・ぬるいじめです・・・いじめです、多分。
 ・可愛がり分もあります・・・恐らく。
 ・よろしければどうぞ、お読みくださいますよう。



 「ゆゆぅ~ん・・・とってもゆっくりできるのぜぇ~」
 「・・・ふぅ」
 さて、困ったことになった。
 ちょっとしたおふざけのつもりだったのに、まさかこんなにも味を占めるとは思わなかった。
 きっかけは、実に些細なことだったのだが・・・



 僕はゆっくりを一匹飼っている。
 金髪と黒いとんがり帽子が特徴的な黒白饅頭、まりさ種だ。
 知り合いから赤ゆの頃にもらってきて以来、寂しい一人暮らしの友として、ともに暮らしてきた。
 親ゆっくりが優秀なゆっくりだったこともあってか、このまりさはなかなかに聞き分けがよく、口で注意すれば
ある程度は理解してくれたし、それでも駄目なら・・・まあ、愛ある指導で理解してくれた。

 そんなわけで、僕とまりさは穏やかに暮らしてきたし、現に今だって穏やかに暮らしてはいる。
 その日も、僕が家に帰ってくると、まりさは玄関まで跳ねてきて、

 「おかえりなさいだぜ、おにいさん!ゆっくりしていってね!」

 「ただいま、まりさ。今ごはんにするから、ゆっくり待っててくれな」

 「ゆっくりりかいしたんだぜ!まりさはゆっくりまってるんだぜ!」

 そう言うとまりさは部屋を転がりまわったり、テレビを眺めたり、クッションの上で飛び跳ねたりして遊んでいる。
 見る人が見れば違うのだろうけど、僕はそんな様子が何とも可愛らしいと思う。おかげさまで今日一日の疲れも
吹っ飛ぼうというものだ。
 僕は準備をしつつ、帰宅して最初の煙草にゆっくりと火を着けた。 


 食事の準備はすぐに終わり、僕はちゃぶ台で、まりさは床で、今日の夕食を堪能していた。

 「むーしゃむーしゃ、しあわせー!」

 まりさは有り合わせの野菜サラダを行儀よく食べている。僕はと言えば、それに適当なお惣菜というメニューだ。
 ふと見ると、皿の端にパセリが寄せてある。明らかにパセリだけ選んで、端に寄せてあるのだ。

 「・・・まりさ。パセリも食べなきゃ駄目だろう?」

 「ゆうっ・・・でもでも、おにいさんもパセリたべてないんだぜ?」

 飛び跳ねて僕の皿を覗き込むまりさ。これはもう、いつものことなのだ。
 僕もまりさも、パセリは苦手だ。
 だがお惣菜に付いてきてしまったので、やむを得ず半分をこっそりとまりさの食事に混ぜておいたのだ。

 「・・・今から食べるよ、ほら」

 息を止めてパセリをぐいと飲み込む。この何ともいえない苦さが、どうにもなれない。
 僕が食べたのを見て、まりさもやむなくパセリに口に入れる。

 「・・・むーしゃむーしゃ、ふしあわせー・・・」

 「はいよく出来ました。ご褒美に人参を少しやろう」

 「ゆゆゆっ!にんじんさんはとってもゆっくりできるんだぜ!おにいさんありがとうなのぜ!」

 まりさの皿に人参を載せてやり、僕も口直しのため、お茶を流し込んだ。
 やはり、ゆっくりも飼い主に似るのだろうか。そんな考えが、ふと頭をよぎった。



 食事が終わり、くつろぎタイムが始まる。僕が食後の一服をしようと、煙草に火を付けた、そのときだ。

 「・・・おにいさん。いつもすってるけど、それ、ゆっくりできるのぜ?」

 「・・・ん?ああ、煙草のことか?まあ、そうだな、ゆっくり出来るといえば、ゆっくり出来るな」

 「・・・・・・・・・」

 まりさは黙って、物欲しげな目でこちらを見ていた。
 恐らく、ずっと気になってはいたのだろう。時々煙草を吸っているところを、じっと見ていたから。
 そして、ゆっくり出来ると聞いて、自分も欲しくなったのだろう。
 僕は深く考えもせず、まりさに言った。

 「まりさも吸ってみるか?」

 「ゆゆゆゆゆっ!?おにいさん、いいのぜ!?」

 「ああ。ただ、不味くても知らないけどな」

 「ほしいんだぜ!ゆっくりすってみたいんだぜぇ!」

 満面の笑みを浮かべて、ぴょんぴょん飛び跳ねるまりさを見て、物は試し、などと思ったのがいけなかった。
 まあ、結局はどうせむせて、

 「ゆっぐりでぎないいいいいいぃぃぃ!!」

 などと叫んで終わりだろうと思っていた。
 僕は吸っていた煙草をまりさに咥えさせてやった。
 まりさは僕の見よう見まねで煙草を深々と吸い、煙を吐き出した。器用にも、咥えたままで。

 「・・・ゆふうぅー・・・おにいさん、たばこさんはとってもゆっくりできるんだぜぇ・・・」

 意外にも、まりさはむせる事もなく、のんびりと煙草を味わっているではないか。
 咥え煙草にそこはかとなく偉そうな笑みを浮かべる様は、昔教科書で見たどこぞの偉い人のようでもある。
 一本吸い終わったまりさは灰皿にぷっと吐き捨て、僕がそれを揉み消してやった。

 「おにいさん!もういっぽん!もういっぽんほしいんだぜ!」

 「ああ、いいけど・・・今日はこれで終わりだからな」

 僕はまりさに煙草を咥えさせて、火を点けてやる。まさかゆっくりの煙草に火を点けてやる日が来るなどとは
夢にも思わなかった。
 人によっては、ストレスがマッハで死んでいるか、目の前で煙草を燻らせているまりさを叩き潰しているだろう。

 「・・・ぷーかぷーか。ぷーかぷーか・・・」

 不味いことをしたな、と思ってももう遅い。まりさは煙草の味を覚えてしまった。そして、それがとてもゆっくり
出来る、ということも。

 とりあえずその日はその一本で終わり、まりさは眠りについた。
 僕は布団に寝転がりながら、既にどうやって止めさせようかと考えを巡らせていた。
 人間も言えた義理ではないが、ゆっくりは基本的に快楽を我慢出来ない。まだ中毒にはなっていないだろうが、
止めろといってもなかなか止めようとはしないだろう。
 一応、止めろと言えば同意はするだろうが、恐らく一、二時間であっさりと撤回するだろう。
 と、なれば残る手段は一つ。愛ある指導・・・もとい、体罰のみ。元々僕が悪いのだからなんとも気が引けるが、
まりさをニコチン中毒にさせるわけにはいかない。
 かといって、単純に肉体言語による愛ある指導を行ったとて、すぐには理解できないだろう。あれはあれで、
結構根気がいる作業なのだ。
 ここは一つ、二度と煙草を吸いたくない、と思わせなければならない。餡子の隅々まで恐怖が染み渡り、煙草を見る
だけでその恐怖がにじみ出るような方法で。

 「さて、どうしたものか・・・」

 僕は呟いて、とりあえず寝ることにした。明日にでも、友人に相談するとしよう。



 そして、三日が経過した。
 まりさは僕が帰ると煙草を催促するのが日課になりつつあった。
 とりあえず与えた一本を吸い終わって、食事が終わり、しばらくごろごろしていると、

 「おにいさんおにいさん!またたばこさんがほしいんだぜ!」

 いつものようにぴょこぴょこ飛び跳ねて、僕に煙草を催促する。段々感覚が短くなっているところからすると、
徐々にニコチン中毒になりつつあるのだろう。
 正直、ニコチンに浸かった餡子は食べたくないな。などとふと思う。食べる気は、今のところはないが。
 僕は懐から煙草を取り出すと、まりさにあげる前に、忠告をした。

 「それはいいんだけどな、まりさ。どうも聞いたところによると、ゆっくりがあんまり煙草を吸っていると、すごく
ゆっくり出来ないことが起こるらしいんだよ。だから、あげるのはこれで最後にするよ。いいね?」

 「ゆゆっ、ほんと!?わかったんだぜ!これでさいごにするんだぜ!」

 ゆっくり出来ない。それを聞いて少しはひるんだ様子だったが、結局は刹那の欲求が勝つだろう。
 たいして期待もせず、煙草をまりさにやる。
 どうせしばらくしたら、さっきの話もけろっと忘れて、僕に煙草を催促するだろう。
 僕は準備しておいたものをそっと確認して、思わずため息をついた。ここまでやっていいものなのか・・・
 まあ、友人にも確認したし、恐らく大丈夫だろう。
 そう思い、僕は実にゆっくりとした表情で煙草を吸うまりさを眺めた。



 そして話は冒頭に戻る。

 「おにいさんありがとうなんだぜ!とってもゆっくりできたんだぜ!」

 すっきりー!な表情で礼をいうまりさに、僕は念のため、もう一度釘を刺す。

 「どういたしまして。でもそれで本当に最後だからな?わかったかい?」

 「ゆ・・・ゆっくりりかいしたんだぜ!」

 一瞬逡巡したものの、まりさは返事をする。
 無論、期待などしていない。
 とりあえず、まりさを胡坐の上に置き、一緒にテレビを見ることにする。
 そして、二時間後・・・

 「おにいさん!またたばこさんがほしいんだぜ!ゆっくりぷーかぷーかしたいのぜ!」

 さあ、来た。やはり、あれをやらざるを得ないようだ。
 僕は煙草を取り出し、最後にもう一度、まりさに確認する。

 「・・・わかった。でも、今度こそ最後だからな。ゆっくり出来ない目にあっても、お兄さんは知らないぞ」

 「もちろんなんだぜ!これでほんとうにさいごにするんだぜ!」

 こうなっては是非もなし。僕はまりさに煙草を咥えさせ、火を着けた。

 「ぷーかぷーか・・・ゆふふふふぅ~、ゆっくりできるのぜぇ~」

 まりさは一口目を目いっぱい吸い込むと、既にどうやって次の一本をもらうか、考えていた。
 お兄さんにはああ言ったけど、このゆっくり感は止められそうにない。どうにかして説得して、
次の一本をもらえないものだろうか・・・

 そんなことを考えていた、そのときだった。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 一瞬、まりさは何がなんだかわからなかった。
 なんだろう?この感じは、いつもと違う?
 そして、次の瞬間、

 「ゆぎゃごぎゅぼじゅぽぴゅきゅるごげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」

 煙草を吐き出すと、猛烈な絶叫を上げ、限界まで見開いた目をぐるぐる回し、体中から砂糖水を振りまきながら、
まりさは狂ったように暴れだした。

 「亜qwせdrftgyふじこlp;@:!!!???」

 最早意味などなさない叫び声を聞きながら、僕は煙草をすぐに拾い上げ、灰皿に捨てた。その際、念のため可能な限り
ぐしゃぐしゃにして、中身をわからなくしておく。
 しかし、さすがにこの煙は人間にもきつい。目がひりひりしてくる。

 さて、お察しの通り、この煙草の中身は一味唐辛子だ。
 喫煙者ならわかるかと思うが、煙草を指でもんでやると、そのうち中身が抜け落ちてくる。丁寧にやれば、外の紙を
傷つけず、中身を全て抜き取ることが出来る。
 そこに一味唐辛子を慎重に詰め込み、最後に一番上にだけ元の中身を戻してやったものがこれだ。
 人間ですらのたうち回るというこの特製煙草。ゆっくりが吸えばどうなるかは、言うまでもないだろう。

 「ゆぐうぅおぉええええええぇぇぇぇ!ゆぶぅおぉぇえええええええぇぇ!」

 まりさは激しく痙攣し、餡子を吐き出し始めた。それは夥しい量で、みるみるうちに目の前が餡子の山になっていく。

 「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ・・・ゆぐぅええええええぇぇぇ・・・」

 明らかにまずい感じの痙攣を起こしながらも、まりさは小刻みに中身を吐き出していた。
 さすがにこのままではまずい。
 僕は帽子を放り投げ、準備しておいた漏斗をまりさの後頭部に突き刺した。

 「ゆ゛べっ!」

 奇声を上げたが、恐らくもう痛覚などほとんど残っていないだろう。僕はかまわず作業を続ける。
 突き刺した漏斗から、果汁30パーセントオレンジジュースを勢いよく流し込む。100パーセントは高いのでやめた。

 「ゆぐ・・・ゆぐぐぐぐぐぐ・・・」

 オレンジジュースを注ぎ込まれ、みるみる体積が戻っていくまりさ。混濁していた意識も、段々と回復してきた
ようだ。さすが不思議饅頭だ。なんともないぜ。

 「・・・こんなものかな?」

 頃合を見て、漏斗を引き抜き、開いた穴を水溶き小麦粉で埋めておいてやる。最後に自慢のとんがり帽子を
載せてやれば、これでまりさは元通りだ。

 「・・・どぼじでごんなごどずるのぜえええぇぇぇぇ!?ばりざなんにもわるいごどじでないんだぜええええぇぇぇ!?」

 意識の戻ったまりさは滝のように砂糖水の涙を流し、僕に抗議をしてきた。

 「おいおい・・・僕のせいじゃないだろう?僕は何度も忠告したじゃないか、ゆっくり出来なくなる、って」

 「ゆぐっ!?」

 一応は覚えていたのだろう。元々、記憶力はゆっくりにしてはいいほうだし、ついでに、性格も非常にいい部類なのだ。

 「でもまあ、これで煙草吸ったらどんなことになるのか、わかったろう。もう本当に吸ったら駄目だからな?」

 「ゆっ・・・ゆっ・・・ゆ゛っぐり゛い゛い゛ぃぃぃぃ!!もうずいまぜん!ばりざがわるがっだでずううううぅぅぅ!!」

 何故か泣きながら謝るまりさ。本当はまりさは何も悪いことはしていないのだが・・・まあ、目的は果たせたしよしとしよう。

 「なら、良し!」

 とりあえずいい機会ではあるし、僕も禁煙することにしよう。まりさが止められて、僕が止められないというのも、
なんとなく情けない気もすることだし。



 それ以来、まりさが煙草を欲しがることはなくなった。僕も煙草を止めることが出来た。結果としては、めでたしめでたし、
ということになりそうだった。
 そして、思わぬ副産物が一つ・・・

 「こらまりさ、パセリ残したら駄目だろうが。ちゃんと食べなさい」

 「ゆぅっ・・・ぱせりさんは、むーしゃむーしゃしてもあんまり、しあわせー!じゃないんだぜ・・・」

 「ふむ、そうか・・・なら、しかたないな」

 そう言って僕は懐から煙草を取り出し、火を着けるふりをする。
 それを見たまりさはたちまち顔面蒼白になり、

 「ゆぎゃああああああぁぁぁ!!だばござんはゆっぐりでぎないいいいいいいぃぃぃぃぃ!!」

 「・・・パセリと煙草、どっちがゆっくり出来ないかなー、っと」

 「たたたたたべますっ!ぱせりさんたべますからっ!ぷーかぷーかしないでほしいのぜえええぇぇ!」

 がたがた震えながら、まりさは涙を流してパセリに齧りつく。

 「むーしゃむーしゃ、しあわせえええぇぇ!たばこさんよりずーっとしあわせえええぇぇぇ!」

 「そうかそうか、それはよかった・・・じゃ、ついでに僕のパセリも食べるか?」

 「どぼじでぞうなるのぜえええぇぇぇぇ!!??」

 煙草は止められても、パセリは食べられないんだよなあ・・・でも付いてきちゃったからもったいないし・・・
 まあ、しあわせー!なら、まりさに食べさせてあげればいいよね?
 そうして、僕は煙草に火を近づけた。

 「ゆ゛っぐり゛い゛い゛い゛ぃぃぃぃぃ!!!」

 後で人参やるから、頑張れよ。
 そんなことを考えて、僕は涙を流してパセリを食べるまりさを見ていた。




 ※毎度の駄文をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。
 ※だぜまりさがなんとなく可愛いと思い、書いて見ました。口調ってこんな感じでいいんでしょうか・・・?
 ※唐辛子煙草は聞いたことがあるだけで、やったことはありませんので、悪しからず。



【過去の駄文】
 ・草抜き
 ・契約を結ぼう
 ・もしもゆっくりに出会ったら
 ・父の愛情


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最終更新:2022年05月19日 12:30