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「これで私は人でなくなったの?」

全員と契約を済ます。
両手の甲と手のひらにあざが浮かび上がっている。
私の身体に四つの証が刻まれたていた。

「馴染むのに時間がかかる。すぐ大堂の身体に変化が現れる訳じゃない」
「そうなんだ」
「それに大堂は能力を使い慣れていない。強い力を手に入れたというだけで、相応に使いこなすには訓練も必要だろう」
「今は神宝より先に神託の巫女になれた事が大切だから。後は利用されないようにしなくちゃね」

不思議な感覚だ。
何が変わったと言われれば答えられないけど、私の中心の部分が懐かしいと訴えている。

「愛菜ちゃんは契約しても愛菜ちゃんのままだったね。ホント、よかった」
「そうよね。今回ばかりは剣に感謝しなくちゃ」

冬馬先輩が私の身体に棲む鬼に交渉してくれたおかげだ。

「ありがとう、先輩」
「いいえ。僕は巫女の従者として当然の事をしただけです」

冬馬先輩の言葉に、なぜか修二くんが溜め息を吐く。

「巫女の従者ねぇ。契約したけど、俺は愛菜ちゃんをご主人様とは思いたくないなぁ」
「いいよ。今まで通りで」
「じゃ、今まで通り俺の愛菜ちゃんでいてね」
「ま、待って。私、修二くんのものじゃないよ!?」

私は焦って否定する。

「愛菜を困らせないでよね。この子すぐ真に受けるんだから」
「そこが愛菜ちゃんの可愛い所だよねー」
「すぐそばに最大の敵がいたわ。能力が戻った肩慣らしに、この女の敵から排除しようかしら」

香織ちゃんは指をポキポキと鳴らす。

「美人が台無しだって。香織ちゃんってば、俺に焼きもち妬いてるならそう言えば良いのに素直じゃないなぁ」
「このバカ、どうしようもないわね」
「まあまあ、香織ちゃん少し落ち着いて。修二くんに悪気は無いんだし、ね?」

修二くんをつかまえようとする香織ちゃんを止める。
私達三人を他所に、冷静な二人は小声で何かを話しているようだった。

「さっき剣が言った交渉材料の件、話せない理由に大体見当はついている」
「見当……すべてお見通しという事か」
「鬼と剣の古の因縁。それが関わっているのだろう」
「………鏡は愛菜に言うつもりなのか?」
「言えるはずがない。大堂はお前を慕っているようだしな」
「どうしてそれを……」
「見ていれば分かる。俺の蓄積された過去からの経験則だ」
「鏡の知る過去の巫女は……剣を慕っていたその巫女は幸せになれたのか?」
「なれなかったな。ずっと泣いていた」
「………鏡。いや、宗像一郎。僕の余命はあとわずかだ。その後の愛菜のこと、頼めないだろうか」
「断る。お前は弟の仇だ。忘れたとは言わせないぞ」
「……そうだな」
「大堂の気持ちもあるだろう。この問題は貴様でなんとかするんだな」

(一緒に話してるって事は、少しは仲良くなったのかな?)

結局、一郎くんと冬馬先輩の会話は聞こえてこなかった。
ただピリピリと張り詰めた緊張感がこちらにまで伝わってきて、仲良くなるのはまだ先のようだと考え直すしかなかった。


空き教室を出る時、チラッと人影が見えた気がした。

「今の……」
「ああ、なんかずっと水野先生が聞き耳立ててたねぇ」

修二くんは事もなさげに言っている。
知っていてどうして教えてくれなかったのか。

「大変、計画が漏れちゃうよ」
「いいんじゃん? 別に」
「良くないよ。もう一度計画を練りなおさないと」
「わざと聞かせてたんでしょ。この程度の規模の結界なら俺にでも張れるのに何もしなかったんだから」

後から出てきた香織ちゃんにも慌てて訴える。

「大変、香織ちゃん。水野先生に計画が漏れちゃった」
「それも作戦の内でしょ。さあ、遅くなったから早く帰りましょ」

香織ちゃんに背中をおされ、前へと押し出された。
それ以上明後日の計画について、くわしく聞くことは出来なかった。



みんなと校門で分かれて、私は冬馬先輩と歩き出す。
夕焼け空に契約の証であるアザの刻まれた手をかざす。

「よくわからないけど、私、もう鬼なんだよね」
「愛菜は愛菜です」
「そうだよね。私は私、しっかりしなくちゃ」

かざした手でオレンジ色の太陽を掴んで、鞄を持ち直す。

「冬馬先輩、さっき一郎くんと話してたよね。一体何を話してたの?」
「色々です」
「色々……そうなんだ」
「宗像一郎とはずっとこじれた関係ですが神器の中で最も信頼できると思っています」
「物知りだし、委員長やるくらいちゃんとしてるからね」
「それで僕に何かあった時、愛菜を頼みました。仇だからと断られてしまいましたが」
「そんな悲しい事を頼まないで」
「……そうですね。すみません」

私達は道路に落ちた長い影をみる。
お互いよそよそしく一定の距離をとっている。

(本当はもっと近づきたいのに、許してくれないんだよね)

私が好きだと言ってから、やんわりと突き放されている気がする。
無言の拒絶を感じるたび、胸がいたい。

「あの、愛菜」
「何? 冬馬先輩」
「アパートの件ですが、いつまでも愛菜の家にご厄介になる訳にはいかないと思っています」
「気にしなくていいよ。お義母さんも歓迎してたよ」
「しかし甘えてばかりもいられません」
「お父さんも良いって連絡来てたし、春樹も戻ってくるしね」
「提案なんですが、春樹さんが戻ってきたら、僕と二人で一緒に暮らしませんか?」
「うん、いいよ………えぇ……ちょ、ま……」

(な、ななななに、一緒に暮らすってどういうこと)

男女が一つ屋根の下で一緒に暮らす。
それは一般的にいう所の同棲という名前で呼ばれている。

「私達、ま、まだ高校生だよ……」
「僕は高校生ですが一人で暮らしています」
「そういう意味でなくて……そもそもいろんな過程をすっ飛ばしてるよね……」
「すっとばす……何をとばしているのですか?」
「ほら、もっと仲良くなってからじゃないと……」
「もう十分親しい間柄だと思っていましたが」
「えぇ……嬉しいけど……突然すぎて」
「もっと大きなアパートを借りて一緒に住めば、きっと楽しくなります」
「私もそう思うんだけど……流石にお父さんに怒られるかも……」
「そうですか。ニュースで高校生達が一つの物件を共同利用しているのを見かけたので良い案だと思ったのですが、仕方ないです」

(物件、共同利用)

「あー、シェアハウスね。そういう事……」

(早とちりした。穴があったら入りたい)

赤くなったり、青くなったり。
一人慌てふためく私はさぞ恥ずかしい奴だっただろう。
ぐったりとうなだれていると、いつの間にか家の前に着いていた。



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最終更新:2020年07月08日 15:43