注・ゆっくりらしからぬゆっくりが出ます。



幻想郷の人里から少し離れた場所に緑の森が有る。
その森に住んでいるゆっくり達はとても幸せだった。

何故ならここには外敵である筈のれみりゃなどもほとんどやって来る事も無く、人里の人間も好んで立ち入る事も無かった。
時折、無謀なゆっくりが人里に悪さをしに行く場合も有ったが、再犯でもしない限りは直ぐに殺される事も無い。

流石に2,3度となれば別だが、そこまでの再犯を重ねるゆっくりで有れば、逆に人間に裁いて貰った方が平和になる。
幻想郷の人間は融和的で、罪を犯したゆっくりとその他のゆっくりを混同するなどという、短絡的で愚かな考えはしなかった。

その為、狩りや木の実の採取に長けたゆっくりまりさと、ぱちゅりーにも負けない明晰な頭脳を持ったれいむが率いるその群れは、
仲間同士で争う事も無く、困った事が有れば群れの仲間同士で協力し日々を謳歌していた。

ある越冬の時では、食料が芳しくない家の者に群れのゆっくり達が少しづつ食料を提供し、その家族は無事一匹も欠ける事無く冬を越した。
ある梅雨の季節では、暴風で破壊されたゆっくりの家が有ったが、群れのリーダーであるまりさはその家が直るまで住人を快く自らの家へと招き入れた。

相互扶助。
その群れのゆっくり達は全て、その言葉は知らずとも、その行動を実行する事が出来た。
かつ、いつまでも他の者に頼るなどという甘い考えのゆっくりなどは存在せず、この群れはとても良好に機能していた。

やがてそのまりさとれいむは群れの皆から祝福され結婚して家族となり、より一層の繁栄を為し得るかに見えた。

そう、一週間程前までは。


「ゆぅぅ、なんでこんなことに・・・」

薄暗い洞窟の奥で、ボロボロの身なりのれいむが居た。
少し前まで群れの長であったれいむである。

黒々とした艶の有った髪も見る影も無く荒れ、頭のリボンもネズミにでも齧られたかのように所々千切れている。
それにも増して、かなりの暴行を受けたのだろうか、その身体にはそこかしこに真新しい傷が出来ていた。
その場所にしても、洞窟の中の狭い一室の入り口を柵で覆い、まるで牢屋のように作られている事から、その状況が尋常で無いのは一目瞭然であった。

「まりさたちはだいじょうぶかなぁ・・・」

いつまでも続くかに思えた幸せの時を思い出してしまい思わず嗚咽が漏れる。
最愛のゆっくりを思い浮かべると涙が零れる。
部屋の片隅で丸い身体を震わせ、えぐえぐとただ悲嘆に暮れなき続けるしか、今のれいむには出来る事は無かった。

一週間前、群れで大規模な反乱が起こった。
その反乱により、群れを率いていた群れの幹部達の多くは捕らえられてしまったのだ。
夫であるまりさと子供達は間一髪の所で逃げ出す事に成功したが、れいむはその時自ら犠牲となり囚われの身となってしまった。

「ゆふふ、惨めなものね」

そんなれいむを嘲笑うような声が聞こえたかと思うと、数匹のゆっくりがその部屋の中に入ってくる。
先頭のゆっくりは普通のゆっくりには扱えぬ筈の火の付いた松明を口に咥えている為、部屋の中が一気に明るくなった。
ほとんどは数週間前に群れにやってきた新参のゆっくり達だが、中には昔から群れに住んでいた見慣れた顔のゆっくりも居る。

そして遅れて入ってきたゆっくり。
煌びやかな髪が松明の炎に照らされて鮮やかな光を放ち、その優雅な佇まいにはゆっくりで有りながらも何処か厳かな雰囲気を漂わせる。
薄暗い洞窟の中でそのゆっくりの存在感は一層際立ち、周りの者の眼を引く。

「ゆっ!?おまえは……ゆっくりしねぇ!!」

涙を流していたれいむであったが、その姿を一目見た瞬間、まるで鬼にでも取り付かれたかのような形相に変わり目の前のゆっくりに飛び掛かろうとした。
だが、周りの者達がすぐさま盾となりそれを阻み、れいむを跳ね飛ばす。
そのまま壁に叩き付けられ「ゆぐぅ」と短い呻き声を上げたれいむに、追い討ちとばかりに数匹のゆっくりが圧し掛かる。

「いつもむだなことをしないでね!!ゆっくりりかいしてね!!」
「いたいよ、ゆっくりやめっ、てびゅっ!!やめて、に”ゅ!!」
「ちーんぽ!!ちーんぽ!!」

まりさ種やみょん種、中には同種のれいむ種まで居る。
それらは足元のれいむの声などに一切耳を貸さずにひたすら飛び跳ねれいむを苦しめる。
数は元よりろくに食事も食べていない弱ったれいむは成す術も無く、そこから逃げ出す体力も無い。

「ゆぐっ、やめ”、びょひゅ……いだい”よ、ゆっぐりぃ」
「おお、よわいよわい」
「な”んでごんな……ゆべっ!!ゆびぃ!!」

反論を挟む余地の無い暴力。
段々とれいむの眼から生気が失われていき、その叫び声も「ゆぐっ!!ゆげぇ!!」から「ゅみゅ…、ゅきゅ……」と弱々しくなっていく。
淡々と行われるその暴行を冷ややかな眼で見詰めていたあのゆっくりがズイッと前に出ると、周りの者はそれに反応してすぐさまその場から飛び退いた。
後に残されたのは、その口から餡子を垂れ流し、楕円形の形になってしまった瀕死のれいむである。

「ゅ……ゅ……」
「おやおや、わらわがわざわざ会いに来てさしあげたのに、あなたはもうゆっくり死んでしまいますの?」

ビクビクと痙攣を始めたれいむの前で、明らかに他のゆっくりとは違う流暢な話し言葉で呼び掛けた。
すると、このまま死んでしまうかに見えたれいむの眼に少しだけ光が戻る。
そして動かぬ身体で眼だけを動かし、眼の前のそのゆっくりを憤怒の炎が宿った眼で睨み付けたのだ。

「ゆぐぐ…このぉ、おんしらずのゆっぐりめぇ……」
「ゆふふ、わらわはそなたの様なゆっくりに受けた恩など覚えがありませぬ」
「ゆぎぃぃ!!きさまなんか、れいむとおなじれいむなんておもえないよ!!」

憎しみを込めて力一杯に叫ぶと同時に、横から別のゆっくりが体当たりをし、れいむは又もや吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。

「おまえのようなゆっくりとおなじにするなだぜ!!はくれいむさまとおよびするんだぜ!!」

取り巻きの一匹であるまりさが体当たりをし、そうれいむに対して叫ぶ。
その後ちらりと、はくれいむと呼ばれたゆっくりれいむに眼を向け、ニヤリと口元を歪ませる。

はくれいむに惚れているのだろうか。
まりさなりのアピールを欠かさない。

はくれいむと呼ばれたそのゆっくりはれいむ種でありながられいむ種ではなかった。
髪は透き通るように白く普通のれいむ種の黒とは対極にあり、暗闇の中でもその存在感は際立っていた。
更には頭に付けられているれいむ種のトレードマークであるリボンも、赤い部分は真っ白に染め上げられ、その姿は正に「はくれいむ」と呼ぶに相応しかった。
姿だけでは無い。
その雰囲気もれいむ種どころか、他のゆっくりと一戦を隔す程に厳かで幽玄。
ゆっくりでありながらも、カリスマと言うべきだろうか、他ゆっくりを引き付ける何か持っている。

だがその本質は残酷で冷徹。
一ヶ月程前に数匹の取り巻きと群れに加わり、独自のやり方で群れの指導者に気付かれずに多くの仲間を作っていき、
瞬く間に反乱を起こして群れを乗っ取った。

そう、彼女こそが例の反乱の主導者であり、眼の前のれいむの幸せを打ち砕いたゆっくりなのだ。

そして一方のれいむは打ち付けられた衝撃と積み重なった暴行のダメージで「ゆべぇぇぇ!!」と汚らしく餡子を吐き出し続けるばかりである。

「おお、ぶざまぶざま。わらわがこのようなゆっくりと同じなど、考えただけでおぞましい」

そんなれいむの様子を中傷した笑みで見ながらそう呟くと、周りの者も全くだとばかりに笑いの声をあげる。
れいむは言い返す気力も無く、ただただ餡子と涙を吐き出し続けるだけであった。
クスクスと笑いながらその様子を暫く眺めていたはくれいむであったが、ふと思い出したようにれいむに問い掛ける。

「……ところで、あなたの夫であるまりさは何処にいるのかしら?」

かなりの量の餡子を吐き出し若干落ち着いたれいむは、その言葉にピクリと反応する。
だが、返答する気配は見せず貝のように押し黙ったままだ。

「はくれいむさまがしつもんしているんだぜ、ゆっくりこたえるんだぜ!!」
「……ゅ、なんどきてもれいむはこたえないよ」

一瞬言葉に詰まった。
ここに来てから何度も尋問され、その度に拒否をして暴行が行われる。
餡子脳であるがその恐怖はこの一週間でしっかりと刻まれ、その痛みと恐怖を思い出して少し言葉に詰まった。
だが、れいむは愛するまりさを裏切る気など毛頭無い。
例えこのまま殺されても絶対に喋らないと、そう心に誓っていたのだ。

「ゆゆっ!?うそをつくんじゃないぜ、おまえがにがしたんだからどこにいったかしっているはずなんだぜ!!」
「れいむはしらないっていってるよ……ゆっくりりかいしてね」
「ゆぎぃ!!おまえそんなことをいってどうなるかわかっているんだぜ!?」

れいむの馬鹿にしたような受け応えに、頭に青筋を浮かべそうな程に真っ赤になりながらまりさは凄む。
だが、周りは敵だらけというそんな状況でもれいむは怯えた表情も出さず、その口元に笑みを浮かべ。

「でも……まりさならめのまえにいるよ?」
「ゆっ?どこなんだぜ!?」

そうれいむが呟くとまりさはキョロキョロと見渡すが、何故か周りのゆっくりは一斉にそのまりさの方を見る。

「ゆぅぅ、でもわたしのしっているまりさとはちがうみたいだね」
「ゆ?どういうことなんだぜ?」
「わたしのしっているまりさとちがって、ばかでゴミくずでまったくゆっくりできてないね」
「ゆゆっ!??」

れいむのその言葉に唖然となり、その餡子脳に考えを巡らす。

このれいむはなにをいっているんだぜ?
まりさがきいているのはむれをひきいていただめまりさで、ここにいるのはこのさいきょうまりささまだけなんだぜ。
そのうえ、ばかでゴミくずでゆっくりできない?
だれのことをいってるんだぜ?

暫くグルグルと考えを巡らすと、流石のまりさにもどういう事か理解出来てきた。
れいむはしてやったりという風にその口元に中傷の笑みを浮かべる。

「ゆぅ!!こ、こいつ、このまりささまをばかにしてるんだぜ!?」
「ゆゆっ、ゆっくりりかいできたんだね。ゴミくずからオガクズにいいかえてあげるね」

湯気が出そうな程に全身を真っ赤にして、瀕死のれいむ今にも飛び掛らんとするまりさ。
その様子に怯む事無くれいむは更に罵倒を続ける。

「あかくなったらつよくなるとでもおもってるの?さんばいなの?しぬの?」
「ゆぎぃぃぃ、まりさはおこったんだぜぇぇ!!ゆっくりしねぇ!!」

このまま嬲り者にされたまま生き長らえるくらいなら、このまま死んだ方が良いとれいむは思っていた。
そうすれば、れいむを助けに来ようとするまりさを危険な目にあわせる事も無い。

ただ一つ心残りが有るとすれば、最後に一度で良いから愛する家族に会いたかった。
それを思うとやはり涙が零れる。
そして死が怖くなり、段々と震えが起きそうになる。
れいむはそんな湧き上がるものを、歯が欠けそうなほどに奥歯を噛み締めてぐっと堪えた。
こんな非常なゆっくり達にこれ以上惨めな姿を晒さないためである。

まりさが地を蹴る瞬間、れいむはそっと眼を瞑る。
すると死ぬ事への恐怖も不思議と消えていった。
はくれいむに一矢報いたかったが、この馬鹿なまりさに屈辱を味あわせてやっただけで満足しよう。
れいむはそう思った。

「ゆっくりお止めなさい!!」

突然、その部屋に怒声が響く。
その声にれいむを殺そうとすべく飛び上がる瞬間のまりさは身を竦めて動きを止める。
周りの者も眼を丸くして、はくれいむの方を見遣る。

「おお、愚か愚か。そのようなゆっくりの罵詈雑言に耳を傾けるとは」
「ゆぅ……でもはくれいむさま、こいつはまりさのことをばかにして……」
「お黙りなさいな。このゆっくりは死ぬ気力も無いから口先であなたを煽動し自らを殺そうとしているだけなのですよ」
「ゅぅ……」
「それにこれ以上やっては死んでしまいます。このゆっくりにはまだまだ役に立って貰わないと」

まりさは、はくれいむにそう諭され眼を地面に落とす。
格好良い所を見せようと張り切ったつもりがこんな事になるとは思っていなかった。

「ゆふぅ……あなたはまだまだ激流にゆっくりと身を任せる事が出来てないようですわね」

そんな様子のまりさにはくれいむはそう呟き、一瞥する。
その顔はこの世の終わりとでも言おうか、先ほどから一転、真っ青に血の気が引いている。

「ですが、あなたの忠義心は十分に評価していますわ。今後もわらわの部下として精進なさい」

思いも寄らぬ言葉。
それを聞いてまりさの表情はぱっと華やいだ。
二転三転、器用なものである。

しかし、はくれいむのその飴と鞭の使い分け様はやはり他のゆっくりには真似が出来るものではなかった。
周りで見ている者達も、仲間といえどまりさの馬鹿さ加減に呆れる一方で有ったが、逆にそれを許すはくれいむの懐の深さを際立たせる所となった。
そしてはくれいむにとってこの一連の流れは十分に計算通りのものであり、愚かなまりさを傍に置いている理由の一つでもある。
正に悪のカリスマというべきであろうか。

「ゆゆっ、そんなことをいいながられいむをころすどきょうがないだけなんだよね!!」

その一連のやり取りの中、れいむが声を上げる。
はくれいむを挑発しているのだ。

「ゆふふ、愚か者は声だけは立派に張り上げますのね」
「そうやってゆっくりしてられるのもいまのうちだけだよ、はやくれいむをころさないと、ゆぐっ!!?」

そんなれいむの言葉を遮る様に周りのゆっくり達が二匹回り込み、その口に縄を噛ませる。
れいむはモガモガと口を動かすが一向に外れようとしない。
後ろでちぇんが器用にその縄を結び、猿轡が完成した。
れいむの唯一の抵抗を不可能にし、これ以上餡子を吐かれたりするのを防ぐためである。

「ふぁにするの!?ふっぐぃ、ふぁずしてね!!(なにするの!?ゆっくりはずしてね!!)」
「なにいってるかわからないよー♪」

ちぇんのその言葉に周りのゆっくりは苦笑し、バタバタと暴れるれいむに冷ややかな視線を浴びせる。
そして、はくれいむは周りの一匹に目配せした。
松明を咥えたゆっくりみょんである。
そのままみょんはじりじりとその松明をれいむへと近付けて行く。

「ふぐっ!!ふぁぐいよ、ふっぐりふぁがれてね!!(ゆぐっ!!あついよ、ゆっくりはなれてね!!)」
「ふぁめてね!!ふぁ……あ”ぐぅぅぅい”ぃぃぃぃ!!(やめてね!!やめ……あづぅぅぅい”ぃぃぃぃ!!)」

壁に追い込まれたれいむの身体にその松明の先端が押し付けられる。
逃げる事も適わずにその肌は焼け焦げていき、チリチリと髪が焼け千切れていく。
左右に避けようとしても、周りのゆっくりに押し戻される。

「ふ”ぇい”ぶが、ふぉべち”ゃう!!ふぉべちぁうっべばぁぁぁぁ!!(れいむが、こげちゃう!!こげちゃうってばぁぁぁぁ!!)」
「ゆへへ、さっきまでのいせいはどこいったんだぜ?」

まともな言葉も出せずに涙を流して壁へと張り付くれいむの無様な姿を見て、先ほどのまりさも溜飲が下がったようだ。
必死の形相のれいむに構わず、みょんはグイグイとその火をれいむに押し付ける。
辺りには焼き饅頭の香ばしい匂いが立ち込め、それが段々と焦げた匂いへと変わっていく。

すると急に、ぼわっとれいむの頭に火の手が上がる。
本格的に髪に引火してしまったのだろう。

「ふぎゅあ”ぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”ぁあぁ!!」

頭に火を付けて眼を見開き、言葉に成らぬ叫び声をあげたれいむに松明を持っていたみょんも思わず後ろに下がる。
引火した火を消そうとれいむがゴロゴロと地面に転がり、その様子に周りで見ていたゆっくり達も後ろへと退いた。

「びゅぅべいぶのびゃびばぁぁ!!おびぼんぎゃあぁぁあぁぁ!!(でいぶのがみ”がぁぁぁ!!おりぼんがぁぁぁぁぁ!!)」
「ぶぁふへへ、ふぁりしゃあぁぁあ!!ぶあぁぁぁりじゃあ”ぁぁぁ!!(だすけてぇ、まりじゃあぁぁあ!!ま”あぁぁぁりざあ”ぁぁぁ!!)」

一度は死を覚悟しながらも、じわりじわりと蝕む苦しみに思わずれいむはまりさに助けを求める。
だが当然まりさは来ない。
身体の全水分を眼から垂れ流しながら、必死に愛するゆっくりの名前を叫びながられいむは転げ回るだけだ。

やがてそのまま全身に火が廻り焼け焦げてしまうかに思えたその様子を、たじろぐ事も無く見ていたはくれいむは後ろに控えていためいりんに合図を出す。
すると、めいりんが咥えた水の入った容器をれいむに投げつける様にぶつけ、辺りに水が飛び散ると共に見事に炎は鎮火された。

「まりさもひをけすのにきょうりょくしてやるんだぜ!!ぺっ!!」
「わかるよー、ちぇんもしーしーしてあげるねー♪」

そのまま痙攣を繰り返すだけの動かないれいむに対して、無情にもまりさは唾を吐き掛け、ちぇんもチロチロと尿を浴びせ掛ける。
その後に、ちぇんはれいむが死んでいるのか不思議そうに眺めていたが、
未だにプスプスと煙をあげてはいるものの、何とかれいむは生きているようだ。

「めいりん、そのゆっくりの縄を外して差し上げなさい」
「じゃお!?じゃおおおおおお!!」

戸惑いはしたものの、めいりんはれいむに結び付けられていた猿轡を外しに掛かった。
縄は半分焦げ付いていたので、結び目を解く必要も無く簡単に外れる。
そのままめいりんは、半分焦げ饅頭になったれいむの顔を覗き込んだ。
髪は以前の半分の所まで焼けて巻き上がり、アフロとまではいかなくても奇抜なものとなっていた。
その上リボンも所々焼け、穴がそこかしこに覗き、以前のれいむからは見る影も無い。

「……ゅひゅぅ……ゅひゅ……」

顔を近付けてみるとどうやら息をしている。
めいりんはホッと、ゆっくりには存在しない筈の胸を撫で下ろした。
今はこのようにはくれいむの部下となってはいるものの、めいりんは自身を群れに加え、
野生では虐められるのが当たり前の自分を一ゆっくりとして扱ってくれたれいむが好きであった。
ただ、反乱の時は突然の事でどちらに味方すれば判らず、オロオロしている内に群れははくれいむの手中に収まり、めいりんも言われるがままに部下となってしまった。
しかしそうは言ってもそう簡単に割り切れるものでは無く、このようにはくれいむの部下でありながらも気付かれずにれいむの身を案じる事もあった。

「めいりん、よく出来ました。ゆっくりお下がりなさい」
「じゃおぉぉぉ……」
「ゆ!?このばかめいりん。ゆっくりさがれとおっしゃってるんだぜ!!」
「じゃお!?」

はくれいむの呼び掛けにすぐに応えなかっためいりんに、まりさが身体をぶつける。
大した痛みは無いものの、目の前のれいむに何もして上げられない事を悔しく思い、めいりんは悲しい顔をしたまま後ろへと下がる。
残されたれいむは火傷の痛みだろうか、白目を向いたまま時折ビクリビクリとのた打ち回る。

「ゆふふ、今日はこのくらいかしらね」

れいむのその様子を満足そうに眺めながら、はくれいむは口元に笑みを浮かべる。
そのまま近くのゆっくりに何事かを囁くと、くるりと踵を返してその場を後にしようとした。
後ろには側近の者達が続き、後には命令を受けたゆっくりとその他に数匹のゆっくりが残る。
監視役とれいむの世話をする群れに長く居たゆっくりである。

はくれいむはこの様にして群れに長く留まっていたゆっくりの自分に対する忠義心を試し、旧体制の反乱の芽を潰すよう心掛けていた。
れいむの世話をしているゆっくりが何かしら不穏な動きをすれば監視役がそれを報告し、即座に対処する。
新たなる群れを作るのに不穏分子は早く潰すに越した事は無い。
敢えてれいむに近付け、その選別を行うのだ。

「あ、そうそう……」

突然ピタリと、はくれいむはその歩みを止め「今日はそなたの親友を招いていたのであった」と振り返らずに話し出す。

「先日であろうか、そなたを助けようとわらわ達に歯向かった愚か者達がおってな」
「確か主犯格はぱちゅりーと名乗る者だったらしいが……」

その言葉に、混濁していたれいむの意識が揺り動かされる。
れいむの最も信頼のおけるゆっくりの内の一匹。
子供の内から一緒に群れで暮らしてきたゆっくりに違いない。

「ちぇんよ、あれを持って来させよ」
「わかるよー♪」

はくれいむにそう言われたちぇんはピョンピョンと何処かに跳ねて行き、暫くすると何匹かのゆっくりが風呂敷に包まれた何かを引き摺るようにやってきた。
ゆっくりと、れいむの捕らえられた部屋へと風呂敷が運び込まれる。

「ぱ……ちゅ、りぃ……?」

グルリとれいむの眼が白目から黒目へと切り替わり、弱々しく声をあげる。
眼の前の風呂敷の中にぱちゅりーが居るのだろうか?
自分の為に捕らえられてしまったというのか?

そんな疑問が浮かび、哀しみが込み上げて来る。
その一方で不謹慎ではあるが、今まで会う事が出来なかった仲間に会う事が出来る事への喜びが湧き上がったのは確かであった。
れいむのその眼に微かに光が戻ったのを確認すると、はくれいむが合図を出す。
するとばさりとその風呂敷が広げられ、そこには丸い物体が置かれていた。
紫色の帽子に月の飾りを付け、その更に紫色の美しい髪は昔のまま色褪せてはいない。
間違い無い、れいむの親友のぱちゅりーだ。

「ぱちゅ、ぱぢゅりー、よがっだ、いぎでだんだね」

もう、ろくに動かない身体をズリズリと動かして、そのぱちゅりーへと近付く。
半分焦げた身体に痛みがまだ有ろうが、眼の前に親友がやってきてくれた事でそんな事など気にもならなかった。
ジッとれいむの方を見詰めるぱちゅりーに少しづつ近付いて行く。

「ぱちゅりー……ぱちゅり……ぃ?」

やっと肌を接する程に近付いて、ある異変に気付く。
このぱちゅりー、先ほどから身動ぎ一つしないどころか、眼を開けたまま瞬き一つしないではないか。
それに近くで見ると判る。
肌が何処か変な、何と言うか乾いているというべきであろうか、あの瑞々しさが無い。
更に近付いて、肌を接してみるとあの柔らかいぱちゅりーの身体とは思えない、岩肌にも似た感触を覚える。
そのままぱちゅりーに呼び掛けながら、顔を覗き込む。
返事も無く、そしてその瞳は眼の前にいる筈のれいむを捕らえることも無く、何処かずっと遠くを見ているようだ。
光が無いその眼もやはり乾いていた。
周りのゆっくり達もその異常さに気付く。

「こ、これ……」
「それを作り出すのには苦労した」

異変に気付いたれいむの様子に、満足そうにしながらはくれいむは説明を始める。

「わらわの美意識からしても、反逆者とはいえそのぱちゅりーは中々に美ゆっくりであってな」
「どうにかして、その姿を永遠にゆっくりと留められないだろうかと思案したのじゃが……」

凍り付いた表情でれいむは、はくれいむへと視線を泳がす。

「他の反逆者に協力してもらって、どうにか作り上げる事に成功したわ」
「樹に吊るして下から炎で燻しあげる……そなたのような愚か者には理解出来ぬだろうが、燻製焼きというものであってな」
「ただ普通にやっては、他の反逆者のように最後は見るに耐えない悲惨な表情で死に絶えるものだから」
「そのぱちゅりーは飾りを取った後、全身にきつく布を巻きつけて表情が崩れぬよう工夫したのじゃ」

この眼の前のゆっくりは何を言っているのだろう?
れいむはそんな表情で何も言えずにその言葉を聴き続けた。

「一番難しかったのは、閉じたままはつまらぬ故に事前に眼の周りを動かぬよう焼き固めておく事だったわ」
「その時には酷く抵抗しておった……むきゅむきゅと泣き叫びながら、そなたの名前も大声で叫んでおった」
「後は両目だけを覗かせ、先ほど説明したように蓑虫の様に布を巻きつけ吊り上げ、一晩中下から煙で燻し上げたのじゃが……」
「そこから覗く瞳はひたすらに涙だけを流し、赤ん坊のように潤んだそれは何処か愛おしさすら覚えたのぅ」
「絶命する随分前には、もはや瞳の水分は完全に失われて何も見えてはおらなかった様子だが」

途中から、れいむの頭の中を鐘がガンガンと打ち鳴らすように感覚を覚えた。
普通のゆっくりであればはくれいむの喋る事を半分も理解できなかったであろうが、半ば賢いだけにれいむはその残酷な情景を頭に浮かべてしまった。
先ほど自分が味わったあの苦しみと息苦しさを、ぱちゅりーは一晩中も味わわされたのだ。
そうでなくてもぱちゅりー種は元来ぜんそく持ちである。
少しのホコリや砂を呼吸が出来なくなる程、それを煙で燻し上げるなどどれほどの苦しみであろうか。
想像を絶する。

「ゆ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁ、ばぢゅりぃぃぃぃ!!くるしかったよね?ゆっくりできなかったよね?」

眼の前の最早形だけで命の無いぱちゅりーに、それでも頬をすり合わせて涙を流す。
れいむの頭にぱちゅりーと過ごした、数々の想い出が去来する。

まだ賢く無かった子供の頃に様々な事をぱちゅりーから学んだ。
群れの皆で協力して、れみりあを撃退した時に一緒に群れを指揮した事。
親友でありながらも師でもあったぱちゅりー。
まりさとの結婚で一番喜んでくれたのもぱちゅりーだった。
それらを思い起こすと、身体中の水分が涙となって流れ出していく。
それが段々と黒々しくなり、完全に餡子が流れ出しても止まる事は無かった。

そして少し前に、ぱちゅりーに会えると喜んだ自分を呪った。
そんな馬鹿な自分のせいでぱちゅりーが死んでしまった。
そう思えて仕方なかった――そして。

「ゆっぐじぃぃぃ……ごろじでやるぅぅぅぅ!!」

餡子の涙を流したその顔で、はくれいむの方へと向き直る。
その余りの迫力に、周りの取り巻きは怯えた表情を浮かべ、後ろへと思わず遠退く。
だが、肝心のはくれいむはというと、涼しげな表情でその様子を嬉しそうに眺めるばかりであった。

「ゆっぐじぃぃぃ、ゆっぐじぃぃぃぃ!!」

ずりずりと火傷で動かない身体を引き摺ってはくれいむの方へと向かう。
ゆっくりとは思えないどの行動の原動力は、凄まじい怒りに寄るものだろう。
それにハッとしたかのように、取り巻きのゆっくり達が間に割って入るがはくれいむは「ゆふふ、よいよい」とすぐさま退けさせた。

そのまま後少しで、はくれいむに喰いつける距離まで辿り着こうかという地点で、バタリとれいむは突っ伏すように顔を地面に向けて動かなくなってしまった。

「じゃ……じゃおおぉぉぉ!!」

近くで怯えながら見ていためいりんがすぐさま駆け付け状態を確かめる。
気絶しているだけで、どうやら死んではいないようだ。
だが、その顔は憤怒の表情で固まったまま動かない。

「じゃおおぉぉぉ!!じゃおぉぉぉ!!」
「なにやってるんだぜ、ゆっくりそいつにとどめをさすんだぜ!!」

取り巻きのまりさが声を張り上げる。
愛しのはくれいむを殺そうとしたそのれいむをそのままにしておくべきではないと思ったが、自分が近付いて殺す事は怖くて出来なかった。
めいりんは涙を流しながら顔を左右に振りそれを拒否する。
再びまりさが声を張り上げるがそれも拒否する。

「まりさのいうことがきけないばかめいりんなんて、ゆっくりできなくしてやるんだぜ!!」
「じゃ、じゃおおおぉぉぉん!!」

怒りのその言葉とゆっくり出来なくされると言われ、困惑するめいりん。
そんなやり取りと眺めていたはくれいむが、ゆっくりと指示を出す。

「ゆふふ、まだまだその愚か者にはゆっくりと楽しませて貰わなければならぬ」

そう言うと、周りで様子を見ていただけのゆっくり達にすぐさま治療に当たらせた。
どういう事かよく判らないといった表情のまりさも、ハッと我に返ると先ほどとは正反対に
「そのれいむをころすな」や「もしできなかったら、そいつらもゆっくりできなくするんだぜ」などと喚いている。

はくれいむはそれを暫く眺めていたが、ゆふふと笑い声をあげると踵を返して、今度こそは本当にその場を後にした。






そして更に一週間後、その洞窟の誰も知らない空洞の中を這いずるように一匹のゆっくりが進んでいた。
ゆっくりまりさである。

そのまりさはブツブツと何事か呟きながら、大人のゆっくりでは狭いその空洞の間を縫うように進み続ける。
その眼には何かしらの決意が見て取れた。
随分と進んだ後、開けた場所に出ると同時に一匹のゆっくりが目に付く。
反乱の一端を担っていてゆっくりみょんである。

見張りであろうか。
深夜のためうつらうつらと身を揺らせるそのみょんに気付かれぬよう、まりさは帽子から鋭く尖った木の枝を取り出す。
それを口に咥えると、ゆっくりとその背後へと近寄る。

すると突然、まりさの気配に気付いたのだろう。
みょんが振り向きそのまりさを確認すると、仲間を呼ぶために声を張り上げようと身体を膨らます。
その一瞬の間に、まりさはゆっくりしないで口に咥えた凶器をみょんへと突き刺す。
何が起こったのかイマイチ理解出来てないみょんの身体の中心を抉るようにそれを掻き回し素早く抜き取る。
するとそこから大量の餡子が噴出しだす。
みょんの眼は次第に生気を失い白目を剥き最後には、

「ぱ、ぱいぷ…かっとぉ……」

と呟き、その場に力無く倒れた。

まりさはそのみょんの最後を悲しそうな眼で見遣った後、帽子を被り直して先へと進み始めた。

この程度の事で感傷に浸っている場合じゃない。
そうまりさは自身に言い聞かせているようあった。

「れいむ、ゆっくりまっててね……まりさがぜったいにたすけだしてやるからね」








後書き・はくれいむの喋り方はハクレイ4000年の歴史のせいでしょう。



by推進委員会の人

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最終更新:2022年05月18日 21:25