する。

『クンクン・・・さて、ここら辺のはずだが?』
『ジン!止まりな!あの倒木のあたりから声がするよ!』
『了解だ。だから俺の耳を引っ張るな!アザミ!抜ける!!剥ける!!』

背中に乗るアザミは叫び声を上げ、興奮のあまり思わず両手でジンの左右の耳を捻り上げてしまった
捻り上げられた方は顔の皮が全部上に寄ってしまい、鼻が長いため狐のような変な顔になってクゥークゥー鳴いてる。

『ああ悪いね。丁度目の前にあったもんだからね・・・』
『お前はもう少し自分の腕力を理解してくれ。俺は禿げたくない』

アザミは直ぐに手を離し謝罪する。しがみ付いていた背中から降りると体についた木の葉を取り払らった。
一方皮が伸びてしまったジンは、頭から尻尾の先まで振るってリフレッシュする。
こうして、犬猿はにぎやかに目的地に到着した。

怪しいと見た倒木は倒れてから、かなりの時間が経過しているらしく
表皮は苔むし中心部は腐り落ち、ちょうど木製のパイプのようになっていた。ゆっくりには絶好の巣穴だ。
中を覗き込むと奥には3匹の成体ゆっくり(まりさ、れいむ、ぱちゅりー)と1匹の子まりさが
それぞれ甲高い声で喧々諤々もめていた。表の2匹に気づいている様子は全く無い。

『中のれいむが妊娠してるみたいだな。どうだアザミ?手届きそうか?』
『ちょっと厳しいね、揃って奥にいるから届かないよ。私たちが中に入れる程太く無いしね・・・
 と言うかあいつら、あたい達を無視してまで何を熱くなって話してんだか。危機感薄いね・・・
 そうだ、ジン!ちょいとあいつらの会話を通訳してくれないかい?』

引っ張り出そうと手を突っ込んでいたアザミが、金色の目を輝かせてジンに振り向く。
アザミは山育ちで人に接する機会が少ない為、必然的に人間語が苦手だった。故にゆっくりの言っている事が理解できない。
対してジンは町で育った為、人間語をかなり正確に理解できる。

『ん、ああ、まあ構わんが。聞いてもロクでもない会話だと思うぞ?』
『いんだよ。暇つぶしみたいなもんさ。聞いてから狩ったて遅くないしね』

好奇の目をするアザミにジンは一応軽く忠告をした上でアザミの提案を受け入れた。
こうして、2匹は巣穴入り口に並んで座り込むと中の会話に耳を立てた。


◆ ◆ ◆


─ 巣穴の中でもめるゆっくり達 (【】はジンの通訳)

「もうがまんできないよ!!むーしゃむーしゃしておやすみしかしないれいむはこのおうちからさっさとでていってね!!」
【もう我慢の限界だ!!食って寝るしかしないれいむはすぐに家を出て行け!!】

まりさは、巣穴の最奥に陣取る植物型妊娠中のれいむ(妻)に向かって叫び声を上げた。

「ゆぅーん?なにいってるのまりさ?まりさはばかだからこそだてのくろうがわからないんだよ。
 れいむがゆっくりしないとあかちゃんもゆっくりできないでしょ!!ほんとうにまりさはだめなていしゅだよ!!」
【はぁ~?まりさの言ってる事超イミわかんない。まりさはマジ馬鹿だから子育ての苦労を分かってないだけじゃん。
 れいむがゆっくりしないとベビーがゆっくりできないのも分からないの?まりさってばマジダメ亭主だよね】

対する妊娠中れいむは太っており、巣穴の大きさギリギリのサイズだった。
たるんだ頬をブヨブヨ波打たせながらニタニタと嘲りの表情で答える。
一言発する毎に額から生えている太い枝に実っている"赤ゆ"(全てれいむ種)がユッサユッサとゆれる。

「なにいってるの!れいむはにんしんちゅうのれいむおちびちゃんのためだっていって
 さいしょにうんだまりさおちびちゃんにすーりすーりもおせわもしないし、れいむはははおやしっかくだよ。
 まりさはぱちゅりーとさいこんしておちびちゃんとここをゆっくりぷれいすにするよ!だからゆっくりしないででていってね!」
【なに言ってるんだ。れいむは妊娠中の赤ちゃんれいむの為だって言って、先に産んだ子まりさの育児放棄してるし母親失格だ。
 まりさはぱちゅりーと再婚して子まりさとここで暮らす。だからさっさと出て行け】

あまりにも不快な応答に絶叫の度合いを増すまりさ。こちらは普通の成体サイズだ。

れいむは初産時に胎生出産で子まりさを産んだのだが、妊娠中に何もしなくても餌の世話をして貰える事に味を占め
出産後すぐに"すっきりー"を夫まりさに無理やり迫り子供を身に宿すと、以後はそれをネタに毎日何もせずに暮らしていた。
さらには最初の子供がまりさ種である事が気に入らず育児放棄し
植物妊娠の今回は自分と同じれいむ種以外はわざと巣穴の壁にぶつけて潰してしまった。最悪のれいむである。

妊娠したれいむは毎日まりさに
「さっさとごはんをもってきてね!!あかちゃんがゆっくりできないでしょ!?ばかなの?しぬの?」と罵声を浴びせ
夫まりさは暫くの間は赤ちゃんの為と割り切り、狩りと子まりさの教育を引き受けていたが
付き合いきれなくなり、れいむと離婚し知り合いのぱちゅりーとの再婚を決意した。そして話は現在に至る。

「ゆっ?なにいってるの?ばかなの?うわきのあいてとおうちでゆっくりなんてできないよ!
 ここはれいむとあかちゃんのゆっくりぷれいすだよ。ひきこもりのぱちゅりーとゆっくりするならでっててね。
 あとまりさはれいむにわるいことしたおわびとしてまいにちおやさいをとどけるんだよ。ゆっくりりかいしてね。」
【はぁ?マジ何言っての?バッカじゃないっ!?浮気相手と同じ家で暮らすなんて超イミフなんですけど!
 ここあたしとベビーのパラダイスだから!ヒッキーぱちゅりーと暮らすんならマジはやく消えろよ!!
 そんで まりさは私に精神的苦痛とか離婚の慰謝料的なものとして毎日野菜を届けろよ。マジ言葉わかる?】

れいむはいつも命令するように、奴隷を見下すような表情で不愉快満点の言葉を吐き出す。
それを聞いてまりさは怒り心頭で真っ赤になるが、後ろに控える再婚相手のぱちゅりーは呆れ果てた顔になっていた。

「むきゅ・・・まりさにきいてたけどほんとうにこんなにげすなれいむがいるとはおもわなかったわ」
【ふー・・・まりさに聞いてたけど本当にこんなゲスれいむがいるとは思わなかったわ】

ついで、ぱちゅりーの後ろからひょこりと最初に生まれた子まりさが顔を出し、おずおずとれいむに近づいていく。
この子まりさは生まれて以来、母親とのスキンシップという物を全く経験した事が無かった。
幸いにして父まりさがちゃんと育ててくれたが、母れいむが枝に実る妹達ばかりを気にかけ
自分の事を相手にしてくれないのが悲しかった。離婚の話は知っていたがそれでもやはり母が恋しい年頃だ。

「おきゃーさんまりしゃはさびしきゃったんだよしゅーりしゅーりしてほしきゃったんだよ。いっしょにゆっきゅりしようよ!!」
【おかーさん、まりさは寂しかったんだよ、すーりすーりして欲しかったんだよ。一緒にゆっくりしようよ!!」】

デブで、皮がたるみきった肥満饅頭でも、子まりさにとって餡子を分けた唯一の母だ。
「もしかして・・・」、「あるいは・・・」一抹の望みを胸に、精一杯の笑顔で身を寄せる。

が、返って来たのはとんでもない返答だった。

「ゆっ!きたないまりさは近づかないでね。かわいいれいむのおちびちゃんがよごれたらどーするの!?ゆぅーん?
 ゆっくりしないではなれてね。よごれたまりさとすーりすーりしてね。まりさそっくりのばかなおちびちゃんだよ」
【キモイィー!なにガンズリしてんのゴミまりさ!マジかわいいれいむのベビーが汚れたらどう責任取るつもり?分かってんの?
 さっさと消えてよ!!チョーキモなまりさと体寄せ付けでもしてろよ。マジモイキーな子供ー。まりさにクリソツ。】

ゴミでも見るかのような眼差しで我が子を見下し、口を歪めて罵倒しまくるれいむ。
挙句にブルンと頬っぺたのたるみを叩きつけ、子まりさは巣穴の中を転がった。
目の前で起きた非道に驚愕している父まりさの横を転がり抜け、後ろのぱちゅりーが受け止める。
そして、子まりさはそのままぱちゅりーの頬に「ゆぅぅぅ~ゆぅぅぅ~」と泣きついた。

「ゆがぁぁぁぁ!!こどもをぎゃくたいするれいむはゆっぐりじねぇぇぇっっ!!」
【くそがぁぁぁぁ!!子供を虐待するれいむはさっさと死ねぇぇぇぇ!!】

あまりにも外道なれいむに、ぶち切れたまりさは鬼の形相でれいむに体当たりを喰らわす。
しかし、質量差がありすぎる為ダメージが与えられない。

「おお、いやだいやだ。でぃぶいだよ。かわいいれいむをいじめるげすなまりさだよ!ばかなの?しぬの?」
【マジサイテーじゃね。家庭内暴力よ。か弱い女性の権利を侵害するダメ男の代表じゃね!?マジ馬鹿だろ。ソッコー死ねよ】

顔をしかめながら体当たりをするまりさをこき下ろすれいむ。先ほどの子まりさと同様、頬っぺたのたるみで弾き飛ばす。
転がるまりさにニヤニヤと口端を吊り上げ悪態で追撃をする。

「げらげらげら、きたなくてばかでむのーなだめまりさは、ちいさなぺにぺにでおちびちゃんとすっきりーしてね!」
【ギャハハハ、キモクてウザイ、バカまりさは、小さな××××(生殖器の意)で自分の子供と××××(交尾の意)してろ】

"ちいさなぺにぺにでおちびちゃんとすっきりーしてね!"
これはゆっくりの中でも最上級の侮蔑語の一つだ。人間のスラングに該当させれば"マ●ーファッ●ー"だろうか。
なんにせよ母が家族に使う言葉としては相当狂っていた。

再び、まりさとれいむはギャーギャーと言い争いを始めた。


◆ ◆ ◆


太陽がまだ東の空にある時間帯、雲が浮かぶ青空にはトンビが綺麗に円を描いていた。
その下にある ─ 巣穴と2匹の動物。山を爽やかな風が吹き抜ける。

ジンは躾が行き届いたように行儀良くお座りし、しごく真面目な顔で淡々とゆっくりの通訳を続ける。
横にいる体育座りの様な姿勢のアザミは、今ひとつ要領を得てない表情で茶金色の頭を掻きながら呟く。

『・・・なんかさ、所々理解できない言葉があるんだけど。ジン。あんたの通訳正しいのかい?』
『そうか?我ながら名訳だと思うのだが。特にれいむの感情表現など秀逸だと思うが?』

首を傾げながら、心外そうな表情で答えるジン

『・・・まあいいや、とりあえずれいむが不愉快な事は分かった。情け容赦なく赤ゆを頂くとしようか』
『理解してくれて何よりだ。それではキツツキの真似事でやるとしよう』
『了解したよ。あたいが叩く役をやるから、ジンは入り口で構えておくれ』

不毛なゆっくりの会話に飽きた2匹はいそいそと狩りの体勢入る。
アザミは足取り軽く倒木の上に乗り、ジンは倒木の入り口で仁王立ちに陣取った。
キツツキの真似事 ─ つまり、アザミが巣穴の倒木を叩いて飛び出して来たゆっくりをジンが捕獲する算段だ。

「ウキィィィキッーーー!!(そーらよっと)」

鳴き声をあげながら倒木の上でドシンドシンとストンピングを繰り返すアザミ。中のゆっくり達はすぐに異変に気づいた。

「ゆっ!?なに!!おうちがゆれてるよ!!」
「むきゅ!まりさ!じしんかもしれないわ!いったんそとににげましょう!」
「わかったよ!!おちびちゃんはゆっくりしないでまりさのおぼうしにはいってね!!ぱちゅりーはさきににげてね!」
「ゆっきゅりりかいしたよ!!」
「ゆっくりりかいしたわ!!」

このまりさは判断能力とリーダーシップに優れているらしく、子供を守り恋人を先に逃がすと言う
ゆっくりにしては迅速かつ適切な対応で巣の外へ避難を始めた。

「まりさぁぁぁぁっっ!!!なんででいぶとあがちゃんをたすけないのぉぉぉぉ!!ゆっぐりしないでだずげなざいよぉぉぉ!!」
「れいむのことなんてしらないよ!!そこでゆっくりしないでしんでいってね!!」

揺れるおうちの中、最奥に残されたれいむはたるんだ饅頭皮と太い枝をブルブル震わせ重低音の叫び声をあげるが
まりさはれいむを助ける気など全く無く外の光めがけて走る。
そして、先行していたぱちゅりーは一番に表へ、ピョーンと飛び出す。

「むきゅ!!おもてにでたわ─────むぎゅぎゅぎゅ!!!なんでいぬざんがいるのぉぉぉぉ!!!」

無防備に飛び出してきたパチュリーの目の前に待ち構えるシェパードのジン

「バウッッ!!(いや、お前に用は無い。)」

バフンッ!!

「むぎゅぅぅ・!!?・・・」

こげ茶色の右前足を横なぎに払い、肉球でぱちゅりーを吹き飛ばす。
衝撃で眼を回し地面をゴロゴロと転がる貧弱もやし饅頭。頬に残る肉球の跡。
続いて全く同様に飛び出してくるまりさ父子。

「ぱちゅりーだいじょうぶ・・・・・────なんでいぬがいるのぜぇぇぇ!!??」
「ヴァウッ!!(そして、お前にも用は無い。)」

ボフンッ!!

「ゆべぇぇぇっ!!!!」

全く同様にジャストミートするジンの肉球。地面に転がると同時に帽子から子まりさもこぼれ落ち父子揃って眼を回す。
その後、ジンはしばらく待つが肝心の妊娠れいむが出てこない。

「バウワウッッ!!ワワウッッ!!(おいアザミ、れいむが出てこないぞ)」
「キィ!?ウワッホッ!キィッ?(そうかい?詰まってんのかね?)」

催促に答えて一層激しく巣穴の上でストンピングするアザミ。
すると、巣穴の中から砂袋を引きずるような音が聞こえてきた。ジンは尖った耳をピクピクと動かす。

ズル・・・ズルン・・・ズルン・・・

「ゆぶぅ~ゆふぅ~ゆぶぅ~、まったくまりさはきがきかないよ!ほんとうにぐずでさいてーなていしゅだよ!
 にんしんちゅうのれいむをみすてるなんてしんじられないげすだよ!!」

散々グチを吐きながらズルリと白日の下に現れた妊娠れいむを見て、その容姿に溜息とともに言葉を失うジン

「ワフゥゥンン・・(これは酷い・・・)」

西瓜大のブクブクに太った饅頭。髪はボサボサでクモの巣がかかり、後頭部の襟足にはたるんだ皮を引きずっている
ゆっくりにとって命の次に大切な筈のリボンは所々虫に食われ、汚れ放題で真っ黒だった。
顔全体がパンパンに膨れ上がっているが、目・鼻・口のパーツは小さいまま顔の中心にあるのでアンバランスな事この上ない。
まだら模様にカビが生えている顔には砂糖水の汗を滝のように流し、ゆぶぅ・・ゆぶぅ・・と豚のような荒い息をついている。
額から生える赤ゆの枝は、全長が短く、根元に行くほど図太く"スラリと生えた"では無く"ズブリと差した"と言った感じだ

総じてハッキリと"醜い"。

「ゆゆぅ~ん?なんでいぬさんがいるの?れいむにあまあまくれるの?くれないならさっさとしんでね!」

ゆっふゆっふと体を揺らしながら食べかすが詰まった汚い歯を見せニヤニヤと餡子脳宣言をするれいむ。

「ワフゥ・・・ウゥガウッ!!(愚か者・・・独逸式絶天狼抜刀牙!!)」

変な技名と共に、ジンは後ろ足にバネを溜めゆっくりでは捉えきれない速度で飛び掛り
大きく開いた顎で刈り取るように枝に噛み付き一気に引き抜く。

ガブゥッ・・・ボギギギギ!!ブヅヅヅッッズボォッン!!

相手がでかい分、普段よりかなり力が必要だったが所詮は饅頭で出来た体だ。体躯の大きいジンには造作も無かった。

「ゆぎゃぁぁっっっ!!でいぶのあがぢゃんになにずるのぉぉぉ!!!ごのいぬぢくしょぉぉぉ!!」

自分の額から赤ゆの枝が引き抜かれたことに気づいたれいむは
ニヤついていた目と汚い口を限界まで開き、たるだん頬を震わせながら蛮声を上げる。
ジンは一瞬耳が痛くなったが、そのまま喧しく騒ぐれいむを後ろに。アザミが居る倒木の上へ着地し咥えた茎を足元に置く。
追い出し役のアザミは顔をしかめ両耳を塞ぎ"聞か猿"状態になっていた。"

『なんて声を出す肥満れいむだよ!豚か猪みたいだね!』
『ああ、全くだ。そしてこれがその肥満の赤ゆなのだが・・・』

2匹は足元に転がる赤ゆの実る枝に目を落とす。それは普段食べているものと大分違っていた。
まず茎が太く実がデカイ。普通はゴボウぐらいの枝はニンジンほど太く、ビー球ぐらいの実はゴルフボールぐらいの大きさだ。
赤ゆは日光にあたってなかったせいか皮の色が白く半透明で中の餡子がピクピク動いているのが見えた。
さらにその寝顔は可愛いニッコリでは無くニヘラと笑った不愉快な表情で眠っている。
「ゆぅ~うるしゃいよ・・・きゃわいいれいみゅに・・しゃっしゃとぎょはん・・・ばきゃなの?しにゅの?」
そして、この寝言である。

『・・・なんかさぁ、この赤ゆ食べると腹を壊しそうな気がしないかい?』
『同感だが・・・やばそうなら吐けば良いのではないか?』

2匹は如何にも気味悪そうに赤ゆの枝を眺めながら相談をする。
後ろではれいむがギャーギャー叫び声を上げ続けている。

「がえぜぇぇ!!!でいぶのでいぶのがわいいあがちゃんはなぜぇぇっっ!!ごのえでごぉぉぉがぁぁ!」」

砂糖水の涎を飛ばしまくりながら、鬼の形相でこちらに向かって来るくれいむはナメクジのような速度だ。
ジンとアザミの位置は倒木の上、巣穴奥の上部なので入口からの距離にしたら2mもないだろう。
また、倒木の直径は30~40cm程度しか無いので、普通のゆっくりでも根性入れれば上に飛び上がれる高さだ

だが、れいむは普通のゆっくりでは無い。ブタのような肥満ゆっくりだ。
巣穴から出るだけで体力を使い果たし、地上を2m移動するのもままならないメタボだ。
いわんや"垂直で40cmも飛び上がる"事など不可能な体だ。
しかし、それでも犬猿に向かって悪鬼のような表情でジリジリと。本当にジリジリと近づいてくる。
そんな、れいむの視線の先にはおっかなビックリに赤ゆを枝ごと口に入れるアザミ

「ゆぎゃぁぁ!!!ぢくしょぉぉがあぁぁ!!でいぶのこどもぉぉぉ!!!だべるなぁぁぁ!!はぎだぜぇぇぇ!!!」

パクッ・・モニュ・・「ゆびぃっっ!!」・・プチュン

口の中で赤ゆを一噛み。赤ゆの小さな断末魔が響く。

──── ブベッッ!!!

そして、予想外の味に思いっきりれいむに向かって吐き出す。

『ベッ!!不味っ!!なにこの不味さ!!舌がおかしくなる!!』

アザミはあまりの気持ち悪さに、顔を青くし毛を逆立たせながら口の中の餡子を何度も吐き出す。

『ペッ!!確かに。れいむのゲスで愚鈍な性格が滲みだしかのような破滅的な味だ。酷く不味い。』

ジンもまたれいむにむかって噛み砕いた赤ゆを吐き出した。眉を曲げしかめっ面を作り必死に前足で口元を掻く。

「あがぢゃぁぁぁんん!!でいぶのがわいいあがぢゃぁぁん!!おべべあげてぇぇぇ!!ぺーろぺーろしてあげるからぁぁ!!」

体が潰れた赤ゆを自分の顔面に吐き捨てられたれいむは、絶望の表情で必死にブヨブヨの舌で赤ゆを舐めるが既に死んでいる。

これは先ほどの会話の通り、れいむは妊娠中に食う・寝る以外の行動を全く取らなかった為
"赤ゆ"は過剰な栄養供給により餡子を煮詰めて濃縮したような味になっていた。つまり甘過ぎた。
糖分過剰の赤ゆは"ゆっくり"的にはとても元気と言えるが、食べる方に取っては嬉しいものではない。

『たくっ!こんなもんが食えるかぁぁ!!!』

少し落ち着いたアザミは湧き上がって来た怒りに顔を赤くし、残りの実が付いている赤ゆの枝を思いっきり遠投した。

「あがぢゃぁぁん!!いまだずけるからねぇぇ!!くそちくしょうども!!あとでぜっだいゆっぐりざぜなぐじでやるよぉっ!!」

捨て台詞を残し、赤ゆの枝が投げられた方向にズルズルとカタツムリのような速度で移動するれいむ。

『しかし、ゲスは生きてても、食い物にしても役に立たないものだな』

砂糖水を流すれいむの後姿を見てジンは冷たく呟いた。

『あー、しかし今回の狩りはハズレだったねぇ。口直しにさっきの子まりさでも食べとくかい?』

事が落ち着くとアザミは倒木の上にドカっと腰を降ろし、不満タラタラの表情で隣の友犬にグチをこぼす。
だがジンは鼻を風上にヒクヒクさせて妙な回答をした。

『・・・ちょっと待てアザミ。諦めるのは早いぞ、この臭いは・・・後ろの茂みに・・・耳を澄ましてみろ!』
『・・・?何さ?』

2匹は揃って座っている倒木の後ろの茂みに、4つの耳をピクピクと傾ける。

「んほぉああぁぁ!!がんじるわぁぁ!!まりさとぉぉぱちゅりぃぃのにおいよぉぉぉ!!ああぁぁもおぉいきぞぉぉぉぉ!!」

丁度良く饅頭を産む機械がウロウロしていた。


◆ ◆ ◆


一方、ジンの肉球に跳ね飛ばされたまりさ、ぱちゅりー、子まりさはしばらくすると目を覚まし。
赤ゆの茎を必死に追いかけるれいむを木の陰からそっと見ていた。

「むきゅ!まりさ!!なんだかよくわからないけど、いぬとさるがれいむをおいはらってくれたわ!」
「そうだね!これからあのおうちをまりさたちのゆっくりぷれいすにできるよ!はやくみんなでゆっくりしようよ!」
「むきゅ!!そうねまりさおちびちゃんも、もうだいじょうぶよ!!」

まりさとぱちゅりーは、何がなんだか分からないが疫病神が去った幸運を喜んでいた。
(れいむを追い出した犬と猿もいつの間にか視界から居なくなっていた)
そんな喜ぶ2匹の間で、子まりさがぱちゅりーに小さく弱気な声をかける。

「・・・ゆっ・・ねぇ・・きょれからぱちゅりーおねーちゃんのきょと、おきゃーさんってよんでいい・・・?」
「むきゅん!?もちろんいいわよ!!これからはぱちゅりーがかわいいまりさおちびちゃんのおかーさんよ!!」

おちびちゃんのささやかな希望に、満面の笑みで即答するぱちゅりー
子まりさは感激のあまりボロボロと涙を流しながらぱちゅりーに体をすり寄せた。

「ありがちょぉぉぉ!!おきゃぁぁーさぁぁん!!まりしゃゆっきゅりちあわちぇぇぇだよぉぉぉぉっっ!!」
「むきゅん!!これからはずっといっしょよ!!みんなでゆっくりしましょうね!!」
「まりさおちびちゃん!!よかったねっ!!やさしくてあたまのいいとってもゆっくりできるおかーさんだよ!!」

今まで我慢してた分心ゆくまでおかーさんにすーりすーりした。ずっと欲しかったゆっくりできる、暖かいお母さんだ。
こうして、両親は可愛い子供を間に挟み下膨れの顎をフリフリしながらにこやかに倒木のおうちに入って行った。
今、新しい家族が誕生したのだ。今日からしあわせ~な生活が始まるのだ。


─ だが、世の中そんな上手くは回らない。・・・回ると思っているのは餡子脳だけだ


新まりさ一家が歌いながら巣穴をに入るのを茂みから確認するジンとアザミ。
すかさず飛び出すと、ジンが口に咥えた気持ち悪いありす(つまりレイパー)を巣穴に放り込み。
間髪いれずに、アザミが手に持った大き目の石で巣の入口を完全に塞ぐ。流れるようなコンビネーションだった。

『これで良し。しかし、今日も良い天気だね~。ジン』
『そうだな。俺達が始めて喧嘩した時も丁度こんな日だったな・・・』

入口を塞いだ石に2匹は背をもたれる様に並んで座る。
簡単な"栓"だがゆっくりを倒木の巣穴に閉じ込めるには十分だった。

「んほぉぉぉ!!!まりざとぱぢゅりぃぃよぉぉぉがわいいわぁぁぁ!!!!ずぐにめいぐらぶよぉぉぉぉっっ!!」
「ゆっ!!なんで!?なんでっ!?ありすがおうちにいるのぉぉぉぉっっ!!」
「むきゅぅぅぅ!!れいぱぁぁよぉぉぉ!!まりさぁぁだずげてぇぇ!!!」
「なんじぇぇぇ!!きょわいよぉぉきょわいよぉぉぉ!!おきゃぁぁさーん!!」

2匹は倒木からの阿鼻叫喚をBGMにのんびりと世間話を始める。
艶やかに光るジンの濃いチョコレート色の毛並みと、アザミの輝くような金色の毛並みは並ぶと絵になった。

『いやーあの時はあせったよ。いきなり首筋に噛み付いて来るとは思わなかったから。死ぬかと思った』
『悪かったな。警察犬訓練学校でそう教わった。』

赤い顔に笑顔を作り語り掛けるアザミ。ジンも普段の仏頂面を崩して答える。

「ゆほほほほぉぉお!!いれぐいよぉぉ!!よんぴーよぉぉみんながわいいわぁぁ!!づんでれぇぇ!!さいごぉぉ!!」
「やべでねぇぇ!!ぱぢゅりりぃぃぃにげでぇはやぐぅぅおぢびぢゃんをづれて!!にげでねぇぇ!!ぎぼぢわるいぃぃぃ!!」
「むぎゅぅぅぅ!!おちびちゃぁぁんん!!はやぐはやくおそとにでてぇぇ!!」
「おきゃぁぁさっぁんんん!!おとぉしゃんがぁぁあっっ!!おどーしゃんがぁぁ!!!」

─ 倒木の中からドタバタと饅頭が暴れる音がする。

『けいさつけん・・・?なんだい?そりゃ?』
『人間が色々教えてくれる場所だ。認められると人間と一緒に仕事をする』

初めて聞く単語に興味津々のアザミに、ジンは分かりやすい言葉で説明する。

「むぎゅぅぅぅ!!なんで!?なんでいりぐちがないのぉぉぉ!!???」
「おどぉぉさぁぁん!!いりぐちがぁぁきゃべしゃんになっちぇるよぉぉ!!」
「まっでね・・・いま・・ばりさが・・・なんどかする・・からね・・・」
「ゆふーゆふー!!にげてぇぇ!!まりさぁぁ!!わたしからにげてぇぇ!!もえるしゅちゅえーしょんよぉぉぉ!!」

─ 徐々に声が2匹の背中に近づいて来る。

『ふーん、ジンは駄目だったのかい?意外だね』
『俺は"好奇心がありすぎる"と言う理由で駄目だった。』
『はー、犬ってのは難儀なもんだね』

アザミはニヒヒと言った表情ですまし顔のジンに笑いかけた。

「どいでねぇ・・・ばがな・・いじざんはっざっざとどっが・・・いっでね・・・」
「むきゅ!まりさぁぁ!!まりさぁぁ!!じっかりじてぇぇ!!ゆっぐりじないでぇぇ!!」
「おとーしゃん!!おめめちゅぶらないで!!ゆっきゅりしにゃいでめをしゃまちぇ!!」
「ゆっひゅっひゅ~!!にげられないわよぉぉ!!だいじょぶよぉぉどがいはわぁやさしぐしであげるからねぇぇぇ!!!」

─ 2匹の背中の石に饅頭が当たる弱い振動が伝わる。勿論2匹はその場を動かない。

『ほっとけ。俺はンビリした今の生活も結構気に入ってる。そう言うアザミはどうなんだ最近?』
『あたいは毎日、合いも変わらず下克上を狙ってくる若いヤツラをぶん殴ってるよ。』

ジンは水先をアザミに向け軽く反撃する。

「・・も・・ゆ・・く・・・た・・・ぱ・ちゅ・・り」
「ゆぅっ!!おとーしゃぁぁんん!!おとーしゃんがぁぁーー!!」
「まりさぁぁ!!まりさぁぁ!!おちびちゃん!!がくれてぇぇ!!わだしのおぐちにかぐれてぇぇ!!」
「ゆふふ・・・しゅーさいのぱちゅりーはみだれるとすごいのよねぇぇっっ!!だのしみぃだわぁぁ!!」

─ 徐々に巣穴から、声の数が減っていく。

『ふー、猿というのは難儀なものだな』

仕返しとばかりにジンはニヤリと笑ってアザミに答えた。

「むぎゅぅぅぅ!!みゅぎゅぅうぅ!!やべでぇぇぎぼぢわるぃぃぃぃっっ!!!
「んほぉぉぉ!!いいわぁぁしまるぅぅぅ!!!ずっずっずっずっきりぃぃぃぃぃ!!!!!」
「むぎゅぅぅぅぅーーーーーー・・・・・・も・・ゆ・・きゅぅ」

─ 最後にはありす以外の声がしなくなった。

『ははは、皮肉かい?』
『その通りだ。』

ジンとアザミは声を上げて笑った。

「むほぉぉぉ!!むほぉぉ!!だまらわないわぁぁ!!これがあいよぉぉぉどかいはのあいなのよぉぉぉ!!」

─ 頃合かと2匹は揃って腰を上げる。

『さて、良い感じに煮詰まったんじゃないかい?』
『そうだな、どかしてみよう』

アザミが両手で岩をどかすと、ありすが狂喜の目で巣穴を飛び出しそのまま何処かに消えていった。
後には頭に茎を生やしまくり黒くなりかけたまりさとぱちゅりーの死骸が残る。

ジンは口にまりさ、アザミは手にぱちゅりーを持って倒木の上に登り腰掛ける。
ようやく待ち望んだ"普通の赤ゆ"だ。さっそくムシャムシャと食べる2匹。

『うむ。やはり餡子の赤ゆが一番美味いな。茎との相性が最高だ。日本に生まれて良かった。』
『いや、茎との相性はクリームの方が良いに決まってるじゃないか!?大体ジンは洋犬じゃないか!!』
『何を言う。俺は生まれは日本だし、たまに納豆だって食べるぞ。それにアザミは"ニホンザル"だろう?』
『食い物に関しては話が別だよ!!」』

丁度お太陽が頭上に輝く時間帯。
2匹は楽しく話しながら、甘みと苦味が程よく利いた美味しいお菓子に舌鼓を打ち続けた。


◆ ◆ ◆


─ 林の中を這い回る一匹の非常に醜い饅頭

「ゆふぅ~ゆぶぅ~・・・いっしょうけんめいさがしたのにあかちゃんみつからなかったよ・・・ぜんぶまりさのせいだよ・・・
 いっしょうれいむにつくさせないときがすまないよ!まりさはれいむをずーっとゆっくりさせるためにいるんだよ!」

砂糖水の汗をダラダラ流し、延々と不満をぶちまけながらナメクジのような速度で動き回る肥満れいむ。
口では必死に探したように言ってはいるが、2時間かけて5m程移動した所で疲労の為に赤ゆの事を諦めた。
元の家に戻るには再び5mの道のりを移動しなければならない。メタボのれいむには大変な重労働だ。

「ゆふぅ~ゆぶぅ~・・・ちょっときゅうけいするよ・・れいむはおじょうさまだから、からだがよわいんだよ・・」

林の枯葉の上でぐでっとするれいむ。余った皮が一気に地面にたるみ落ち、溶けた饅頭のような姿になる。不気味だ。

「ゆぶぅ・・・なんでかわいいれいむがこまってるのに、すぃーにのったいけめんがたすけにこないの?みんなばかなの?」

疲れきった表情で、どこまでも自分勝手な事を口にするれいむ。もちろん助けなどどこからも来ない。

「・・・ゆゆぅ~ん・・?なんだか、あたまのうしろがむずむずするよ・・?」

しばらく体を休めていたれいむは、後頭部に違和感を感じた。何かが這い回っているような感覚。
後頭部を見る事は出来ないが、後ろを振り向くとアリ達の大行列が出来ている。

「ゆぅ~ん?ありさん・・・?なんで・・・?・・!!??まさか・・!?」

れいむは急に青くなり、必死にボサボサの髪の毛を振り乱す。すると何かがボタボタと頭から落ちた。昆虫。

「ゆびぃぃぃぃ!!!むじさんがぁぁあ!!むじがぁぁでいぶのからだをだべてるよぉぉぉ!!」

既に後頭部の髪の毛の中にはれいむから流れる砂糖水を求めアリ、コクワガタ、カナブン、カミキリムシ、コメツキムシが
びっしりと張り付いていた。それらはウゾウゾと這い回りれいむ徐々に食べ始めている。

「やべでぇぇっ!!!でいぶをたべないでぇぇぇ!!くそむしがぁぁぁ!!むじになんがたべられだぐないよぉぉ!!」

虫達に体を食い荒らされる事に絶叫し、必死に体を振りその場から逃げようとする。
しかし、ナメクジ程度の速度しか出せない上に疲労困憊の肥満れいむは全くその場を動けない。

「ゆっばっぁぁぁぁ!!まぢさぁぁ!!なにやっでんのぉぉ!!だずげなざいよぉぉぉ!!でいぶがしにそうでしょっぉぉ!」

最早髪の毛を振り乱しても効果はあまり無い。ゆっくりと、本当にゆっくりと体内に侵食してくる虫。蟲。ムシ。

「いだいぃぃ!!!かゆいぃぃ!!あんごがぁぁぁ!!でいぶががががががだべられでるぅぅぅっっぅ!!!」

見る事はできない。しかし確実に知覚できる、気が狂うような皮膚の痒みと内臓を食い荒らされている痛み。
不快感と激痛は緩慢に、しかし確実に体内の中心に向かって広がっていく。

「ゆげぇゆげぇぇ!!いだい!!がゆい!!いだい!!なんでだでもだずげでぐれないのぉぉぉ!!??」

最早、体を動かす体力も無いれいむには前面部からも捕食者達が這い上がってくる。
両目の眼球の上を虫が這い回るおぞましい感覚。そして彼らの顎が開き・・・

「ゆっぎゃぁあいだぁぁぁー!!!?!???!???!ゆぅうぅぅうゆ・・ぼぉ・・おうぢ・・がえるぅ・・っ」

やがて口の中にも虫が入って来てくると、舌と口内を小さな顎でプチプチと少しずつ食べられ。
さらに、額に穴がある事に気づいた侵略者は一気にそこから突入しゆっくりと内部をかき回された。

そして、30分もしないうちに、虫が虫を呼び表面が蠢く黒い球体が出来上がった。

── 肥満のれいむは光と声を失っても最後まで聴覚と痛覚を失う事は無かった
そして半日かけて、中枢餡が食べつくされるまで、ゆっくりとした虫達の処刑を味わった。


──────あとがき─────
最低のでいぶとジンの通訳シーンが書きたかったのです。
基本的に"ゆっくり"は生物ヒエラルキーの最底辺と設定してます。

人間>動物>>>>>>>>>カマキリ≧ゆっくり≧アリ≧角砂糖

作:六人

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最終更新:2022年05月03日 22:57