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ゆっくりの靴




幻想郷には冬がある。

冬は厳しい季節だ。食べものはほとんどとれなくなるし、道はふさがれ村から村への移動も困難になる。そして何より寒い。

だが、逆境があるからこそ生物は進化し、人間は新たな知恵を生み出していく・・・。

では、近年幻想郷に発生した「ゆっくり」と言われる生物はどうか?
ゆっくりは脆弱な生物だがその繁殖力は高く、その繁殖力を生かして冬を種族としては乗りきっているようだ。
だが、個々では頭があまり良くないため冬ごもりまでに餌を十分に集めることをせずに凍死する個体も多くいる。

さて、ゆっくりにとって安全に冬を越す条件とはなんだろうか?
1.まず第一に餌が十分に確保できていること。これはゆっくりが群れで狩りという名の採集をすればなんとかなるかもしれないが、群れの個体が多すぎた場合は絶望的だ。
2.次に寒さを防ぐことの出来るねぐらを手に入れること。だがこれはゆっくり以外の動物も同様なので既に空いている洞穴や穴倉を探すのは非常に難しく、ある程度の長い期間を使って自分で作るしかない。

この二つが絶対条件なのである。
今は既に秋口を通り越し落ち葉の数もめっきり減ってきた。冬はもうそこまで来ている。
しかし、今群れには何も考えずに繁殖してしまった結果赤ゆっくりや子ゆっくりが大量に居る上にリーダーのぱちゅりーの言うことを聞かずに餌も十分に集める事もしなかったため
冬を越す為の貯蓄はまさに絶望的だった。
たとえ赤ゆっくりが居なかったとしても、冬を越すことは出来ないだろう。

そして巣穴だが、これも明らかに不足している。
秋にすっきりーしてしまったため、今ある巣穴では既に全員が入りきることが出来ないのだ。今から増築?増穴?しても間に合わないだろう。
既にこの群れの未来は八方塞がりに見えた。

そう、もう正攻法に頼るわけにはいかないのだ。
そしてリーダーぱちゅりー他、ゆっくりにしては頭の回るゆっくり達・・・その数10匹がこの群れを捨てて人間の里に行くことを決意した。

「むきゅっ、みんな聞いてね。このままじゃ冬を越せなくなってみんな死んじゃうよ。だからぱちゅりー達は人間の里に行って人間さんのお家で働かせて貰うよ!」
「ゆゆっ?!人間さんは危ないよっゆっくり出来ないよっ!ぱちゅりーはバカなのっ?」
「ゆゆー!なんで働かなくちゃいけないの?それじゃあゆっくりできないよ!ぱちゅりーはバカだねっ!」
「「ゆゆ~ゆっきゅりできないぱちゅりーはゆっきゅりいらないよっ!ゆっきゅりごはんをおいてでていっちぇねっ!」」
「わからないよー・・・人間の里はゆっくりできないんだよー・・・・・わからないよー」

やはりこれだ。
自分たちがどれほど危機的状況にいるのか全く分かっていない・・・
確かに人間の里にゆっくりが行くのは危険を極める状況になるだろう。だが、今ここで動かなくては全滅は必至。
ぱちゅりー達ゆっくりの群れにはもう選択できる余地など他になかったのだ。
ならば起死回生の策を取るしかない。それがぱちゅりーが出した苦渋の決断だった。
そしてぱちゅりー率いる10匹のゆっくりは群れの仲間達に追い出される感じで群れをあとにしたのだった。






人間の里。
ぱちゅりーの仲間達は、ぱちゅりー他れいむが2匹、まりさが3匹、ちぇんが2匹、ありすとみょんが1匹ずつの小さな集団で人間の里の入り口まで来ていた。
さて、ここからが問題である。
人間には自分たちを愛護してくれる人、特に関心はないけど悪さをしなければ攻撃してこない人、そして・・・無条件で地獄より苦しい事をして虐待してくる人たちがいる。
ちなみに加工場の職員は虐待の人に分類されている、ゆっくり達にとってはだが。
ぱちゅりー達はこの里の中で、愛護してくれる人か関心はないけど攻撃してこない人達と交渉してなんとか冬の間だけでも住むところと、持参してきた食料で足りない分を
与えてくれる人を探さなくてはならない。


そしてまず考えたのはゆっくりを飼っている人のお家でお手伝いをしながら冬の間の住まいを貸してもらう事だ。
運良く飼いゆっくりのバッジを着けたまりさとありすが居たのでぱちゅりーは代表してそのゆっくり達に飼い主に会わせて貰いたいとお願いに行ったのだ・・・・
が、飼いゆっくりも全てが性格の良いゆっくりというわけではない。
「ゆゆっ!薄汚いゆっくりね!全然都会派じゃないわっ、こんな汚いゆっくりをお家に連れて行ったらお姉さんに迷惑だわ!」
「ゆゆ~、野良ゆっくりの分際でお兄さんとお話したいだなんてとんでもないぶれーものなんだぜっ!さっさと山に帰って不味い葉っぱに虫さんでも食べればいいんだぜ!まりさ達は美味しいご飯で
ゆっくりするんだぜっ!」

そう言ってそれぞれお家に帰っていった。

「むきゅぅ~、同じゆっくりなのに酷いんだわ・・・・」
「本当だよっ!ぷんぷんっ!」
「許せないんだぜっ!美味しいご飯を食べて自分だけゆっくりできるからあんな酷いこと言うんだぜ!」
「そうよ、ぱちゅりーは悪くないわ。気にしちゃだめよ?」
「わかるよー、ぱちゅりーはとっても頭の良いゆっくりだよー」
「ありがとうみんな、ここでくじけちゃったら冬は越せないわ!みんなで手分けしてがんばりましょ!」

そうしてゆっくり達は2匹一組になって自分たちを冬の間だけ置いてくれる人を探して回った。






そして、幸運なことにぱちゅりーとありすの組はなんとか冬の間だけ床下を貸してくれる家を見つけることが出来た。
条件は床下に居る蟻や虫を冬の間に全部駆除・・・食べてしまう事。
やはり村の家は木で出来ているため、害虫は発生しやすいし虫に家を喰われてしまうと家がすぐに壊れてしまうため家を守るための害虫駆除は必要であった。
こうしてこの組は冬の間の住処と食料を手に入れることが出来たのである。

次に、ちぇんとれいむの組だが猫好きなお兄さんが飼ってくれることになった。
この組はかなり幸運だろう。
暖かい寝床と美味しいご飯が与えられる飼いゆっくりになれたのだから。

みょんとまりさは残念なことに虐待お兄さんに捕まってしまった。
ただ、この虐待お兄さんの変わっているところはただ叩いたり蹴ったりして虐待を楽しむタイプではなく
どちらかというと研究者としてゆっくりを観察するお兄さんだったのだ。
そのお兄さんが前に使っていたれいむとまりさの番の子供が沢山いたのだが
その子供の世話をする代わりに、まぁ寝床と死なない程度のご飯は与えられることになった。
春になったら開放されるとは限らないしいつ処分されるかもわからないが、お兄さんの研究がどんなものなのかは賢いとは言えゆっくりには理解できないので仕方がない。

さて、残ったのはれいむとまりさの組とちぇんとまりさの組だ。

れいむとまりさは草履職人の家にやっかいになることになった。
草履職人は一人暮らしで近年親元を離れて生活するようになった若いお兄さんだった。
このお兄さんは初めての一人暮らしで少々の寂しさを感じていたので、冬の間だけ・・・と言うのならばとゆっくりを飼ってみることにしたのだ。
餌はお兄さんが草履を作るときに必ずに余ってしまう長さの藁である。
まぁ当然これだけでは少ないので料理のたびに出る残飯等も食事として与えられる事になった。
あとは、職業柄で床がすぐに藁の粉で汚れてしまうのでそれを舐め取るのが仕事として与えられた。

最後のちぇんまりさ組はとうとう住むところが見つけられずに途方に暮れていた所で偶然れいむまりさ組のお兄さんに拾われた。




今回はこのれいむにまりさ×2とちぇんの家での話しになる。



青年は困っていた。
確かにこのゆっくり達はゆっくりにしてはとても賢かったため、生活のじゃまをされたり家を壊されたりしなかったのでゆっくり被害的には問題なかった。
だが、お兄さんは駆け出しの草履職人なのであまり収入がなかったのだ。
細々と生活する分には何とか生きていけただろうが、流石に4匹分のゆっくりを十分に養って行くことはできなかったのである。

「ゆぅぅ、お兄さん顔色が悪いよ・・・ゆっくりしてねっ」
「わかるよー、ちぇん達のせいでお兄さんが困ってるんだねー、とっても申し訳ないよー」
「でもまりさはお腹ぺこぺこなんだぜ!お兄さんご飯を用意して欲しいんだぜ!」
「そうだぜ!まりさたちはお仕事してるんだからお兄さんはご飯を用意してね!」


見て分かるように、ゆっくり出来るようになりそれぞれが地の性格を出してきていた。
れいむにちぇんは元々優しい性格で飼いゆっくりには向いていると言えた。
ちなみに市場では賢いありすや性格が良く飼いやすいれいむを押しのけちぇんが一番人気のゆっくりだった。
ちぇんはそれ程賢くはないが、賢さとは別に人の気持ちを酌むことが出来る性格なのと見た目にも可愛いしっぽが生えていているのがその理由だ。

だが、まりさは最初は従順に見えていても慣れてくるとすぐに贅沢になりどんどん強欲になるのである。
今もれいむやちぇんは懸命にお兄さんに与えられた仕事である床舐めをして床掃除をしているが、まりさ2匹は時々落ちてくる枯れ草の切れ端を狙って食べるだけである。
しかも食事時にお兄さんが与える餌を我先にと食べれいむやちぇんの分も多めに食べてしまうのである。
足りると言うことをを知っているちぇんとれいむは不満はありながらも、同じ群れから出てきた仲間で自分たちより元々は年下だったまりさのために我慢をしていたのだ。

それとは裏腹にまりさ達の傲慢さは止まることを知らない。
ついにはお兄さんの仕事道具である藁にまで手を出してしまったのだ。
「むーしゃ、むーしゃ、ふまんぞくー」
「むっしゃむっしゃ!まりさにはこんな枯れ草ふさわしくないんだぜ!お野菜を食べさせるんだぜ!」
「ゆゆっ!!だめだよっ!それはお兄さんの大切な仕事の道具だよっ!!それがなくなったらお兄さんが仕事できなくなっちゃうよっ!ゆっくり食べるのを止めてねっ!」
「わかるよー!そんな事をしたらお兄さんがゆっくりできなくなるんだよー!ゆっくりわかったら食べるのを止めてねー!!」
「むーしゃ、むーしゃ・・・れいむ達はバカなんだぜ!まりさたちはお兄さんに言われている仕事をしてるんだからご飯を食べるのはとーぜんのけんりなんだぜ!」
「ゆへへへへっ!バカなれいむとちぇんはそこで餓えてればいいんだぜっ!」

もう何を言ってもまりさたちは聞く耳を持たない。
このままではお兄さんに迷惑がかかってしまう・・・。
そしてれいむとちぇんは覚悟を決めてまりさたちに体当たりをした。

「ゆゆっ!!まりさはすぐに藁さんから離れてねっ!そして食べるのを止めてね!」
「ゆべっ!」
「わかるよー!まりさ達は悪い子だからゆっくりお仕置きするんだよー」
「ゆべしっ!」


まりさ達は体当たりをくらって壁にむかって転がっていった・・・。
れいむ達はこれでまりさ達も分かってくれるだろうと思っていた。しかし・・・・・

「ゆっ!痛いけど大したことないんだぜ!」
「そうだぜ!もうまりさはちぇんよりも強いんだぜ!!」

そう、今までまりさ達はれいむ達のご飯を奪いながら多く食べていたため既に昔はお姉さんだったれいむ達より強くなっていたのだ。
そしてまりさ達の反撃が始まる。

まりさAは飛び上がりれいむを踏みつぶした。
「ゆぎゃぁっっ!」
「ゆへへ・・・あの強かったれいむお姉ちゃんも今は哀れなもんなんだぜっ・・!!」
そう言いながらまりさはれいむをさらに踏みつける。
どんっどんっどんっ!
「ゆぎゃ!ぎゃっ!ゆっ・・・」
れいむはみるみるうちに形を変え潰されていく。
その悲鳴も最初は大きかったが踏みつけられるたびに小さく弱くなっていく。

「わ、わがらないよーー!このままじゃれいぶがじんじゃうよっ!もう止めてあげてねー!?」
目の前で潰されていくれいむを見て気が動転しているちぇんはれいむを助けてくれるように懇願する。
その隙を突いたまりさBがちぇんの後ろに回ってそのしっぽに噛みついた。

がぶりっ!

「にゃっ!!い、いだいよーーー!!わがらないよーーーーー!!!!」
突然尻尾に走った激痛にちぇんは飛び上がる。しかし、尻尾に噛みついているまりさは動じることなくそのままちぇんを引き摺り回す。
「ゆっゆっゆっ!おひほよひのひぇんはばがなんだぜーーー!」
「いたいよーーー!はなしてねー!!い、いだいよーー!!」
引き摺り回してちぇんが弱って来ていたので今度はまりさBも大きく飛び上がりちぇんを踏みつぶした。
普段のちぇんならゆっくりとしてはかなり素早いので踏みつぶすことが出来なかったはずだが、引き摺り回されて弱っていたので逃げることも出来ずに踏みつぶされた。
「みぎゃっ!!ゆ、ゆっぐりどげでねぇ・・・っ、ぐ、ぐるじいよぉ。わがらないよぉ・・・」
「弱いちぇんだぜ!まりさに狩りを教えてくれたちぇんお姉ちゃんももう情けない弱虫なんだぜっ!」
昔は自分より強くて色々な狩りを教えてくれたちぇんを圧倒できるのがうれしいのかまりさの攻撃は過激になっていく。
どすんっどすんっどすんっ!
「ゆぎゃっ!ぶっ・・・!ゆげぇ・・・・・」
小柄なちぇんはついに耐えきれずに餡子を吐きだしてしまった。



そうしてしばらくれいむとちぇんをいたぶっていたまりさたちは飽きてきたのか。そのまま体当たりで二匹を床から土間に突き落とした。
どんっ・・ごろごろごろ・・・・・べちゃっ!
「「ゆげっ!」」
形が変わるまで踏みつけられたれいむに、既に餡子まで吐いてしまっているちぇんは虫の息。
あろう事かまりさたちはその二匹に土間の上からしーしーをふっかける。
「ゆっへっへっへ・・・!おぉあわれあわれ」
「強いまりさ様のしーしーをかけていただけるなんて幸せなゆっくりなんだぜーー!!ゆはーゆはーゆははっ!」
「ざこのれいむ達は冷たい土間でゆっくり反省するんだぜっ!!」

既に雪の積もっている外と直接つながっている地面の土間はとても冷たく寒く、このまま弱った体では死んでしまうかも知れない。
とくに餡子を吐き出してしまっているちぇんは危ない状況かもしれない。
踏みつけられたとは言え、外傷がないれいむは何とか冷たい地面を這いながらお兄さんの作った草履を二つ敷いてその上にちぇんをのせてあげた。

「ゆぅ・・・ゆぅ・・・ちぇん我慢してね・・っ、今お草履のうえに乗せてあげるからね・・・・・っ」
「・・・・・ゆぅ・・・ごめんねだよー・・・・れいむも辛いのにごめんね・・だよー・・・・・」
「ゆぅしょ・・ゆぅしょ・・・」
踏みつけられ変形してしまっているれいむは何とかもう全く動きを見せなくなってしまったちぇんを草履の上に乗ようと少しずつちぇんを押していく。
その様子を上からまりさたちはニヤニヤと見てヤジをとばす。
「ゆへへ・・・れいむ頑張るんだぜぇ?早くしないとちぇんが大変なんだぜぇ!」
「おぉくさいくさい。くさいれいむとちぇんは仲良く土間がお似合いなんだぜ!」

なんとかゆっくりながらちぇんは草履の上に乗り、地面からの冷気を少しだけ和らげられたのか弱々しくもその呼吸音が聞こえてくるようになった。
しかしれいむはそこで力尽きたのかちぇんに寄り添いながらもそのまま気を失ってしまった。

動かなくなったれいむ達を見るのもつまらなくなったのか、まりさ達はまた藁を食べに戻ってしまった。








お兄さんが作った草履を売りに行って戻ってきたのはこの事件があった2時間後だった。
お兄さんが玄関をあけたときにまず見えたのは、土間の草履置き場で弱々しい呼吸をしながら眠っているちぇんと、その傍らで永遠にゆっくりすることになってしまったれいむだった。
何があったのか?
突然の事態で驚いたお兄さんだったが、地面に直接座っていては寒いだろうと思い2匹を抱き上げる。
そのとき初めてお兄さんはれいむが既に冷たくなってしまっていた事と、草履が餡子でちぇんにくっついて一緒に持ち上がって来たことに気付いた。

お兄さんはそのままちぇんを自室の寝間に連れて行き座布団の上に乗せて火鉢の近くに座らせてやった。
残念だがれいむはもう事切れていたので台所に持って行き食料貯蔵庫に入れておいた。
これもゆっくりとの約束だったのだ。
もし自分たちがここで永遠にゆっくりすることになったらお兄さんが食べても良いと。

そして先ほどから見ないまりさがどこか別の場所で死んでしまっているのでは無いのかと思い二匹を探すことにした。
結論から言うと二匹はすぐに見つかった。
お兄さんの仕事部屋で。

だが仕事部屋にあった草履用の藁が食い散らかされ、まりさ達は図々しくも残りの藁に埋もれて幸せそうに寝ていた。
「ゆ~ゆ~、もう食べられないんだぜー」
テンプレートな寝言を言いながら・・・。

この時点でお兄さんは大旨の状況は理解できていた。
流石に日頃からの様子を見ていればまりさ達がずるをしてれいむたちを困らせていたことは知っていたからだ。
だが、特に愛護しているわけでもなく教育熱心でもなかったお兄さんは、まぁ別に放置していても問題ないと思っていた。
しかしどうだ?この状況は。冬用の藁靴を作るのには大量の藁が必要なのに、このゆっくり共はそれをあろう事か食べてしまったのだ。
正直これでは今年の冬を越せるのかどうか大きな問題になってしまった。

とりあえず、今すぐに叩き潰したいところだがお兄さんは我慢してまりさ達をそっと透明な箱に詰め込んだ。




さて、問題は山積みである。
まりさ達の処分は当然として、このままだとこれから作る藁靴は予定の半分程度しか作れなくなってしまう。
それだと、さすがにお兄さんもこの冬を越すことが出来なくなってしまうのだ。
この危機をどうやって乗り切ろう・・・・?
そもそもこのゆっくりが来たせいでこんな目に・・・。
いや、そもそも寂しさを紛らわせるために飼い始めたペットのようなものだ、そのペットが悪さをしたからといって・・・

こうしてお兄さんの思考は堂々巡りに入っていた、その時やっとちぇんが意識を取り戻し始めた。


「ゆ・・・・ゆぅ、お、お兄さんだよ・・・」
「ん?おぉちぇん大丈夫か?お前ずいぶん弱っていたんだぞ」
意識はしっかりしてきたのか、体は動かせないまでも耳がぴくぴくと動く。
「ゆぅ~・・・お兄さんれいむは?れいむはどこにいるの?わからないよ~・・・」
座布団に乗っているのが自分だけでどこを見てもれいむが居ないのが気になるのか弱々しい動きであたりを見る。
しかし、やはりどこにも見あたらない・・・・。ちぇんの脳裏に嫌な予感がよぎる。
「・・・あのな、ちぇん。れいむなんだが・・・・お前達流に言えば永遠にゆっくりすることになっていたぞ」
「ゆーー!!?わ、わがらないよーー!わがらないよぉーー!!でいぶーーー!!」
同郷の仲間を失ったのが悲しいのだろう、ちぇんは泣き叫びながられいむの名を呼び続けた・・・。



しばらくしてある程度落ち着いてきたちぇんに事情を聞いてみた。
そうしてやっとこの事件の概略が分かった。
要するにやはりまりさ二匹が大切な商売道具を食い散らかし、そしてそれを注意したれいむとちぇんに攻撃を加えてそのうちれいむを殺してしまったと言うことだった。
「ごめんなさいだよー。ちぇんはお兄さんの大事なものを守れなかったよー」
そう言ってちぇんは謝りながらもこれから追い出されるかもしれない、もしかしたらここで潰されてしまうかも知れないという恐怖で耳を伏せてぶるぶる震えていた。

とりあえず、まりさ達は別としてお兄さんとしてはちぇんを潰すつもりはなかった。
ゆっくりにしては珍しい忠義者であったし、なにより別にお兄さんは虐待鬼意山ではないのだから。
そして気になっていた事を聞いてみることにした。

「なぁちぇん、お前が潰れて気を失っていた時に草履を敷いていたけどありゃなんでだ?」
「ゆぅ・・・あれはちぇんが餡子を吐いて弱っていたかられいむが地面から体が冷えないように乗せてくれたんだよー・・・でも、れいむは・・・わがらないよぉ・・・」
「そうか、つまりれいむは最後の力を振り絞ってお前を草履の上に・・・・」
そう、れいむは地面の冷たさからちぇんを守るために草履の上にちぇんを乗せてやったと言うのだ。


ここでお兄さんはある考えが閃いた。
『履き物には足を地面の冷たさから守る効果が必要』なのだと言うことを。
当然と言えば当然のことだが、冷気から体を守るというのは死にかけのちぇんが助かってそこそこの負傷だったれいむが死んでしまうと言うまでの明暗を分ける結果になったのだ。

もしかしたら・・・と思ったお兄さんは早速試してみることにした。


「おいちぇん、お前ちょっとお兄さんの指を咥えてみてくれ」
「にゃっ?わからないよー?ちぇんはお兄さんは食べられないよー?」
「まぁ良いから咥えてみろって」

お兄さんはちぇんの口に指をつっこんでみた。

「・・・はむっ」

ちぇんの舌は猫独特のざらざら感があり、そして・・・・・・温かいのだ!
そう、生きているゆっくりの中身は温かいのだ。
お兄さんの頭には既にある商品の設計図が完成していた。
後はあの二匹でそれを実行すれば良いだけだ。

「よし、わかったぞ。お前はとりあえずこれでも喰ってゆっくりしてろ」
そう言ってお兄さんはれいむだったモノを半分に切ってちぇんに渡す。
「にゃっにゃぎゃーーー!わがらないよっ!ちぇんはれいむを食べたり出来ないよっ!」
まぁ同族食いには抵抗があるのだろう。別に食べなくても良かったが、とりあえずこのちぇんは大分弱っているので出来るだけ栄養のあるモノを食べさせたかったのだ。
「いや、良く聞けよちぇん。れいむはお前を助けるために死んだんだ。だからお前がそのれいむを食べてれいむの生きた証になるんだ」
「ゆぅ~わ、わがっだよー。わがらないげど、ぢぇんでいぶを食べてゆっぐりずるよぉ~」
そう言って涙ながらにちぇんはれいむを食べはじめた。


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最終更新:2022年05月21日 23:03