※【蟻地獄】のお兄さんです。



【おろし金】



「…」
久々に部屋が荒らされていた。
この仕事を初めて以来、荒らされたことは1度もなかったのだが。
数少ない家具は倒され傷付けられ、床一面に広がる食い散らかし。
そしてその中央で堂々と居座る、ゆっくり。


「ゆっ!ここはれいむのゆっくりプレイスだよ!」
「おにーしゃんはでていってね!」
「あとたべものをおいてってね!」
「…」ため息。こいつらは素晴らしく現状把握能力に欠けている。
この部屋を荒らすゆっくりがまだいたなんて。


ゆっくりをゆっくりさせない、《ハコ》の家を襲撃するなんて。


ゆっくりの駆除と野菜の売買を生業とし始めた頃から、
この部屋には禍々しい《ハコ》が増えていった。
まだ透明板が透き通っているものから、餡子で黒ずんでしまったものまで。
まさに部屋を埋め尽くす《ハコ》に、臆せずつっこんでいくなんて。
いい度胸だ。その心、ぜひへし折りたい。


「ゆー?」
無言でゆっくりたちに近づき、子供達から順に捕獲用の《ハコ》に入れていく。
襲撃したのはれいむ種の家族、親1匹に子7匹。子は小さく、生まれたてだろう。
よくわかってないうちのれいむ種は扱いやすくて助かる。
「おしょらをとんでるよ!」
「ゆっ!こどもをかえしてね!」
「…」
会話はいらない。話が通じるとわかるとつけあがる。
また一匹、また一匹と回収し、最後に親れいむも籠に詰める。
「ゆっくりだしてね!おうちかえる!」
ゆっくりぷれいすはここじゃなかったのかよ。餡子脳。


今回の《ハコ》は非常に大掛かりだ。この《ハコ》のために家を改装した。
家の床が、一面透明板張りになっている。見えなければ意味がない。
縁の下は角を埋めて円柱状に、出入り口は1箇所床に準備した蓋だけである。
高さは縁の下同等、多少の高さはあるがゆっくりが飛び跳ねることは出来ない。
その円柱を仕切る4つの板。部屋の広さも相成り、一度に多くの虐待が可能。

(地図記号の交番をイメージしてください。)

そして、床一面のおろし金。

ゆっくりは主に這って移動する。
なら這えないようにすればいい。
あとは想像通りだ。
その想像通りを眺めるために「虐待を始めよう」


「ゆ”っ」
蓋を開け、4部屋の1室にすべてのゆっくりを入れる。
乱暴に入れたせいか、子れいむ達がちょっと動かない。まぁ大丈夫だ。
4部屋にしたのは虐待しつつ効率を上げるためだが、今回はこれでいい。
まずは歯車を入れず、様子見といこう。


「みんなだいじょうぶ!?ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりしていってね!」」」
突然のことで何が起きたか分かってないが、とりあえず子供の安全を確認する。
足元の感覚に気づいてないわけではないだろう。
「ゆ”ぅ”っ!」
好奇心旺盛な子れいむが動き出し、改めて気づく。
床一面に、細かい棘がびっしりと敷き詰められていることに。
「い”だい”っ!」
親れいむも、ここがどうなってるのか把握したようだ。
「みんなゆっくりきいてね!」
「「「ゆー!」」」
「ここはじめんがあぶないよ!けがしないようにゆっくりしてね!」
「「「ゆっくりー!」」」
親れいむはそれ以来、ケガを恐れてあまり動かないように、
子れいむ達は小さく跳ねて移動するようになった。
そうか、子供じゃ跳ねるのが出来るのか。これも考え物だな。


「おにーさん!ここからだしてね!ゆっくりできないよ!」
足元からゆっくりの声。聞こえているがもちろん華麗にスルー。
今回の《ハコ》は、日常に虐待を取り込んだ傑作だと自分では思っている。
だがお楽しみはこれからだ。これだけでは普通に生きてしまう。

歯車を、はめる。

だいぶ緩慢だが、ゆっくりを囲う壁が動き出す。
「ゆ”っ!?」
ザリザリと音を立てながら、確かな質量を持ってゆっくりに迫る壁。
壁自体はなんということもない。後ろの壁が迫ると同時に前の壁は遠ざかる。
そう、強制移動だ。
じっとされてはおろし金の床も意味を成さない。否応にでも動いてもらわねば。
これなら動かざるを得ないし、仮にじっとしていても壁に押されておろされる。
さぁ、頑張って生き延びてもらおうか。


「おかーしゃん!かべがうごいてるよ!」
「ゆっくりしてるよ!」
「ゆっくりしていってね!」
ことを理解してない子ゆっくり達。壁のゆっくりっぷりに感動している。
だが母れいむは、こと数秒で理解した。
「!ここじゃゆっくりできないよ!みんなきをつけてね!」
「「「ゆー?」」」
確かに棘はちょっと痛いが、跳ねてる分には我慢できる程度である。
だが今我慢できても、以降我慢できるだろうか。
まぁどうにもならないんだろうけどな。


やがて壁がゆっくりに追いついた。
子ゆっくり達はぴょんぴょんと壁から逃げる。
親れいむはできるだけ、それこそ壁に触れるまで動こうとしない。
だが壁はそれを許さない。動け動けと急かすように背中を押す。
「ゆ”うっ…ゆ”っ…」
仕方がなく動き出す親れいむ。天井は親には低く、跳ねることはできない。
必然、這うことになる。
「ゆぐっ…」
子供を不安にさせまいと、必死に苦痛をかみ殺しているようだ。
いつまでもつことやら。


「ゆ!いいことかんがえたよ!」
「ゆっくりおしえてね!」
「こうすればあんまりいたくないよ!ゆっくりできるね!」
なんと子れいむの1匹が、転がって移動を始めた。
それが痛くないことだとわかると、子れいむ達がみなコロコロと動き始めた。
「すごいね!ゆっくりできるね!」
「ゆっくりしていってね!」
親れいむも、転がって移動し始めた。

(ヨコ●マタイヤをイメージしてください)

「なん…だと…」
ダメだ、これは想定外。想定外すぎる。
削られることもなく、刺さることもなく、生き延びてしまう。
ダメだ、ダメ!もう悠長に朽ちるのを待ってられん。
こちらから能動的に、徹底的に、虐待する。
歯車を取り外し、もうひとつの、黒い歯車に入れ替える。
子ゆっくりを感動させた壁が、激しく吼える。
「ゆ”っ!?」
ものすごい勢いで回転を始める壁。
もう一時だってゆっくりなんてさせるものか。
「かべがこっちくるよ!!」
「ゆっくりできないよおおぉぉ!!」
傷を気にせず逃げ惑うゆっくり達。だがそれ以上に速い壁。
転がろうとも逃げ切れず、迫り来る死の予感。
やがて壁に追いつかれ、終焉の縁へと、押される。


「ゆ”う”う”う”う”ぅぅぅぅ!!!!」
「ゆ”ぎゃあ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!!」
動きの遅い子、小さい子から壁に押され、床におろされる。
足として機能する部分を傷つけられ、より動くことが困難になる。
やがて底面だけでなく、全面転がりながら摩り下ろされるようになる。
そうなればもう声すら上がらない。
皮を削られ、身を削られ、ひたすら餡子の塊になるだけだ。
壁際にはすでに餡子玉が2,3あるのだが、パニックの家族はそれに気づけない。
動けば動くほどに動けなくなる、その感覚はどんなものなんだろうか。


「…しまった」


気づけば、親れいむだけになっていた。
子れいむの姿はない。代わりに、円の外側に塗りつけられたような餡子。
そして親れいむも悲鳴をあげなくなっている。
すっかり激情してしまって、この光景をゆっくり眺めることができなかった。
ただ足元では、大きな餡子の塊が壁に押されているだけである。
なんとも滑稽。自ら滅ぶ姿を見たかったのに、手を下してしまった。
まんじゅうごときにかっかする自分が情けない。
もっと冷酷に、もっと静かに確実に、ゆっくりをゆっくりさせないための


「…いい《ハコ》を、作らねば」





【あとがき】
おひさしぶりですタカアキです。
ハコネタがいくつかあるんだけど、書く時間とストーリー性に欠ける。
しばらくはハコモノを書きますよ。

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最終更新:2022年05月18日 21:43