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「これで全員揃ったのかしら」

香織ちゃんが全員を見まわしながら言った。

「「「「「…………」」」」」

空き教室になんともいえない沈黙が降りる。

「あのね、みんな。それぞれ抱えた事情や複雑な感情はあるかもしれない。だけど今はそういうの抜きにしてこれからの事を考えて欲しいんだ」

半人前だけど巫女としてみんなをまとめなくちゃいけない。
まず私から全員に伝える。

「ねぇ、愛菜ちゃん。まず君が一番何かしたいか教えてよ。これからの事を考えるなら、そこ超重要だし」

そう言うと、修二くんは教室の後ろにある木でできた背面ロッカーにひょいと座る。

「修二、そこは椅子じゃないぞ」
「いいじゃん。それより愛菜ちゃん、教えてよ」

(私のしたい事……)

「まずは弟の春樹に家に戻って欲しいかな。心配なんだ、すごく」
「家族なんだから心配よね。ところで春樹くんの居場所って分かってるの?」

香織ちゃんの疑問に答えたのは冬馬先輩だった。

「わかっています。この街の川の上流に高村に属する研究施設があります。そこに今もいるはずです」
「じゃあ助けに行こう。ぱぱっと解決しちゃえばいいんだよ」
「たやすくはいかないだろうな。主流派には強力な能力者が何人か残っている」

一郎くんと修二くんは情報を仕入れる為に主流派に属していた。
私が知らないだけで、他にも能力者はいるのかもしれない。

「僕がさきがけを務めます。それが剣の役割ですから」
「そうね。剣の力なら、怪我したくない敵は勝手に撤退するだろうし。戦力を削ることもできるわ」
「その少しあとに愛菜ちゃんと残りが潜入すればオッケーってことか。案外余裕じゃない?」

(良かった。みんなちゃんと考えてくれてる)

「僕の知り合いに頼んで車も手配しておきます」
「後は決行の日時だな」
「明後日はどうでしょうか。雨の予報なので」
「そうね。剣にとっては一番戦いやすいわね」
「後、夜の方がいいだろうな。あの施設は一般の研究員も大勢いる。無関係の者まで巻き込む必要はないからな」

(すごい。あっという間に決まっていく)

全員で意見を出し合って決めていく。
元々決断力のある人達ばかりだからスムーズに決まっていった。

「明後日の午後8時、この学校の西門集合でいいかな?」
「オッケー」
「了解だ」
「わかったわ」
「わかりました」

(いよいよ春樹に会えるんだ。良かった)

具体的に決まって、ひとまず安堵する。

「ところで愛菜との契約の件はどうするの? 私、鏡に契約してもらわないとただの一般人と変わらないんだけど」

香織ちゃんがさっきの話題に戻してきた。

(一郎くんは反対してるよね)

「戦力的にも勾玉の力は必要だな」
「だったら愛菜と契約しなさいよ」 
「話はそんなに単純じゃない。過去の巫女の顛末を知っているからこそ、承諾できない」
「過去って……私みたいな子たち。今までの巫女って事だよね」

自分自身の身に降りかかるかもしれない。
私と同じ魂の子達がちゃんと巫女になれたのかとても気になる。

「神器と契約しても自我を保てていた者は少ない。まだ一つならいい。複数の契約ほどリスクが高くなる。ある者は発狂し、ある者は人喰い鬼に身体を乗っ取られた」
「そんな」
「大堂はもう剣と契約している。それ以上は危険だ」

(やっとここまで来たのに)

なんとか全員が協力してくれる所まできた。
私は意を決して口を開く。

「少ないだけで自我を保てた人も居るなら、私は契約したい。もし私がおかしくなったら、その時は拘束して閉じ込めてくれていい。最悪の時は殺ーー」
「大丈夫です、愛菜」

私の言葉を冬馬先輩が静かに制した。
相変わらず無表情だけど、言葉に優しさを感じる。

「愛菜、今朝戻った味覚は……あれから消えたりしていませんか?」
「うん。大丈夫」
「愛菜は僕と契約してからずっと味覚異常でした。おそらく、鬼と同調しやすくなっていたためです」
「味覚異常と大堂の契約にどんな因果関係があるんだ。答えろ、剣」
「元の味覚を取り戻すよう愛菜の中の鬼に僕が頼みました。結果、愛菜の舌は今まで通りに戻りました。その時、もう一つ頼んだ事があります。それは愛菜の自我を保つことです」

(冬馬先輩と私は昨日ずっと一緒にいた。一体、いつ鬼にあったんだろう)

私の疑問を他所に、話は勝手に進んでいる。

「鬼との約束……それは本当だろうな」
「はい。鬼は僕との約束を守ってくれています。その証拠に味覚が正常に戻ったままです」
「へぇ、お人形さんは鬼とも友達か。似た者同士だから気が合うってことかな」

修二くんはおかしそうに笑っている。
その様子を見て、一郎くんが口を出す。

「茶化すな、修二。もしそれが本当なら全員と契約ができるが……鬼との交渉なんて可能なのか?」
「はい。交渉は上手くいったはずです」
「しかし交渉には対価がつきものだ。強欲だという鬼が無償で応じるわけがない。交渉材料があるなら提示してもらおうか」

一郎くんは冬馬先輩に強く言った。
だけど冬馬先輩はなかなか話し出さない。

「………………」
「どうした剣」
「……交渉材料は教えられません」
「ここに来て隠し事か。これから協力すると言う時に……信用されたいのなら、答えるのが筋だろう」
「……これだけは答えられません」

冬馬先輩は言えないの一点張りだった。
そこにさっきまで黙っていた香織ちゃんが割って入る。

「別に言いたくないなら構わないわ。私は剣を信じる」
「長谷川」
「愛菜も万一の事、覚悟してるんだよね?」
「そうだね」
「だったらいいじゃない。委員長だって隠し事くらいあるでしょ?」

一郎くんは一瞬、修二くんを見る。

(一郎くんはずっと修二くんにクローンだって事、秘密にしておくのかな)

傷つけないために隠す。
その優しさがいい事とは限らないのかもしれない。
修二くんは何かを察して、いつも一郎くんに苛ついている。
真実を言った方がいいか、知らない方が本人のためか。
どちらがいいかなんて、結論はでない。

「わかった。剣を信用した訳ではないが、大堂の覚悟を汲んで契約しよう。修二も構わないな」
「俺は最初から契約するって言ってたし。ごねてたの兄貴だけだから」

修二くんはそう言うと、教室の背面ロッカーから身軽に飛び降りた。


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最終更新:2020年07月07日 22:07