「かわいそうなれみりゃをかいほうしてあげよう!!!!」
 ここは一つのゆっくり達の群れである。
 ドスはいないが、その分ゆっくり達の知能も高く、むやみやたらに人間のものを盗むような輩はいない。
 問題が起こったときには、ゆっくり裁判と言う、言ったもん勝ちの裁判を行い有罪か否かを決める。
 そして、本日行われた裁判。
 議題は、ゆっくり霊夢の一家がお散歩の途中で見つけたお屋敷でのことだった。

「うっう~~~♪ れ☆み☆りゃ☆だどぉ~~~~♪」
「ゆ!! れみりゃだよ!!! みんなかくれてね!!!」
 屋敷の中でれみりゃを確認した一家は、即座に身を屈めて姿を隠した。
 トレードマークのリボンが草原で存在感を誇示しているが、特に問題ではないのだろう。
「うっう~~~♪ れみりゃおさんぽにいくどぉ~~~~!!!」
「おぜうさま~~~♪ ぷっでぃんをおもちしましたよ~~~♪」
「う~~~~~~!!!!! ぷっでぃ~~ん!! おっぎぃ~~~~どぉ~~~~~~~!!!」
「おいしいですか? れみりゃさま?」
「うっう~~♪ べりーでないすだどぉ♪」
 外に出ようとしたれみりゃは、興味をなくしたようで、プリンをぱくつきながら屋敷の中へと戻ってゆく。


 それは、紅魔館ではよく見る光景であった。
 その後ろには、獲物を見つめるような目をした小悪魔とスカーレット姉妹が隠れていたりするのだが、今回は割愛させていただく。


「ゆゆゆ!!! あのれみりゃはにんげんにつかまってるんだよ!!」
「ほんとだね!! おさんぽにもいけないなんて、ゆっくりできないね!!!」
 しかし、飼うという概念を知らないゆっくりにとって見れば、この光景は正に人間がゆっくりを閉じ込めていることに他ならず、いくら捕食種といえども見過ごせないことであったのだろう。

「ゆっくりりかいしたよ!! いまからはんけつをいいわたすよ!!」
 そして舞台は裁判に戻る。
 家族から話を聞いたパチュリーは、他の事は一切聞かずに、息を大きく吸い込んで判決を言い渡した。
「そのゆっくりをかいほうして、このむれにむかえてあげるよ!!」
「ゆゆ!! だめだよ!! れみりゃはゆっくりできないよ!!」
「そうだよ!! みんなたべられちゃうよ!!」
 一気に騒然となる観衆を尻目に、パチュリーは咳払いで間をおき、ゆっくりと話し出した。
「あんしんしてね!! ぱちゅりーのいうことをよくきいてね!!」
 パチュリーが説明した内容は、助けてもらったのだからきっと自分達には返しきれないほどの恩が出来る。
 そうしたら、れみりゃにボディーガートになってもらおうというものであった。
「それはいいかんがえだね!!」
「れみりゃがいれば、こわいものなしだね!!」
 パチュリーの説明を聞き、この考えに同調したゆっくり達。
 その頭の中には、空を縦横無尽に飛びまわるれみりゃが、敵をどんどんやっつけていく様子が思い浮かんでいた。
 そのしたで、沢山の食べ物をこれでもかと食べている自分達の姿も幻視していた。

「むきゅ!! それじゃあ、これから、どうやってたすけるか、みんなでかんがえるわよ!!」
 既に裁判はどこへやら、いかにしてれみりゃを助けるかという会議が行われていった。
 既に大半のゆっくりがすやすや寝息を立て、巣に戻った子供達が空腹に負けて食料庫を荒らしまわる中、パチュリーとその他数匹のゆっくり達によって、その会議は深夜まで続けられた。


 翌日。
 練りに練られた作戦を実行するべく、ゆっくり達は行動を開始した。
「まずは、れいむたちがなかにはいるよ!!」
 事実上の実行部隊となった一団が、眠っている門番の横をすり抜け、中に入っていく。
「れいむたちは、みぎにいったっていってたよ!!」
 はじめて見る大きな建築物に、若干浮き足立ったメンバーに活を入れるべく強めの口調で話す魔理沙。
 一団は、その言葉に従って門を抜けて右手へと進む。

「あれ? ゆっくりですか?」
 しかし、そこにれみりゃの姿はなく、いるのは赤い髪が特徴的な小悪魔であった。
「ゆゆゆ!! ま、まりさたちはれみりゃのおともだちなんだぜ!!」
「わかってねー!! きょうもあそびにきたんどよー!!」
 とっさに出たのは常套句の嘘であった。
 箱入り娘同様に飼われているれみりゃに友達などいるわけはなく、屋敷のものからすれば明らかな嘘である事は見て取れた。
「あらあら。そうだったんですか。今なら、反対側で遊んでいると思いますよ」
 しかし、小悪魔はあえて追求せずに親切にれみりゃがいる場所をゆっくりに教えていた。
 満面の笑顔で説明する小悪魔を見て、ゆっくり達は親切なお姉さんと思った事であろう。
「ゆゆ!! おねーさんありがとーね!!」
「ゆっくりさせてもらうよ!!」
 口々にお礼を言ってその場を後にするゆっくり達。
 既にコソコソ進入した事を忘れて、かって知ったる我が家のように、堂々と庭を進んでゆく。

「うまくだませたぜ!!」
 反対側へ回る途中、魔理沙が何気なく呟いた一言。
 自分の機転で危機を回避できたことで、まりさはこの作戦が上手くいくことを確信していた。


「うっ!! う~~~~♪ れ☆み☆りゃ☆う~~♪」
 言われた通り反対側へ着てみると、一匹のれみりゃがさも真剣と言うかのようにダンスを踊っている最中であった。
「ゆゆ!! れみりゃがいたぜ!!」
「わかるよー!! さくせんかいしだよ!!」
 その合図に、物陰に隠れていたもう一つのゆっくりのグループが姿を現した。
 そのグループのゆっくりは、どれもまだ小さく、成体ゆっくりと呼べるものは何一つなかった。
「ゆゆ!! おねーちゃんたちばっかりあそんでじゅるいよ!!」
「れいむたちもゆっきゅりあそびたいよ!!」
 それは、昨日いち早く自分たちの巣にもどり、さっさと食糧庫を空にしたこゆっくり達。
 表面上は、何のお咎めもなかったゆっくり達である。

「ゆんゆん!! おねーーちゃんたちは、しゃっさとなくなったごはんをあちゅめてね!!」
 そして、お説教に耳をまったく貸さなかったゆっくりであった。

「だいじょうぶだよ!! このなかにはいれば、すっごくゆっくりあそべるよ!!」
「とってもゆっくりできるたべものがたくさんあるよ!!」
「ここからはいれるから、ゆっくりしていってね!!」
 言うまでもなく、それは全くのウソ。
 が、ゆっくりの、しかも子供にその真偽を判断できるわけもなく、とたんに目を大きくした子供たちはわれ先に紅魔館の中へと入って行った。
「う~~!! そこはれみりゃせんよ~~のつ~~ろだどぉ~~!!」
 いつもは、れみりゃが出入りする通路から。
 れみりゃの声に耳も貸さずに。

「うーー!! れみりゃをむしするなだどぉーー!!」
 無視されたと思ったれみりゃは、両手を大きく上げて未だ庭にいる魔理沙たちに向き直る。
 しかし、勢いあまって足をひねり、そのまま顔面から地面にぶつかってしまう。

「う~~!! う~~~~!!!」
 余りの痛みに涙目になって泣き出してしまい、威嚇どころではなくなってしまった。
 これ幸いと、魔理沙が代表して話しかける。
「ゆっゆ!! れみりゃ!! ここからにげるんだぜ!!」
「そんだよ!! こんなところにいたらゆっくりできないよ!!」

「う? 」
 しかし、ここで満足な生活が出来ているれみりゃには、何が言いたいのか分からなかった。
 従者である咲夜が、キチンとわがままを聞いていくれている。
 たまに友人が消えることはあっても、それが自分でないのだから気にはならない。

「う~~? れみりゃはこ~まかんでゆっぐりしてるんだどぉ~~♪」
 両手を大きく掲げ、今の生活の充実感を表現する。
 しかし、今のゆっくり達には、それさえも演技にしか写らない。
「ゆゆ!! だいじょうぶだよ!! いまは」だれもいないからね!!」
「そうだよ!! さっさとにげるんだぜ!! まりさたちのむれにくるんだぜ!!」
「わかるよーー!! おいしーたべものがたっくさんあるよ!!」
「う? ぷっでぃ~んよりぃも~~?」
 食べ物の話題が出た瞬間。
 それまで、しかめっ面をしていたれみりゃの表情が劇的に変化した。
「もっちろんだぜ!! はやくくるんだぜ!!」
「う~~♪ はやくつれていくんだどぉ~~♪」
 何不自由なく暮らしていたとしても、飽きる事は避けられない。
 おいしい食べ物に釣られた格好ではあるが、れみりゃはゆっくり達の目論見通りに屋敷からの脱出を果たす事になる。

 その時、紅魔館の中では、例の子ゆっくり達が元気百パーセントで遊びまわっていた。
「ゆゆっゆ!! ひっろ~~いよ♪」
「ゆっくりできるよ~~~!!」
「れいむたちの、ゆっくりぷれいすにしようね!!」
 屋敷内を駆け巡り、大声で騒ぎ、勝手に自分達の所有物とする。
 やっている事は殆どれみりゃと変わりないが、そんな事は関係ない人物がここには住んでいる。
「ちょっと……」
「ゆゆ? んびゃ!!」
「ゆ? まりさ……ぎゃ!!!!」
 声の下方向を振り向くと、既にそこにはナイフが突き刺さった饅頭が二つ。
 お供え宜しく、垂直にナイフが突き刺さっていた。
「こんなところで何してるのかしら? 一介の饅頭風情が」
 その表情は、明らかに怒りのオーラを出しているが、そんな事に気が付くゆっくりではない。
「ゆゆ! おねーーさん! ひどいことしないでね!!」
「どうしてこんなことするの?! ゆっくりあやまってね!!」
「おなかすいたよ!! はやくたべものもってきてね!!」
 口から出るのはどれも身勝手な事ばかり。
 聞くに堪えない自己主張に構っていられない、とばかりにナイフを握り締め、踏み潰し、饅頭たちの殲滅にかかる。
「ゆっくちにげるよ!!!」
「かくれるよ!!」
「ゆゆ!! かぁっくれんぼだね!!」
 広い屋敷内。
 時間を止める能力を持っていても、既に隠れているモノを見つけるのは容易い事ではない。
 結果として、彼女が考えるよりも、十二分に余計な時間がかかってしまう事となった。


 その間に、ゆっくりはれみりゃを連れ、自分達の群へと無事到着する事が出来た。
 そこには、群中のゆっくりが集まって、今か今かと帰りを待っていた。
「むきゅ♪ このむれにようこそ♪ かんげーするわ♪」
「うっう~~♪ かん、げ~されるんだど~~♪」
 リーダーであるパチュリーの挨拶、そして歓迎ムードの群のゆっくり達を見て、ご機嫌になるれみりゃ。
 そして、紅魔館のお嬢様としての自信の表れだろうか。
 お礼とばかりに、たどたどしいダンスを踊る。
 それを見て、お世辞抜きでそのダンスに賞賛の声を送るゆっくり達という、非情にシュールな光景が夕刻続いていた。

「それじゃあ。さっそくえんかいにしようね!!」
 それを終わらせたのは、一匹のゆっくり霊夢の声。
 目の前のご馳走の山。
 お預け状態に、とうとう我慢の限界が来たようであった。
 それは、他のゆっくりも同じだったようで、その言葉を合図に、我先に食べ物にかぶりついていく。

「うっう~~♪ れみりゃもたべるどぉ~~♪」
 当然、食べ物に釣られてきたれみりゃも、おいしいモノを食べるべく、他のゆっくり同様に積み上げられた食べ物へと向かっていく。
 しかし、いざ手にしようとしたところで、その両手を突き出しそのまま山を突き崩してしまう。
 雪崩のように崩れる食べ物の山に、食べる事に夢中だったゆっくり達が食べる事を止め、一斉に
れみりゃに視線を向ける。
「う~~♪ こんなのぽい♪ ぽい♪ だどぉ~~♪」
 それをどう勘違いしたのか、れみりゃの行動はヒートアップしていき、そのまま散らばった食べ物をドンドンと音を立てて踏み潰してゆく。
「ゆぎゅう!! いだい!! いじゃいーー!!」
 稀に、踏み潰した中に雪崩に巻き込まれた赤ちゃんゆっくりもいたが、ノリノリのれみりゃが気付く訳もなく、結局全てが潰されるまでれみりゃオンステージは続いていった。

「うっう~~♪ はやくすい~~つをもってくるんだどぉ~~♪」
 全て潰し終えたことに満足したれみりゃは、運動したことも手伝って、空腹を訴えてきた。
 が、野生のゆっくり達に用意できるものではない事は明らかで、ゆっくり達もどうして良いのか分からないと言った表情をしている。

「ゆゆ……。にんげんさんのたべものはじゅんびできないよ!!」
「そうだよ!! ……つぶれちゃったけど、このかきさんも、おとなのにがみでおいし~よ!!」
「うっう~~♪ そんなのしらないんだどぉ~~♪ はやくぷっでぃ~んをもってくるんだどぉ~~♪」
 先ほどと同様に、再び平行線を辿る会話であったが、今回それを終わらせたのはれみりゃの方であった。

「うあーーー!! ぷでぃ~~んがたべたいどーー!! さぐやーー!!!」
 何時までたってもプリンが出てこない事に痺れを切らし、潰れた果物や虫の汁などで服が汚れる事も構わず、腰を下ろし手足をバタつかせて泣き出した。
「うあーー!! さぐやーー!! ゆっくりしてないで、すぐにでてくるんだどぉーー!!!」
 その様子に、呆気に取られたのはゆっくり達のほうであった。
 今まで見てきたれみりゃとは比べ物にならないほど幼く、そして弱弱しく見えたからである。
 下手をすれば、自分達の赤ちゃんよりも幼いかもしれない。
 口には出さずとも、ゆっくり達の中で誰もがそう思った事であろう。

「ゆっくりわがままいわないでね!!」
 一匹の霊夢。
 先ほど食欲に負けた霊夢であるが。
 お説教といわんばかりにれみりゃに体当たりを仕掛けた。
 威力は殆どなく、赤ちゃんゆっくりを叱る程度の力しか込めていない。
 それは、余り強くすると、怒らせてしまうのではないかと言う恐怖心からのものでもあった。

「うっぎゃーー!! さぐやーー!! さぐやーーー!!! れみりゃのぽっべいだいーー!!」
 しかし現実は奇妙なもので、れみりゃは怒るどころか、さらに声を大きくして泣き叫ぶだけであった。
 しかも、ぶつかったところは赤くなり、必死に手をあて痛みを訴えるれみりゃ。
 それを見ていたゆっくり達は、ある一つの結論に至った。

「ゆ? このれみりゃは、とってもよわっちいよ!!」
「ほんとだね!! こんなやつじゃ、まもってもらえないよ!!」
「こんなのをたすけるために、かわいいかわいいこどもたちがぎせいになったんだね!!」
「れみりゃはゆっくりしんでね!!」
 当然といえば当然。
 しかし、聊か強引なところもあるのだが、ここに来てこのれみりゃが普通のれみりゃとは比べ物にならないほど貧弱であると結論付けたゆっくり達。
 それと同時に、今までの苦労が怒りへと変わり、期待をかけていたれみりゃへ、その代わりにぶつけられる事となる。
「うあーー!! ……? うぐぁ!! あががー!! たすげでーーー!!!」
 ゆっくりによるたこ殴り。
 普通ならば絶対に反撃されるこの様な方法は行わないが、れみりゃは反撃できない。
 種としても攻撃の本能すら忘れたのか、ただただ泣き叫び、助けを呼ぶ事しか出来なかった。 

「さぐやぁ……。あとでおしおきだどぉーーー……」
 餌となり、格好の食料源となり、既にボロボロになったれみりゃは、薄れ行く意識の中最後まで咲夜を呼び続けた。


「まったく。こんなに屋敷を汚して。お嬢様の機嫌が損なわれるわ」
 当の咲夜本人は、漸くゆっくりを全て駆除した事を確認すると、今までほったらかしにしていたれみりゃの事を気にし始めた。
「れみりゃさま? どこですか?」
 何時ものように直ぐに出てこないれみりゃを不思議に思いながら、主であるレミリアに出す為の紅茶を淹れ部屋まで運んでゆく。
「咲夜さん。れみりゃさまなら、ゆっくり達に連れられて東南の方向にある森の、三本の栗の木がある群に行かれたようですが」
 道中、ばったりとであった小悪魔がれみりゃの居所を伝えた。
「ありがとう子悪魔。悪いけど、この紅茶をお嬢様のところに持って行っておいてくれないかしら?」
  伝えられた咲夜は、いてもたってもいられずに、お盆を小悪魔に押し付け近場の窓から外に飛び出して行ってしまった。
「がってん任されました!! どうぞ行ってらっしゃいませ」
 その後姿に返事をし、暫く眺めていた子悪魔は、その足をレミリアの寝室へと向ける。

「……。これだから人間を嵌めるのは止められないですね」
 その呟きを聞き取れたものは、誰もいなかった。


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最終更新:2022年05月18日 21:17