fuku1584.txtの続編です。前作を読んでない人にはよくわからない部分があるかもしれませんのでご注意ください。


やあ、良い子のみんな、こんにちは!
俺は爽やかお兄さん。悪を憎む正義のヒーロー、ゆっくり仮面の正体さ。友達には内緒だぜ?
今はヒーローとして活動した後の休息中、つまりティータイムだ。
椅子に座って優雅にお茶を飲む。なんてゆっくりした時間なのだろうか。
え? ゆっくり仮面の時と雰囲気が違うって?
今はプライベートモードだからね。あの仮面の有無で性格を切り替えているのだ。

「ちょっときいてるの? ありすをむしするなんて、なんていなかものなの!」

俺の前にある籠ががたがたと騒ぐ。
これにはゆっくりが三匹詰められている。
こいつらはさっきゆっくりめーりんを苛めていた悪党だ。
ゆっくり仮面となった俺が更生させるために連れて来たのだが、いかんせん、ちとうるさい。折角のゆっくりティータイムが台無しだ。
籠に入ってるのはゆっくりれいむとまりさ、そしてありすだ。
れいむとまりさは気絶しているが、そろそろ目覚めると思う。

「ゆっ!? くらいよ! ここはどこなの!?」
「ゆゆ、みなえない! れいむ! ありす! だいじょうぶなの?」

ほらね。これでまた一段とやかましくなりそうだ。

「むきゅ、あの二匹が目を覚ましたみたいね」
「そうみたいだな」

近くのテーブルの上にいるぱちぇと話す。
加工場で開発された知能強化型人工ゆっくり。それがこのゆっくりぱちゅりーだ。
既に成長しきってはいるが、体は子供ゆっくりぐらいの大きさしかない。
が、そのかわり中身がしっかりと詰まっていて人間並みの知能を持っている。
俺の大切な相棒だ。

「さて、ならそろろそろお仕置きといこうか」

椅子から立ち上がり、籠を背負う。

「じゃあ私はいつも通り、書斎に行ってるわ。何かあったら呼んでね」

と言ってぱちぇは階段を上り、二階の書斎(ほぼぱちぇの私室となっている)へ消えていった。
悪のゆっくり達を更生させるのは俺一人だ。ぱちぇはあまり他のゆっくりに興味がないらしい。

「ゆぅぅぅ! まりさ! ありす! どこにいるのぉぉ!?」
「ここにいるよ!」
「わたしたち、とじこめられているのよ!」

やんややんやと喚く籠を背負ってとある部屋の中に入った。
この部屋には窓が無い。それどころか家具もほとんどない。
部屋の中央に取り付けられているテーブルと隅にある大きな道具箱ぐらいだ。
ここは反省室。悪党どもを懲らしめるために作った部屋だ。我ながらよくやるよ。
鍵をかけ、籠を下ろしてそのまま逆さまにすると、きっちりと詰められていた三匹が落ちてくる。
何が起きたかわからずに辺りを見回すゆっくり達。

「ゆっ! あかるくなったよ!」
「やっとうごけるようになったわ!」
「ゆ? おにいさんだあれ? おにいさんがまりさたちをたすけてくれたの?」

と、まりさが聞いてきた。
別に助けたわけじゃないし、そもそも捕まえたのは俺なのだが。
まあ今はゆっくり仮面の姿じゃないから別人と判断したんだろうな。

「おにいさん! れいむたちをたすけてくれてありがとう!」
「とかいはのありすたちをたすけてくれるおにいさんもすごくとかいはね!」

俺がゆっくり仮面と知らずにれいむとありすがはしゃぐ。
既に餡子脳内では俺は自分たちを助けてくれたいいお兄さんになっているのだろう。
感謝されて悪い気はしないが一応真実を伝えることにしようか。

「いや、別に助けたわけじゃない。というか俺がお前たちを籠に詰めたんだ」

笑顔だった三匹が急に怒った顔になる。
こんなにすぐに切り替えができるなんて、面白いなこいつら。

「ゆっ! おじさんがあのにんげんだったの!!」
「よくもまりさにひどいことしたね! おじさんはゆっくりしんでね!」
「ぜんげんてっかいするわ! やっぱりおじさんはいなかもののばかね!」

凄い手のひらの返しようだ。ここまでくるとあっぱれだな。
呼び方もきちんとおにいさんからおじさんになってるし。

「まあ落ち着け。色々と言いたいこともあるだろうけど、とりあえずお兄さんとお話しようじゃないか」
「ゆっくりできないおじさんとはなすことなんてなにもないよ!」
「さっさとここからでていってね!」
「ぜんぜんとかいはじゃないけど、ここをありすたちのいえにしてあげるわ! ありがたくおもってね!」

ちゃっかり自分の家宣言してやがる。だけどまあこれぐらいはいつもの事だ。
そもそも素直に人の言うことを聞く知能を持つゆっくりなら無闇に他のゆっくりを苛めたりはしないし。
だからゆっくりと言い聞かせるように三匹に言う。

「いいかい、弱い者いじめをするのはいけないことなんだ」
「うるさいよ! れいむたちがなにしようとれいむたちのかってでしょ!」
「じゃあもし君達がいじめられる側になったらどうする? 考えてごらん? とっても嫌な気持ちだろう?」
「ふん! まりさたちがいじめられるなんてありえないよ! まりさたちはすごくつよいんだから!」

さっき蹴られたのを覚えてないのかこいつは。

「ありす、君は確か反省したといったよね?」
「なにいってるの? ありすははんせいしないといけないことなんてなにもやってないんだから、そんなことするはずないじゃない!」

うーん。予想通りだけど、ちょっとこれは骨が折れそうだ。
でも出来るだけ暴力は使いたくない。
俺は別にゆっくりを虐待したいわけじゃない。ちゃんと善悪の分別を付けてほしいだけだ。
だから言葉でわかってくれるのならそれが一番だと考えている。

「もう一度言うよ、弱い者いじめは――」


そんな調子で小一時間ほど経った。
だが目の前の三匹は一向に言うことを聞いてくれそうにない。

「だからね、君たちのやったことは――」
「おじさんさっきからごちゃごちゃうるさいよ!」
「いなかもののことばなんて、きくかちがないわ!」
「それよりまりさはおなかがすいたよ! おじさんはゆっくりいそいでたべものをもってきてね!」

やっぱり駄目か。
仕方ない、あまり気は進まないが実力行使に出るとしよう。
とりあえず一番近くにいたれいむを掴み上げた。

「ゆっ! なにするの! ばかなおじさんはれいむにふれないでぶっ!?」

れいむが最後までしゃべり終える前に、パーンという音が部屋に響く。
それは俺がれいむの左頬を平手で叩いた音だった。
そしてすかさず逆方向からもう一度れいむの頬をはたく。
れいむが何か言おうとするがその隙を与えず再び右頬をビンタする。

「悪い子だ。悪い子だ」

左頬、右頬、左、右、左、右、左…と平手で打ち続ける。
あまり力は入れていないが、それでもゆっくりにとっては結構なダメージなのだろう、れいむの目に涙が浮かび始めた。

「悪い子だ。悪い子だ」
「れいむになにするの! ゆっくりしないでれいむをはなしてあげてね!」
「れいむをはなしなさい! このいなかもの!」

口を開く暇もないれいむに代わって他の二匹が抗議してくる。
だが俺は止める気はない。言葉で理解してくれなかったこいつらが悪いのだから。
何度言っても聞き分けのない子には体罰を与えるしかないだろう?



三十分ほど経っただろうか。そろそろ手が疲れ始めてきた。
一旦休憩しようと思い、れいむを床に置くとすぐさまありすとまりさが駆け寄った。

「れいむ! だいじょうぶ!?」
「よくがまんしたわ! さすがれいむはとかいはね!」

お仕置きから逃れたれいむを励ます二匹。
しかし、当のれいむの表情は暗く、何やらぶつぶつと呟いている。

「ゆ……れいむはわるいこ…れいむはわるいこ……」

うん、上出来。
こうやってまず自分は悪いゆっくりなんだと理解させることが必要だ。
そうすれば今後の更生が楽になる。
ちょっと心が痛むけどね。

「ゆゆっ!? なにいってるの! れいむはわるいこじゃないよ!」
「そうよ! れいむがわるいこなわけないわ! わるいのはあのいなかもののおじさんよ!」

何とか二匹が元気を出させようとしているが、れいむは聞こえているかも怪しい。
ただぶつぶつと「れいむはわるいこ」と繰り返している。

「おじさんのせいでれいむがおちこんじゃったよ! ゆっくりあやまってね!」
「れいむをこんなめにあわせるなんて! とんだいなかものね!」

と、こちらを向いて二匹は非難を飛ばしてくる。まあこいつらの言うこともわかる。
突然暴力を振るわれたら誰だって嫌なものだからね。
でも君達何言っても聞く耳持たずだったじゃないか。
ちょっと休憩しようと思った俺は、部屋の隅にある大きな道具箱を開けて中からあるものを三つ取り出す。
これぞゆっくり用道具として最もポピュラーなもの、透明な箱である。
三つの透明な箱をテーブル上に横に並べ、その中にそれぞれ一匹ずつ入れていく。
ぴったりと箱に詰まったゆっくり達。

「おじさん! ゆっくりはやくここからだしてね!」
「うごけないわ! わたしたちをどうするつもりなの!?」
「…れいむはわるいこ……れいむはわるいこ…れいむは…」

しばらくこの中で反省してもらおう…ってあれ? なんだかまりさの箱にだけ余裕があるな。
まあ特に問題なさそうなのでいいか。

「しばらくその中で反省しなさい。おとなしくしていたら出してあげるよ」

はんせいすることなんてないよ、やら何やらと聞こえるがある程度放っておいたら静かになるだろう。
三匹を置いて部屋から出る。
さて、このゆっくり達にどうやって常識を教え込もうか。
そんな事を考えこんでいた時だった。

ガシャン!

という何かが割れる音。
驚いてドアに付いた小さな窓から部屋の中を覗いてみると、まりさがテーブルの下で跳ねていた。

「ゆ! やった! うごけるようになったよ!」

ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねまわるまりさ。その周りには透明な箱の残骸と思われるものが散らばっている。
どうやら入っていた透明な箱ごとテーブルから落ち、その衝撃で箱は割れてしまったらしい。
そんな馬鹿な、と思ったがよく思い出してみるとあの箱は確かそのへんの露店で怪しいおっさんから買ったものだったはずだ。
あまりにも安かったのでついつい購入してしまったが…やはり不良品だったのか。問題大ありじゃん。
安物買いの銭失いとはよく言ったものだね。
しばらく跳びまわっていたまりさだが、やがてテーブルの上へと昇り始めた。

「ゆっ! ありす! れいむ! いまたすけてあげるからね!」

他の二匹も自分と同じようにすれば、つまりテーブルから落とせば助かると思ったのだろう。
俺、おとなしくしておいてと言ったよね? どうして言う事を聞いてくれないのか。
――ならもっと痛めつけてやればいい。
と、突然俺の心の中で何者かが呟いた気がした。
いや、そんな事は出来ない。無闇やたらと生き物を傷つけるのは悪い事だ。
――どうせあいつらは悪党だ。虐められても文句は言えないだろ?
再びヤツが囁やいた。
頭からその声を振り払い、窓を覗く。
部屋の中ではテーブルの上からまりさがありすの入った透明な箱を後ろから押していた。

「ありす、もうすこしだよ! ちょっといたいかもしれないけど、がまんしてね!」
「ありがとうまりさ! さすがとかいははちがうわね!」
「とうぜんだよ! あんなばかなにんげんなんてみんなでかかればやっつけれるよ!」
「そうね! あのおじさんをやっつけたあとはまたさんにんでゆっくりしましょう!」
「ゆっ! またたのしいめーりんいじめでもしようね!」

――な、反省してないだろ?
そうかもしれない…でも、粘り強く説得すればわかってくれるはずだ。
そう自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。

「いなかもののおじさんにはありすたちのすばらしさがわからないのよ!」
「だからこんなことするんだね! まったく、あたまがわるいね!」

調子が出てきて次々に悪口を言う二匹。まあそれは許す。
しかし。

「それにしてもあのおじさん、ばかみたいだね! ちびのぱちゅりーなんてつれてさ!」
「わらえるわよね! あんなむらさきもやしのどこがかわいいのかしら! わたしたちのほうがよっぽどかわいいのにね!」

その矛先がぱちぇに向った時、俺の意識は闇に沈んだ。





そのころ、ちびぱちゅりーは書斎で本を読みながら誰に言うでもなく呟いた。

「むきゅ。説明しよう、爽やかお兄さんは悪を憎む正義のヒーロー、ゆっくり仮面である。
しかし、彼の心にはもう一人、邪悪な魂が住みついているのだ。
その名は虐待鬼意山。三度の飯よりゆっくりを虐めるのが大好きな妖怪の一種である。
自分の中に存在する悪に屈してしまった時、ゆっくり仮面の心は闇に染まってしまうのだ」

そこまで言うとちびぱちゅりーはパタンと本を閉じた。

「さて、あの子達に微笑むのは天使か。それとも…」

閉じた本は読み終えたのだろう、彼女は新しい本を本棚から取り出した。
冒険物語だろうか、その表紙には剣を持つ騎士と火を噴くドラゴンが描かれている。

「むきゅー。まぁ、別にどうでもいいけどね」

その表紙をゆっくりとめくり始めるちびぱちゅりー。
こうして彼女は新たなる冒険の世界へと旅立った。









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最終更新:2022年05月19日 15:16