※この作品は以下のものを含みます
  • 原作キャラ(慧音・妹紅)
  • 善良なゆっくり
  • 悪辣なゆっくり
  • 虐待要素よりも多めの制裁要素
それでも良い方のみ、以下にお進みください





                    ゆっくり焼き土下座(前)





 その日、三十匹からなるゆっくりの集団が村を襲った。
 まりさを筆頭とするそのゆっくり達は、これまでにも何度も村に被害をもたらしている。
 そのたびに村人達は追い掛け回すのだが、多少のゆっくりは潰せても、その多くを取り逃がしていた。
「ゆっへっへ、にんげんなんかにまりさたちはつかまらないぜ!」
 そう高らかに笑い声をあげながら、まりさは群れの先頭を跳ねていく。
 まりさ達の住む群れは、人里にほど近い森の中にあった。総勢五十匹程度からなる群れで、その多くがれいむとまりさだった。
 今ここにいるまりさは、そのまりさ種の中の筆頭とも言うべき存在だった。
 それを現すかのように、この集団もまりさが五割を占め、三割がれいむ、二割がその他だった。
「きょうもたくさんゆっくりしていくぜ!」
「「「「ゆっくりいしていくよ!!!!」」」」
 集団は森を抜け、人里の外縁に差し掛かった。
 ここからは打って変わって慎重になる。ここ最近、人間達もゆっくりを警戒して囲いや罠をしかけるようになった。
 無論そんなことまりさも理解しており、だからこそ、抜け道探しに余念がない。
 だが今日は少々事情が違った。
「ゆ! あそこがあいてるよ!」
 まりさの隣にいたれいむが声を上げた。見れば一箇所だけ、囲いが崩れた畑がある。
 その他の部分はしっかりと竹の囲いをしてあったが、それも穴が開いていれば意味はない。
 囲いの代わりにか盛り土がしてあったが、そんなもの、まりさ達にとっては何の障害にもなりえなかった。
「ばかなにんげんだぜ! あんなものでまりさたちをとめようとしたってむだなんだぜ!」
 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、まりさは崩れた囲いに向かっていった。
 夕暮れ時ということもあってか、辺りに人間の姿はない。好機とばかりにまりさ達は雪崩れ込んだ。
「ゆ?」
 だが悲しいかな。所詮は饅頭である。
「「「「「「「ゆ゛ぅ゛ぅぅぅぅうぅぅ~~~!!!???」」」」」」」
 盛り土の向こうには深い堀が掘ってあったのだ。一頭身のゆっくり達が気づけるはずもなかった。
 三十匹のゆっくり達は残らずその堀の中へ落ちてしまった。
「うぎぎ……ゆるさないんだぜ! にんげんのくせによくもこのまりささまを!」
 ぎりぎりと歯を軋ませながら気炎を上げるまりさだったが、堀はまるで切り立った崖のようにそびえ、誰一人として脱出できるものはない。
「──やはり来たか」
 そこに、ゆっくりのものではない声が響いた。
 見上げると、無数の無表情な瞳がゆっくり達を見下ろしていた。



 上白沢慧音は、穴に嵌まった哀れなゆっくり達を見下ろした。
 その他にも堀を取り囲むようにして、数名の農夫達が手に手に鍬を持ち立っている。
 後ろのほうでは、退屈そうに妹紅が欠伸をかみ殺していた。
「ゆっ! ゆっくりたすけてね! はやくここからだしてね!」
 一匹がそう言ったのを皮切りに、他のゆっくり達も口々に出せ、助けてと騒ぎ出す。
「何故だ?」
 だが冷たい声で慧音が言うと、ゆっくり達は静まり返った。
「何故、折角捕まえたお前達を、私が逃がさないといけない?」
 それは静かながらも怒りに満ちた声だった。温度の宿らない瞳が、はるかな高みからゆっくり達を睥睨している。
 多くのゆっくりはそれに慄いたが、集団を率いるまりさ、そしてその隣のありすとれいむだけが反発した。
「そんなこといってないではやくたすけるんだぜ! ここはまりさたちのゆっくりプレイスになるんだぜ!
 ゆっくりできないおねえさんははやくどっかいってね!」
「と、とかいはのありすはこんなどろくさいところすきじゃないけど、どうしてもっていうならゆっくりしてあげてもいいわよ?」
「はやくだしてね! れいむたちはおなかがすいてるんだよ! やさいをくれないならかわりにおかしをちょうだいね!」
 それに勇気付けられた他のゆっくり達も、再び活気を取り戻して騒ぎ出した。
 おお、と農夫達から声が漏れた。
 その様子に、ふふん、とまりさは得意げな顔になった。
 にんげんたちは、まりさたちのゆうかんなことばにおそれおののいているのだ。そんなことを思っていた。
 無論、真実はそうではない。
 ただ単に、身の程を弁えぬ予想外の発言に驚愕したのと。
 守護者と崇める慧音から、目に見えない怒りの気配が発せられたのを悟ったからだ。
 そろそろ出番かな、と妹紅が伸びをした。
 慧音はただ一言、
「度し難い」
 とだけ呟くと、農夫達に命じてゆっくりを引き上げさせた。
 そして引き上げたそばから、堀の近くに作ってあった柵の中に投げ込んでいった。
「ゆ! ここじゃゆっくりできないよ! はやくだしてね!」
「ばかなおねーさんだね! こんなものでまりさたちをどうにかしようなんてどうかしてるよ!」
「まあまあのひろさだけど、こんなところじゃとかいはのありすはまんぞくできなくてよ!」
 ゆっ、ゆっ、とゆっくりたちは柵から出ようともがく。
 そしてやがて一匹のゆっくりが気づいた。
「ゆ! ここはたべものがないよ!」
 柵の向こうには、ただ雑草が生えただけの土地があるだけで、美味しい野菜は一つも生えていなかった。
「ほんとだ!」「これじゃゆっくりできないよー!」「ちーんぽ!」「だましたんだね! ゆっくりあやまってね!」
「騙したもクソも自分から飛び込んできたんじゃないか」
 妹紅は、呆れ以外の感想が出なかった。ゆっくりとはここまで自分勝手になれるものなのか。
 今まで見てきたゆっくり達も充分に図々しいものであったが、これは輪をかけて酷い。
 慧音はそんなゆっくり達の正面に立ち、あらかじめ決めていた言葉を放つ。
「ここはもう棄てられた畑だ。食べ物はない。そしてお前達のゆっくりプレイスとやらでもない」
「なにいってるの? ここはれいむたちのものだよ? おねえさんばかなの?」
「わかるよー。おねえさんがたべものをかくしたんだねー」
「はやくまりさたちのごはんをだしてね! おかしでもいいよ!」
「食べ物はない。もう一度言おうか? 食べ物はない。ここだけじゃない、他の場所にもない」
「うそだよ! だってまえもこのまえもたくさんあったよ! そんなすぐになくなるわけがないよ!」
「お前達が前に来た後、残りの野菜や果物は全て収穫してしまったからだ。時期が遅かったな」
「なんでぞんなごどずるのぉぉぉぉ!? ここにあっだのはれいぶだぢのごはんなのにぃぃぃぃ!!」
「お前達のものじゃない。野菜を作った農家の人達のものだ」
「そんなことしらないよぉぉぉぉぉ!!!」
「……度し難い」
 ハァ、と慧音は疲れた息を洩らした。
 それを敗北宣言とでも受け取ったのか、リーダーのまりさは得意げに鼻を鳴らした。
「ふん! そんなことどーでもいいからはやくごはんもってくるんだぜ! じゃないとまたみんなでむらをおそっちゃうんだぜ?」
 そしてニヤニヤと嗤う。その隣のありすとれいむも嗤う。
「ほう、お前達はちょっと違うようだな」
 慧音は少し驚き、そして微笑んだ。
 他のゆっくり達はともかく、この三匹だけは、畑の野菜が人間のものであると理解した上で襲っていたのだ。
 褒められたとでも思ったのか、一瞬で三匹は調子に乗った。
「あたりまえよ! とかいはのなかのしんのとかいはのありすは、そんじょそこらのありすとはいっせんをかくすそんざいなのよ!」
「わかったらとっととえさもってきてねおねーさん! あとそのぼうしださいよ! れいむのりぼんとはくらべものにならないね!」
「ゆっへっへ! まりさたちのいうことにはしたがったほうがみのためだぜ! にんげんなんかこのまりささまのあしもとにもおよばないんだぜ!」
 足ないだろ、と妹紅は突っ込みたかったが黙っておいた。ここはまだ慧音の舞台だ。
 それから五分ほど、慧音はゆっくり達の罵詈雑言をその身に浴び続けた。顔は笑顔のままで。
 そして、うむ、と一つ頷くと、
「妹紅」
「アイ・マム」
「手はずどおりだ。しっかりやれ」
「ラージャ」
 妹紅は、即席の石かまどに火をつけた。その上には鉄板が敷いてあり、見る見る熱気が陽炎を作っていく。
「ゆ、おねえさんなにをするつもりなの?」
 集団の中でもまだ幼そうな一匹のれいむが、かわいらしく首をかしげた。だから首ないだろ、と妹紅は心の中で突っ込んだ。
 慧音はとても簡潔に答えた。
「こうする」
 不完全な言葉の代わりに、行動で示した。
 やおら、そのれいむをむんずと掴みあげると、それを妹紅に投げて寄越す。
 妹紅はそれを、熱くなった鉄板の上にぎゅうと押し付けた。
「うぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?!?」
 押さえつけられているせいか、絶叫はまるで生木を裂くような音色となった。
 ジュゥゥ、と香ばしい焼き饅頭のあたりがそこらに漂いだし、ようやくゆっくり達は仲間に何が起きているのかを悟った。
 たっぷり三十秒ほど押し付けて、ようやく解放される。
「あ゛し゛か゛! でいぶのあじがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 れいむは叫ぶが、激しく身をよじらせるだけで逃げ出そうとはしなかった。裏面はこんがりと焼け、もうまともに跳ねることもできないのだ。
「やべでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「なんでぞんなどごずるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 ゆっくり達が責める声にも構わず、妹紅は次の手順に移る。
 妹紅が持ち上げたそれは、長い柄を持つ鉄製の器具だった。先端には子供の手の平ほどの平べったい円盤がついている。
 妹紅はその円盤をよく火で炙ると、未だもがき続けるれいむの右頬に押し当てた。
「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 焼けた鉄を強く押し付けられても、れいむに逃げる術はない。
 五秒経ってようやく妹紅が鉄の器具を離したとき、れいむの右頬には綺麗な丸型の焼印が捺されていた。
「こんなもんでいい?」
「ああ。上出来だ。その調子で次も頼む」
 そして慧音と妹紅は、淡々とその作業を繰り返した。
 狭い柵の中を逃げ回るゆっくりを捕まえては、妹紅がその『足』を焼き、焼印を押していく。
『処置』を受けたゆっくり達は農夫達が取り囲み、逃げないよう監視した。もっとも、逃げる気力もないだろうが。
「ああ妹紅、そいつが首魁だ、念入りにやれ」
「ヤ・ヴォール」
「ぶぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ」
 リーダーのまりさには特に厳しい措置が取られた。
 足は念を入れて一分間焼かれ、焼印は両の頬と顎の下──母体ならば産道ができる位置にも押された。
「ばあああがあああああああ!!! ぞんなごどじだらまりざごどもづぐれないいいいいいいい!!!」
 適当に選んでいた慧音だったが、残されていたありすがうるさかったので、そちらも一分間足を焼いた。
 ついでに一緒にいたれいむも一分間焼いた。
 個人的な恨みがあったのかもしれないが、怖いので妹紅は訊かず、指示されるままに動いた。
 全てのゆっくりへの処置が終わる頃には、もうとっぷりと日は暮れていた。
 ゆっくり達は誰一人口を開く気力を持ち合わせておらず、ただ肩で荒い息をしていた。だから肩ねぇじゃん。妹紅は突っ込んだ。
「良いか」
 その中で、慧音は静かに告げた。
「今回は、私達はお前達を殺さないでおく。だが次は容赦なく殺す。頬に押した焼印は、それを区別するためのものだ。
 その印をつけたゆっくりを次に見かけたら、私達は殺す。容赦なく殺す。完膚なきまでに殺す。
 ゆっくり理解したか?」
「ふん……しらないぜ……そんなこと……」
 ぜーはーと息をしながら、リーダーのまりさはなおも強がった。ある意味見上げた根性だなぁ、と妹紅は思った。
 だが慧音は取り合わない。
「そうか。理解できないなら別にそれでも構わん。お前が死ぬだけだ」
 氷点下の声に、さしものまりさもびくりと身を震わせた。
 泣き叫ぶものは一匹もいなかった。騒ぎ立てれば殺されるかもしれないと、どのゆっくりも思っていた。
 目の前に屹立する青い服の女が、ゆっくり達にはとても怖ろしい化け物に思えていた。
 中には縋るような目をして、許しを乞おうとするものもいたが、慧音はただ一言、
「帰れ」
 とだけ告げた。
「ど……どぉじで!? れいむだぢあるげないよぉぉぉぉぉぉ!!」
「這いずる程度ならできるはずだ。だから帰れ」
「いやだよ! もうおひさましずんじゃってるよぉ! れみりゃがでるよぉぉぉぉ!!」
「れびりゃごわいいいいいいい!!」
「ひどばんでいいがらゆっぐりざぜでぐだざいいいい!! おねがいじばずううううう!!」
「だめだ。帰れ」
 ゆっくり達はなおも哀願する。リーダーのまりさは歯を食い縛り、未だ衰えぬ眼光で慧音を睨みつけていた。
「帰れ、と言っているんだ。それとも今ここで殺されたいか? 私達は別にそれでも構わんぞ」
 小首を傾げながら慧音が言うと、ゆっくり達は一斉に身を竦ませた。
 そしてゆっくりと回れ右をし、ずりずりと重たそうに身体を引きずって、少しでも慧音から離れようとする。
「うわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああん!!!」
「ゆっぐりでぎながっだよおおおおおおお!!!」
 泣き叫びながら、ゆっくりは今の自分に許される最大速度で森の中へと逃げ帰っていく。
 最後にリーダーまりさだけがこちらをちらと振り返り、唾を吐き捨てていった。
「……やれやれ」
 ゆっくりが見えなくなり、声も届かなくなったところで、ようやく慧音は肩の荷が下りたような顔をした。
「けーねぇ、甘すぎるんじゃない?」
 妹紅が不満そうに顔をゆがめた。ゆっくりをわざわざ生かして返したのが理解できないのだろう。
 久々の甘味を手に入れそこなったという理由もある。
「いや、あれでいいんだ」
「まさかゆっくりが可哀想になったとか」
「そんなことはない。ただ、殺してしまえばそれで終わりだからな」
 石かまどの火を落としながら慧音は言う。
「あれらは最早どう足掻いても、一匹では生きてはいけない。そう遠くないうちに死ぬはずだ。
 そのやがて訪れる死の間際に、どうしてこうなったのかを思い返し、悔いてくれることを私は望んでいるんだ」
「教育者としてのサガ?」
「まぁそんなところだな。あと、もしかしたら森に仲間がいるかもしれん。
 あの連中が、その仲間の温情によって生かされるのであれば、それは奴ら自身が得るべき徳だ。その機会まで奪ってはいかんさ」
「うーん、やっぱ慧音は甘いよ」
 そうかなぁ、と二人して苦笑した。
 まぁ元々、慧音も妹紅も好き好んで命を奪うことはない。ならばあれでよかったのだろうと妹紅は思った。
 帰り道、ふと妹紅は口にした。
「それにしても、一匹だけやけに根性入ってたヤツいたよね。あのまりさ」
「いやいや妹紅、あれは根性なんかじゃないぞ」
 慧音は笑いながら答える。
「身の程知らずと言うんだ」



 それから。
 翌日の明け方、ゆっくり達はなんとか群れの住処に辿り着いた。
 途中、れみりゃに襲われて五匹ほど命を落としたが、今の状態ではそれだけですんだのは奇跡に近い。
「ゆっ!? どうしたのみんな!!」
 仲間からの知らせを受け、群れのれいむ種の中でもトップに立つ、リーダーれいむが駆け寄ってきた。
 昼過ぎあたりから姿の見えなかった仲間達は、全員が足を焼かれ頬に焼印を押された、無残な姿で帰ってきた。
「みんななにがあったのぉ!? まりさ、ゆっくりはなしてね!」
 事態を問いただそうと、れいむはリーダーまりさに問うが、
「……チッ」
 まりさは舌打ちして、ふてくされたように顔を背けるだけだった。
「まりさ!」
 語調を強くしてもまりさは応じない。その隣にいるありすとれいむも、ツンと顔を背けてしまった。
 いつもこうだ。リーダーれいむはこの三匹のことが、正直言ってあまり好きではなかった。
 活発的だが傲慢で、リーダーれいむの言うことには耳を貸そうとしない。
 そのくせ、蛮勇とも取られかねない行動は、子供達には人気だった。それがさらに三匹を増長させていた。
 仕方なく、れいむは他のゆっくりから事情を聞いた。
 ──まりさと一緒に森を出て食べ物を探しに行ったら、こわい人間達に捕まった。
 ──そして人間達はみんなの足と頬を焼き、次見かけたら殺すと言ってきた。
「ゆ……しかたないよ。にんげんはこわいし、とてもつよいよ」
 そのときの恐怖を思い出してか、ぐずりはじめた幼いれいむを慰めるようにリーダーれいむは言った。
 確かに、仲間達をこんなにした人間達に憤りはする。だがそれは自業自得だ。
 リーダーれいむは、仲間達には口をすっぱくして人間の里には近づいてはいけない、と言ってきたのだから。
 だからここで糾弾されるべきは、
「まりさ!!」
 怒りの篭もった声で、リーダーれいむは叫んだ。
「どうしてみんなをつれていったの!? にんげんとはゆっくりできないって、れいむはなんどもいったよ!
 れいむはしってるよ! いままでだってなんどももりをでて、にんげんのところにいってたでしょ!」
 まりさこそが諸悪の元凶だと、れいむは断じた。こいつが皆をそそのかしたに違いないのだ。
 もしそうであるならば、れいむは今度こそまりさを許さないつもりだった。
 この二匹は群れのツートップだったが、以前からどうにも反りが合わなかった。
 今まではそれでも我慢してきたが、皆に一生消えない大きな傷を作った原因となったのならば、そうも言っていられない。
 いざとなれば、取り巻きのありす・れいむともども、群れから追い出すつもりであった。
 だが、まりさは開き直ったかのように反論した。
「ふん! まりさはついてきてくれなんてたのんだおぼえはないぜ! みんながかってについてきたんだぜ!」
 足と両頬を焼かれ、ぼろぼろでありながら、その傲慢さは微塵も揺らいでいなかった。
「!! ほ、ほんとうなの!?」
「ゆ……」
 ゆっくり達は気まずげに目を逸らした。それが何よりも雄弁に事実を教えてくれた。
「そうよ! ありすは、べつにまりさとありすとれいむのさんにんでもよかったのよ!
 でもどうしてもっていうから、しかたなくつれていってあげたのよ!」
「ゆっ、れいむたちがこんなになったのは、それはたしかにれいむたちのせきにんだよ!
 でもそのこたちがそうなったのも、そのこたちのせいだよ!
 れいむはちゃんと『あぶないかもしれない』っていったけど、それでもいいっていうからつれていったんだよ!
 これってじこせきにんってやつだよね。だから、れいむたちはなーんにもわるくないんだよ!」
 ここぞとばかりに、ありすとれいむが言葉を重ねた。
 事実であるならば、リーダーれいむがリーダーまりさを糾弾する理由はなくなる。
 れいむが注意を喚起していたといっても、それは『何が』『どう』危ないのかまでは説明しなかったに違いない。
 しかし、ある程度の危険があることを示唆されながらも、自制できなかったゆっくり達にも責任はあるのだ。
「ゆむむむむ……」
 とうとう言葉を喪ったリーダーれいむを、まりさは不機嫌な顔で、ありすとれいむはにやにやと見つめていた。
「むきゅっ、いまさらしょうがないわ、れいむ。いまはみんなのてあてをしなきゃ」
「ゆぅ……そうだね」
 ぱちゅりーに諭され、れいむはひとまず矛を納めた。
「みんな! けがにんをゆっくりおうちまではこんであげてね!
 みょんとちぇんはみずをくんできて、こどもたちはぱちゅりーといっしょにおくすりのはっぱをあつめてきてね!」
「「「ゆっくりわかったよ!!!」」」
 ゆっくり達は即座に行動を始めた。
 大人ゆっくり達が傷ついたゆっくり達をそれぞれの巣穴まで運び込み、枯れ葉のベッドに寝かせる。
 次いでぱちゅりーや大人しいありす達が治療を始めたが、しかしこれはあまり効果がなかった。
 足はしっかりこんがり焼かれ、頬の印もどうやっても消えそうにない。
 皮一枚剥がせばどうにかなりそうな者もいたが、傷ついた仲間に痛みを強いることはぱちゅりーにはできなかった。
 結局治療は気休め程度に終わり、傷ついたゆっくり達には、他のゆっくりが日々の食事を運ぶことになった。


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最終更新:2022年05月04日 22:27