饅頭に人の顔が貼り付いてるだけの物体、ゆっくり。
この謎生物がここ、幻想郷に突然現れてから久しく経つ。

最初の頃こそ、「ゆっくりしていってね!」→「ちょうきめえ!」のコンボで駆除されるだけだったが、
徐々に研究が進み、人間にとって様々な形で役立つものだという認識が広まってきた。
ゆっくりが今では生活物資の中でも重要な位置づけになりつつある。

ゆっくりの一番よく知られた用途はやはり食用。
何せ饅頭なので、少し汚れを落とすだけでそのまま食べられる。
幻想郷は甘味料を精製できる作物があまりよく育たないため、
これは本当にありがたいものであった。

次に力仕事。
ゆっくりは個体差が激しく、中には牛や馬以上に大きく力強く育つ傾向を持つ種がいるのだ。
これらの系統を幼体の頃から調教することで、家畜同様の存在として利用。
知能も比較的高いため、農作業や運送業の負担は大きく軽減された。

そして愛玩用。
見た目はそれなりに愛嬌があり、人語を解することもあってペットとしてもよく飼育されている。
中には徹底的な教育を施し、ゆっくりに秘書のような役割を担わせている人もいるくらいだ。

しかし、これらの用途に充てられるゆっくりは一握りの良質なゆっくりでおおむね足りる。
残りの、箸にも棒にもかからないようなゆっくりたちにはどのような使い道があるのか。
それを今から見て行こうと思う。

_______________________________


昼が一年で最も長い時期、
幻想郷の森の中は大勢の人間たちで珍しく賑わっていた。
誰もがかごを担いでおり、手には長い菜ばしが握られている。
見た目にはゴミ拾いか山菜取りに来たようにしか見えない。

しかし、今の彼らの目的はそんなものではなく、ゆっくりだ。
彼らは木の根元を主に探り、それらの居場所を見つけようとしていた。

「あ、いたいた 相変わらずきめぇ外見だなあ」
ゆっくりを生け捕りに来た一人である青年が、大木の根元に空いた穴を覗き込むなり、苦笑しながらつぶやく。

もし何も知らない現代人がこれを見たら卒倒しているだろう。
穴の中には人間の生首のような物体がいくつも鎮座していた。これがゆっくりだ。

ゆっくりたちはまだこちらに危険性に気づいてない様子だ。
ゆっくりしていってね、と無邪気にこちらへ話しかけてくる。

しかし青年はそれに答えることなく、菜ばしで手早くゆっくりたちを背中のかごへ詰めていく。
さすがにゆっくりたちも騒ぎ始めるが、力の差が有りすぎて抵抗らしいことは一切出来ない。

数分もしないうちに、かごの中はゆっくりで満たされた。
傍目からは、巨大な白キノコがかごにたくさん収まっているようにも見える。

うーん大漁大漁、と彼は満足げだ。かごの中からは声が幾重にも聞こえてくる。
ふと周囲を見回すと、青年の仲間達がやはりゆっくりたちを満載したかごを背負っていた。

もう充分かね、と皆に呼びかけると、肯定だけが返事として来る。
この日のゆっくり捕りはこれで完了だ。



人里へ戻った青年たちは、休むよりも先に、とある作業場を訪れた。
里の人々からは一般にかぎ屋、たま屋と呼ばれ親しまれているところだ。
やあおつかれさん、と作業場の入り口で番をしていた壮年の男性が、ねぎらいの言葉を彼らへかける。
準備はできてるから、と続けて言われ、会釈した青年たちは作業場の奥へと進む。

一分ほど歩くと、周囲に比べてひときわ大きな建物が見えてきた。
彼らはそこへ重い扉を開いて入る。内部は上にも横にも意外なほど広く、遮蔽物も特に見当たらない。
せいぜい作業用の小道具が散らばっている程度だ。ただ大広間があるだけ。大勢が作業するための構造。

あらよっと、と青年たちはかごの中身を床にぶちまける。そこでようやく一息つく者も多い。
広間に放り出されたゆっくりたちは人間達に悪口を浴びせる。
しかし彼らはその言葉に反応せず、ただゆっくりたちの様子を眺めているだけ。

今は特にこれ以上何もされないようだとわかると、この建物を自分達のゆっくりプレイスだと宣言し、
ゆっくりたちは広間を好きに跳ね回り始める。割りと楽しそうだ。
これがゆっくりたちにとって最後の自由時間。

10分ほどそんな光景が続いていたのだが、眺めていた青年がふと口を開く。
「こいつらの中で他に回せそうなのいないな。全部こっちで使うわ」

彼らはゆっくりたちを選別していたのだ。
ゆっくりたちに好きにさせ、どんな行動をとるかを見れば、
他の役に立つかどうかはだいたい判断がついてしまう。

青年たちの捕ってきたゆっくりたちは自らの心配をまるでせず、ただ目の前の状況を自分勝手に楽しむだけ。
どんな運命が待っているか考えようともしない。

家族間のつながりも弱いらしく、他のゆっくりを心配するとかそういったそぶりもなかった。
野生育ちだけあって皮は丈夫なようだが、それだけだ。おおよそ最低品質のゆっくり。
こうしてこのゆっくりたちの運命は決まった。

彼らが一斉に動く。
飛び跳ねていたゆっくりたちは再び捕まえられ、かごの中に詰めなおされる。
また悪口が飛んでくるが、蝉の鳴き声程度にしか青年たちは感じていない。
そして作業が始まった。

手に持ったゆっくりに対して、男たちが小刀を当てる。
ゆっくりたちもおびえ、ゆっくりやめてね、などと命乞いの言葉を投げかけるが、やはり反応はない。
よし、と彼らは軽く気合を入れると、ジャガイモ剥きの要領でゆっくりたちの頭髪を剃っていく。

皮には傷をつけないよう、慎重かつ素早く行う。一匹剃り終われば、次のゆっくりをつかみ出す。
髪を剃られているゆっくりたちの悲鳴は一際大きくなるが、それは人間には無視され、
かごの中のゆっくりたちをさらに怯えさせるだけで終わる。

30分も経たずに、ゆっくりたちは全て頭髪を失い、ただの人面饅頭と成り果てる。
床に整然と並べられたそれらはいよいよもって不気味だ。
逃げ出さないような処置がなされているわけではないが、
ショックが大きいらしくどれも白目を剥いた放心状態。そんなことはおきないだろう。

ここからが難しい局面となる。
青年たちはまず手のひらサイズのゆっくりから取り掛かることにした。
ゆっくりを床に押し当て、静かに転がす。
その場で何度も回しているうちに、人面饅頭の形状が真球に近くなっていく。

何度も顔面を床へ押し付けられ、ゆっくりたちはまたくぐもった悲鳴をあげる。
彼らはお互いに手元のゆっくりの形状を確認しあい、できるだけ真球の精度を高めていった。

だいたい満足のいく程度に形状が整ったところで、催眠ガスを人面ボールに吹きつけ、仮死状態にする。
そうしてゆっくりたちはまた別の木箱に詰めなおされていく。

こうして一定の処理をなされたゆっくりたちとは別に、建物の一角ではもう一つ、別の工程が進んでいた。
こちらもゆっくりたちを用いることには変わらないが、扱いがだいぶ手荒い。
ゆっくりの中身である餡子を手で取り除き、集めているのだ。

餡子を全て失えばゆっくりたちは絶命する。やめてえ、などと悲鳴が常に絶えない。
からっぽの皮は、床へ無造作に捨てられ、頃合を見計らってゴミとして片付けられる。
まさにゆっくりたちの処刑場だ。

集められた餡子は黒色火薬などの様々な薬品と配合される。
混合された餡子は一般に和剤と呼ばれ、この作業場で製造されている製品、花火玉の部材となるのだ。

さらに混合餡子、和剤は花火玉の炸裂に用いる割薬用と爆発炎の色合いを調節する「星」用へ分けられ、
それぞれ水や糊とさらに混ぜ合わせた上で、鉄釜の中に用意されたモミ殻や砂粒へまぶされていく。

それらは少しずつまとまった形となっていき、次第に丸みを帯びる。
最終的には、火薬でできた親指サイズの玉がいくつも釜の中に鎮座することになった。
花火の核となる「星」だ。これが爆発することで夜空に花が咲く。

野生のゆっくりの多くは食べられなくはないが、無機物さえ食べる雑食のため、不純物が餡子に多く含まれており、あまり美味しくない。
一部の豊かな餌場を持つゆっくりや養殖されているものだけが食用になっている。

しかし、食用以外の用途においても、ゆっくりたちの餡子は大変便利な性質を持つ。
野生で暮らすうちにゆっくりの体内へ蓄積される様々な不純物は、集めれば化学薬品として使える濃度にまで達しているのだ。
餡子そのものも変質しているらしく、それらの薬品を安定させる基材として働いている。

幻想郷で火薬の原材料というと、厠で得られる焔硝くらいしかまとまった量が取れなかったものだが、
野生のゆっくりの餡子に含まれる薬品を使って「星」を作れば、バリエーションに富む爆発炎を持つ花火が作れるのだ。
薬品以外の不純物も、爆発炎の色に個性を与えてくれる。
そのため、安全に作業を行うという意味でも、基材である餡子ごと配合してしまうのが今の主流だ。

基材を何重にも用いて安定させているとはいえ火薬。
慎重に箱へ詰められ、作業場の庭で天日干しされる。
前述の、真球状に整えられた仮死状態のゆっくりたちも白目を剥いたまま並べられている。
正直、かなり不気味だ。

「星」は一度乾燥させれば完成というわけではない。
予定される爆発炎の大きさに合わせ、何度も和剤を塗りつけて大きさを増す必要がある。
塗りつける度に乾燥させる必要が有り、とても手間がかかるが、この手間を惜しめばあのきれいな花火は見られないのだ。

今回はあらかじめ作っておいた「星」で花火玉の製作を行うので、
真球状のゆっくりたちの乾燥を待てばいい。

このゆっくりたちは「星」を包み込む玉皮として集められたのだ。
野生のゆっくりの中でも、そこそこの強度の皮を持つ種類がこの工程に回される。
少し手を加えただけで理想的な玉皮として働いてくれるあたり、無駄が少ない物体だ。

乾燥し、皮がだいたい固まったゆっくりたちは、作業場の中へ再び戻される。
まな板の上へ無造作にあけられると、仮死状態だったゆっくりたちが意識を取り戻す。
意識を取り戻さないほうが幸せなのだが。

皮が固まっているため、ゆっくりたちはあまり口を動かせず、
それらの出す声はくぐもっていてよく理解できない。文句でも言っているのか。
青年たちが包丁を取り出すと、ゆっくりたちの玉が微動する。逃げようとしているのだろう。
だが皮が固まり動けない今、そんなことは出来るわけもない。

そして人間で言う耳のラインで、ゆっくりたちは縦へ一気に両断される。
ゆ゛ぎっ゛などと小さく悲鳴があがり、ゆっくりたちの一部はここで絶命してしまう。
野生のゆっくりは生命力が強く、餡子が完全に失われない限り、落命することはあまりないと一般に言われるが、
短時間で大量の餡子を失えばやはり死ぬ確率は高い。

仮死状態から覚めたばかりで、皮も固まり感覚が鈍っていても、この激痛は堪える。
残りの多くも口から軽く泡を吹いてだいたい気絶した。

半分に割られたゆっくりたちは、中の餡子を掻き出されていく。
そうするとゆっくりは意識を取り戻し、ゆ゛っゆ゛っと不安定な声が漏れる。

「星」が中に詰められる程度まで餡子を減らしても、大半のゆっくりたちは息があるようだ。
そして後頭部の方には、花火玉の起爆において、導火線の役割を果たす「親導」という棒が差し込まれる。
これが発射の際に外皮から引火し、中心部まで到達すれば爆発するのだ。

餡子を接着剤代わりにして、ゆっくりの中に「星」が隙間なく埋められていく。
中心部にはさらに割薬が詰め込まれる。これを和紙で固定すれば中身は大体完成だ。
こうして、二つに割られたゆっくりは再び貼り合わされ、外からも和紙が丁寧に貼られる。
顔の部分だけは和紙を貼らずに露出させたままにしておく。

生首のミイラのような物体が、無数に作成され、ゆっくり花火玉の製作はこれで一段落。
あとは出荷を待つのみだ。息のあるゆっくりたちは泣き言らしき声を延々と垂れ流している。
餡子が残ってさえいれば、何も食べなくてもゆっくりはしばらく生きていられるのだ。
今回製作された分は再び仮死状態にされ、翌週には納入されていった。






花火大会の夜。
人里の傍らを流れる大きな川の中州に、打ち上げ用の大筒がいくつも立てられていた。
周囲には打ち上げの職人達が大勢で待機し、世間話に花が咲く。
やがて箱詰めされた花火玉が到着すると、彼らは打ち上げ作業に取り掛かる。

箱の蓋を開けると、中にはゆっくり花火玉たちが、顔をこちらに向ける形で収まっていた。まだ生きている。
ゆっくりたちは仮死状態から覚め、こちらに気づくと、ゆっくりしていってね、と言葉を放つ。

今日の花火玉は元気がいいな、と打ち上げ職人達も感心した様子だ。
「今年のゆっくり花火玉はイキがいいやつばかりですからね。皆さんにはとびきりの悲鳴を聞かせられそうですよ」
花火職人である青年たちは、自信ありげに答えた。

花火玉のうちの一つを慎重に掴む。
自由にしてもらえると思ったのか、掴まれたゆっくりの顔の表情が明るいものになる。
だがそんなゆっくりを無視して彼らは大筒の中にそれを装填した。

大筒の奥からゆっくりの不思議がるような声が聞こえる。
職人達はきちんと玉が収まっているか確認し、さて、とつぶやいた後、大声を出した。

「発射いくぞーーーー!」
点火。

「ゆゆ!?」

ゆっくりたちも異変に気づく。

炒られた豆が弾けるような音が大筒の引火した導火線から聞こえてくる。
ゆっくり出してね!とゆっくりも逃げ出そうとするが、どうにもならない。
射出。

「ゆぴゅっ!?……あじゅいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……」

高速で打ち出されたゆっくり花火玉は、太い白色の尾を引いて上昇。一般に昇銀竜と呼ばれる花火玉だ。

「ゆっ!?すごい!おそらがちかいよ!」

打ち出されたゆっくりは、数瞬後の自分の運命も知らず、のんきに最後の思考を行う。

発射された際に親導へ引火した火が、ゆっくり花火玉の中心部に到達した。
ゆっくりの目や口を押しのけて爆圧が開放される。

「っぶぇ!」

炸裂。
ゆっくりは爆炎の中に消えた。

夜空に一輪の花が咲く。
無数の金の火塵が尾を引いて散華し、その過程で様々に変色していった。
菊先と言われる、定番の花火だ。

おお、と川岸の観客たちから歓声があがる。その中には花火玉の製作を行った青年達もいた。
花火の出来に満足げだ。

だがゆっくりたちはそれどころではない。
仲間が打ち上げられ爆発するところを間近で見て、恐慌状態に陥っている。
発射場の周辺に漂う、爆発煙の匂いもそれを煽った。

ゆっくり花火玉の入った箱が軽く振動しはじめる。
ゆっくりたちが泣き喚いたり、逃げ出そうと体をよじっているからだ。
さすがにこれは危ないので、耐火服を着込んだ者が箱を押さえつける。

箱の中のゆっくりたちは一様に絶望の表情で染まり、悲鳴を上げ続けた。
だが、これこそ花火師たちの狙いだ。

次の花火の発射準備が進む。
いやだあ、などと掴み上げられたゆっくりたちが叫ぶが、誰も相手にしない。
そうして、次の花火が淡々と打ち上げられる。

「…………ひぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああああ!?!」「っぷゅ!」

空にゆっくり花火玉たちの悲鳴が響き渡る。直後、爆炎が空に花開く。
夏の夜においては、これも風流の一つだ。

通常の花火玉でも、打ち上げられると独特の風切り音が聞こえるが、
ゆっくりの悲鳴はその何倍も大きい。発射場からだいぶ離れた博麗神社でも聞こえるくらいだ。
恐怖の悲鳴と、華麗な爆炎の併せ技。耳と目で楽しむ、これがゆっくり花火玉の醍醐味だ。

「おがぁざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああん!」「あがっ!」

「もういやだぁああ!……ぱびゃぁぁぁぁぁぁああああああっ!」「ぱじゅっ!」

「……わきゃらなぃょぉぉぉぉぉぉおおお?!」「わぎゅっ!?」

「……ちぃんぽぽぽぽっぽぽぽほっ!」「ぽりゅっぷ!」

ゆっくりたちの悲鳴が爆炎に消えるたび、たまや、かぎやなどと明るい歓声が立ち上がる。

花火大会は滞りなく進み、ゆっくり花火玉の残りもほとんどなくなった。
そこへ、大会主催者、と書かれた札を胸につけた人物が現れる。

「あ!これはこれは 鬼意山ではないですか」
鬼意山、と呼ばれた彼は、打ち上げ職人達にに軽く会釈すると、
そろそろ時間なのでラストにふさわしいやつお願いしますよ、と不敵に笑う。

「ゆぶぶ……」

鬼意山のリクエストを受け、打ち上げ職人達がリヤカーに乗せて持ち出したのは、
ドスゆっくりを原材料にした、特大の花火玉だ。
現代日本の花火玉の規格で言うと、30号の花火玉のさらに数倍はある。
当のドスゆっくりは子供のゆっくりたちが目の前で次々と星になったため、すっかり生気を失っていた。

巨大なドスゆっくり花火玉を打ち上げるには、
それに用いる筒も巨大なものとなる。もはや戦争で使われる大砲にしか見えない。

ドスゆっくりは十数人がかりで荷揚げされ、縄や台車を使われて筒のの中に収まる。
ゆっくりしね、と周囲の人間に当り散らすが、返事は一切返ってこない。
もう彼らにとっては、ゆっくりの言うことは動物の鳴き声程度にしか思えないのだ。
カエルや蝉の鳴き声に耳をすますことはあっても、返事をすることなどない。

悲鳴などあげてやるものか。それがドスゆっくりの最後の意地だった。
だが、筒に収まると同時に、大筒の周囲から職人達が退避していく。
そして、数字を数える大声が響き始める。

今までの発射過程とは違う様子に、ドス花火玉も戸惑う。
やがて、大声が0を告げると、筒の下から爆炎と轟音が飛び出す。

「ゆがぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!?!!!!?」

他の花火玉とは比較にならない高速度で、大筒ごとドスゆっくりは飛翔。
決してあげるものかと誓った悲鳴も夜空にあっさり響き渡る。
爆発の恐怖と、ゆっくりの許容限度を超えた超高速に、ドスゆっくりの精神は崩壊寸前だ。

発射煙を引きながら上昇する大筒。
やがて、大筒に封入された燃料が尽き、夜空の頂点に届いたところで、
ドスゆっくりの中心部の爆薬に火が達した。

一秒を百分割しても足りない刹那の中で、
内部からの膨大な爆圧に、ドスゆっくりの真球状の体は醜く歪み、膨張する。
その両目や歯、舌がまず吹き飛び、ほぼ同時に餡子が玉皮を突き破り飛び出す。

「げぶっ!」

その醜く歪んだ姿も、一瞬でまばゆい光の中に消えた。

花火大会最後の大花火は、昼と見まごう程の輝きと轟音を放ち、消えていく。
あまりの大音響に、窓硝子にヒビが入る家屋も出た。
だがそのことに不満を持つ者はいない。
これが今の幻想郷で生きる普通の人間達にできる、最大最強の芸術作品なのだ。

花火大会が終わり、帰路に着く人々の顔は一様に明るい表情。
その様子を眺める鬼意山と職人達も実に満足そうだ。
ゆっくりたちの破片が散らばる発射場で、
次はもっと残虐にやりたいですね!と、彼らは早くも次回大会に意欲を見せていた。



超重量の物体を打ち上げるには、通常の爆薬では無理!
そう考えた職人達は、妖怪たちと協力して新しい打ち上げ方法と専用爆薬を開発した。
これは現代世界の歴史においても、ロケット打ち上げ用に使われたことがあるものだ。

そして打ち上げの必要量を用意するのに、数千、数万のゆっくりが潰されたという。
これだけの手間暇をかけてこそ、花火というものは人の心を打つひとときを提供してくれる。

クソの役にも立たないゆっくりたちであっても、このように工業製品の原材料として活躍してくれるのだ。
人間がゆっくりを真の意味で使いこなすのも、そう遠くは無いだろう。



ゆっくり花火 おしまい











  • あとがき
ここまで読んでくれた方ありがとうございます。
物語風の文章を書くのは小学生以来なので、
「へー、俺こんな文章書くんだ……」と妙に客観的な視点からの作業になりました。

もっとゆっくりをじっくり痛めつけたかったのですが、
花火が一瞬で散るものである上、花火玉の製作過程へゆっくりをどうやって組み込むかに夢中で、
そこまでなかなか気が回らないという結果に。

もっとゆっくり同士のやりとりがあったほうが、虐待にも熱が入って印象的なものになるので、
もし次があればそこを重視した話を作ってみたいです。

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最終更新:2022年05月19日 15:20