• 色々設定借りてます。
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「ちょうちょさん!まりさにゆっくりつかまってね!」

多くのゆっくり達がそこそこ平和に暮らしている森。
その一角でゆっくりまりさは蝶を追いかけ、ぽいんぽいんと跳ね回っていた。
遊んでいるのではない。家族のために必死でご飯集めをしているところだ。  
綺麗な蝶を持ち帰りれいむと子供達を喜ばせたいと、何度捕まえるのに失敗してもへこたれずに頑張っていた。

「おーいまりさ、ゆっくりしていってね」
「ゆっくりしていってね!ゆあ!ちょうちょさんが…」

そんなまりさに誰かが近づいて声を掛けてきた。
まりさが反射的に挨拶を返している間に蝶はひらひらと遠くへ飛んで行てしまう。

「ゆゆ!……まりさになにかごようなの!?」
「ごめんね。ちょっと見て欲しいものがあるんだ」

少し腹立たしさを覚えて振り向くと相手は高い所に顔があった。人間だ。
人間は美味しいご飯を独り占めにしたりゆっくりプレイスから追い出したり、ゆっくりさせないと聞いたことがある。
まりさは許せないと、膨れて強さを見せ付けようとした。だが思い直す。
人間はゆっくり流の挨拶をしてきたのだから、もしかしてゆっくりさせてくれるかもしれないと。
それに何かゆっくり出来ない事をして来るなら自慢の体当たりで追い返せばいいのだ。
まりさは悠然と構え、人間の相手をしてあげることにした。

まりさに声を掛けたのは若い青年だ。
青年は落ち着いたまりさを見て、かぶっていたまりさの物と良く似た黒い帽子を脱ぎ、
まりさの目の前に持っていき中を見せたり、逆さまにして軽く叩いたりし始める。

「ゆ?ゆ?おぼうしがどうかしたの?」
「この通り帽子には何もないよね?でも今から魔法でこの帽子の中からあまあまさんを出してみせます」
「ゆ!あまあまさんはゆっくりできるんだよ!どこにあるの!?」

まりさはあまあまという言葉を聞いて不機嫌さが吹き飛んだ。
仲間からあまあまは森の中にあるどんなご飯よりゆっくり出来る物だと聞いた事があるのだ。
嬉しくなってもうどうにも抑えきれずに、 ぴょんぴょんと跳ね回って人間の足に頭をぶつけてしまうほどだ。
青年はドタバタ騒ぎ出したまりさを手で制し落ち着くまで待ってから、白いハンカチを取り出し
ヒラヒラさせてから帽子の上にかぶせた。

「それでは…チチンプイプイ!あまあまさん出て来い!」 ドサドサ!
「ゆゆゆ!?」

青年が何事かを唱えてハンカチを取り帽子を逆さまにすると甘い匂いがする物がたくさんまりさの目の前に落ちてきた。
何も無かったはずなのにどうして?
まりさは目をパチクリさせてぽかーんと口を開けることしか出来なかった。
青年は飴玉の包みを取って呆けているまりさの口に運ぶ。

「ゆ!ゆゆーん!ぺ~ろぺ~ろ、し、しあわせ~!!!」

何とゆっくりした味なんだろう。ほっぺがどうにかなってしまいそう。
今まで味わった事が無い甘さにまりさは左右に体をくねらせて夢見心地だ。

「おにいさんこれめっちゃうめーよ!ぜんぶまりさにちょうだいね!」
「だーめ、一つだけね。そーれ…チチンプイプイ!」
「ゆゆ!?ないよ!?きえちゃったよ!?」

まりさが我に返って人間の方に注意を向けた時、飴玉の最後の一個が帽子に入っていく所だった。
青年は何事かを唱えて帽子を逆さまにする。
何も落ちて来ない。帽子に入ったはずの飴玉が消えてしまったのだ。
まりさは帽子の中を穴の開くほど見つめるが欠片一つも見つからない。
不思議すぎて、奥が見えているのに中に入ろうとしてしまうほどだ。
青年はそんなまりさをまた手で制して、帽子マジックを何度も繰り返す。

「びっくりー!どうなってるの!?ゆめじゃないよね!
にんげんさんのおぼうしからあまあまさんがでてくるなんてしらなかったよ!!
にんげんさんのおぼうしってすごいね!!もういっかいやってみてね!!」

飴玉が現れたり消えたり、何度見てもすごくて目が離せない。
驚きのあまり言葉が止められない。
とても興奮してぴょんぴょんと跳ねずにもいられない。

青年はそんなまりさの様子を口元を手で隠し眉間にしわを寄せながら見つめていた。

「にんげんさんがうらやましいよ!おぼうしからあまあまさんがでるな…ゆゆ!?
まりさのおぼうしからもあまあまさんがでる…の?そういえばためしたことなかったよ!
にんげんさん、どうなの!?」
「んー、もしかしたらいっぱい頑張れば出るかもな」
「ゆゆーん!!!」

まりさは素敵な事に気が付き、お墨付きももらって有頂天だ。
目の色を変えて、もう待って入られないとばかりに体を乱暴に揺らして帽子を地面に落とすと、
口にくわえて上下に振り始める。

「まりさのすてきなおぼうしさん!あまあまさんをだしてね!ゆ!ゆ!」

もうまりさの頭の中ではあまあまが出ることが確定していた。
ゆっくり出来る素晴らしい一生が保証されたようなものだ。
キノコや芋虫等より美味しいあまあまを家族にもいっぱい出してあげたい。
食卓で家族に褒めちぎられている場面を想像して「ゆへへ!」と笑い出して帽子を落としたりしながら、
もう青年が眼中にないくらい夢中で、あまあまが出てくれることを願い帽子を振り続ける。
青年はまりさをしばらくじっと見つめた後、そっとその場を離れて行った。 

「くくくっ…可愛い奴だ…」           


その後まりさはお帽子からあまあまを出そうとご飯集めも忘れて奮闘したが、出てくるのは草の破片や砂ばかり。
はっと気が付いた時にはもう辺りは暗くなりつつあった。
れみりゃに食べられてはたまらないとあわててお家に飛んで帰る。
待っていたのはご飯を持ってこなかったまりさへの非難の嵐。
素直に謝っておけば良かったのだが、まりさが言い訳や反論をしたため犬も食わない夫婦喧嘩が勃発した。


やがて喧嘩は治ったが、まりさと親れいむは体当たりバトルで所々皮が破れてボロボロだ。
れいむは作り笑いをしながら、隅で固まり恐怖に身をすくめていた子供達を呼んだ。
不本意ながら少ない予備の食料での夕食タイム。
もちろん変な言い訳をして子供達にいらぬ期待を持たせたまりさだけはご飯抜きだったが。  

「おぼうしさんからあまあまさんがでてくるはずなのおおお!!!」





お天気が良いので家族総出でピクニックに出発したまりさとありすの一家。   
みんなで歌を歌いながら、競争したりしながらの楽しいゆっくりウォーク。
そんな一家の元にも帽子マジックをする青年は現れた。
青年はまず、子ゆっくりでも丸ごと頬張れる程度の小さな飴玉を差し出した。

「あまあまだよ。ゆっくりしていってね」
「ぴゅるるるー!ゆっくりしていってね!おにいさんはゆっくりできそうね!」

プクーと膨らんで子供達を体の後ろに隠し警戒感を露にしていた親ゆっくり達だったが、
飴玉を見せるとあっさり警戒を解き態度を軟化させた。

人間がゆっくりに何かをしてきた時は碌な事にならない事が多いのに…。

「……!……ゆっきゅりー!!」
「おいちー!!なにきょれー!!」
「しゃわしぇー!!!にゃんてときゃいはにゃあじにゃのー!!!」

あまりの美味しさに感動して喜びを抑えきれずころころと転がり始める子ゆっくり達。
親ゆっくり達はそんな子供達を嬉しそうな、愛おしそうな表情で見つめる。
しかし、しばらくすると青年の方に物欲しそうな視線を送り始める。
飴玉は子ゆっくり達の分しか渡されなかったからだ。
そこで青年は頃合い良しと帽子マジックを始めた。

帽子から飴玉が出たり消えたり不思議なイベントにゆっくり一家はしばらく目を丸くして
固まっていたが、やがて感嘆の声をあげ始める。

「どうなってるんだぜ!?」
「なんてふしぎなの!?」
「ゆわ!?ゆわわー!?」
「にんげんしゃんのおぼうちしゅごーい!!」
「ゆっゆっ!!もういっきゃいやっちぇねー!!」

青年は最後に普通サイズの飴玉を二つだけ残して帽子をかぶり、手でどうぞと促す。
親まりさはすぐに飛び付いて飴玉にむしゃぶりついた。
だが親ありすは子供達の物欲しそうな視線に気が付いて困り顔だ。     

「ゆ!ままはいらないからちびちゃんたちがたべてもいいのよ!」
「ゆっきゅりー!!」
「ほんちょー!?」
「みゃみゃ、ありがちょー!」

待ってましたとばかりに涎を垂らして飴玉に飛びつく子ゆっくり達。
飴玉を中心にぷにぷにの柔らかほっぺが潰れてしまうのではと思うほどくっつけあって舐め始める。

「「「ぺーろぺーろ♪しゃわしぇー♪」」」

親ありすはもうそれだけで、お腹いっぱい胸いっぱいという表情だ。
そんなありすに青年は帽子の中から飴玉をもう一個プレゼント。
それからはもちろん家族一同でさらに大音量になったしあわせー!の大合唱。

そんな一家を見つめながら青年は何かに耐えるように体を震わせていた。
そして「ゆっくりしていってね」と言いながらその場を後にする。

「くっ…くくっ…いつまでも仲良くな…」





ゆっくり達が集い、日向ぼっこや追いかけっこなど思い思いにゆっくりしている森の広場でも。   

「チチンプイプイ!あまあまさん出て来い」 ドサッドサッドサッ!

「「ぺーろぺーろ、しあわせー!!」」
「おちびちゃんのぶんもほしいよ!もっとちょうだいね!」
「ぱねぇ!にんげんさんのおぼうしめっちゃぱねぇ!」
「あまあまさんをだせるなんてとてもとかいはなおぼうしだわ!」
「むきゅー!ぱちゅにもどうやるのかおしえてね!」
「わからないよー!でもすごいんだよー!」

青年の手品は以前よりさらに流れるような動作や見せ方になっていた。
不思議な出来事と美味しい飴玉に沸き返るゆっくり達。
誰も彼もが目を輝かせ満面の笑みを浮かべている。

すべて本当のことだと信じきり、疑うことを知らないゆっくり達。

「ゆー!みんなどうしたんだぜー?」
「たのしそうだね!なかまにいれてね!」
「むきゅー!なにがあったの?」
「にんげんさんのおぼうしからあまあまさんがでてくるんだよ!」

楽しそうな歓声を聞いて遠くにいたゆっくり達も集まってくる。
青年の周りはいつのまにか押し合いへし合いしているゆっくりだかりの山になっていた。

「やあまりさ、楽しい事をするから帽子を貸してくれないか?」

青年はニヤリ笑うとまりさ達に声を掛けた。
だが渋るまりさばかりで帽子を貸してくれるものは中々現れない。
それもそのはず、ゆっくりの飾り、まりさでいうと帽子がそれであり、無くしたりすると
ゆっくり出来なくなったり、仲間と認識されずいじめられたりするからだ。
しかし、しばらくすると一匹のまりさが説得や応援を受けて帽子を貸してくれる事になった。

「だいじにしてね!ぜったいだよ!」
「もちろんだよ。では、このまりさの素敵な帽子から飴玉を出してみるよ」

ざわ…ざわ…
騒音公害と言えるほど騒がしかった辺り一体が静まり返る。
そんなこと有り得るのだろうか?いやでも、もしかしたら。
皆が青年の手にあるまりさの帽子に釘付けになり固唾を呑んで見守っている。

「チチンプイプイ!……うーんまりさの帽子だと難しいなあ」

青年がいくらまりさの帽子を振ってもあまあまは出ない。
やはり駄目なのかという失望の雰囲気がゆっくり達を包み込み、あちらこちらからため息も聞こえてくる。
だがそれは割れんばかりの歓声に変わった。

「えいや!チチンプイプイ!」 トサッ!
「「「ゆゆー!!!!!?」」」

まりさの帽子から飴玉が二つ落ちて来たのを目の当たりにしたのだ。
さっき手品を見ていたものは歓声を上げ、見ていなかったものは驚きの声を上げた。
青年が帽子を貸してくれたまりさの口に飴玉を入れてやると、あっという間に幸せ顔になって舐め始めた。   
もう一つの飴玉を目の前に置くと「まりさのおぼうしからでてきたんだからまりさのだよ!」と
得意そうな顔をして体の下にしまい込んだ。
みんながまりさの帽子を代わる代わる覗き込んだり、振ったりしてみるが何も出てこない。

「どうしてなのー!?」
「ふしぎだねー!?」
「ゆ!まりさのおぼうしからあまあまさんがでるなんてしらなかったんだぜ!」
「そういえばためしてみたことなかったよ!」
「ゆ!ゆ!ゆん!!どうしてでないんだぜ!?」
「まりさ!もっとがんばりなさいよ!」
「ちょっとかすんだみょん!じゅもんをとなえないとだめなんだみょん!ちんちんぽいぽい!」
「ちぇんのおぼうしじゃだめなのかなー?わからないよー!」
「れいむにもかしてね!れいむはやさしいからあまあまさんがでてもはんぶんだけでいいよ!」
「むきゅー!ぱちゅにもみせてー!」
「かえすんだぜ!おぼうしはまりさのものなんだぜ!」
「そうだよ!そんなにひっぱったりしたらやぶけちゃうよ!かえしてね!」

不思議な事を再現しようとゆっくり達はまりさ達を取り囲んでお祭り騒ぎ。
まりさ達は口では迷惑そうにしているが、みんなから注目されて自慢顔だ。
青年は盛り上がるゆっくり達を見渡し、ニヤリと笑みを浮かべながら何度か頷くと広場を後にした。

「くっくっ…くっ…無邪気な奴らだ…」





青年は森のいたる所に現れ、ゆっくり達に帽子マジックを披露していった。   
その噂は急速に広がり、最近のゆっくり達の話題と言えばその事ばかり。
だが森は広い。青年に会ったことのないゆっくりの方が圧倒的多数だ。
ゆっくり達は青年に遭遇する幸運を祈った。
だが…はたしてそれは幸運な事なのだろうか。




あるまりさは帽子からあまあまが出ると家族に信じてもらえず、おうちを飛び出してしまった。
そして自分だけ入れそうなゆっくりプレイスを見つけると、大きな石ころを使って厳重に封を施す。
誰かに見られたらあまあまを盗られてしまうかもしれないと思ったからだ。

「ゆふふふ!まりさはあまあまをだすまでがんばるよ!あまあまがでてもれいむなんかにあげないよ!」

まりさは頑張った。薄暗い場所で何も食べずに頑張った。あまあまでお腹いっぱいになりたかったから。
少しだけ眠った時には山積みになったあまあまの中を泳ぐ夢を見た。
周りではありすやぱちゅりーがまりさを褒め称え、うっとりとした表情で熱い視線を投げかけてきた。
れいむは遠くで恨めしそうに見ているだけだった。

しかしあまあまを出せないまま腹減りの限界一歩手前を迎えた。
気合を入れて帽子を振ったりするのは意外と体力を使い、お腹が減ってしまうのだ。
さすがにご飯を食べなければまずいと、入り口を少し崩してみるが外は暗くて、さらに雨も降っていた。
外に出られないと落ち込んだが、すぐに元気を取り戻す。
あまあまさえ出せれば問題はないと思ったから。  
まりさはへこたれずに再度頑張った。頑張りすぎた。入り口の石ころをどかす体力が無くなるまで。

「ゆ゛…ゆ゛…ゆ゛…ゆっくりしたけっかが…これだよ…」

数日後、まりさの念願だったあまあまが一つ出来上がった。




「そんなこといわないでたべてねえええ!!いもむしさんだいすきだったでしょおおお!!」
「まじゅいむししゃんにゃんちぇちゃべりゃれにゃいよ!」
「はやきゅあまあましゃんをもっちぇきちぇね!」
「あみゃあみゃしゃんもだしぇないやきゅたたじゅはゆっくちどっきゃいっちぇね!」
「「おお!やきゅたたじゅやきゅたたじゅ!」」

まりさが一生懸命頑張って集めてきたご飯に不満爆発な子ゆっくり達。
まりさとありすの一家は青年の手品を見て飴玉を貰ったことがあった。
さらにまりさがご飯集めに奔走している間、散歩していたありすとその子供達は森の広場で
他のまりさの帽子から飴玉が出るところも見ていたのだ。
飴玉を食べた体験は不思議な出来事とセットで最高にゆっくりした物と子ゆっくり達の脳裏に強烈に焼きついてしまった。
それよりランクが大幅に下がる森のご飯ではもう満足することは無いのだ。
どうして自分の親はあんなにゆっくり出来るご飯を持ってきてくれないのか。
どうして帽子からあまあまを出せないのか。
子ゆっくり達はこれから毎日、ゆっくりさせてくれない親まりさを見下し罵倒するだろう。

「どぼじでぞんなごどいうのおおおおお!!!まりさはあまあまなんてだせないよおおお!!
ありすもなんとかいってあげてねえええ!!」
「ゆー…ありすもあまあまさんをだせるとかいはなまりさがよかったわ…」
「ぞんだごどいえっでいっでないでじょおおお!?ゆわあああーん!!ゆっぐりでぎだいいいいい!!!」





「むきゅーり、むきゅーり!ちいさいまりさだけのようね!」
「ゆゆ!きょきょはまりしゃたちのゆっきゅりぷれいしゅだじぇ!」
「しりゃにゃいぱちゅりーはでちぇいきゅんだじぇ!」

あるぱちゅりーは不思議な出来事の真偽を確めたくて他のゆっくりのおうちに忍び込んだ。
まりさがどうしても帽子を貸してくれなかったからだ。
親まりさが狩りに出発する時、見送りは子まりさだけだったのを物陰からこっそり見ていたのである。

「むっきゅきゅー!おはなしでちいさいものをえらんだほうがいいときいたことがあるわ!」
「やめちぇー!まりしゃのおぼうちもっちぇいきゃないじぇー!!!」
「まりしゃのおぼうちかえしゅのじぇー!!!」

意味不明なセリフを言いながら子まりさの帽子を盗んでいくぱちゅりー。
成体まりさには敵わないので子まりさを狙っただけである。
子まりさ達は大した抵抗も出来ず帽子を奪われた。
この後子まりさ達は帽子が無いために子供と認識されず、帰ってきた親まりさに追い出された。

「さいきんおぼうしがないまりさをよくみかけるんだぜ!ところでまりさのちびたちはどこなんだぜ!?」




青年はある時、ぷっつりとその姿を消した。
だが数日経っても森の全域に広がった噂は消える事がなかった。
物忘れが激しいゆっくりだが自分に都合のいい事、利益のある事はいつまでも覚えているのだ。
そして…。


「まりさはあまあまをひとりじめにしてるんだよ!にげないでゆっくりつかまってね!」
「どぼじでえええ!!!まりざのおぼうじがらあまあまざんなんでででごながっだよおおお!!!」  
「うそつきのまりさはおぼうしをわたしてからゆっくりしんでね!」
「やべでええええええ!!!」

まりさの帽子からあまあまが出るところを見たゆっくり達は集団でまりさの帽子狩りを始めた。
まりさがあまあまを独り占めにして、自分だけゆっくりしているという噂が広がっていたのだ。
いくらまりさ達が否定しても聞く耳を持ってくれなかった。
他のゆっくりからすればまりさが否定すればするほど怪しく思えてくるのだ。
奪ったまりさの帽子からは当然あまあまが出る事は無かったが、出ない帽子もあるだろうと
勝手に連想して次から次へと奪っていく。
他の奴に先を越されまいと、競争でもしているかのように奪っていく。
集団は徐々に増えていった。

ゆっくりの通常種の中では力が強いと言われるまりさだが突然集団で襲われては成すすべも無い。
大切な帽子を奪われまいとすればするほど、ひどい反撃が返ってきた。
涙を流しながらの懇願も無視された。
追いかけて取り戻そうとすると動けなくなるまで底部を痛めつけられて放置された。

集まって対抗しようとするまりさ達もいたが、目の色を変えて奪いに来るゆっくり達に苦戦し追い込まれてしまう。
すると自分だけ助かろうと裏切り行為をする者が現れ、あっという間にその場しのぎのグループは崩壊してしまうのだ。
また、愛する家族に帽子を奪われるまりさもいた。
まりさにはもう信用できる者なんていなかった。



「まりさのぼうしをにんげんさんにわたすとあまあまをくれるんだよ!」

又聞きを繰り返して変容した噂を真実と決め込み、人里に行き人間に纏わり付いて困惑させるゆっくりも出始めた。
挙句の果てに「どおしてあまあまくれないのおおお!!ゆっくりしね!!」と体当たりを繰り返し始める。

「あまあまさんをだせるのはにんげんさんのおぼうしなんだよ!」

帽子をかぶっている人間に体当たりをして帽子を奪おうとする奴も現れる始末。
ゆっくりがいくら束になろうと人間に敵うはずも無い。結果は言わずもがな。    


「まりさをおいかけるおまつりなんてすごくとかいてきね!
ありすもさんかしたいわ!んほおおおおおおお!!!」                                          

騒ぎに便乗して欲を満たそうとする奴もいたが、別にいつもと変わらなかった。





「どおじでばりざがごんだべにあうんだぜ…」
「まりしゃの…まりしゃのおぼうち…」
「ゆ…ゆぐっ…ゆっぐり…」
「おぼうじがないどゆっぐりでぎないんだぜ…」
「これからどうしたらいいのおおおおお!!!」

この森の辺り一帯は帽子の無いまりさとその嘆きの声で溢れかえっていた。

帽子の無いまりさ達は自分の帽子を探しに行くも、そう都合よく見つかるわけが無い。
仕方なくあまあまが出ない役立たず、と踏みつけられボロボロにされた、サイズの合う他のまりさの帽子をかぶる事にした。
自分の物ではないという違和感のために常にゆっくり出来ないのだが、無いよりはマシなのだ。


「あまあまがでないできそこないのおぼうしさんだね!こんなのおみずさんにながしちゃうよ!」   

「うー…またはずれなんだどぉー!こんなのびーりびーりしちゃうんだどぉー♪
れみ☆りゃ☆うー♪にぱー♪」

こんな奴らもいるので、他のまりさの帽子にもあぶれた方が多い。
帽子無し同士は攻撃し合ったりしないが他のゆっくりには攻撃されてしまう。
帽子無しまりさ達はこそこそと集まり、互いの不幸を慰め合った。
ゆっくりしたいと滂沱の涙を流し、帽子があるまりさ達を羨んだ。

このまま日陰を歩んでひっそりと惨めに暮らしていけばいいのだろうか?
否だ。帽子が無いのは永遠にゆっくり出来ない、死んだも同然のことなのだから。 
そして…。


「おぼうしをよこせえええええ!!!」

どんよりと眼を曇らせた帽子無しまりさ達が徒党を組み、帽子有りまりさを襲い始めた。
目に付いた帽子有りまりさを見つけると、まるで生者の肉を求めるゾンビのように群がった。
帽子有りまりさも奪われまいと必死で迎え撃つために、もはや戦争状態。      

闇討ち、抜け駆け、見殺し。そんな事を繰り返しついに帽子を勝ち取ることが出来たまりさ。
だがその瞬間から襲われる側に回るのだ。
さらに帽子からあまあまが出ると信じている奴らはまだいる。
奪い奪われの空しい無限ループ。
もはやまりさ達にゆっくりプレイスなんて存在しなかった。





「ふふ…くっくっくっ…」

ゆっくり達にとって元凶となった青年は、自室でくつろぎながら満足そうな表情で気分良く笑っていた。
ゆっくり達に手品を見せた時の様子を思い出して、今頃どうしているだろうと想像して。







「ゆっくりはいいよなー」

思わず独り言も飛び出してしまう程に。

あまりにもゆっくり達の反応が楽しく、久々の長い休日を丸ごと帽子マジックに費やしてしまった。
お徳用の飴玉袋を一体どのくらい消費したのだろう。
近所の子供に披露した事があったが反応はいまひとつだった。
飴玉をあげようとしても「知らない人から貰っちゃ駄目なんだ」と言われたりする始末。
怪しい人とでも思われているんだろうか?
確かに友人から怪しいと言われたことはあるが…。

それに比べてゆっくりは簡単な手品なのに素直に驚いてくれる。
中でも子ゆっくりの反応は小躍りしてしまいそうになるくらい可愛い。
手品初心者なので何度かとちったりしたのだが、ゆっくり達は気づかないのも良かった。
ゆっくりまりさに他愛の無いイタズラをしたが、ゆっくりは物覚えが良くないらしいので、
しばらく経った今はそんなこと忘れて平穏な毎日を過ごしていることだろう。
観客がゆっくりとはいえ見られて練習が出来たので、手品の腕も上達したような気がする。
もっと楽しい手品を覚えてゆっくりにも、子供達にも喜んでもらおう!
青年はみんなが喜んでくれる顔を想像して、また「くっくっ…」と忍び笑いを漏らし始めた。







「ゆ!へんなゆっくりがいるよ!」
「いなかもののにおいがぷんぷんするわ!」
「むきゅー!みるからにあたまがわるそうね!」

「…………」

草を食べていた帽子無しまりさを見つけ、わざわざ遠くから寄ってきて難癖をつける三匹のゆっくり達。
しかしまりさは何の反応も見せずに草を食む動作を続けるだけ。

「むしするなんてなまいきだね!ゆっくりできなくさせるよ!」

ゆっくりできない飾りの無い奴を攻撃するのは当然の事。咎める者はいない。
れいむが体当たりすると、同じような体格なのにまりさは拍子抜けするほど簡単に吹き飛び、
ごろごろと転がった。
三匹は泣き叫んで命乞いをしてくるだろうと笑いながら注視する。
だがまりさは何事も無かったように起き上がり、ニタリと歪めた笑みを浮かべていた。

「みんなもまりさをいじめるんだね……」

「こいつわらってるよ!きもちわるいね!」
「いなかものはゆっくりしないできえなさいよ!」
「むきゅー!あたまのねじがはずれてるのよ!」

今度は永遠にゆっくりさせてやろうと、まりさを包囲する三匹。

ニタリ、ニタリ、ニタリ、ニタリ、ニタリ。
体当たりされたまりさと同じ種類の笑みを浮かべた大勢の帽子無しまりさ達が、後ろから静かに
近づいている事に三匹のゆっくりはまだ気が付いていなかった。


森の随所で帽子無しまりさ達の復讐の幕が上がっていた。
殺しはしない、飾りを奪うだけ。
どんなに悲しいのか、どれだけ惨めなのか分からせてやりたいから。
反撃や追跡してこようものなら動けなくなるまで痛めつける。
泣きながらの懇願にも「おあいこだね!」と笑顔で答えて奪い去る。
他のゆっくり達が集団になって守ろうとしても、どす黒い感情で強く結ばれたまりさ達に追い込まれ、
その場しのぎのグループは裏切り等で崩壊した。
子ゆっくりは許されたが、親が戻ってこなかったり、知らないゆっくりが「おかあさんだよ!」と
おうちに入ってきたりするのでゆっくり出来なくなった。

この森の辺り一体は飾りの無いゆっくり達と嘆きの声で溢れかえっていった。
ゆっくり達が平和に暮らしていた面影はもうなかった。








あとがき

読んでくれてありがとうございます。
最初は帽子無しまりさが泣いているところで終わりだったのですが、付け足したら何だか暗い話に。
青年が森のあちこちに現れてたのは、マウンテンバイクで走り回っていたという事で。

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最終更新:2022年05月21日 22:26