町の近くにゆっくり達がひっそりと住む森がある。
人間との間には争いなど殆どなく、多くのゆっくりが人間と仲良くゆったりしている森。
森のゆっくり達は独自のルールに乗っ取り協力しあっていた。
その独自のルールというのが、他の群れではあまり見ないルールであった。





「ゆゆーゆゆーん」
地面を這うように動いているのはれいむであった。バスケットボール大のまん丸として弾力性のある体で
地面をナメクジのように張っていた。その頭の上に1本の茎を生やしながら。
「れいむ! もっとゆっくりあるいたほうがいいよ! まりさがれいむにあわせるから!」
れいむの傍に寄り添いながら動いているのはまりさである。
二匹はつがいであった。


森を抜け、あぜ道をゆったりを歩く二匹。昼間とはいえ危険がないわけではない。
それでも二匹はひたすらゆっくりと歩き続けた。



二時間かけて二匹がやっと辿りついたところはとある一軒家だった。
その家には、ご丁寧にゆっくりでも鳴らせる小さな鈴が取り付けられていた。
「ゆゆ・・・これをならすんだね。」
「そうだね。ぱちゅりーがすずさんをならすっていってたからね。」
まりさは口で鈴を何回か鳴らした。
少しして、玄関から男が出てきた。特徴のない男である。
「やあ。ゆっくりしていってね。」
「「ゆっくりしていってね!!!」」
二匹は男へ元気よく挨拶を返す。


「君たちは初めてきた子だね。」
男は中から持ってきたクッキーを砕いて二匹に食べさせた。
「そうだよ! ここにくればだいじょうぶってぱちゅりーにいわれたんだよ。」
「ゆゆ・・・ほんとうにだいじょうぶなの? おにーさん?」
れいむの心配そうな目を、正面から見据えて男は言った。
「大丈夫。しっかり母親を見つけてあげるから。ほら、こんな風に。」
男はポケットから差し出した写真を二匹に見せた。すると二匹の顔は先ほどの暗く湿った顔から
明るく太陽のような笑顔を見せた。
写真に写っていたのは、4匹の赤ありすとそれを抱きかかえて嬉しそうにしている身なりのよい婦人の姿だった。
4匹とも綺麗な身なりをしている。後ろには『ありすたちのあそびば』と書かれたスペースがあった。


「ゆゆ〜! とってもゆっくりしてるね!」
「すっごくゆっくりしてるありすたちだね! かわいいね!」
まるで我が子を褒めているかのようだった。その様子を見ていた男はさりげなく聞いてみた
「あのさ、どうして今回は里子に出すんだい?」

その質問に、お互いばつの悪そうな顔をしながら見つめる二匹。その後、まりさが口を開いた。
「ゆゆ・・・すっきりー♪してこどもをそだてようとしたんだよ。でもぱちゅりーにこどもをふやしちゃいけないって
いわれたんだよ・・・」
「ことしはごはんがすくないんだよ・・・あめさんがずっとゆっくりしてたから・・・」


食糧がないから群れの数を抑制したのか。まあよくある話だ。
「でもにんっしんっしたあとにいわれたんだよ・・・だからおにーさんのところにきたんだよ。」
「ぺっとしょっぷならかならずおかーさんをみつけてくれるっていわたんだよ。」
哀しそうにそう言ったれいむ。れいむの頭の上に生えている茎は僅かに揺れて、その先に付いている6匹の赤ん坊達もまた揺れていた。
「ゆすぅ・・・ゆすぅ・・・」と寝ているのかそんな息使いが聞こえてきた。


「ああ、大丈夫だから。それじゃあさっそく赤ちゃんを産もうか。」
男はれいむの目の前にバスタオルを何重にも重ねて置いた。
「さあ、この上なら大丈夫だよ。」
「ゆゆ〜わかったよ。いまからげんきなあかちゃんをうむよ!」
そう言うとれいむの頭に居た赤ちゃん達が急にモゾモゾと動き出した。
そして茎の先に近い方から順に一匹づつ落ちて行った。
落ちた赤ん坊は静かに寝ていた。男はそれをいそいで、かつ優しくタオルで包むと家の中へ急いで入った。
そして用意していたタッパーに入れると、それを冷蔵庫へと入れた。


男は外に出ると、まりさがれいむの頭の茎を折っているところだった。
「挨拶はしなくてよかったのかい?まだ育ち切ってない状態で生んだけど。」
男の問いにれいむは、先ほどとは違ってハキハキと答えた。
植物型でも体力は使うのに、疲れた様子は微塵も見せない。
「あのこたちはれいむたちのこじゃないよ! もっとしあわせなおかーさんのところでそだつんだよ!
だから・・・・ゆぐう! ゆぐぅううううううううわああああああああああああんんん!!!」
しかしそんな顔は十秒も持たなかった。たちまち泣きじゃくるれいむ。
「ゆゆー・・・れいむ! すーりすーりしてあげるからおちついてね! すーりすーり♪」
まりさが必死に慰めようとしていた。しかしれいむはそんな事はお構いなしに泣き続けた。



結局れいむが泣きやむのに10分ほどかかった。男は二匹に先ほどの余ったクッキーをオヤツ代わりに与えた。
そして二匹が帰る時。
「おにーさん!」
れいむはいままで見せたことのない真剣な目つきで言った。
「ほんとうに・・・あかちゃんにおかーさんをみつけてくれる? ゆっくりしたおかーさんだよ!」
男は真剣な目で答えた。
「ああ、任せてくれ。伊達にペットショップを名乗っちゃいないさ。」
その目を見て二匹は言った。




「ありがとうおにーさん! ゆっくりしていってね!!!」






この森のゆっくり達には一つのルールがある。
もしも自分の子供を育てられない事があった場合
例えば望まぬ妊娠や食糧事情で間引く必要がある場合、とある男の家に子供を託すのだ。
そうしてその男が子どもたちへ新たな親を見つける。
子どもも親も不幸にならないそのルールは、ゆっくり達からも絶賛された。
そのルールを提案した男は森のゆっくり達から「ドスぐらいゆっくりできるよ!」と褒め讃えられた。


ここは仕事部屋。窓を締め切り昼間から電灯がついてるその部屋には、大量の透明なケースが置かれていた。
その中にはゆっくり達が居た。赤から子供まで様々なゆっくりが。
ケースには一つ一つ紙が貼られていた。『ゲス個体』『○○さん用』『良個体』『欠陥持ち』『レイパー』『おりきゃら』
などと書かれた紙だ。
男はパソコンへ向かって何かを打ち込んでいた。すると
「おにーさん!」
誰かの呼ぶ声が聞こえた。
「なんだいありす?」
男は振り返った。


「ありすのおかーさんはほんとうにみつかるの? もうおかーさんがめのまえでしんじゃうのはいやだわ・・・」
このありすは孤児である。群れで育てる余裕もないので男が引き取ってきた。
「もうすぐ会えるよ。たぶん後3日ぐらいかな。」
ありすがなにやら嬉しそうな顔で喋っていたが、男はすぐにパソコンへ視線を戻した。



パソコンの画面は受信メールでいっぱいだった。男はそれを一つ一つチェックする

『件名:赤ゆっくりを20匹ほど』
『件名:ゲス個体から生まれたまりさとありす』
『件名:子供のれいむ』
『件名:レイパーの子』
『件名:良個体から生まれたちぇん』
『件名;れみりゃ(胴有り)』
全てが注文のメールである。詳しくチェックする。


「また赤ゆっくりが付きかけたので何時も通りにお願いします。今度出来のいい写真を何点か送りますね。」
「飼いゆっくり教育用にゲス個体が欲しいです。念のためそれぞれ2匹づつお願いします。」
「ここのゆっくりは良質のゆっくりで虐めるのが楽しいです><。こんな良個体を常に供給できるなんてすごいですね。」
「生まれたてのれみりゃを探しています。できるだけ生まれたてをお願いします。」
一部のメールにはファイルが添付してあった。それを見てみると、そこにはゆっくり達の無残な姿があった。


男は事務的にメールをチェックすると、ひとつのメールで指を止めた。


『件名:生まれる前の赤ゆっくり』
「善良な親から生まれた、生まれる前のゆっくり(日本語がおかしいですが)を探しています。
友人の勧めでこちらを知りました。値段が張るのはわかっていますがぜひお願いします。」
男はすぐに返事を返した。







とある森のとある小さな穴の周り。
れいむとまりさはせっせと冬支度の為に草を集めていた。
ここの森のゆっくりは何人かのグループで冬を越す。
なので皆で作業を分担して準備をする。

「まりさ?」
れいむの呼び声に口に草を大量に頬張ったまりさが答えた。
「ゆほほほ? ゆほ?(どうしたの? れいむ?)」
「れいむのかわいいあかちゃんたちはゆっくりしてるよね!」
泣きそうな目をしてれいむは言った。
まりさはそれを見て、力強く全身を縦に振った。
「ゆゆ! そうだよね! ゆ〜♪ れいむはりきってゆっくりくささんをあつめるよ!」
木枯らしが吹いた。もうすぐ冬の到来である。




【あとがき】
このSSのゆっくり達は生息地域が限られている上に、数もそこまで多くない
そう考えてやってください。作者が喜ぶので。


by バスケの人

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最終更新:2022年04月11日 00:15