殺し合い。
その響きに少女―――巴マミは恐怖を抱いた。
当然だ。彼女は魔法少女とはいえ、それでもまだ中学三年生。
魔女との戦いならいざ知らず、普通の人間相手に殺し合ったことなど一度も無い。
なにより、自分の首輪が問題だ。
側にあった鏡で確認できた首輪の色は赤。主催の言葉が正しいなら、大半の参加者に狙われることになる。
自分に殺し合う気がなくとも争いを誘発する要員としては最適なものだろう。
彼女自身には殺し合うつもりなどない。
しかし、だからといってむざむざ殺されたくはないとも思ってしまう。
ならばどうするべきか。
正面から自分は殺し合いに乗らない、協力してほしいと頼み込むか。自分が赤い首輪であることを隠すか。
どちらも困難ではあるが、さて彼女はどの手段をとるか。

ザリッ

悩む彼女の耳に届くのは、アスファルトを踏みしめる音。
出所は曲がり角からだ。
マミは背に冷たい感触を覚える。

すぐそこに参加者がいる。
殺し合いに乗る者か、守るべき市民か、協力者となり得る者か、自分と同じく怪物の烙印をおされた者か。
もしも一般人であるならば、この首輪を見るだけで怯えるか殺しに来てしまうかもしれない。
ならば、まずはこの首輪を隠すべきだろう。

そう判断した彼女は―――




「えっと...佐山さん、でいいかしら」
「...それでいいよ」

巴マミと佐山流美は、ここ、C-7エリアにて出会った。
暗がりの中、先に声をかけたのはマミだった。
曲がり角から流美が姿を見せる前に距離を置き、出会いがしらのトラブルを避けた上でのことだ。

流美は当然のようにマミに怯えかけたが、数刻前に決意したことを思いだし、震える全身に耐えつつ彼女との接触を謀った。

もしもマミの首輪を見ていれば、流美は一目散に逃げ出しただろう。
しかし、マミは己の魔法であるリボンを首輪に巻きつけ、色を限りなく本物の色に近づけていた。
この行為が、流美との接触にイイ意味で影響したのは言うまでもない。

互いに殺し合いには乗らない、と口頭で伝え、情報交換に勤しむことにした。

「私はあんたと会ったのが初めてだよ。行くあてもないからとりあえず東に向かってたんだ」

ぶっきらぼうにそう告げる流美だが、決してマミへ敵意を向けているわけではなく、彼女が人との付き合い方が苦手なだけである。
利用するにしても相手の気をよくした方がイイのだが、流美はそんな器用なコミュニケーション能力に長けていない。
それができていればイジメられることなどなかっただろう。

当然、そんな事情を知らないマミは感じが悪い人だと思ってしまうのも仕方のない話である。
ただ、彼女は魔法少女は人を助けるものであるとも考えているため、彼女を見捨てるわけにもいかないのだが。

「私もあなたが初めて出会った参加者ね。私の知り合いは四人巻き込まれているわ。あなたは?」
「...あたしも、何人か知り合いはいるよ。たえちゃん―――小黒妙子と相場、野崎って奴ら、それに先生」
「そうなると...まずは、私の後輩たちとあなたの知り合いを探しましょう。なにかあなたの知り合いの心当たりとかはないかしら」

流美は考える。この女はいまは自分のことを知らない。しかし、このまま共に行動すれば、野崎と出会った瞬間に詰みである。
いや、奴が悪評を吹き込んだ参加者と会う可能性だってある。
どうするべきか。答えが出るまでにさほど時間はかからなかった。


「の、野崎春花って奴には注意した方がいいよ」
「え?」

悪評が出回る前に奴の敵を増やせばいいのだ。

「さ、最近、あいつと関わった奴らが次々に消えるんだ。もしかしたら、あいつが殺したのかもしれない」

いくらお人好しでも、殺人を犯した者と一緒にいるのは憚られる。
それを春花が言いふらす前に、こちらからあいつは嘘つきだ、人殺しだと悪評をばら撒けばいい。
実際にコレは本当なのだから、奴も否定できないはず。
うまくいけば、奴を信用する手ごまと信頼しない手ごまに分かれ対立が生じる。
そうすれば、自分が絶対に逃げられない、斬り捨てられるという状況だけは逃れられる筈。

「あいつはオカシイんだ。あんなことがあっても平然と学校に来るし」
「あんなこと?」
「あ、あいつの家、火事に遭ったんだ。それで家族も重症で...」
「それと学校に来るのがオカシイというのがなんの関係があるのかしら」

しまった、と流美は内心で舌を打つ。
多くの悪評を振り撒こうと焦り、自分の首を絞めるような発言をしてしまった。
ここで『野崎が家を燃やした本人達のもとにノコノコと足を運んでいること』などと正直に話せば敵視されるのは流美の方だ。
今さらなんでもないと誤魔化すのも不自然すぎる。
どうする、どうすればこの場を乗り切れる...!

「だ...だってさ、家族が重症なら看病を優先するのが普通でしょ。なのにあの女は澄ました顔で登校してきて...」

苦し紛れに出た言い訳がこれだ。
それっぽい理由ではあるが、果たしてこれでマミの疑念が解けるだろうか。

「も、もしかしたらあいつ、遺産目当てに家を焼いたのかもしれないね。きっとそうだ、きっとあいつが」
「そういう決めつけはあまり感心できないわね」

しまった。二度目の失態だ。
またもや地雷を踏んでしまったというのか。おそらくそうだ。
思えば、自分のクラスではイジメるのは野崎か流美かという認識があった。
そのため、二人に関しての悪評はなにを吹き込んでも構わなかったし、それでクラスメイト同士が対立することもなかった。
だがこの場では違う。そんな田舎の教室の常識など通用しない。他人の悪口を大声で叫ぶ者に良い印象など受けられるはずもない。
流美はまず相手の常識を把握することから始めるべきだったのだ。

「あなた、随分とその野崎さんを敵視しているみたいだけれど、なにかあったのかしら」
「うぅ...」

マズイ。非常にマズイ。
このままでは更に敵を増やし逃げ場を無くしてしまう。
ここで彼女を殺すか?その覚悟はもうしてきた。できるはずだ。
...いや、ダメだ。まだ早い。
どうにか彼女を信頼させあの女への対抗策を作るのだ。


「ご...ごめん。巴さんがあいつに騙されないようにって思ったらつい口が悪くなって...」

心の籠ってない言葉だと自分でも思う。
こんな一言で疑念を晴らせるはずもない。

「...そう。お気遣いは嬉しいけれど、あまり人の悪口を言ってはダメよ」
(とりあえずはこれで収めてくれたって感じだね。深入りしないのは助かるけど)

マミの声音から、まだ疑念は解けていないことくらいはわかる。
これまでの数々の失態を顧みて、いかにこの牛乳女からの疑念を晴らすか、流美は頭を抱えたくなった。


(...彼女。なにか隠しているわね)

当然、マミもあの程度の言葉で疑念を晴らしているはずもない。
流美との会話から、彼女はなにか後ろめたいことを隠していると察することができた。

(彼女は『野崎さんと関わった人が消える。おそらく彼女が殺した』と言っていた。...となると、彼女のクラスメイトは野崎さんからの恨みを買っていた可能性もある。
若しくは、ナイトメアの何らかの影響を受けた野崎さんかクラスメイトが凶行に及んだ...だとしたらまだマシだけれどね)

ナイトメアは、人間の負の感情から生まれるものである。そのため、ナイトメアが人間に干渉した時の被害は人それぞれである。まだ見たことはないが、その中には殺人染みたことだってあるかもしれない。
もしも野崎春花をとりまく環境にそれが干渉しているだけならまだ救いようがあるかもしれない。
しかし、万が一にもそれが流美を含めたクラスメイト全員が己の意思で行ったことであれば。それが春花の凶行に関連していれば。
春花と流美、彼女たちが対立した時、どちらの意思を尊重するべきかは考えるまでもないだろう。
少なくとも、憶測で家族を遺産目当てに焼いたなどと言える者の味方をしようとは思えない。

(とはいえ、佐山さんを見捨てるわけではないけれど)

巴マミは魔法少女である。
ナイトメアの有無に関わらずとも人命を救うのに労力を惜しまないし、それが魔法少女として生き永らえた意味だとも思っている。
流美が明確にマミを裏切りでもしない限りは、彼女を放置することはないだろう。

かくして疑心暗鬼を募らせたまま二人の少女は夜道を往く。
その道の果てに、希望の光はまだ見えない。



【C-7/一日目/黎明】

【佐山流美@ミスミソウ】
[状態]:健康、野崎春花と祥子への不安と敵意。
[装備]:
[道具]:不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。
0:自分の悪評が出回る前に野崎春花と野崎祥子を殺す。
1:赤首輪を殺してさっさと脱出したい。
2:たえちゃんはできれば助けてあげたいが、最優先は自分の命。

※参戦時期は橘たちの遺体を発見してから小黒妙子に電話をかけるまでの間。



【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】 
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:自分が赤首輪であることはなるべく隠しておく
1:知り合いとの合流。
2:流美の知り合いを探す。
3:野崎春花からはしっかりと話を聞きたい。

※参戦時期は叛逆の物語にてほむらがべべを拉致する前。
※首輪の上にリボンを巻いて色を隠しています。




時系列順で読む
Back:変身少年調教計画 Next:変わらない世界

投下順で読む
Back:悪魔の娘 Next:神よお導きを

GAME START 巴マミ •Magia Record -真魔法少女大戦- (1)
佐山流美は自信を持って生きていたい 佐山流美
最終更新:2017年06月06日 16:53