OMEN

           by ”ゆ虐の友”従業員



「もうすぐうまれるよ、はやくあいたいね」
 額から植物を生やして、れいむは微笑む。
「まりさとれいむのじまんのあかちゃんだよ!」
 れいむとまりさとの赤ちゃんは大きく実り、あと三日で産まれるというあたりにさしかかっている。

 そこへ男がやってきた。
「やあ、れいむ。ゆっくりしてるかな?」
「ゆっ!おにーさん!れいむもあかちゃんも、とってもゆっくりしてるよ!」
「それは重畳」
 男は二匹の恩人だ。
 冬だというのにすっきりしてしまい、妊娠に至ったれいむとまりさを自らの住居に連れて帰り、
 こうして広いお庭でゆっくりさせてくれている。
 もし男と出会わなかったら、二匹は赤ちゃんもろとものたれ死んでいたかもしれない。
「あかちゃんがうまれたら、おにーさんをみんなでゆっくりさせてあげようね」
 りっぱなあかちゃんうんで、おにーさんへのごおんがえしをするよ!
 こんなにかわいいれいむのあかちゃんだもの。おにーさんだって、とってもゆっくりしてくれるはず。
「あかちゃん、ゆっくりはやくうまれてね」
 れいむから伸びる赤ちゃんの木は、大きくて血色も良い、立派なゆっくりの実を付けている。
 男の手による行き届いた世話と、野生では得がたい、栄養たっぷりの餌のおかげだ。
「きっとれいむににてかわいいあかちゃんだよ」
「きっとまりさゆずりの、かけっこのじょうずなあかちゃんだよ」


 * * * *


 それから数日が何事もなく過ぎた。

 ぷるぷる……
 れいむは不意に、頭上に揺れを感じた。
「ゆっ!うごいたよ!?」
「ほんとう!?れいむ!!」
 まりさがれいむに跳ね寄る。
「ゆ……ゆっきゅ……」
「ゆっきゅり……?」
 近づいて見ると、今まで単なる塊だったものにゆっくりらしい顔が出来、言葉を発している。
 まりさは感動した。
「あかちゃんがおめめひらいたよぉー!!」
 れいむもそれを聞き、必死に頭上を見ようとする。
「れいむも!れいむもみたいよ!」
「おっ、れいむ」
 そこへ男が現れる。
「ゆゆ!おにーさんみて!ゆっくりしたれいむのあかちゃんだよ!!」
「まりさのあかちゃんだよ!!」
「ついに産まれるか……ちょっと待ってろ!」
 男は何かを取りに家へと戻る。

 その時、赤ちゃんゆっくりの一匹が、命を得て最初の意味ある言葉を発した。
「ゆ……おかーしゃん……?」
 二匹の幸せは最高潮に達した。
「ゆゆぅーーーーん!!れいむがおかーしゃんだよぉーー!!」
「まりさもおかーさんだよ!!ゆっくりしていってね!」
「ゆっきゅりちていってね!」
「まりさばっかりずるいよ!れいむもいうよ!
 ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」
「ゆっきゅりちていってね!」
「ゆ……?ゆ……?」
「おきゃー……しゃん?」
「ゆきゅ?ゆゆぅ……!」
 残りの子も次々に言葉を発し始める。
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」
「ゆっきゅりしていっちぇね!」
「ゆっくりしていってにぇ!」
「まりさのあかちゃぁぁぁん!ゆっくりしていってね!」
「ゆっきゅちちていっちぇね!ゆきゅりちていってにぇ!」
 庭は”ゆっくりしていってね”の大合唱となった。


「はぁ…はぁ…待たせたな!」
 そんな中、男が再び庭に姿を現した。手には木箱を抱えている。

 頭上のゆっくりがれいむに尋ねた。
「おかーしゃん、あのひとだれ?」
「おにーさんだよ!おにーさんはとってもゆっくりできるひとだよ!」
「ゆっくちできゆひと?」
「はじめまちて!」
「ああ、こんにちは」
 男は笑顔で挨拶を返し、木箱を開ける。
「きっとまりさたちへのしゅっさんいわいだね!さすがおにーさんはやさしいね!」
「にゃに?にゃにくれゆの?」
「おにーさんがれいむのあかちゃんにゆっくりしたものをくれるんだよ!ありがとーっていおうね!」
「おにーしゃん、ありがとー!」
「ゆっくりありがとー!」 
「ゆっきゅりー!!」

 それはどうやら衣服のようだった。
「ゆゆっ!あったかそうなふかふかだよ!これでさむくてもあんしんだよ!」
「さすがれいむのおにーさんはきがきくね!」
「はやくゆっくちしたいよぉー!」
「まりしゃもまけにゃいよ!まりしゃがいちばんゆっくりしゅるよ!」

 しかし、男はそれを自分で身に纏いはじめた。
「おにーさんがきるの?」
「あったかそうなおよーふくだにぇ!」
 一家が見守るうち、男は服と履物を着替え、帽子をかぶり……
 そして最後に、お面をかぶった。
 そのとたん子ゆっくり達はおびえだす。
「ゆゆゆ!」
「おにーさんがたべられちゃったよ!?」
「きょわいよぉーーーー!!」
「おにーさん!ゆっくりできないじょうだんはやめてね!あかちゃんたちがこわがってるよ!」
「まりさのあかちゃん!あれはほんものじゃないからだいじょうぶだよ!」
 れいむとまりさには、それが仮装をした男だということはわかっている。
 しかし、まだ産み落とされてもいない子供たちに”仮装”と”本物”の区別などつくはずもない。
 男は仮装を完全に終えると、子ゆっくりを頭上に抱えて身動きのままならない親れいむに近づく。
「ゆっくりやめてね?ちびちゃんたちのせいちょうによくないよ!」
「ゆゆぅ!こっちこないでにぇ!!」
「ゆっきゅりできにゃいよぉーーーー!!」
「きょわいよぉーーー!!」
「れいみゅまだしにたくないよぉーーーー!!!」
 そして、男はこの日のために鍛えた声を張り上げた。
「ぎゃおーーーー☆れみりゃだっどぉーーーー!!
 たーーべちゃーーうどぉーー!!」
 子ゆっくり達が一斉に泣き出す。
「ゆぴぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「おかーしゃん、たしゅけてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「れみりゃはゆっくちできにぇいよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「あがぢゃんゆっくりしてぇぇぇぇぇぇ!!!」
「おにーざん!!やべてね!!どぼぢてこんなことするのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「あう〜?おぜうさまはおにーざんなんてしらないんだっどぅ〜?
 おいしそーなゆっくりだどぉー!!」
 男は親れいむを追い回しはじめる。
「ぎゃおー☆」
「ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「おかーしゃん!!ゆっくりはやくにげてよぉぉぉぉぉ!!!」
「れみりゃがくるよぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ゆっくちさせてよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 そうは言われても、跳ねれば子供たちが木から落ちてしまう。
「ゆん!ゆん!……ゆぅぅぅん!!!」
 親れいむは這いずるように進むしかない。
「ゆっくりおいちーどぉー♪」
「ゆゆゆゆ!!」
「ゆひっ、ゆひっ、ゆっゆっ」
「あがぢゃぁぁぁぁん!!それはおにーざんだよぉーーー!!
 たべてるのもゆっくりじゃないよぉぉぉぉぉぉーーー!!ゆっくりおちついてねぇぇぇぇ!!??」
 大声で説明しようとする親ゆっくりだが、男は理解する暇を与えはしない。
「おぜうさまはおぜうさまだっどぉーー!!おにーざんはもうたべちゃったんだっどぉー♪
 もっとはやくにげないとたーべちゃーうどおー♪ぎゃおー☆」
 れみりゃの踊りをするのも忘れない。
「れみ☆りゃ☆うー!!」

 ついに一匹の子ゆっくりが限界を迎えた。
「も……もうだめりゃよ……」
「ぢびぢゃん!!ゆっぐりわがっでよぉぉぉぉぉぉ!!!ぞれはおにーざんなんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」
 親達の励ましももはや効果はない。みるからにぐったりとしている。
「もーだめなんだどぅ?そしたらおぜうさまがたべてあげるからこーえーにおもうんだっどぉー☆」
「もっど……ゆっぐぢじだがった……よ……」
「あがぢゃん!!あがぢゃぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんん!!!!!」
「おにーざんだよぉ!!おにーざんなんだよぉぉぉぉぉ!!!でびりゃじゃないのにぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 目を閉じ、小さく萎れていくゆっくり。
 まだ地面に下りる時期ではないというのに、親の木からぽとりと落ちた。
「ゆ、ゆ、ゆあああああ………でいぶのあがぢゃん……」
「いっただっきまっすだっどぉー☆」
 男はそれを、土を払って口に入れた。
「とってもおいちーどぉー!!ほかのもみーんな、おぜうさまがたべちゃうんだっどぉーーー!!!
 うあ☆うあ☆うー!!ゆっくりおいちーどぉーー!!」
 駄目押しとばかりに、踊りもクライマックスに達する。
「やめでっ……!!おにー……っ!!あがぢゃ……っ!!!」
 子供達は次々に目を閉じていく。
「おがーしゃんがゆっぐりにげてくれなかったから……」
「もっとゆっくちちたかったよ……」
「ゆっくりかんねんしたよ……」
「ぎゃおおおおーーーーー!!
 かり☆すま☆おぜうさまだっどぉ〜!!」
 ぽと。ぽと。ぽと。
 そして、全ての子ゆっくりが、地面に落ちて転がった。
「ばりざのあがぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
「でいぶのおぢびぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

 男は自らの成果を確認すると、お面を外し、衣服を元のものに着替えた。
「嗚呼、面白かった。久々に体を動かしたらくたびれたよ。
 まりさ、れいむ。ご飯にしようか。
 お腹いっぱいむーしゃむーしゃして、また可愛いちびちゃんをゆっくり産んでいってね!!」











 おしまい。

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最終更新:2022年05月21日 23:33