「厳しいゆっくり」




そのゆっくり一家の様子は、普通とは何かが違っていた。
一家を率いるのはバレーボールサイズのゆっくりまりさ。そこは何もおかしくない。
ついていくのはゆっくりまりさとゆっくりれいむ。数は大体半々ぐらい。そこもおかしくない。
普通とは何が違うのか…その違いは、話しかけてみて始めて分かった。

「ゆっくりしていってね!!」

ゆっくりの本能を深く揺さぶる、僕の一声。
普通なら、この言葉に反応しないわけがなかった。ところが…

「……ゆっ!」「…ゆ!」

子供たちは皆、少し声を漏らしただけ。
何か言いたげな顔はしているが、『ゆっくりしていってね!!』という元気な返事は返ってこなかった。

「おにーさん!!まりさたちはほかのばしょでゆっくりするからね!!
 なにもようがないなら、まりさたちはもうゆっくりいくよ!!」

先頭に立っている母まりさが、僕に向かって言ってくる。
こいつからも元気な返事はない。おかしいな…こいつら病気なのか?
試しに、もうちょっと揺さぶってみるか。

「まりさ、どこに行くのか知らないが、お兄さんはもっとゆっくり出来る場所を知ってるよ」
「ゆ!?そうなの!?ゆっくりちゅれていってね!!」「れいむもゆっくりしたいよ!!」

もう我慢できない、と言わんばかりに子ゆっくりたちが口を開いた。
そうそう、それが普通の反応である。だが、母まりさは普通ではなかった。

「ゆ!!そんなこというとゆっくりできないよ!!」
「ゆ゛!!」「びゃっ!!」

何も悪いことをしていないのに、母まりさに突き飛ばされた子ゆっくりたち。
転がるほどの勢いも、皮が破れるほどの破壊力もない、ただ痛いだけの攻撃だった。
子供たちは涙目で何かを無言で訴えてくるが、僕にも母まりさにも…何も伝わらない。

「おにーさん!!わるいけどまりさたちはゆっくりいそいでるからね!!じゃましないでね!!」

そう言い放つと、母まりさはとっとと先へ進んでいってしまった。
子供たちだけが、僕を名残惜しそうに見上げていたが…

「…ゆっくりしすぎだよ!!」

母の一言で、子供たちは飛び上がるようにして母の後を追いかけていった。

あの母まりさ、どう考えても普通じゃない。
『ゆっくりしていってね!!』『もっとゆっくり出来る場所がある』という二つの言葉。
ゆっくりの本能を最も刺激するはずの言葉に、母まりさは釣られなかった。
突然変異なのか、それとも病気なのか…

「こいつは面白そうだな…」

どちらにしても、この面白そうなネタを放っておくわけにはいかない。
僕は先ほどの一家をゆっくり追いかけることにした。



一家の巣はすぐに見つかった。木の根元に、精妙にカムフラージュされた大きな穴だ。
決して大きな穴ではないが、母まりさ+数匹の子ゆっくりなら十分な広さだろう。
僕は静かに巣穴に近づいて、隙間から中を覗いてみた。

「にんげんにはなしかけられても、しゃべっちゃだめっていったよね!!」
「ゆびゃああああぁぁl!!」
「みんな、おかーさんとのやくそくやぶってしゃべっちゃったよね!!」
「ぎゅべぇおおおおお!!」
「やくそくをやぶったわるいこはゆっくりできないよ!!おしおきだよ!!」
「あぎゅあああぁっぁ!!!」

合計5匹の子ゆっくりが一列に並んでいる。
よく見れば子ゆっくりというより、赤ちゃんゆっくりぐらいの大きさだ。
母まりさは、何か言葉を発するごとに子ゆっくりに一匹ずつ体当たりを食らわせる。
その勢いは母まりさの怒りに比例して強くなり…最後に体当たりされた子れいむは、壁にぶつかると口から
餡子を大量に吐き出してしまった。
ゆっくりにとって、命の源である餡子を吐き出すことは一大事だ。
処置を怠れば、死に至ることだってある。それは子ゆっくりもよく知っていた。

「うぶっ!!ゆべえええぇっぇぇえ゛え゛え゛ぇぇぇあ゛あ゛あ゛ぃ!!!!」
「ゆゆ!!おかーさん!!れいむが!!れいむがゆっきゅりできなくなっちゃうよ!!」
「ゆっくりたしゅけてあげてね!!ゆっくりなおしてあげてね!!」

周りの子ゆっくりたちが、必死に母親に助けを求める。
だが、母まりさは鼻で笑いつつこう言い返した。

「ふん!やくそくをまもれないバカなこは、ずっとそうしてゆっくりしてればいいよ!!
 みんなもやくそくやぶるとこうなっちゃうからね!!ゆっくりりかいしてね!!」

自分の仕事を成し遂げたと思っているのか、母まりさの顔は満足げだ。
それに対して、子ゆっくりたちの表情は完全に沈んでしまっている。

「子供を虐めるなんて…酷い母親だなぁ」

僕はくすくすと笑いながら、そのまま様子を観察し続けた。



母が食料を取りに出かけた後、しばらくして先ほど餡子を吐いた子れいむが目を覚ました。

「ゆ…ゆううぅぅ……!」
「ゆ!ゆっくりおきてね!!」「ゆっくりしていってね!!」

周りで見守っていた子ゆっくりたちが喜びの声を上げる。
気絶していた子れいむは特に外傷はないらしく、次第に元気を取り戻してゆっくりし始めた。
僕は母まりさがいなくなった今しかないと思い、巣穴に首を突っ込んだ。

「やあ!ゆっくりしていってね!!」
「ゆ?ゆっくりしていってね!!」

今度は5匹の子ゆっくり全員が応えてくれた。
やっぱり、普通じゃなかったのはあの母まりさに原因がありそうだ。

「さっきのおにーさん!!どうしたの!?」
「ここはれいむたちのおうちだよ!!ここでゆっくりすると、おかーしゃんにおこられちゃうよ!!」

怒られるというのは…たぶん“やくそく”のことだろう。
先ほどの様子からしてこの子ゆっくりたちは、母まりさと幾つか約束を交わしているらしい。
それらを破ると、先ほどのように罰を受ける…命に関わりかねない罰を。
つくづく理不尽な母親である。自分の都合を押し付けて、破ったら虐待だなんて。

「大丈夫だよ。すぐに出て行くからね。それより、皆に美味しい食べ物を持ってきたよ」
「ゆ!?たべもの!!ほちいよ!!ゆっくりちょうだい!!」「ちょうだいちょうだい!!」

クッキーを放り込んでやると、5匹の子ゆっくりは一斉に群がって貪り始めた。
母との約束という重圧を忘れた5匹は、本能に忠実な普通のゆっくりだった。

「ゆはっ!!うっめ!!めっちゃうっめ!!」「むーしゃむーしゃ!!しあわせー♪」
「じゃあお兄さんはもう行くからね。みんなはゆっくりしていってね!!」

って、食べ物に夢中だからたぶん聞こえてないな。
僕は食事を邪魔しないよう、追加のクッキーを数十枚放り込んで、静かにその場から立ち去った。
後ろからは、クッキーを貪り食う子ゆっくりの下品な声が聞こえてくる。
母まりさが帰ってくる頃に戻ってきて、“あれ”を実行することにしよう。



帰ってきた母まりさは、巣の中の様子に驚愕した。
一面を埋め尽くす見慣れぬ食べ物。それを美味しそうに食べている5匹の子供たち。

「ゆ!おかーしゃんおかえりなさい!!」「みんなでゆっくりしようね!!」

口の周りに食べかすをつけた子供たちが、出迎えの挨拶をする。
だが、母まりさはそれに応えない。

「これはだれからもらったの!?ゆっくりせつめいしてね!!」

母まりさの疑問は当然のものだった。子供たちが自力で食料を集められるわけがない。
しかも、5匹が食べきれないほどの量だ。母まりさだって、これだけの量を集めるのには2週間はかかる。
つまり当然の結論…『この食べ物は、誰かからもらった』

「ゆ……と、ともだちのまりさにもらったんだよ!!」「そ、そうだよ!!」
「うそをつかないでね!!にんげんからもらったにきまってるよ!!」
「ゆ゛!?」

母が真相を口にした瞬間、子供たちは固まってしまった。
“恐怖”…生まれたときから植えつけられてきた感情、たった一つに縛り付けられて。
約束を破ったことが母にバレた…その次に待っているのは、無慈悲な“罰”であることを知っているから。



横一列に、背を壁に向けて並べられた子供たち。
自分達のこれからを想像して、がたがたと震えている。
されることはいつもと同じ。だが、未だにその痛みに慣れることが出来ない。

「やくそくをやぶったらゆっくりできないよ!!」
「ゆぎゃああ゛あ゛ぁぁ!!」
「やくそくやぶるこは、おかーさんのこどもじゃないよ!!」
「ごみんあじゃあぁぁぁい゛い゛!!」
「にんげんとはゆっくりできないよ!!ゆっくりおぼえてね!!」
「もうゆるじでええぇぇぇぇえ゛!!」
「にんげんはわるいものだよ!!ぜったいゆっくりしちゃだめだよ!!」
「うがやおああおおおおぉおぉぉ!!」

壁と母まりさの身体で挟み撃ちにされる度に、悲痛な叫びを上げる子ゆっくりたち。
何度も何度も、何度も何度も、何度も何度も、何度も何度も。
繰り返し繰り返し、母まりさは5匹の子ゆっくりに順番に体当たりする。

『人間とはゆっくりできない』『人間と一緒にゆっくりしたら二度とゆっくりできなくなる』
全ては理解してもらうため。このことを理解して、覚えてもらうためだ。
自分は母に人間の危険性を教えてもらっても、すぐに忘れてしまった。
そして人間についていったばっかりに、友達を皆食べられてしまった…そんな自分の二の舞にならないように。
子供たちには忘れて欲しくない。ずっと覚えていて欲しい。だってそうしないとゆっくりできないのだから。

「がまんしてね!!がまんしてゆっくりできるこになってね!!」
「げりょうあおあおあおあおああああああ!!!」

母まりさは、何度も何度も、子ゆっくりたちに伝わることを願って…体当たりを続けた。



昼になって、例の巣に戻ってきて見ると…巣の中では再び虐待が行われていた。
母まりさが子ゆっくりに体当たりするたびに、張り裂けんばかりの悲鳴が僕の耳を突く。

「うぎゃあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁ!!!」
「ぎゅええええべべべべええ!!!」
「あばばばばあああああぁぁぁぁあ!!」

何故だか分からないが、母まりさは相当怒っているらしい。
母まりさの言葉は乱れすぎていて何と言っているか聞き取れないが…かなりノリノリである。
待てど暮らせど、虐待の嵐はなかなか止まない…痺れを切らした僕は、釣り針を握るとそっと巣の中に手を
突っ込んだ。

「……よし」

虐待に夢中になっている母まりさは、自分の帽子に釣り針が刺さったことに気づいていない。
子ゆっくりたちも、すっかり怯えきってしまって周りの様子など目に入っていなかった。
僕は、糸を思いっきり引っ張った。それに従って、母まりさの帽子が脱げて瞬く間に巣の外へ飛んでいく。

「ゆ!!まりさのぼうし!!ゆっくりまってね!!」

即座に異変に気づいた母まりさは、帽子を追って巣の外へ。
終わりなき虐待から開放された子ゆっくりたちも、安堵の表情を浮かべながら恐る恐るついてくる。

「おにーさん!!それはまりさのぼうしだよ!!ゆっくりかえしてね!!」

糸にぶら下がった帽子をぶらぶら振り回す僕。
まりさは必死にジャンプしてそれを口で咥え取ろうとするが、ぎりぎり届かない高さに調節しているので、
どんなに頑張っても…帽子まで後一歩、というところで勢いを失ってしまう。

「ゆぎゅうううぅぅぅ!!ゆっぐりがえじでね゛!!がえざないどゆっぐりざぜであげないよ゛!!」
「あっそう、じゃあ返してあげるよ、ほーれほーれ♪」

上から目線で物を言う母まりさを、僕は満面の笑みでおちょくる。
ぶんぶん振り回される帽子を目で追いながら、あんぐりと口を開けて狙いを済まして…
命と同じくらい大事な帽子を奪い返そうと、必死にピョンピョン跳ね続けている。

「うぎゅうううぅぅぅ!!!いじわるしないでね゛!!ゆっくりがえじでね!!」

ふと、巣の入り口近くにいる子ゆっくりたちに視線を移す。
さっきからじっとこっちを見ているが…母を応援する声は聞こえてこない。
普通の一家なら、『おかーさんがんばってねぇ!!』とか、『おにーさんとはゆっくりできないよ!』の
一言ぐらいあるものだが…

つまり、そういうこと。子ゆっくりたちにとって、母まりさは“そういう”存在なのだ。

「お母さんまりさにひとつ提案だよ。子供の帽子かリボンを持ってきたら、この帽子と交換してあげる」
「ゆ!?」

果たして口車に乗って、子供の髪飾りの強奪に乗り出すかどうか…
僕にとっては一種の賭けだったのだが…どうやら僕の勝ちだったようだ。
母まりさは目の色を変えて、巣の入り口に集まっている子ゆっくりたちに襲い掛かった。

「ゆっくりにげないでね!!おかーさんにぼうしとりぼんをちょうだいね!!」
「おがーざんごっじごないでえ゛え゛ぇぇぇ!!!」
「ぞんなごどずるおがーじゃんどはゆっぐりでぎない゛い゛い゛い゛ぃぃぃ!!!」

子ゆっくりにとっても、帽子やリボンは大事なものだ。簡単に取られるわけがない。
母まりさに捕まらぬよう、子ゆっくりたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

「ゆっくりつかまってね!!にげるこはゆっくりできなくなっちゃうよ!!」
「やだあああぁぁぁぁ!!!づがまるどゆっぐりでぎないよ゛!!」
「おがーざんやめでね゛!!ゆっぐりごっぢにごないでね゛!!」

母と子には体格差があると言っても、命と等価のモノがかかっているこの状況では、子供たちはなかな捕まらない。
実のところ、先ほどのクッキーにはゆっくりの運動能力をちょっとだけ強化する薬物が入っていたのだが…
母まりさも、当の子ゆっくりたちもそのことにはまったく気づいていない。

「おがーざんにぼうしどりぼんちょうだい!!そうすればみんなでゆっぐりでぎるよ゛!!」

なかなか追いつかないので、目に涙を浮かべながら子供を説得しようとする。
しかし、そんな言葉で釣られるほど子ゆっくりは愚かではなかった。

「おがーざんうそづいでるよ!!うそづくおがーじゃんどはゆっぐりでぎないよ゛!!」
「ゆっぐりついてこないでね゛!!ゆっくりどっかいってね゛!!」
「ゆぐぐぐぐぐ…どうじでぞんなごどいうの゛!!ゆっぐりでぎなぐなっでもしらないよ゛!!」

まだまだ子ゆっくりたちには追いつきそうにない母まりさ。
僕は母まりさにもっと必死になってもらうために、ライターで母まりさの帽子に火をつけた。

ボオォッ!!

何の素材で出来ているのかわからないが、本当によく燃える。

「ゆぎゃああああーーー!!!まりさのぼうしもやざないでえ゛え゛え゛ぇぇぇ!!!」

子ゆっくりを追いかけるのを止めて、燃え上がる自分の帽子目掛けて飛びついてくる母まりさ。
だが、僕がうまく糸を動かして帽子をひょいっと遠ざけたので、母まりさはそのまま地面に激突した。

「ゆぶっ!!やめでね゛!!まりざのぼうじもやざないで!!はやぐひをげしでよお゛お゛お゛ぉぉぉ!!!」
「まぁまぁ焦るなって。結構綺麗に燃えてるじゃないか」

地面に顔から落ちて身悶えている隙に、母まりさの髪を釘に結び付けて地面に打ちつけた。
これで母まりさは、ほとんど身動きが取れなくなった。

「ひをげしで!!うぶゅ!!いだい゛!!いだいよ゛!!がみがひっばられでるううぅぅぅぅ!!!」

帽子を燃やされている悔しさと、髪を引っ張られる痛みで…母まりさの顔は涙でボロボロになる。
痛みにのたうち回ろうとすればさらに痛みが襲うので、下手に動けない状況だ。
それでも母まりさは、何度も何度も助けを求める叫び声をあげた。

「まりさをだずげでぇ!!ごのままじゃゆっぐりでぎなぐなる゛!!」
「おねがいだがら!!ごっがらはなぢでえええぇぇえ!!!あだまがいだいいいいぃぃぃい!!!」
「ぼうじ!!まりざのぼうし!!もやざないでよ゛ぅ!!」





「……らんぼうするおかーしゃんは、ずっとそこでゆっくりしてればいいよ!!」

突然、一匹の子れいむが震えながら力いっぱい言い放った。
するとそれに続いて、次々と子ゆっくりたちが母まりさに罵詈雑言を浴びせる。
痛めつけられる母まりさの姿を見て、子ゆっくりたちの心境に変化が生じたのだろう。
母まりさが動けないことに気づいた、というのもあるだろうが。

「そうだそうだ!!おかーしゃんのぼうしなんか、ゆっくりもえちゃえばいいよ!!」
「おかーさんはずっとそこでゆっくりしててね!!こっちにこないでね!!」
「ばかなおかーさんはゆっくりしねばいいよ!!」
「いや゛ああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!ひどいごどいわないでえ゛え゛え゛ええぇぇぇぇえぇえぇ!!!!」

次々に打ち明けられる子ゆっくりたちの本音が、母まりさの心を深く抉る。
今まで母まりさに虐待され続けてきた子ゆっくりの鬱憤が……ここで爆発した。

「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」
「らんぼうもののおかーさんはゆっくりしね!!」
「れいむたちにいたいことしたよね!!だからおかーさんにもいたいことしゅるよ!!」

身動きの取れない母まりさを取り囲んだ5匹は、怒りを爆発させながら集団リンチを始めた。
つい数分前まで母の虐待に怯えていた子ゆっくり…僕がちょっと手伝ってやっただけで、立場は逆転した。

「いだっ!!いだいよ゛!!ゆっぐりやめでね゛!!やめだらゆっぐりさせてあげるよ゛!!」
「うるさいよ゛!!おかーさんのいうごとなんか、もうきかないよ゛!!」
「おかーさんのせいでいままでゆっくりできなかったよ!!ゆっくりしんでいってね!!」

一体どれだけの間、母まりさに虐待されてきたのだろうか…その間に溜めてきたストレスは相当のものらしい。
容赦ない体当たりが、母まりさの身体を深く傷つけていく。
ところどころ餡子が漏れ出し、さらに傷は広がって痛みを誘発させる。

「あぎゃああああああっぁぁぁあぁ!!やめでやめでやめでやめでやめでやめでやめで!!!!
 じぬ゛ぅ!!じんじゃう゛!!ごのままじゃじんじゃう゛!!おねがいだがらやめでよおおおおぉぉぉ!!」

母まりさの悲鳴を完全に無視し、リンチを続ける子ゆっくりたち。
僕はそんな子ゆっくりたちに優しく話しかけた。

「そろそろ疲れてこない?お母さんの帽子が燃えてるのを見ながら、ゆっくり休憩しなよ」
「ゆ!そうだね!!ゆっくりつかれてきたよ!!」
「ゆっくりやすもうね!!みんなでゆっくりしようね!!」
「おにーさんあたまいいね!!おかーさんとはおおちがいだよ!!」

そんなことを言いながら、母まりさから離れていく。
取り残された母まりさの姿は…それはもう酷いものだった。

「ゆぶ……どぼぢで…?……まりざはっ…みんなのだめにっ…!!」

目玉は片方が抉られ、口は不細工に引き裂かれ、頬も深く噛み千切られている。
まだ生きているが…このまま餡子を漏らし続ければ、命が尽きるのは時間の問題だ。

「ゆー!きれいだね!!」「ほのおってきれい!!」「ゆっきゅりー!!」
「もえろもえろー♪」「ゆっくりもえろー♪」

炎をあげて燃える母まりさの帽子。それを見つめる子ゆっくりたちの目は輝いている。
やっと母まりさの圧制から解放される。明日からは自由にゆっくり出来る。
掴み取った明るい未来を見据えた…そんな目だ。

僕は糸を木の枝に固定して子ゆっくりたちから離れると、そっと母まりさに近づいた。

「やぁ、気分はどうだい」
「うぎゅ…だじゅげで……ゆっぐりでぎな…いよ…!!」
「でも、子供たちは今までゆっくり出来てなかったんだよ。お母さんである君が虐めていたせいでね」
「うぞだよ!……まりじゃは!…まりじゃは……みんな゛のっ…ために゛…!」

まだ悪あがきを続けている。うねうねと動く母まりさの頬の皮が気持ち悪い。

「みんなのために……ねぇ」

僕はため息をつきながら振り向いて、子ゆっくりたちに声をかけた。
子供たちは糸にぶら下がった帽子が燃えているのを、まだ楽しそうに見物している。

「なぁみんな!!このお母さんどうする?助けてあげる?」
「ゆ?そんなのほっといていいよ!!それよりおにーさんもこっちでゆっくりしようね!!」
「おかーしゃんなんかそのまましねばいいよ!!ゆっくりしんでね!!」

との返答を貰い、そのまま視線を母まりさに戻す。

「…だとさ」

僕は母まりさに向けてニコリと微笑んだ。
母まりさは、僕にとって最高の表情をしたまま…最期の叫び声をあげた。



「ゆ゛っ……ゆぎゃああああぁあぁぁぁぁぁぁぁあがえんrぎなえりおいりあがあrがにrg!!!!」

声にならない叫びをあげたが最後、母まりさは動かなくなった。



子供たちにはずっとゆっくりしてもらいたい。だからこそ、厳しく接してきた。

だが、子供たちには伝わっていなかった。それどころか家族を崩壊させる一因になってしまった。

どうしてこんなことになってしまったのか、自分は間違っていたのだろうか。

母まりさは考える。考える。考える。でもわからない。餡子が足りないからわからない。

子供たちに伝わらなかった想い。伝わらなかった願い。

一生懸命伝えたつもりだった。でも、伝わらなかった。伝えたかったのに、伝わらなかった。

そしてこれからも、その想いと願いは、伝えることはできない…



傍らで笑いあう子供たちの声が、遠くに聞こえる。

母まりさは、ゆっくりと後悔しながら…さいごのいのちを吐き出した。



あとがき

この話、本当にかわいそうなのは誰だろう?

作:避妊ありすの人

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最終更新:2022年04月14日 22:56