幻想卿の夏祭り

人間の里では毎年この時期になると夏祭りが行われる。
夜、村の大通りには沢山の屋台が並ぶ。
焼きそば、わたあめといった食べ物をだすお店、
射的や輪投げ、金魚すくいといった遊べるものを出すお店、
その日は、他の里や離れた場所からも多くの人が訪れ、里は大いに賑わう。

しかし今年の出し物は例年とは少し違うものだった。
幻想卿に訪れた小さな変化、ゆっくり饅頭が現れ人々の暮らしぶりは少し変わっていた。

「ゆっくりの踊り焼き」暖簾にそう書かれた屋台が立っている。
屋台には大きな鉄板が一枚、店主はお好み焼きを焼くようなヘラを持っている。

「へいらっしゃい!」
「おぢさん、ゆっくり焼きひとつちょうだい!」
「はい、よろこんでー!」

店主は屋台の裏手に置いてあった箱のふたを開け中から野球ボールほどのゆっくりれいむを一匹取り出す。

「ゆっ!?」

後頭部をつままれ持ち上げられたれいむは、何が起きたのか判らずに驚きの声を上げる。

「ゆっ!?ゆっ!?」

体を振りあたりを見回そうとするれいむ、良くは判らないが自分が空中に浮いていて背中を何かにつままれ動けない事だけは判った。

「は、はなしてね!れいむはゆっくりおかしをたべてるよ!!」

何かに向かって話しかける。
屋台の裏手に置いてあった箱には沢山のゆっくりとお菓子が入っていた。
つままれているれいむも、そのお菓子を食べてゆっくりしている所だった。

「おじさん、それどうするの?」
「それはね、こうするんだよ。」

れいむは希望通り開放されスーと下に落ちていく。

「ゆー、ありg・・・!!!」

ポトン、ジュウウウ・・・

「あ”あ”あ”あ”!!!あ”ち”ぃ”ぃ”ぃ”い”い”よ”お”お”お”お”」

熱く熱せられた鉄板の上でれいむが踊る。

「ゆ”う”う”う”う”!!ち”ぬ”!ち”ん”し”ゃ”う”!!!」

熱さから逃れようと鉄板の上をピョンピョンはね回るれいむ、
とにかく鉄板の上から出ようと一直線に外を目指すがあと少しの所で鉄ベラが立ちふさがる。

「ゆ”き”ゅ”う”ぅ”ぅ”」

突然現れた壁に顔から突っ込んでしまうれいむ、そして鉄板の中央に向かって弾かれる。

ペシッ!ジュウジュウジュウ・・・

コロコロと転がってまだ焼けていない所が鉄板に振れるたびジュウジュウといい音がしてやけめが付いていく。

「や”め”て”よ”ぉ”お”お”!ゆ”っ”く”り”さ”せ”て”え”え”え”え”!!!」

鉄ベラに弾かれながらも必死に外を目指そうとするれいむ。

「ゆ”う”う”う”う”う”う”」
「や”へ”っ”!や”へ”て”え”え”え”え”え”え”」
「ち”に”た”い”く”な”い”の”!お”う”ち”か”え”し”て”え”え”え”!!」

れいむは抵抗する力を無くすと、熱に身を任せ鉄板の中央で短く鳴くだけになった。

「ゆ”ぅ”・・・ゆ”ぅ”・・・ゆ”ぅ”・・・ゆ”ぅ”・・・。」


「おじさん!おもしろいね!」

「そうだろう?ここからが仕上げだよ。」

そういうと店主は鉄ベラでれいむを平らに潰す様に押さえつける。

「ゆ”?ぅ”ぅ”ぅ”ぅ”ぅ”ぅ”ぅ”ぅ”!!!」

ジュウーと焼ける音と連動するようれいむは声を挙げた。

押さえつけたまま良く焼いてから、慣れた手つきでひっくり返す。

ジュウー、表の面も同じように良く焼く。

「っ”っ”っ”っ”っ”っ”っ”っ”っ”っ”!!!」

れいむは声を上げられずに、ただブルブルと体を揺らすだけ。
十分に焼いたところでもう一度引っくり返す。

「はい、できあがり!」
「おー」

れいむは平べったく固まったまま焼き上がり、店主はそれをすくって紙に包む。

「おまちどうさま」
「ありがとう!おじさん!」

ゆっくり焼きを受け取った少年は、その食べ物をマジマジと見つめる。
れいむと目が合う。ゆっくりは中の餡を失わない限りそう簡単には死なない。
おいしく焼きあがった後も意識はハッキリとしていた。

「いただきまーす。あーん」

少年はゆっくり焼きを口に運んでいく。

「・・・や・・・や”へ”て”ぇ・・・。」

力なく命乞いするれいむ、しかし良く焼けた口は思い通りに動かない。

1噛み。

「あっ!熱っい!」

余りの熱さに思わず口を離す。れいむの噛まれた部分には歯型が付いていた。

「ははは、できたてほやほやだからね。すこし冷ましたほうがいいよ。」

そういわれると少年はフーフーとれいむに息を掛けて覚まそうとする。

「・・・ゆ?・・・たすけてくれるの?」

フーフーと息を掛ける。食べごろはそれが教えてくれる。

「・・・すずしくなってきたよ・・・つぎはおみずをもってきてね!」

アーン

「ゆ?」

パクリ

「ッ!!」

れいむの体に激痛がはしる。痛みのまま悲鳴をあげる。
しかし、れいむからは悲鳴はあがらず、かわりに少年の口が悲鳴を上げる。

「い”い”い”い”い”た”た”た”あ”あ”あ”あ”あ”あ”い”い”い”い”い”い”。」

一口で丸ごと持っていかれたれいむの口が少年の中で悲鳴をあげる。

「や”め”て”え”え”え”え”!か”ま”な”い”て”え”え”え”え”え”え”。」

「ハフハフ、おじさん口の中でなんかうごくよ!」

「おもしろいだろ?それを踊り食いって言うんだよ」

「あとは目玉の部分がおいしいんだよ。噛むと中から甘酸っぱいシロップが出てくるからね」






「おーい、山田ー!こっちこいよ!」

遠くで少年を呼ぶ声がする、少年は呼ばれたのを聞くと友達のもとに走っていった。

「あ!・・・しまったな。」

「御代をもらい忘れたな。あっはっはっは!」

その年の祭りも例年通り大いに盛り上がった。

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最終更新:2022年04月14日 22:43