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隆が出した布を手に取ると、薄いピンクの生地が指の間を滑る。
夕闇に溶けそうな境内で、その繊細な光沢が際立っていた。
どこかで、いつか、この布に触れたことがあるような……そんな既視感が、私の胸をざわつかせる。

「見たことない?そんなはずないだろ。光輝を夢の中で見ていたなら」

隆の言葉が、私の頭の中に響く。
高位の精霊だった光輝。
1500年前の夢の記憶。
あの夢の中で、私はこの布を持っていた。
正確には、持っていたのは夢の中の私だったけど。

「これ……夢の中で、私が持ってたものと……一緒なの?」

声に出すと、現実と夢の境界が曖昧になるような感覚に陥る。
隆は静かに頷いた。
その表情は、どこか遠い昔に思いを馳せているようにも見える。

「お前はその布を確かに持っていたぞ。だって、守屋がお前にくれたモンなんだろう?」

守屋という言葉のときだけ、やたらと語気が強くなっていた。

「守屋さん……」

もう一人の夢の住人の名前を小さく呟く。
その人は大きな体躯の鬼の男性。
大和を倒すために謀反を企てた張本人。
負け戦になると分かっていながら、一族を奪われた復讐と誇りのために生きた生粋の武人だ。

「お前は俺じゃなく、守屋を見守ることを選んだんだ。だから、神宝のその布を持ってるんだよな?」

(俺……?)

言葉に引っかかりを覚えて、隆を見る。

「俺って……光輝と隆は別でしょ?」

「そうだけど……面白くないもんは、面白くないんだッ」

光輝のことなのに、守屋さんを選んだことに対して根に持っている雰囲気がひしひし伝わってくる。

(なんだか、拗ねてるし。でも……)

「あれは、戦の行方やケガをした人が心配だったからだよ」

「俺の体調も絶不調だったんだけどな!」

(また俺って言ってる……)

隆の言葉に、困惑でいっぱいになった。

「隆の言う通りだよ。再生の舞の時に、守屋さんからもらった憶えはあるよ。でも、この布、今、隆は神宝って……」

十種の神宝。
鬼が黄泉から持ってきた不思議な力を宿した宝具たち。

沖津鏡(おきつかがみ)
辺津鏡(へつかがみ)
八握剣(やつかのつるぎ)
生玉(いくたま)
死返玉(まかるかへしのたま)
足玉(たるたま)
道返玉(ちかへしのたま)
蛇比礼(おろちのひれ)
蜂比礼(はちのひれ)
品物之比礼(くさぐさのもののひれ)

守屋さんは十種の神宝の一つ、八握剣を持って、過酷な戦場に立っていた。
なぜだか、今まで調べたことすらない神宝の知識すら記憶していることに自分自身驚いてしまう。

「あのもらった比礼って……神宝だったの?」

「そーだぜ。気づかなかったのか? あれは品物之比礼。調和を司る比礼で邪を払い除け、清めるもんだ。死返玉と対になってて死者蘇生の時に出る大量の邪気を調伏する役目があるんだ」

そこまでの知識は持ち合わせていなかった。
さすが元神様。

「これ、そんなスゴイ物なんだ」

サラサラの布を抱きしめる。
肌に馴染むその布は、触るとその高貴な所以も納得してしまうほどの代物だった。

「まぁ、出雲が隠し持ってた財宝を掘り起こしたんだろうな。アイツの第二の故郷な訳だし」

守屋さんは生まれは石見国だったけど、子供のころから出雲国で暮らしていた。
半分は人質みたいなものだったけど、壱与とは、姉弟みたいに育てられていたんだっけ。

「そっか。だから復讐なんて真似したんだもんね」

第二の故郷が滅ぼされれば、復讐に駆られるのも仕方ない。
まして、壱与を強制的に連れ去られるような真似をされているんだから、怒るのも当然だろう。

「姉弟みたいに育った家族まで奪われたら……怒るのは当然だよね」

「お前……鈍感すぎだろ」

呆れた顔で私を見てくる。
失礼なくらい冷ややかな瞳で見つめくる。

「え? 何かへんなこと言った?」

「アイツが壱与に惚れてたに決まってるだろ。だから、取り戻そうとして必死だったんだから」

私には撫子の君とか言って口説くような真似してたのに、恋多き人だったのかな、とふと思ってしまう。

「そうなの? てっきり鬼の一族を滅ぼされたから、怒ってるのだとばっかり思ってた……」

「お前の中に壱与の姿を感じて、壱与との婚儀の時に送るはずだったもんを託したんだろうな。多分」

(私……全然分かってなかったかも……)

「守屋は、基本が粘着体質なんだ。どこまで行っても納豆巻きが治ることはないだろうな」

(わぁ、納豆巻きにされちゃった)

匂い判定で、納豆巻きに認定されてしまった守屋さん。
おにぎりになれなかった事に、少し同情してしまう。

(それにしても……)

夢の中での、過去や言動や人物像。
何度も見ていたから理解できてるつもりだった。
その真意を知ってしまうと、余計に複雑な気分になっていくのだった。



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最終更新:2025年06月19日 15:38