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『悪天候のため飛行機が欠航で今日は帰れなくなりました。愛ちゃん、よろしくお願いします』

お義母さんからのメールに気付いたのは家の前だった。

「お義母さん、今日帰ってこられないって連絡来てたよ」
「そうですか」
「あの……」
「何でしょうか」
「あのね、あの……」

(少しでも先輩と一緒に居たい)

この先、どれだけ時間を共有できるか分からない。
もしかしたら、春樹が無事に戻って来たら姿を消してしまうかもしれない。
私のそばに居てくれたとしてもたった5年しか無い。
どちらにしろ、あまりに短過ぎる。

(離れたくないな)

「えっと……」
「……」
「その……」

(でも振られてるし、言い出すのが難しいよ)

「もしかして、心細いですか?」

先輩が尋ねてくる。
私は「うん」と首を大きく縦に振る。

「わかりました。では僕は荷物を取って来るので先に家の中に入っていてください」

冬馬先輩は来た道をまた戻っていく。
私は玄関のドアの鍵を開け、家に入った。

「ただいま」

暗い家の中では返事があるはずもない。
電気をつけて、キッチンに入る。

「夕食でも作ろうかな」

手を洗い、エプロンを付けて冷蔵庫を開ける。

「うーん。焼きそばだったら不味くしようがないよね」

メシマズの烙印を押されている以上、冒険はできない。 
無難に簡単な料理で食べられるものにしなくてはいけない。

肉を炒めて、切った野菜も入れる。
しんなりしてきたら麺を入れてソース、塩胡椒を入れる。

「出来た」

見た目は普通の焼きそばだ。
念のため、味をみようと口の中に入れてみてもよくわからない。
匂いも食感すらボヤッとしていた。
例えるなら、間違いで髪の毛が口の中に入ってしまったような違和感しかない。

「味見もできないなんて……不便だな」

元々味覚に自信があるわけでないけど、全く感じないのはかなりへこむ。
そのせいでちっとも食べる気が起きない。

ピンポーンと玄関で音がした。
慌てて扉を開いて先輩を中に案内する。

「そこに座って。味の保証は無いけどよかったら食べてみて」

冬馬先輩はダイニングに座ると、一人分だけ用意された皿を見る。

「愛菜は?」
「私は要らないよ」
「愛菜、いつから食事を取っていないのですか?」
「えっと……丸2日かな」
「それなら愛菜が食べないと駄目です」
「本当に欲しくないんだ。さっき味見してみたけどやっぱり無理だったから」
「そうですか」

きっと冬馬先輩はすごく心配してくれている。
食べられるものなら安心させたいけれど身体が受け付けない。

「心配させてるよね。だけどなぜか動けるし、元気そのものなんだ」
「ですが……」
「大丈夫だよ。それより食べてみて。冬馬先輩に私がメシマズか判断してもらわないと」
「めしまず?」
「料理が下手って事。焼きそばじゃ料理と言えないかもしれないけど。さ、どうぞ」
「いただきます」

私は冬馬先輩にうながされるまま、一口食べる。

「どう? やっぱり不味い?」
「いいえ、美味しいです」
「本当に! 良かった」

春樹にも隆にも家族にさえ私の料理は常に避けられ続けてきた。
作るたび『マズい』という顔をされてきた。
でもようやく、ちゃんと美味しいと言って食べてくれる人が現れた。
私にとって大きな一歩だ。

「ごちそうさまでした」

皿には何も残っていない。
綺麗に食べきってくれている。
感激で小踊りしたいほどだ。

「私の料理を全部食べてくれたの先輩が初めてだよ! 本当にありがとう」
「大丈夫です。辛いものは平気ですから」

(辛いもの……?)

そういえばショッピングモールのカレー屋さんに行った時、激辛カレーを涼しい顔で食べていた。
たった一口で火を吹くほど辛かった記憶が蘇る。

「あの……先輩。その焼きそば辛かった?」
「からいでも塩辛いほうです。でも美味しかったです」
「そ、そっか……食べてくれてありがとう……」

冬馬先輩の判断基準が独特過ぎて本当に食べられる代物だったのか分からない。

「な、なんか……ごめんね、冬馬先輩」

居た堪れない気持ちで謝るしか出来なかった。
私の料理への道はまだまだ苦しく険しそうだと思わずにはいられなかった。


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最終更新:2020年06月30日 16:28