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光の渦を抜け、足の裏に冷たく硬質な感触が戻る。

目を開けると、そこは光の届かない深海のような暗闇――
春樹が1500年もの間、沈み続けてきた深層心理の底だった。

その暗闇の中央に、巨大な三面鏡だけがぼんやりと青白く発光して浮いている。
私は、吸い寄せられるようにその鏡を覗き込んだ。

「……あれ?」

正面の鏡に映る、私。
ファンデーションの塗りムラもなく、アイラインは鋭く、口角は上品に上がっている。
「良き妻、良き母」を演じるための、隙のない武装。
その姿は、他人に見せたい私。

けれど、ふと視線をずらして、右側面の鏡を見た時。
心臓が嫌な音を立てて跳ねた。

(……すっぴん?)

横顔の私は、化粧っ気がなく、目の下に隈を作り、ひどく疲れ切っていた。
髪はボサボサで、まるで駄々をこねて泣き疲れた子供のようだ。
1500年の孤独と徒労が、皮膚の下から滲み出ている。

「嘘……今日、化粧したよね?」

確かめるように、自分の唇に指を這わせる。
指先には、べっとりとグロスがついた。
ヌルリとした、油分の不快な感触。
甘ったるい人工的な香り。
物理的には「塗っている」。
なのに、鏡の中の横顔は、カサついた薄い唇を半開きにして、虚ろな目で虚空を見つめている。

(気持ち悪い……)

まるで死化粧をしているような、冒涜的な寒気が背筋を走る。
現実と像の乖離。
私が私でなくなっていく感覚。

逃げ出したい衝動を抑え、私は視線をさらに奥へ――合わせ鏡が作る無限回廊の深淵へと向けた。

かつて一郎くんが聞かせてくれた、古い怪談が脳裏をよぎる。

『13番目の鏡には、死に顔が映る』。

1枚、2枚、3枚……。
緑がかった暗い硝子の向こうへ、無限に連なる私を数えていく。
そして、13番目。

そこに、「私」はいなかった。
代わりに、目鼻のない「黒い影」が立っていた。

(……ッ!)

喉の奥で悲鳴が凍りつく。
けれど、私は唇を噛んで堪えた。

(怖がってる場合じゃない。ここは春樹の中だもん。抱えてきた孤独の闇なら……私が目を逸らすわけにはいかない)

私は開き直って、その影を睨み返した。
その瞬間。

ザザッ……ザザザッ!!

視界が激しいノイズに覆われた。
鏡の表面が液状化し、緑色の文字列が滝のように流れ落ちる。
アナログな鏡面が、無機質な「デジタル画面」へと強制的に切り替わった。

【スレッド:1500年の孤独を癒やす会】

蛍光色の文字が、暗闇に明滅する。
それは文字というより、誰かの怨嗟の声そのものだった。

1 : 迷える子羊 : ID:Guide
誰か聞いてください
私はある人を救うために、1500年も一人で耐えてきました
その世界を維持するため、自分の幸せを犠牲にしたんです
それなのに、今の扱いは何ですか? 
酷すぎませんか?

私の指が、勝手に虚空のキーボードを叩く。
思考よりも早く、条件反射で「正論」を打ち込んでいく。

2 : 名無しさん : ID:Aina

=>1
うわぁ、大変でしたね……😢
とりあえず、新規の方はsage進行でお願いしますね。
目立つと荒らしが来ちゃうので。

3 : 迷える子羊 : ID:Guide
(age)

=>2
なんでsageなきゃいけないの?
私の話はもっと多くの人に聞いてもらうべきだと思う
私、本当に頑張ったんです
誰も知らない場所で、ずっと一人で……!

4 : 名無しさん : ID:Aina

=>3
いや、だからsageだってば。
主さんの気持ちは分かりますけど、ルールは守ろうよ。
「可哀想な私」アピールも、やりすぎると痛いから、ね?
(よしよし、共感してあげるから落ち着いて……)

5 : 迷える子羊 : ID:Guide
(age)

=>4
あなたのような、平和ボケした人に、私の高潔な痛みが分かるんですか?
均衡を保ち、秩序を守ってきた私を、敬うべきじゃないんですか?

(……うわぁ、何、この人)

私はキーボードを叩きながら、胃の底がムカムカするような苛立ちを感じていた。
「可哀想な私を見て!」という、肥大化した自己顕示欲。
周りの空気も読まず、自分の悲劇に酔いしれている。
傲慢で、幼稚で、面倒くさい。

6 : 名無しさん : ID:Aina

=>5
均衡とか、秩序とか。
あなた、年齢いくつ?
厨房なら半年ROMってた方がいいかもしれないね。

7 : 迷える子羊 : ID:Guide
(age)
もっと上ですけど?
オバサン

8 : 名無しさん : ID:Aina
は?

9 : 迷える子羊 : ID:Guide
(age)
私が一番、可哀想なんだから黙ってて

……でも、どこか他人事とは思えない。
この「私が一番正しい」と思い込んでいる、湿度の高い被害者意識。
胸の奥がチリチリと焼ける。

その時。
最悪のタイミングで、第三者が乱入した。
鋭利なナイフのようなレスが、画面を切り裂く。

10 : Shadow : ID:Shadow
クッソうぜえw
いつまでやってんだよ、この茶番w

11 : 名無しさん : ID:Aina

=>10
ちょっと! 煽らないで!
今、主さんをなだめてるのに!
(あーもう、変なのが来ちゃった……私の管理能力が疑われるじゃない!)

12 : Shadow : ID:Shadow

=>11
お前も大概な
「理解ある私」ムーヴきっつw

13 : 迷える子羊 : ID:Guide
(age)
ちょっと! 私の立てた聖域を荒らさないで!
全員、謝ってよ!

14 : Shadow : ID:Shadow
被害者? 加害者だろ
お前(=>1)の傲慢さがアイツの能力を根こそぎ奪って
お前(=>11)の無神経さがアイツを飼い殺しにした

どっちも「自分大好き」なだけのクズじゃねーか!

15 : 迷える子羊 : ID:Guide
(age)

=>14
アイツってだれ?
私は誰も選ばず、ずっと我慢してきたんですけど!
大切な人たちに、私の偉業を覚えてて欲しかったの!

16 : Shadow : ID:Shadow
偉業www
単に選ばれなかっただけだろ
非モテのひがみw

17 : 名無しさん : ID:Aina
二人とも黙って。
ちょっと冷静になってくれる?

18 : 迷える子羊 : ID:Guide
(age)
非モテじゃないし……
幼馴染に告白されたことあるもん

19 : Shadow : ID:Shadow

=>17
自治厨が一番ウゼー
いちいち文末に句点つけんな、クソが!
=>18
不幸自慢金メダル、乙ww

(一体、何なの……でも……この感じ)

画面を見つめる私の目が、熱くなる。
胸に迫るイタさと、吐き気を催すほどの同族嫌悪。
けれど同時に、奇妙な安心感が、どす黒い染みのように広がっていくのを感じていた。

ああ、知ってる。
この粘着質な自己憐憫も。
この神経質な管理癖も。
そして、全てを嘲笑わずにはいられない、冷え切った攻撃性も。

全部、私の味(あじ)がする──


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最終更新:2026年04月24日 10:04