「雨がずっと降り続けるなんて、流石に気が滅入るっちゃ仕方ないわね」

そう憂鬱そうに呟くのは、OLのような正装に身を包んだ青い髪の女性

「……でも、最初の位置がショッピングモールなのは運が良かった、のかしら?」

光が射し込むこともないこの雨雲の下、最初の位置が施設の内部というだけでも利点である。しかもそこがショッピングモールであるなら尚更だ

「……っと、あったあった」

傍ら、視線に入ったのは一本の青い傘。それを手に持ち、デイバッグにしまう
永遠の雨曇の世界の中、雨を凌ぎながら移動するという手段は特に重要であり、余計な消耗を減らせるだけでも十分な代物だ

「………」

だが、彼女の中にはこのロワを開いた神子柴なる老婆と、あの映画の二人に襲いかかった『理不尽』に対し怒りを覚えていた


彼女の名前は陸島文香。―――然してその正体は『A(エース)』の一員。本名――上野まり子

彼女――いや、彼女たちは終わらせたはずだった。あの悪夢のような『ゲーム』を
だが、つかの間の幸せを謳歌していた最中、彼女はこの舞台に再び呼び出されたのだ

ただ呼び出されただけならばまだ良かったのかもしれない。問題はルールの根幹

【ゲームの終了方法】
①『森嶋帆高』が天野陽菜と出会えず制限時間が過ぎた場合、太陽光が会場中にくまなく差し込みゲーム終了。1時間後に森嶋帆高の首輪の爆破を合図に全員退去。
②『森嶋帆高』が陽菜と出会ったら数時間後にエリア全体が浸水し、『森嶋帆高』と陽菜を除く魚人のような溺死しない種族も含めて全員死亡する。
③帆高が死滅した場合、その時点でゲームは終了。残った者は帰還できる。

「……流石に悪趣味過ぎるわよ……ッ!」

抑えきれぬ怒りの余り無意識に拳を握り締める
老婆が見せた映像の意図、そしてあの二人を根幹においた悪趣味どころか反吐が出るようなルール
参加者に突きつけられるのは二種の選択。――二人を絆を取るか、参加者たちの命を取るか

これでは本当に生贄だ。愛し合った二人を引き裂く醜悪で下劣で吐き気を催すような邪悪だ。確かに森嶋帆高の行動には客観的な面で見れば無鉄砲な部分もあるであろう。だが、それを踏まえても二人を引き裂くあの老婆の企みが許せずにいた
――かつて『ゲーム』で恋した男が自分を守るため死んでいった経験がある、上野まり子からすれば
最も、過激派の暴走が原因で『ゲーム』の主催関係者の娘を、何も知らない少女を巻き込んだ結果になってしまった組織の一員に属している彼女が言えた立場でもないのであるが

「……ふぅ」

滾りそうな怒りを冷やし、落ち着くこうとする。こうも大規模な事をしでかせる連中だ
まずあの『ゲーム』の主催陣とはやることの規模が違いすぎる。おそらくは運よく組織の救援が来たとしても逆に返り討ちに合う可能性が高い
なにせ相手は『神』の存在を持ち出して来た上、あのような異形まで持ち出してきたのだから。別に神様の存在を全肯定する気はないが、――おそらくそれ相応の準備をしてきたとも思える

「――何にせよ、まずは彼と、この首輪をどうにかしないには何も好転しないわね」

懸念すべきは森嶋帆高の事だ。おそらく彼の事だろうから真っ先に天野陽奈を助けに行く可能性が高い。邪魔をすることになるのは気が引けるが、一旦は森嶋帆高が天野陽奈に出会わないようにするため、彼を捕獲することだ
勿論、天野陽奈をそのままにしておくわけではない。首輪の解除方法の確立と会場からの脱出の手段が整い次第、森嶋帆高と共に天野陽奈の元へと向かい、彼女を救出するつもりでもある

「せっかくのショッピングモールだし、何かしら使えそうなのを物色しに―――……」


ガタッ、と足音がした。誰の足音かは知らないが、まずここに『自分以外の誰か』がいる事だけは確か

「……ねぇ、誰かいるの? 安心して、私はあなたを襲ったりはしないわ」

などと常套句を言ってみるも、反応はなし。流石に言い方が明らかにあからさますぎた、とは内心思ってはいたが

「……まあ、そう簡単にはいかないわよね」

もしも、相手が相手だった場合に備えて武器の類をポケットにしまう。支給品の一つとして入っていたスタンガン。少々心もとない所もあるが、なるべく傷付けずに無力化する手段としては十分

「……こっちかしら」

足音がした方へと向かう。音の方面はショッピングセンターの正面フロア。広い間取りではあるがその分遮蔽物が少なく、銃撃戦となれば不利。最悪の想定も考え、なるべく物陰に隠れながら移動する

「……」

まだ人の気配は感じられない。静寂が彼女の肌にこびり付き、緊張を生む
もし、足音の主が殺し合いに乗っているとしたのなら――

「……っ!」

カランという音と共に、隣で何かが転がっていた

「……発煙弾!?」

気付いた時には既に遅い。発煙弾から白い煙が噴出、まり子の周囲の視界を遮る
白に包まれた視界で、聞こえる自分以外の足音

「……なるべく穏便に済ませたかったんだけど」

そっちがやる気ならば仕方ないと、スタンガンを構える。視界が利かないのはあっちも同じ条件のはず
すぐさま攻撃を仕掛けてこないところを見ると、霧が晴れるのを待っているか、そもそも銃を持っていないか。―――ともあれ、対象を見つけ無力化。話はその後だ

霧の中に影が見えた。動きを見る限り自身を探している用に見える。チャンスだと思い、足音を殺しながら近づく

「……!?」

気付かれずに近づくことに集中してしまったのか、何かに足が引っかかって思わず地面に転んでしまう
気がつけば糸のようなのが柱と地面を繋ぐように結ばれていた。あの煙の中だ、細い糸程度ならそれだけでも煙によって隠されてしまう

「……一体、何事かしら」

迂闊だったと後悔する暇を彼女に与えず、その影はそう吐き捨てながらもこちら側に近づいてくる
白いブレザーを着た赤い髪の少女。―――その姿を、上野まり子は知っていた。知っていたが故に、呆気にとられた表情のまま固まっていた

「………悠奈、さん?」
「……? え、あたしの事、知ってる……?」

悠奈と呼ばれた女性は唐突な名前呼びに一瞬沈黙。更に悠奈からすれば目の前の女性が自分を知っている理由がわからず、しかもその女性は何かに感極まったのか涙が溢れる始末

「ちょ、ちょっとっ!?」
「ご、ごめんなさい。つい、嬉しくて………その……」
「というよりも本当に誰なの!? どうして私の名前を……」

慌てていた。彼女からすれば、見ず知らずの相手が自分の名前を知っていて、かつ突然泣き出したとなれば当然である
そんな悠奈を見たのか少しだけくすりと笑い、改めて

「……お久しぶりですね悠奈さん。上田まり子よ……今は色々あって陸島文香って名乗ってるんだけどね」
「……えっ。まり子って……えええええええっっっ!?」

改めて、自分の名を名乗った上野まり子に対し、悠奈の思考が一度停止した後、脇目も振らず叫んでしまったのであった


○ ○ ○

時と場所が移り、モール内のある店舗の一角
というのも、先の件での悠奈の大声の事もあり一先ず物資確保も兼ねた移動の結果
悠奈曰く、偶然にもショッピングモールを歩いていた際に発煙弾の煙を見かけ、偶然駆けつけた結果とのことで、発煙弾の元凶のことも含めて移動したのだ

店内を物色しながら、陸島文香は旧知との会話を弾ませていた

「ほんっと、驚いたわ。まさかまり子だったなんて。ていうかだいぶ変わったわね」
「……あれから十年もしたら、誰だって変わっちゃうわよ」
「……10年、か」

10年前――陸島文香が、まだ上野まり子だった頃の話。運命の分岐点となったあのゲーム
秩序を重んじ、融通の利かなかった上野まり子が変わるきっかけとなった出来事だ
あれから、全てが変わった。悪意にまみれた『ゲーム』を一致団結し、犠牲が出ながらも抜け出すことが出来た
脱出後、非合法組織であり『ゲーム』を破壊しようと立ち上がった『エース』に拾われ、海外への逃亡生活を続け、10年の月日の果てに、上層部の暴走を止める名目で陸島文香はある殺し合いに潜入した
その殺し合いを打ち破った上で、陸島文香――上野まり子は今でも生きている

「私が死んだ後、色々あったようね」
「まぁね」
「……修平やみんなは?」
「今も戦ってるわ……つい最近、やっと、運営の首魁達のしっぽを掴んで、捕まえることが出来たんだけど」
「………そう」

悠奈の複雑そうな表情が、文香の目に燦然と映る。元々自分たちはそういう人生を歩む必要はなかったのだ
おそらくゲームの主催が縄について、これ以上起こるであろう悲劇が止められた喜びと、本来なら背負わせる必要なかった者たちに重荷を背負わせてしまった事への後ろめたさも、また彼女の中にあったのだろう

「……悠奈さんが気にする必要はないわ。修平くんや、私を含めたみんなが決めた道だから。だから気に病まないで」
「………」
「なーにしょげかえった表情してるのよっ。そりゃ誰だって落ち込みたい時はあるだろうけどさ。そもそも修平くんに託したのは悠奈さんなんだし。責任取らずに勝手にうじうじされたらおねーさん困っちゃうわ」
「……変わったっていうよりも、変わりすぎじゃないのまり子」
「にひひっ。でも私は悠奈さんが変わってくれなくて嬉しいのよ?」

悠奈を元気づけようとあからさまなお姉さん的セリフを呟いたまり子に、呆れ果てながらも返答する悠奈
そんな悠奈に対してまり子はまさにドヤる感じで笑顔を浮かべた

「……でも、少し気分が楽になったわ。ありがとね。……さてと」

そうまり子に礼を言いながらも、自分らしくなかったと振り返り気分を入れ替える

「……これからどうするか、だけど。どっちにしろ、まずやることは決まってるわね」
「その様子だと、悠奈さんも同じ?」
「ええ。―――まずは」

「「森嶋帆高の身柄の保護」」

最優先事項は森嶋帆高の保護。良くも悪くもこのゲームの鍵を握るのは彼の存在
穏健方針の参加者と一緒にいるならそれでいい。だが危険人物等に身柄を捕縛されたなら面倒なことになるし、帆高が天野陽奈の所まで辿り着いたなら会場が水に沈んであの二人以外全員溺死だ
だから彼をまずなんとかしないといけない。同時進行で別の準備をするにしてもだ


理不尽に屈せず、理不尽に曝された人たちを救うため。彼女たちは再び立ち上がる

その揺るぎなき信念を胸に、未だ見えぬ未来を手にするため



【陸島文香@シークレットゲーム -KILLER QUEEN-】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン@現実
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いを止める
1:森嶋帆高の保護
2:首輪解除及び脱出手段の確立
[補足]
※参戦時期はDルート終了後

【藤堂悠奈@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~3
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いを止める
1:森嶋帆高の保護
2:首輪解除及び脱出手段の確立
[補足]
※参戦時期はDルート死亡後


○ ○ ○


「くそっ、あのカンの良いアマめ!」

誰もいなくなったエントランスホールで、一人の男が苛立ちながら吐き捨てる
あの発煙弾と、店で手に入れた糸で作ったトラップを仕掛けた元凶はこの男であり、自分の足音を聞いてやってきた文香を物陰からライフルで仕留めようとしたのだが、藤堂悠奈という予想外の乱入者の結果、自身の安全を最優先し一旦距離をとったのだ

「……まあいい。殺せるやつは他にもいるからな」

この男は生粋の邪悪だ。混乱に陥った世界にて、それに便乗し悪事を働く。元より人を銃で撃ちたいと思っている最悪の吐き気を催す邪悪である
だが、この男にとってこの殺し合いは絶好の催しでもあった。あのガキ一人さえ殺せれば願いが叶えられる。男の夢など簡単にかなえることが出来るのだ。それはそれとしてこの殺し合いが公認された舞台。まさに男にとっての楽園でも会った

「……あのクソガキを殺して、俺は億万長者になってやるぜ!」

男は嗤う。そのドス黒い欲望を抱えたまま。そのルールの裏に潜むものに気付かぬまま


【ライフル銃の男@ドラゴンボールZ】
[状態]:健康
[装備]:ライフル@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品一式、発煙弾三発入り(残り二発)、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本方針:森嶋帆高を殺して夢を叶える
1:せっかくだから殺せるだけ人は殺す
[補遺]
※参戦時期は魔人ブウと出会う前です
最終更新:2021年01月18日 23:29