10.

 まりさは不思議な村に着く
 藁葺きおうちがいっぱいあるのに
 人間さんは見当たらない
 どこへ行っちゃったんだろう?

 まりさは知らないことだけど
 人間たちはこの村捨てた
 年寄りばかりになったから
 でもそれだけが理由じゃない。

「ゆっくち! ゆっくち!」まりさは走る
 真横に並んでありすが続く
 夏の光の満ちる村
 人気はないが音がする

 古びた小屋の後ろから
 ひょいと顔出す大きな影
 二匹を見つけて笑顔で教える
 俺の村だぜおちびちゃん。

 陽気な笑顔にまりさは答える
「ゆっくち まりちゃをとおしてね!」
 調子に乗ってて気付かなかった
 相手の目つきに気付かなかった。

「そうか」と相手はあくびして
 右腕軽く振りぬいた
 グチャッと響くいやな音
 ありすが壁にぶつかった。

 気のいい人だと思っていたから
 まりさは頭が真っ白に
 動きもまるで見えなかった 
 今のはなにがおこったの?

 貼り付きありすがずるずる落ちる
 壁には黄色くカスタード
 ゆゆゆと頭にきたまりさ
 真っ赤な顔でけんかを売った。

「まりちゃのありちゅに なにするの!
 ゆっくりたくさんあやまっちぇね!
 あやまらないと やっちゅけちゃうよ!
 まりちゃはとっても ちゅよいんだから!}

 身のほど知らずのゆっくりまりさ
 哀れで無謀なゆっくりまりさ
 も少し森で学んでいれば
 クマの怖さも聞いただろうに。

 まりさは知らないことだけど
 このクマさんは谷のヌシ
 村の年寄り恐れをなして
 もっと下流に引っ越した。 

 大口開けて叫んだまりさ
 夏の日差しがふとかげる
 我にかえって目を開けた
 大きな肉球目の前迫る。

 まりさは大きな衝撃受ける
 体の中身がばちゅんと噴き出す
「ゆぎゅっ!」と悲鳴を上げたきり
 せんべいみたいに平らになった。

 クマは片手をぺろりと舐めて
 うげっと顔をしかめて言った
 なんだこいつは甘すぎる
 このクマさんは肉好きだった。

 ペッと唾吐き立ち去るクマさん
 後には二つの潰れた饅頭
 アリさんハエさんやってきて
 うじゃうじゃブーンと取り付いた。

 だあれもいない真昼の廃村
 甘い粘液飛び散って
 虫たちだけが動いてる
 ぢゅくぢゅくぺろぺろ舐めている。

 やがてお空がどんより曇り
 ざあざあ雨が降り出した
 潰れて帽子と混ざった饅頭
 道の端まで押し流す。

 潰れてしまったゆっくりまりさ
 あんこを噴き出しぺっちゃんこ
 虫にかじられ穴だらけ
 まりさの森まで十五キロ。


  11.

 まりさはちっちゃな赤ちゃんだ
 ゆっくりしてねと愛された
 あったか母さん覚えてる
 まりさに優しくしてくれた。

 それきりずっと忘れてたけど
 最近誰かにすりすりされた 
 それはレイパーゆっくりありす
 レイパーだけれど優しいありす。

 ありすは鳥にさらわれた
 故郷の森がわからない
 母さんのことも覚えていない
 一人ぼっちの寂しいありす。

 そんなありすが吹っ飛ばされた
 べちゃりと潰れてクリーム出した
 ありすの中身はきれいな黄色
 そんな色、見たくなかったよ。

 ありすはとっても頑張ったのに
 レイパーだけど頑張ったのに
 殴られ潰れて破裂しちゃった
 ゆっくりできない人生だった。

(ありしゅは ヘビにかまれてた
 まりちゃのぼうしも なおしてくれた
 こんなところで しぬなんて
 いくらなんでも かわいしょう!)

 ぺろりぺろりと舌が出る
 帽子の下から舌が出る
 それは潰れた饅頭の舌
 群がるアリを食べている。

 半日アリを食べてから
 ぐぐぐと饅頭動き出す
 いつの間にやら雨は止み
 饅頭再び固まりだした。

 どろどろ帽子と混ざった饅頭
 おうちの壁にぶつかった
 そこに落ちてる金髪饅頭
 クリーム垂らして腐りかけ。

「ぺーよ……ぺーよ……」と声がする
 舌だけ出した饅頭の声
 金髪の中を舐めている
 裂けた傷口塞いでる。 

 日が出て沈んでまた沈み
 三日目の朝、また日が昇る
 だあれもいない村の隅
 ぺーろぺーろと声がする。

 その日の夕方ありすは蘇生
 ぷるると震えてゆっくりコール
 けれどもありすは戸惑った
 クマに致命傷受けたはず。

 一体どうして助かったのか
 周りを見回しありすは気付く
 黒い帽子の小さな饅頭
 舌だけ突き出し潰れてる。

「まままままりさ!? ゆっくりしてね!
 あなたがたすけてくれたのね!!」
 感激ありすは半狂乱
 今度はまりさを舐め出した。

「ぺーろ、ぺーろ!」と声がする
「おねがいだから なおってねぇぇぇ!」
 ありすの必死な叫びが響く
 七日と七晩過ぎ去った。

 やつれて痩せたゆっくりありす
 ある朝ぼんやりまりさを見てた
 もう死んでると思ったけれど
 ずっと隣にいたかった。

 ぴくりと動く三角帽子
 ありすはギクッと目を見張る
 やがてつぶらな瞳が開いて
 か細い声でコールした。

「ゆっくちしちぇね!
 しちぇいっちぇね!」
 ありすはふるふる震えだし
 涙をこぼして飛びついた。

「治ったのねぇぇ!」とすり寄るありす
 まりさはゆふふと笑って答える
「まりちゃはとっても ちゅよいんだから!」
 どこもかしこも でこぼこだけど。

 ゆっくりありすを治したまりさ
 ゆっくりまりさを治したありす
 二人はその夜一緒におやすみ
 初めてすりすりしながらおねむ。

 もたれてゆぅゆぅ寝息のまりさ
 ゆっくり見守る都会派ありす
 れいぷをしない自分が不思議
 それはまりさが逃げないから。

「まりちゃは森にかえりゅんだ!」
「ゆっくり森にかえりましょうね!」
 もう空気にも匂いがしている
 まりさの森まで十五キロ!


  12.

 村から山に入っていった
 黒い道路がなくなった
 さらさら流れる渓流沿い
 まりさの森まで十二キロ。

 右へ左へ曲がる沢
 砂利道までもなくなって
 下ばえかき分け二匹は進む
 まりさの森まであと八キロ。

 水仙、鈴蘭、山百合咲いて
 すっかり辺りは大自然
 故郷の匂いはうきうきするけど
 なぜかまりさは胸騒ぎ。

 まりさは春にぽちゃんと落ちた
 今はすっかり夏の終わり
 今でも母さん待っててくれる?
 今でもおうちで待っててくれる?

 まりさの森まであと五キロ
 突然まりさは歩みを止める
 どうかしたのと聞くありす
 まりさは怖くて震えだす。

「ゆっくちできりゅ? ほんとにできりゅ?
 まりさのおうちは いまでもありゅの?
 なくなってたりゃ、どうしゅればいい?
 しょうなったらもう、ありゅけない!」

 泣き出すまりさにありすはすりすり
 母さんきっと待ってるわ
 ありすがついててあげるから
 がんばって森に帰りましょう!

 木の根を越えて、草の葉くぐり
 一日一日進んだまりさ
 ある日とうとう川原に着いた
 見覚えのある、流れと岩に。

「こっちだよ……」とおずおず進む
 懐かしい草のトンネルが
 今では帽子に引っかかる
 ここはまりさの生まれたところ。

 どきんどきんとあんこが高鳴る
 ほんとにここでいいのかな
 間違ってたらどうしよう
 そっとありすが背中押す。

 巣の前ガサリと顔出すと
 いきなり対面ゆっくり一家
 大きなまりさと大きなれいむ
 まりさとよく似た子供たち!

 お遊戯していたゆっくり一家
「ゆっくりしていってね!!!」コールした。
「ゆ、ゆ、ゆ……」と引きつるまりさ
 声が喉から出てこない。

 大きく立派な三角帽子
 母さんまりさだ間違いない
 赤ちゃんまりさは感極まって
 涙を流して飛びついた!

「おかーしゃあああぁん!」ジャンプして
 もちもちほっぺにすりすりしたら
 母さんまりさがぶるんと揺れて
 まりさをごろんと蹴飛ばした。

「このこはいきなりなにするの?
 ゆっくりしてないこどもだね!」
 叱ってにらむ母さんまりさ
 まりさはびっくり声も出ない。

 も一度ありすに背中を押されて
 まりさは声を絞り出す。
「おかーしゃんのこどもだよ!
 ゆっくりかえってきたんだよ!」

 顔を見合わせる二人の母さん
 まりさに向いて、威嚇した。
「うそつかないでね! ぷくぅぅぅ!」
「まりさ、しらないよ! ぷくぅぅぅ!」

「ゆっ、ゆうっ、ゆうーっ!」とまりさは悲鳴
 怖くて焦って言葉が出ない
 せっかく母さん会えたのに
 どうしてわかってくれないの?

「まっまりっまりちゃは! ゆううぅぅ!」
 ありすが止める間あらばこそ
 しゃにむにまりさは突っ込んだ
 とにかく優しくしてほしかった。

 母さんまりさはいらいらしてた
 可愛い我が子が春ごろ死んで
 よその子しばらく我が子に見えた
 声をかけては逃げられた。

 あれからずいぶん時間が経って
 ようやく傷も癒えたのに
 今ごろ捨て子がやってきた
 似ても似つかぬおかしな子。

「まりさのこどもはおぼれたよ!」
 母さんまりさは怒鳴って跳ねる
 ドンドンドンと地響き立てる
 また悲しみが湧かないように。

 小さなまりさは涙目叫ぶ。
「おかーしゃんっ!」と悲痛な絶叫
 命と人生かかってる
 けれども母さん背を向ける。

「しらないったらしらないよ!
 ゆっくりしないでどこかへいってね!
 にどとまりさのまえにこないで!」
 一家で巣の中消えてった。

「ゆ・ゆ・ゆ……」とまりさは痙攣。
 驚きすぎて涙も出ない
 そのうち涙は出たけれど
 声はなんにも出なかった。

 おかーしゃんと叫びたかった
 けれども母さん行っちゃった
 呼んでも母さん来ないんだ
 だったら呼んでも仕方ない。

 まりさの後ろで見守るありす
 慰めたいけど言葉がない
 そっとつまんで頭に載せて
 まりさのおうちを後にした。 

 大きな故郷の森の中
 小さな迷子の子どものまりさ
 帰るところがなくなった
 まりさの森はここじゃない。


  12. 

 まりさは森でうまれた子
 ゆっくりしてねと愛された
 ある日川原へ出て行って
 ころりんぽちゃんと落っこちた。

 今またまりさは岩の上
 ぽちゃんと落ちたそこにいる 
 ありすと一晩休んだけれど
 どうしていいかわからない。

 ぽいんぽいんと跳ねてきた
 百万回も跳ねてきた
 母さん会えると思ったからだよ
 ゆっくりたくさん走ったよ。

 けれどもそれは夢だった
 まりさの母さんいなかった
 心にぽっかり深い穴
 穴がまりさを吸い込んだ。

 ころりんぽちゃんとまりさは落ちた
 川の流れに落っこちた
 あのとき板につかまったけど
 もう板なんかいらないや。

 そのとき悲鳴がまりさに届く
「まりさぁぁぁぁ!」とありすの叫び
 岸から飛び込む親友ありす
 無理やりまりさを引き揚げた。

 水から上がったゆっくりまりさ
 大声上げて泣き出した
「なんでまりちゃを たちゅけるのおおお!
 もういきてなんか いちゃくないいいい!」

 ばかっ! とありすの餅肌ビンタ
 まりさの帽子がころりと落ちる
 今までさんざん頑張ったでしょ!
 全部無駄にするつもりなの?

「ありすはまりさがすきなのよ!
 つよいまりさがすきなのよ!
 つよくなくてもすきなのよ!
 しんだらありすもしんじゃうわぁぁ!」

 わんわん泣き出すゆっくりありす
 あっけに取られるゆっくりまりさ
 ありすが泣くのは初めてだ
 いつも自分が最初に泣いた。

 レイパーやめたゆっくりありす
 まりさもありすが大好きだ
 泣いてるありすを見ていたら
 なんだかあんこがほんわりしてきた。

「なくのをやめてね ゆっくりありす
 まりさもありすがすきなんだぜ」
 ちょっぴり背伸びで声をかけ
 ほっぺにちゅっちゅをしてあげた。

 ありすはぽかんと驚いて
 あっという間に真っ赤になった。
 ほんとにほんとにほんとなの?
 うんと言われて有頂天。

「ありすのあいが つうじたのねえええ!!!」
 叫んでまりさに飛びついて
 ぐぬぬと自分を押し殺す
 小さなまりさにはまだ早い。

「じゃあしなないでいてくれる?」
 ありすに聞かれて考える
 まりさの森には着かないけれど
 ありすの森ならいいかもしれない。

「ずっといっしょにゆっくりしてね?」
 ありすはまりさにプロポーズ 
 こくんとうなずくゆっくりまりさ
 二人は仲良くすーりすり。

 そのときありすに違和感走る
「あらあらまりさ、おぼうしは?」
「ゆっ?」と見回すゆっくりまりさ
 帽子はビンタで落ちていた。

 それをくわえたゆっくりまりさ
 ぽいんと頭に載せようとして
 奥に何かがあるのに気付いた
 ぼろぼろになった白いもの。

「どらいふらわーじゃないの、とかいはね」
 まりさのあんこに記憶が戻る
 シロツメクサの花輪には
 大事な思い出詰まってる。

「おかーしゃん!」と駆け出すまりさ
「どうしたの!?」と後追うありす
 草のトンネル一気にくぐり
 昨日のおうちに飛んでいく。

 巣穴の奥には母さんまりさ
 気分が悪くておるすばん
 昨日のまりさが気になった
 なぜか他人に思えない。

「おかーしゃん!」と響く声
 のそのそ出て行く母さんまりさ
 怒鳴ってやろうと思ったら
 まりさが花輪をくわえて出した。

「ゆっくち! ゆっくち!! ゆっくちぃぃ!!!」
 背伸びで叫ぶ小さなまりさ
 それは必死の物まねだ
 たった七日の思い出の。

 母さんまりさは思い出す
 花輪を受け取る我が子の顔を
 世界の誰より幸せそうに
「ゆっくち、ゆっくち!」叫んでた。

 母さんまりさが花輪をくわえ
 横にぽーんと放り出す。
「ゆぅ……!」と落胆しかけたまりさ
 そこにぺたりと当たる頬。

「すーりすーりだよ、おちびちゃん」
 ふんわり柔らか餅肌ほっぺ。
 驚き固まるゆっくりまりさ
「――おかー、しゃん?」

「おかあさんだよ、おちびちゃん」
「おかーしゃんなの? ほんとなの?」
「まりさのあかちゃん、かえってきたの?」
「まりちゃは ゆっくちかえってきたよ!」

「ゆっくりおかえり、まりさのまりさ」
「ゆぅぅぅ、ゆわぁぁん! ゆわぁぁぁぁぁぁん!」
 森の梢に泣き声響く
 今までで一番大きな声。





 赤ちゃんまりさはぽちゃんと落ちて
 百キロ下流へ流された
 たくさんの人と出くわして
 たくさんの道を駆け抜けた

 かじられ、潰され、刺されて、踏まれ
 それでもしぶとく立ち直り
 あんこの力を振り絞り
 はるかな海から帰郷した。

 とっぷり暮れた夜の森
 巣穴の奥から聞こえてくるのは
 まりさの元気な武勇伝
 ゆうゆう驚く家族の声。

「まりさはおうちにもどったよ!
 おかーさんとすりすりするよ!
 ありすといっぱいあかちゃんうむよ!
 まりさは森にかえったよ!!!」



  おわり



生き別れってなんかいいですよね。
せっかくだからドーンと引き離したれと思いまして、この距離。
なお、この文体は、赤ゆっくり漫画の可愛らしさを文章で再現しようとしてひねり出したものです。
YT


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最終更新:2022年05月19日 13:13