※現代設定です。



 ※死なないゆっくりもいます。







 うららかな日曜の、透き通るような晴天。
 道路を軽快に疾走するマイカー。
 オーディオのスピーカーからはご機嫌なBGM。
 こんな状況で、ハンドルを握りつつ思うことはただ一つ。





 助手席に座ってるのが女性ではなく、なぜ腐れ縁の悪友(♂)なのだ、と。

 「いや、お互いモテナイし、故に暇を持て余してるし?」

 ポテチをボリボリとこぼしながら、人の思考に突っ込みをいれる
 わが友。
 車内でピザポテトだけはやめてくださいお願いします。



 思い返せば、高速道路がETC装着車が1000円になるんなら
 せっかくだからどこか行こうぜ、という流れになって。
 ウワサのうまいラーメン屋に、わざわざ高速道路を使って遠路はるばる
 遠征して、これから帰ろうか、という空気なんだが。
 車中の二人の共通の趣味である『地方の微妙にさびれたゲーセン』
 を旅先で堪能する、という第二の目標は未だ達成されていない。

 「てか、さっきのラーメン大したこと無かったよな。お前も口直しにポテチ食ってる位だし」

 「おめえがどうしてもあそこがいい、って最初から聞かなかったんじゃないかよ。
 付き合わされた俺の身にもなれよ」
 「じゃあ、なんで来てるんだよ?」 
 「お前と一緒ならどこでもよかったんだよ!」
 「悪い気はしねーよ!」
 「「  へっ !  」」

 等とおバカなやりとりをしているうちに、さびれた県道沿いによく
 ありがちな、年季の入ったゲームセンターが目に入る。

 「行っとくか?」
 「ああ」









 自動ドアをくぐると、タバコのきつい臭いと共に視界に飛び込む
 壁に貼られた年代様々の販促ポスター。
 当然ヤニで黄色く変色した歴代の主人公達に迎えられつつ、歩を進める。
 これはいい、すごく。
 既にお互いのことを忘れて、俺たちはふらふらと二手に分かれた。
 殴る所がボロボロになりつくしたパンチ力測定マシーンとか、
 中国語で表示された200とか300ゲームが入ってるアレな筐体とか、
 ボタン各部に根性焼きがされたテーブル脱衣マージャン筐体とかを
 思うさま愛でていると、いわゆるUFOキャッチャーが視界に入ってくる。





 そのガラスばりのボディーに近づいてみると、

 『ゆ~ふぉ~キャッチャー かわいいゆっくりをゲットしちゃおう!』

 と、イラスト入りのカラフルな手作りPOPが。
 そういえば昔、伊勢エビやらアワビやらのUFOキャッチャーってあったっけなあ。



 「だしてね! だしてね!」
 「ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛ーーーーーーーー」
 「ゆびゃ~~~~!みゃみゃ~~~~!!」

 見下ろした位置のガラスの向こうには大小様々なゆっくりどもがまばらに点在し中には
 成体サイズのまでいるが、どうやっても掴めないだろうし、取れたとしても出口につっかえるだろう…。
 口々に言いたいことをわめいているなくゆっくり共は、薄汚れ、飾りの傷やほつれが目立ち、
 店員が放り込んでそのまま大して世話をしなかったであろう事は容易に想像できた。
 垂れ流した糞尿?までそのままだ。
 そんな地獄絵図の一歩手前を、悪友が興味深そうに覗き込んでいる。



 「もしかして、ゆっくりが欲しいのか?」

 人語を解し、中身は餡子だったりクリームだったりするデタラメな存在。
 いつの間にか世間に完全に溶け込んでおり、ペットとして飼う物好きも多いという。
 最近ではTVで
 「ゆっくりだってだって♪美味いんだもの飲んだら・・・こう言っちゃうよ『ゆぅ~~』」
 こんな感じのオレンジジュースのCMが話題になって、若い女性の間ではゆっくりを飼うのが流行したとか
 しないとか。
 こいつもそういう趣味があるのだろうか。



 「ちげーよ。これって難易度高そうじゃねえ?なんかさ、燃えてきた」

 振り返り、不敵な笑みを浮かべる。

 「いや、楽勝だろう、こんなもん」
 「言ったな!じゃあさ。どっちが先に取れるか勝負しねえ?」
 「今日の夕飯を賭けるならいいぜ」
 「のった!」







 ジャンケンでまず俺が先制をゲット。
 先制と言えば聞こえはいいが、もししくじれば後攻へと貴重なデータを山ほど
 提供する事になってしまう。
 かかるプレッシャーはこちらが圧倒的に強い。とにかく冷静にいくしかない。
 自分から賭けを持ちかけといてなんだが、コイツにメシを奢るのはとにかくムカツクので
 最初から本気モードだ。



 まずは状況の整理だ。
 二本のアームでつかむオーソドックスなタイプで、アームの先端には金属のツメが付いている。
 アーム自体の握力は全くの未知数だが、ほぼユルユルと考えておくのが最良だろう。
 そして肝心の獲物達はというと、一匹たりとも歩く奴がいない。
 こいつらは跳ねて移動するはずなのに、何か細工がしてあるのだろうか。
 アームの握力は頼りにならず、動かないが喋ることは自由なゆっくり。
 以上の事から策を練る。



 ………この勝負、いただいた!
 一対のアームとちょうど水平方向に顔を向いているゆっくりありすをターゲットに作戦開始。

 「おい、そこのありす、違うお前じゃない!隣の奴!」






 唐突に人間に話しかけられ、ビクっとするまだコブシ大のゆっくりありす。
 自分たちをこんなゆっくりできない所に閉じ込めた人間が、今度は自分にどんな酷いことを
 する気なのだろう?

 「そこから出たいか?」

 出たいに決まっている。こんな所は1秒でも居たくない。早くママと姉妹達のところに帰って
 思う存分すーりすーりをしたい。ゆっくりしたい。

 「そこから出たいなら俺の言うとおりにしろ。口を全力であーーんって開けて前のめりの
 姿勢になるんだ。出たくないなら他のゆっくりを選ぶがどうする?」

 言っている意味がよくわからないが、どうせこの中で永遠にゆっくりするくらいなら
 この人間が言うことを信じてみることにした。

 「ゆっきゅり りかいしちゃよ! ありしゅを さっさと だしちぇね!」

 全力でお口をあーーーんして前傾姿勢になり、助け出されるのをひたすら待った。






 基本条件をクリア。硬貨を投入し、再度ありすの位置を確認しなおす。
 クレーーン始動!!ポチっとな!
 軽快なBGMとともにウィーーンと移動を始めるアーム。
 横軸、よし。
 縦軸……問題なし。

 「口の中にひっかけてしまえば、こんなの簡単だろ?」

 ありすの真上に一旦停止したアームが、滑らかに降りてくる。

 「いやあ、こんなんでゴチになっちゃって悪いねえ!」

 薄汚れたカチューシャに触れるか触れないかという高さで、機械の腕がまた一旦停止する。

 金属の爪先は片方が尻のあたり、もう片方が下の前歯にギリギリ当たらない感じ
 に来ているのも計画の通り。

 「でも勝負は勝負だしい。焼肉とか行っちゃおうかな?」

 バチンッ 「ゆびゃっ!!」

 子ありすが吊り上げられて上昇してゆく。
 口から大量のカスタードクリームを吐き出し、白目を剥きながら。
 断面図で表すと、アームのあっちの先端とこっちの先端が内部でコンニチワを
 しているのだろう。

 「いや、今すごいバネの音したって。バチンって!!」

 哀れなゆっくりは取り出し口の上まで運ばれるが、アームが開いても口側から貫通した
 爪の先端が後頭部に引っかかり、落ちないでそのまま宙ぶらりんになる。
 息を飲んで見守っていた他のゆっくり達は、頭上でゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ としか
 言わなくなったありすの姿で大騒ぎとなった。

 「ゆびゃああああああ!ごの゛ゆっぐりごろ゛ぢぃぃぃぃ!!」
 「ありずううううう じっがりじでぇぇぇぇ」
 「ありずのなかみ たくさんかぶっちゃったよぉぉぉぉ」
 「どぼじで そんなごどするの゛ぉ゛ぉ゛ぉ」

 しーしーを垂れ流しながら気絶するものまでいる。



 これはゆ~ふぉ~キャッチャーなんかじゃない。
 ゆ~ふぉ~ギャッ!チャーだ!








 「いや~惜しかったですね。引っかかっちゃったのは回収なんですよ」

 悪友が呼んできた店員が、ガラスケースをガチャガチャと開けながらニヤニヤ笑いながら
 言う。

 「実はうまく取れた人って、今まで一人も居ないんですよ」

 子ありすを乱暴に引きちぎると、持ってきたゴミ袋に放り込んでまたケースを閉じて
 去って行った。
 今気づいたが、ありすの底部は黒く焦げていた。
 動かないのではなく、動けなかったのであろう。

 今更そんなことはどうでもいい。
 問題はアームの力がわかった以上、後攻のコイツがキャッチしてしまう確率がかなり
 高いのだ。

 「っへ。最後に笑うのは俺のほうだったな。」

 獲物は既に決まっていたのであろう、硬貨を投入し、最終確認を始める。

 「よーし、まりさ!君に決めたーー!!いいか、今から全力でぷくーーっと膨らむんだ
 そうすればお前は助かる。出来ないと死あるのみ!」

 この有無を言わさぬ状況を突きつけられ、プルプルと震えながらも息を吸い込み、ぷくう
 と膨らむ子ゆっくりまりさ。
 直前にみた子ありすの最期が何度も脳裏をよぎるのだろう、もう涙目になっている。
 クレーンがBGMと共に動き、ついに無機質の爪が子まりさの左右から迫る。

 バチンッ   ポヨン

 元もとのサイズならスカっと落ちていたであろうが、ゴム風船のようになったゆっくりは
 実にうまく挟み込まれた。
 アームのバネの異常な強さと相まって、安定したまま出口へと向かう。

 マズい、マズすぎる。
 こうなれば手段なんか選ばないぜ!

 「ゆっくりしていってね!」
 「ゆっくり びゅひゅるる~~~」

 俺のお決まりの挨拶に、律儀にも答えようとしたゆっくりは口の中に溜め込んでいた空気を
 放出してしまい、しおしおと縮んでしまう。
 焦げて硬くなったあんよでは細い爪先の上ではバランスが取れない。
 2,3度フラフラと前後にゆれて、前のめりに落ちてゆく。

 「ゆっ!おそらをとん 」

 ガンッ

 落下した先はちょうど取り出し口に繋がるプラスチック製の筒。
 運悪く両目を筒のフチに強打して、大事な黒いおぼうしだけが筐体外部の出口に。

 「ゆびゃぁぁぁぁぁあ!ま゛り゛ざのおめ゛め゛がぁぁぁアアアぁあ!」

 仰向けに倒れたまま涎を垂らし、、じたばたと暴れる子まりさ。
 両方の眼球に一本横線がくっきりついてはいるが、大丈夫だろう多分。
 成果であるとんがりぼうしを人差し指にかぶせてくるくる回して遊んでいると、
 猛抗議を受ける。

 「今のはねえよ!ナシナシ、ノーカン!妨害工作ダメネ!!」
 「ああ、わりいわりい。そういえば挨拶してなかったの急に思い出したんだわ。
 代わりにそっちも好きに挨拶してもいいから」
 「当たり前だ。これでお互い同じ戦法は封じられたって事か」

 膨らまして引っ掛ける、か。なんて恐ろしい手を思いつきやがる。
 こっちも使えなくなったのも痛いが仕方がない。







 考えろ。まだ他に手はあるはず。
 思考を巡らせた後、硬貨を投入する。
 アームは目標である子ありすを、寸分たがわず掴みに行く。

 「よし、そこのありす。ぷくーーってしろ。でないとグチャっ、だぞ?」

 手で物を握りつぶすジェスチャーを見せ付けられ、目をぎゅっとつぶったまま
 全力で膨らむ子ありす。

 バチンッ    ポヨン

 無事掴み挙げられ、移動を開始する。

 「でもよ、それってお前が自分で破った方法じゃんかよ。言われたとおり、
 俺も邪魔するかんな?」

 妨害したければするがいい、だが。
 取り出し口上空に至るまだ結構手前で、俺は自分で宣言する。

 「ゆっくりしていってね!」
 「ゆっく  ぶひゅるるるる~~~~    ベタンッ」

 空気を失い、萎んだ子ありすはそのまま床に顔面から着地した。
 うつ伏せのせいで喋れないようだが、ピクピク痙攣しているから大丈夫だろう。

 多分。

 すぐ真下にいた子ゆっくりのれいむは、ギリギリで目前に落下したありすに
 ただただ驚くばかりだった。

 「ゆぅああああああ!ゆっくりおちてこないでね!!」
 「チッ!惜しい。もうちょっとで残虐行為手当て支給だったのに」

 舌打ちしながら悔しがり、操作パネルの前から退く俺。








 「んだよ、捨てゲーでネタに走りやがった。しかし!俺は本気で行くぜー」

 硬貨を投入され、再始動する機械仕掛けの悪魔。
 その腕が狙う先は……成体特大れいむっ!

 「いや、それはいくらなんでも無いだろう」
 「甘いな。れいむっ、アストロンだっ!!」

 人差し指をかっこよくビシっとれいむに向けて、、『めいれいさせろ』コマンドを実行する悪友。

 「おにいさん なにいってるのぉぉぉぉぉ!そんなの できるわけないでしょぉぉぉぉ!」

 無慈悲な金属のツメが上空かられいむに襲い掛かる。

 「どうしたれいむっ!アストロンを使え!使わなければ……死ぬぞっ!」
 「だがら゛あ゛ずどろ゛ん゛ってなに゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ!?ゆがぁぁぁぐる゛な゛っ!
 ごな゛い゛でぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 バチンッ   

 鋼鉄の塊と化せなかったれいむの頭頂にツメが食い込み、頭皮と中身の餡子を抉り取って
 つかみ上げる。

 「ゆ゛ぎゃぁぁぁアアぁぁ れ゛い゛む゛のあ゛だま゛がああぁアア嗚呼あああ」

 ボトっ
 景品取り出し口に落ちた、餡子の塊を取り出す好敵手。

 「いや、これで俺の勝ちってことでいいでしょ。無事に餡子ゲットしたし。ペロリ」
 「全然よくねえ!これから俺の逆転ホームランが決まるんだから黙って見ておけ。
 あとそれは食べるのはあまりオススメしないぞ」

 そう。既に仕込みは済んでいる。
 れいむがアストロンを使えなかった時点で俺の勝ちは決まった。






 硬貨を飲み込みうなりをあげる、ゆ~ふぉ~ 虐っ!チャ~。
 何体ものゆっくりの餡子を吸ったそのツメの行く先は、つい先ほど俺がわざと落下
 させたゆっくり子ありす。
 なんとか起き上がろうとモゾモゾしているので、気は取り戻したようだ。
 すかさず俺は、子ありすに隣接している子れいむに命令する。

 「れいむ、なるべくありすにくっついて背伸びをしていろ。でないとベチャッ、だぞ」

 数々の惨劇を見てきた子れいむは、素直に俺の言うことを聞くしかなかった。
  これで横幅は元のゆっくりの1,5倍ちょい。

 いけるっ!

 バチンッ     ギュム

 多少苦しそうだが、2匹は仲良くアームに挟まれたまま上昇を始める。
 空気を吸い込んで膨らんでもいないので、お約束の台詞を言う余裕さえある。

 「ゆゆぅ~~~っ おそらをとんでいりゅみちゃい!」

 そして脱出不可能と言われた監獄の唯一の出口へ。



 俺は戦友を迎えるために、取り出し口に両手の手のひらを突っ込む。
 間もなく左右の手に、それぞれポムポムと確かな重さをキャッチする。
 2匹のゆっくりは今まで悪夢を振りまいた人間に捕獲され、どうなることかと
 餡子の中心まで冷や冷やしていた。

 しかし、このお兄さんはゆっくりを憎んでいるわけでは無かったし、虐待自体を
 好んでいるわけでも無かった。
 全ては今日の勝利のため。





 「よく生還した。たくさんお犠牲を払ったが、お前たちはもう自由だ。」

 その笑顔で悪夢は覚めた。もうゆっくりできるのだ。






 俺は悪友に、いや敗者に振り向いて。

 「俺の、いや、俺たちの。勝ちだーーーー!!」

 子ありすと子れいむを高々と掲げ、堂々の勝利宣言。

 「焼肉、と言いたい所だが、こいつらにもごちそうしたいしファミレスな」
 「わーーったって。今回ばかりは完敗だぜ……」
 「ドリンクバーのオレンジジュースで祝杯と行こうぜ野郎ども!」

 「「ゆっくり~~~~~~~~~~!!」」



 しかし、ファミレスってゆっくり同伴OKなんだろうか。





























 うららかな日曜の、透き通るような晴天。
 道路を軽快に疾走するマイカー。
 オーディオのスピーカーからはご機嫌なBGM。
 助手席には、出会った頃から一回り大きくなったありすとれいむ。
 焼かれていた底部は、ゆっくり専門の医者にかかりすっかり元通り
 になっている。

 あの後結局、情がうつってしまった俺は2匹を飼いゆっくり登録して
 一緒に生活している。

 「おにいさん べるたーすおりじなる すごくゆっくりできるよ!」
 「むーしゃ むーしゃ とーっても とかいはな ていすとね!」

 今では彼女らも特別な存在なのです。









 終











 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。



 ※れいむはアストロンを使えないという設定でした。




 ・過去に書いたSS

 週末の過ごし方

 この世の終わり

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最終更新:2022年05月03日 23:02