『元気な家畜』
「ゆっくりしていってね!!!」
部屋に入ると俺は元気な挨拶で迎えられた。
その部屋に置いてあるメタルラックの各段には透明な箱が二個ずつ乗っかっている。
一の段にはゆっくりありす×2。
二の段にはゆっくりまりさ×2。
三の段にはゆっくりれいむ×2。
四の段にはゆっくりぱちゅりー×2。
それぞれが一匹ずつ透明な箱に収められ、俺に向けてニコニコと笑顔を浮かべていた。
彼女たち八匹は饅頭生産機だ。決してペットではない。
元々野良ゆっくりだったのだが、家で飼ってやると攫ってきたのだ。
少なくとも寒さに凍えることもなく、外敵もないのだから外よりは楽な生活と言える。
しかし楽な生活をさせるために家に置いてるわけじゃない。
饅頭生産機なのだから饅頭を生産しなければゴミ当然なのだ。
「ゆっくりしていってね!!
れいむのあかちゃんおいしいよ!!」
「むきゅ、ぱちゅのあかんぼうはおいしいのよ!
だからぱちゅをえらんでね!!」
「まりさのあかちゃんがいちばんだよ!!
とってもおいしいよ!!」
「かっこいいおにーさんはもちろんありすをえらぶわよね!
…おねがいだからえらんでねっ!」
ゆっくり達は自らの赤ちゃんを食べてとお願いしてくる。
彼女たちは自分たちが生きるために赤ちゃんを俺に推薦しているのだ。
饅頭を生産しなければ食事を与えない、それがこの家のルール。
そして饅頭を生産するには俺に選んでもらい、箱から出してもらって交尾する必要がある。
だからこそ俺の機嫌を損ねないように笑顔で元気に挨拶し、自らの赤ちゃんの美味しさを叫ぶのだ。
最初は赤ちゃん返してと叫んだり、想像と違った生活だったようで沈んでたりもした。
しかしこいつらも慣れて来たのだろう。
今では元気いっぱい、満面の笑顔で俺に媚びてくる。少なくとも俺の前では。
八匹いて選ばれるのは二匹。
昨日はれいむ種の赤ちゃんだけを食べたかったのでれいむ二匹が選ばれた。
しかし今日はどれでもいい気分だ。
せっかくなので会話しながら決めるとしよう。
「やあ、まりさ」
「ゆっくりしていってね!!」
「おにーさんきょうもゆっくりしてるね!!」
話しかけられたまりさ達は本当に嬉しそうに返事をしてきた。
ここ数日は他種の饅頭ばっかり食べていたので相当に飢えているのだ。
「まりさは相変わらず不細工で汚い帽子だなぁ。
自分でもそう思うだろ?」
「ゆ…ゆん! まりさのかおはぶさいく…だよ」
「帽子はどうなんだ?」
「き、きたないよ…」
まったく素直なことだ。
何よりも大事にしている帽子だと言うのにね。
「隣のまりさは?」
「まりさはぶさいくできたないよ。
だからまりさをえらんでね?」
「不細工で汚いまりさの赤ちゃんなんて食べたくないしなぁ…」
「ゆ"…」
はは、言葉に詰まってやんの。
そもそもこいつらは家に連れ込んだ時点で洗ってやったのだから少なくとも汚れちゃいない。
「じゃあ次はれいむ達。
君たちはゆっくりしてるかい?」
「ゆっくりしてるよ!」
「おにーさんのおかげでたべものにもこまらないよ!!」
この二匹は昨日食事を貰ったので他よりは元気だ。
「そうか、赤ちゃんが昨日も食べられたけどゆっくり出来るんだな」
「ゆ、ゆぅ…」
「お母さん助けてぇ…なんて最後に言ってたな。
どう思った?」
「かなしいよ。あかちゃん…かわいかったよ」
「でもゆっくり出来るんだ」
「ゆ、ゆううぅ…」
「ゆっくり…でき、できな…
でき、る…よ」
母性の強いれいむ種だけにこの質問は辛かったようで涙目になっている。
それでも「ゆっくり出来ない」と本当の事を言わないあたり食欲が勝ったか。
いくら昨日食べれたと言っても一食だけ。
成体のゆっくりには辛いだろうからな。
「田舎者のありす達はどう?
ここでの暮らしは辛くないか?」
「とかいはでくらしやすいわ。
ほんとうにかんしゃしてるのよ」
「そとではほんとうにつらかったの。
とかいはなおにーさんとであえてしあわせよ」
このありす達は本当に俺に感謝している節がある。
まあ人間のおうちなんて野良ありすにとっては都会だろうからね。
何よりも都会派であることを重んじる彼女たちはこの生活もまんざらじゃなさそうだった。
「でもお前たちの幸せってすっきりだろ?
よく聞くぜ。お前らありすがペットのゆっくりを犯すって」
「ち、ちがうわ。
そんなのいなかものがやることよ」
「ほんとうのすっきりはあいするゆっくりとするのよ」
可笑しなことを言う奴らだ。
この家の饅頭生産では愛してないゆっくりと何度も交尾したくせに。
だがまあ、レイパーモードになるのを見たことは無いし、野良の中では都会派な方なのかも知れない。
「でも本当は他のゆっくり犯したくてたまらないんだろう?
一段上にいるまりさなんかを押さえつけて、何度も何度もすっきりしたいんだろう?」
「し、しないわ。そんなこといなかもののすることよ」
「お前ら田舎者じゃん」
「でもしないのよ…」
「それだけは…だめなの」
れいむやまりさならここで「じぶんはれいぱーだよ」なんて調子よく答えただろう。
少なくとも自分がレイパーであるとは絶対に認めないのがこのありす達だった。
個人的にはレイパーである方が饅頭生産の効率が上がって嬉しいんだけどな。
交尾の時もこの二匹は相手に身を任せてる感じだし。
「で、馬鹿のぱちゅりーはどうよ?
今日も馬鹿やってるか」
「むきゅぅ…ぱちゅはばかじゃないわ」
「むきゅっ! ばかなぱちゅりーはきょうもばかしてるわ。
あへあへあ〜へ〜♪」
この二匹は対照的だった。
一匹は自分が賢いと信じ、そこだけは考えを曲げないお馬鹿さん。
もう一匹は俺に媚びることが得に繋がると分かっているお利口さん。
お利口さんは馬鹿を演じるために変な顔で涎を垂らしながら変な歌をあへあへ歌っていた。
…やっぱこいつもお馬鹿さんだわ。
「どうでもいいや。
今日は自分の子が死んでもゆっくり出来ちゃうれいむと馬鹿ぱちゅりーにしよう」
結局適当に二匹選んで箱から出してやる。
他のゆっくりは不満そうだったが俺が顔を向けると笑顔を作った。
ここで不満を爆発して怒りだしたりすると餓死寸前まで選ばれなくなると知ってるからな。
だから何も言わない。俺が話しかけない限りは挨拶以外ほとんど喋らない。
「さ、今日もたくさん赤ちゃん作れよぉ?」
「ゆっくりりかいしたよ」
「むきゅ、おいしいこをつくるわ」
床に置かれた二匹は俺の合図とともにお互い擦り寄って交尾を始めた。
単なる作業としての交尾だ。
繁殖のためではなく、自分が食料を得るための行為。
それをよく理解している二匹はちっとも幸せそうじゃない顔で交尾を続けた。
そして間もなくれいむが先にすっきりし、ぱちゅりーに子を宿らせた。
ぱちゅりーの頭から茎が一本生え、その先にはれいむ種とぱちゅりー種の赤ちゃんゆっくりが実っている。
後は赤ちゃんが産まれ落ちるまでの数分間を待つだけだ。
今食べるより産まれ落ちてからの方が柔らかくて味も美味しいのだ。
「ゆっくりちていっちぇね!!」
「むきゅむきゅむきゅーん!!」
産まれ落ちた赤ちゃん達は母親たちに向かって産まれて初めての挨拶を行う。
だが母親たちは返事をしない。
そんなことをしてもすぐ死ぬ娘なので無駄だと分かっているのだ。
だからただ悲しそうな表情で赤ちゃん達を見つめるだけだ。
ぱちゅりーに至っては娘を見ようともしない。ただ震えて俺の食事が終わるのを待っていた。
俺は母親から返事を貰えず戸惑っている赤ちゃんれいむを摘まんで持ち上げる。
「ゅゅ? ゆっくりちていってね!!」
「いただきます」
「ゅ?」
パクンチョ。
赤ちゃんれいむを口に含んで舌の上でコロコロ転がす。
「ゅゅ? ゅー、ゅー…」
口の中からくぐもった声が聞こえる。
楽しげな声だ。きっと自分の命が後数秒だなんて分かっちゃいない。
母親のれいむは俺の顔をじっと見つめていた。
俺はそんなれいむに口の中を見せてあげる。
「ゅゅ、あかるくなっちゃよ!
ゆー! おかーしゃんがとおくにいりゅよ! うぶっ」
そして噛みついた。
「ゅ"…」
最後にそう呻いて赤ちゃんれいむの声は聞こえなくなった。
あとは微かに震えるだけ。
「おお、美味い。今日の赤ちゃんは中々いけるぜ」
続いて赤ちゃんぱちゅりーも摘まみ上げる。
「むきゅ? ぱちゅとおあそびすりゅの?
赤ちゃん達は姉妹が食べられたことに気付いちゃいない。
まだ悪意を知らない赤ちゃんは、俺が遊んでくれると信じてる。
でも悲しいけどお前ら饅頭なのよね。
パクリ。
「こっちはまあまあだな。お馬鹿なぱちゅりーに似ていて馬鹿そうだったもんな」
「む、むきゅ…」
「だよな?」
「そう…ね。ぱちゅりーが、ばかだから…」
ぱちゅりーは悲しそうに俯いてそれきり黙りこんだ。
俺は悲しむ二匹を肴に残りの赤ちゃんも食べていった。
赤ちゃん達は数匹姉妹が食べられてようやく俺が捕食者と気付いたようで逃げ回った。
だがゆっくりした速度で逃げるものだから捕まえるのに立ち上がる必要もなかった。
「ほれ、お前らの食事だ。
ゆっくり食べな」
赤ちゃんゆっくりを食べ終えた俺は二匹の頭から茎をへし折り、数枚のクッキーと共に分け与えた。
本当は赤ちゃんのための食料。でもこの場では二匹への報酬だ。
もちろんそれだけでは足りないだろう。
元々自分の体から出来たものなので食べても元に戻るだけ。むしろ赤ちゃんを作った分、食べてもマイナスだろう。
俺としてもこいつらには死んでもらっちゃ困る。
なので茎の他にもクッキーを数枚ずつ分け与えることにしていた。
二匹はもそもそと食事を始める。
透明の箱のゆっくり達は羨ましそうに箱の側面に顔を押し当てて食事を眺めていた。
「どうだ美味しいか?」
「お、おいしいよ」
「むきゅ、しあわせーだわ」
「どうせならさ。むーしゃむーしゃしてくれよ。
黙って食べるなんて寂しいじゃん」
「むむーしゃむーしゃしあわせー!」
「むーしゃ、むーしゃ…しあわせぇ」
れいむは涙目で、ぱちゅりーは顔こそ笑顔を作っていたが元気ない声でそう叫ぶ。
まりさ種やありす種辺りは娘の死に関してあっさりしていて嬉しそうに食べるんだがな。
食事を終えた二匹は俺の手によって再び箱に戻される。
最後に「食事が出来て嬉しいか?」と聞くと、「うれしいよ」と作り物の笑顔でそう答えた。
人間が部屋を去ると、ゆっくり達だけの時間が訪れる。
「ゆ、れいむはずるいね。れんぞくでごはんたべれて」
一匹のまりさが怨嗟の篭った声でそう呟く。
数日食事がないのだから憎くなっても仕方がない。
「まりさは、きたないからしょうがないわ。
にんげんさんもそういってもの」
数秒の静寂の後にありすがそう答えた。
「ゆっ! まりさはきたなくなんてないっ……よ」
まりさは怒って叫ぼうとしたが…最後に抑えた。
いくら人間が出ていったとはいっても煩くすると怒って部屋に入ってくる。
そしてまた餓死寸前まで放置されるのだ。
「ありすだっていなかもののれいぱーのくせに」
「な、なんてこというのよ。ありすはとかいはよ」
「れいぱーれいぱーれいぱー」
「うるさい、まりさのごみぐず」
「まりさのなまごみ」
れいむが加わり、ありすと共にまりさを責め始めた。
このゆっくり達の静かな口喧嘩は人間が部屋にいない間ずっと続く。
一匹、また一匹と悪口を言われると参加し、延々と罵り合う。
そのくせ人間が何か音を立てるとピタリと鎮まる。
さながら修学旅行の夜のようであった。
口喧嘩に疲れると全匹黙って部屋に静寂が訪れる。
その中でゆっくり達は各々思い出に浸る。
寒くて汚くて、危険がいっぱいで落ち着ける場所がなかった野良時代の事を。
辛い思い出ばかりだったけど、あの時は自由だった。
跳ね回ることも喋ることも全部。
人間に連れて行かれた時は素直に嬉しかった。
暖かなおうち。運ばれてくる食事。
噂で聞いた範囲だが、人間に飼われるのはゆっくり出来ると知っていた。
なのに…ゆっくり出来なかった。
おうちは暖かい。外に比べれば。
危険は無い。狭い箱の中で動けないから。
食事は運ばれてこない。人間に媚を売り、赤ちゃんを差し出さない限り。
彼女たちはそれでも生きる。
死ぬのが漠然と怖いから。
だから…周りのゆっくりが死ねばいいのにと思う。
自分だけならきっと自分だけに食事をくれる。きっと可愛がってもくれる。
だから嫌な思いをしても自分を人間に売り込むのだ。
そうすればいずれ他のゆっくりは死ぬから。
だがそれも、人間が餓死させないので無駄な考えだった。
俺は今日も饅頭を食べようと部屋の扉を開く。
すると俺の姿を認めた八匹のゆっくり達は偽りの笑顔を張り付けて、
「ゆっくりしていってね!!」
…と、そう叫んだ。
by 赤福
二日酔い。
最終更新:2022年05月18日 22:35