ここは幻想郷でもなんでもない、ただの魔法の国。
そこに突然、ゆっくりなるモンスターが出現した。



召喚されたゆっくり



私の名前はフツウ・ノ・オネエサン。魔法学校に通う普通の生徒よ。
家は貴族で、毎日パーティーに出て遊んでいたら、いつのまにかこの学校に入れられてしまったわ。
私、べつに頭が悪いわけでも、体力が無いわけでもなんでもないの。
でも、どうしてか「魔法」というのが上手く使えなくて・・・難しい魔法は失敗して爆発するわ。
今日は魔法使いの大切なパートナーを決める、「使い魔」を決める儀式があるの。
うまくいくかしら・・・。
いいえ、成功させてみせるわ。なにせ私は誇り高き貴族の娘よ。
一番立派な使い魔を召喚して、みんなを驚かせてやる!

昼食を取った後、私達生徒は学校の中庭に集められたわ。
ここで使い魔を召喚する儀式を行うの。
なに、ルールは簡単よ。自分で考えた召喚の呪文を使って、モンスターを召喚する。
もちろん、何が出るかは分からないわ。
でも、何が出たって、その使い魔と契約しなくちゃならないわ。

ほら、もう始まったみたいよ。
まずはアイツね。アイツはタダノ・オニイサン。
成績、容姿、戦闘力、すべてにおいて普通の人。何を出すのか楽しみね。
「アブラカダブラ~最強の使い魔よ出てこーーい!」
ボンッ!
「モモモホモホオッモオオモ!ッモモヒヒモホオオッモ。」
無事、モンスターを召喚したみたいね。ウサギみたいなブサイクな生き物が召喚されたわ。
「いいぞ、オニイサン。こいつはノームじゃ。土の精霊で、国に恵みをもたらすじゃろう。ではそのモンスターと契約を結ぶのじゃ。」
「わかりました。」
先生に促され、オニイサンはそのブサイクなウサギに口付けをする。
こうやって、モンスターにキスをすることによって、使い魔としての契約が成立し、ルーンが刻まれるのよ。
この契約の儀式、ルーンを刻む際にモンスターに負担がかかるらしいの。
ノームは、しばらく苦しんだ後、使い魔のルーンが刻まれオニイサンのパートナーとなったわ。

次は彼、ギャクタイ・オ・ニイサンよ。
非常に高い身体能力と魔力を持っているわ。
「虐待の神よ・・・俺に力を!ヒャッハァアアアアア!みwなwぎwっwてwきwたwいくぞ、虐神召喚!」
ダーーーン!
すごい音とともに周囲が土煙に包まれる。これは期待が持てそうね。
「ギャォオオオオ!!」
すごいわ。彼は竜種を召喚したみたい。
サイズもまだ小さいし、そんなに位の高い竜でもなさそうだけど。
それでも竜種を召喚するなんてたいしたものよ。自然と拍手が巻き起こるわ。

その後も
「GyaOーーーー!」
「フンババー!」
「あたいったらさいきょうね!」
「ウホッ!いい男!」
「ピカチュー!」
といった具合に、みんなそれぞれモンスターを召喚し、使い魔にしていく。
儀式は順調に進み、もう少しで私の番。

「では次、オネエサン。前に出なさい。」
ぜったい最強の使い魔を召喚してやるわ!
「クスクス・・・あらあら、オネエサンよ。」「うふふ・・・いったいどんな使い魔を召喚するのかしら。」「どうせ今日も爆発だな・・・」
「うっうるさいうるさいっ!アンタたち見てなさいよ!私が最強の使い魔を召喚してやるんだからっ!」
爆発には定評のある私よ。でも今日の私は違うわ!最強の使い魔を召喚して今までのことを謝らせてやるッ!
「君達、静粛に。ミス、オネエサン、召喚の儀式を。」
「わかりました。」
ミスは許されないわ。この為に、1ヶ月も前から呪文を考えたんですもの!
「神よ・・・私に最強の使い魔をお与えください・・・」
「あはは、何アレ!魔力の流れがメチャクチャじゃない。」「お・・オイ、非難したほうがよくね?」
笑われてるけど気にしない。自分を信じるのよ。
「・・・いでよ!私の使い魔!!」
ドガーーーン!!
「エホッ、ケホッ!やっぱり爆発じゃねぇか!」「またですか。ミス、オネエサン」「ちょっと~、ちゃんとやりなさいよ~。」
周囲360度からの罵声攻撃。みんな失敗したと思っているようだが、私には確かな手ごたえがあった。
砂煙の中に、砲弾サイズの丸い影が見える。成功よ!
このモンスターは何かしら。妖精?いや、妖怪かしら。
あ!もしかして竜種の卵だったりなんかしちゃったりして!
べ、べつに竜種が欲しいわけじゃないんだからね!

砂煙が晴れて、そのモンスターが姿を現す。
その醜い容姿と単調な声に、周囲の空気が凍りつくわ。
「ゆっくりしていってね!!!」
何かしらこれは。まるで人の生首のよう。でも弾力があって、ボヨンボヨンと跳ねている。
「ではミス、オネエサン。この使い魔と契約・・・」
「イヤです!」
私は即答した。周囲からドッと笑いが起こり、爆笑の渦に包まれる。
だってしょうがないじゃない。イヤなものはイヤよ。
「ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってね!!!」
このモンスター、「ゆっくりしていってね」と連発しつつ、私のほうに跳ねてくる。
「イヤよ!来ないで!」
とりあえず、召還に使ったステッキを投げつける。
私はこのモンスターを見たとき、気持ち悪いと思ったわ。
そりゃあモンスターは全部グロテスクだ。ドラゴンだって羽の生えたトカゲ、爬虫類のニガテな人はきっと気持ち悪がるだろう。
しかし、それとは違う気持ち悪さ。なんというか、ゾッっと背筋の凍るような、うなじを逆撫でされるような・・・。
とにかく人間の生首が跳ねながらしゃべっている。もうそれだけで十分なホラーだわ。
「ミス、オネエサン、何をしているのです。早く契約をしなさい。」
「イヤです!どうして私がこんな!」
「異論は認められませんよ。」「なにが最強よ。生首じゃない。」「こんなの初めてみたぜ、キッモい。」「キ~ッス!キ~ッス!」
「うっ・・・えぐ・・・ひどい・・・こんなの・・・」
もう何がなんだか分からないわ。私は下を向いて泣き出してしまった。
「ゆっ!ゆっ!ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってね!!!」
この生首はそれでも私に向かってくる。空気を読めないモンスターなのね。
もういいわ。これは殺してしまおう。私の得意な爆発魔法でこのモンスターを殺し、もう一度召喚し直せばいいわ。
あれ、スッテキは?そうだ、さっき投げたんだった。どこ?私の素敵なステッキはどこ?
「あ、あった!って・・・むぐっ・・・え・・・なに?ちょ・・・」
「ゆっくりしていってね!!!」
私がステッキを探そうと思い顔を上げた瞬間、このモンスターは私の顔に向かって、おもいっきりタックルしてきたのだ。
その勢いで、後ろに倒されてしまう。そして、このモンスターは倒れた私の顔面に乗ってポンポン飛び跳ねる。
「ゆっくりしていってね!!!」
私はモンスターによって、仰向けに倒され、顔面の上で跳ねられているわ。
契約の条件である、口付けは十分にクリアしてしまっている。
契約は口と手でも、口と足でもいい。私はこのモンスターの底面に口付けしてしまったのだ。
私を取り囲んでいる魔法陣が光りだす。
もうダメだわ。最悪の事態になってしまった。私はもう、このモンスターを契約してしまったのだ。

「ゆゆ!?!?ゆっくりしていてね!!!ゆっくりしていってね!!!」
このモンスターの底面に、使い魔のルーンが刻まれていく。
きっと苦しいのね。涙や唾を飛ばしながら転げ回っているわ。
なんて醜いのかしら。こんな使い魔と生活を共にするなんて・・・あぁ・・・もうだめ・・・。
目の前で転げ回る物体に焦点が合わなくなり、私はまもなく気を失った。


あれからどれくらい経ったのだろうか。
私は自分の部屋で目を覚ましたわ。外はすっかり暗くなってしまっていた。
きっと今頃みんなは、自分の部屋で使い魔と楽しいひと時を過ごしているのでしょうね。
「ゆっくりしていってね!!!」
「うるさいうるさいうるさいっ!」
寝起きで気が立っているので、生首を殴る。
私の部屋は、空き巣に入られたかのように散らかされ、服や本が破られて床に散らばっている。
きっとこの子がやったのね。本当に腹が立つわ。
「ねぇあなた、お名前は?」
こんな生首だが、召喚してしまったのは自分の責任だし、召喚したばかりのモンスターが部屋を散らかすのは、ドラゴンでも妖精でも同じ。
しっかり人間のルールを教えて、育てていくしかないわね。
「ゆっくりしていってね!!!」
「変なの。人間の頭してるし、言葉をしゃべれるのに、名前も言えないの?バカね。」
「それとも、名前が『ゆっくりしていってね』なのかしら?」
「ゆっくりしていってね!!!」
本当にそれしか言わないわね。実際、ドラゴンだって「ガオー」しか言わないわけだし、これも鳴き声の一種なのかしら。
「はぁ・・・アンタは明日から特訓よ!それから、部屋を散らかした罰よ。これに入ってなさい。」
私はモンスターを入れておく檻に、こいつを閉じ込めると、部屋を片付けてから眠りに付いた。


翌日
今日は学校を休んで、こいつの特訓よ!
「ちょっと、ゆっくりしてないで早く来きなさいよ!ブッ殺すわよ!」
「ゆっくりしていってね!!!」
ものすごく辛そうな顔をして、必死についてくる。
なんて遅い動きなの。私は普通に歩いてるだけなのに、どんどん置いてっちゃうわ。
しかも、地面をズリズリと這うだけで、昨日のように跳ねることもしない。
朝出発したのに、もうすっかりお昼じゃない。
「いい、今日からあなたの名前は『ゆっくり』よ。優秀な使い魔となるべく努力しなさい!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「あぁもうその反応はいいわ。飽きたの。返事は『はい』よ。いい?言ってみなさい。人間の言葉しゃべれるんでしょ?」
「ゆっくりしていってね!!!」
「バーーーーーーーーーーーーーーーカ!!」
『ゆっくりしていってね』は人間の言葉、なのになぜ人間の言葉をしゃべらないの。なぜ私の言っていることを理解しないの。
確かにこんな使い魔を召喚したときには絶望したわ。
でも、弱い使い魔を鍛え上げて勇者となった先人はたくさんいるの。きちんと鍛えればきっとこの子も・・・。
「いいかしら、ゆっくり。まずはこれを取ってきなさい。取ったら食べてもいいわ。取れないのなら飢えて死ぬだけ。」
私はゆっくり目の前で、リンゴを取り出す。朝食の残り物よ。
そしてそれを、近くの木の枝に突き刺す。
昨日から何も食べてないのだから、食べ物欲しさに何か一芸やってくれるだろう。
近くの切り株に座って様子を見ることにしましょう。

「ゆっ!ゆっゆっ!ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!!!」
あれからもう30分になる。
リンゴを刺した木の周りをグルグルと回りながら、「ゆっくりしていってね」を連発している。
時々、私の方を見て切なそうに目を細めるが、この顔がまた憎たらしいの。殺してやりたいくらいに。
「何をしているの!私が見たいのはそんなのじゃないわ。あなたもモンスターなら木の1本くらい倒してみせなさい!」
っと言ってもいきなり木を倒すのは無理か。木からリンゴを抜いて、ジャンプすれば届くくらいの高さに置いてやる。
「さぁ取ってみなさい。跳ねれば届くわよ。それともリンゴはお嫌い?」
「ゆっくりしていってね!!!」
跳ねれば届くはずの高さなのに、なぜか跳ねることすらしない。リンゴを見上げて、あの台詞をくり返すだけ。
昨日の契約の儀式では、跳ね回って私に体当たりしてきたくせに。
「この役立たず!バカッ!うすのろ!」
やる気がないなら体罰よ。ここに調教用のムチがあるわ。
ビシッ!バシッ!ヒュン・・・ビシィ!
何度叩いても、あの台詞を繰り返して、ズリズリと這い回るだけ。
「ハァ・・・ハァッ・・・ちょっと・・・やりすぎたかしら・・・」
さすがにムチを振るうほうも楽じゃない。ゆっくりは皮が破れて中身が漏れている。
「ゆっぐり・・・じていっでね・・・」
白目を向いて痙攣しているが、死んではいないようね。
「コレは何?肉じゃないわね・・・血も出てない・・・」
黒くて甘い香りのする物体を中に押し戻して、形を整えてあげる。
中身を触ると、ものすごい形相で私を睨み付ける。おぉ怖い怖い。
魔法の本を開いて、一番簡単な回復魔法をかけてあげるわ。
べつにケアルガとかベホマズンとか使えないわけじゃないのよ!MPがもったいないだけなんだからね!

とりあえず、今日は帰って休もう。
一ヶ月後には、使い魔のコンテストがあるわ。
私が・・・・私が優勝するんだからね・・・。




あとがき

ゼロ魔を見て思いついた。
あんまりイジメてなくてサーセン。
いろいろフラグは立ったてるが、続きがあるかは分かりませんw
よんでくれた皆様、ありがとうございました。

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最終更新:2022年06月03日 21:58