「あっ」
「おっ」

森の中を散策していた彼ら、加藤勝と西丈一郎は思わぬ遭遇に言葉を漏らした。
彼らは死者を呼び寄せる黒球、ガンツに呼ばれた者同士として顔見知りである。
しかし、仲が良いかと問われれば決してありえず、性格も目標も相容れない二人でもあった。
では、そんな彼らが出会えばどうなるか。
立場でいえば互いに協力者であり、実際に敵対したことは一度とてなかった。少々言い争ったことがある程度だ。
仲は良くないが、互いに憎み合うわけでもない。彼らの関係はガンツに呼ばれた一点を除けば希薄だと言っても過言ではないだろう。
つまるところ、彼らが出会ったからといって特筆すべきことはなく、他の参加者の情報交換との違いは、互いの共通事項の確認をする程度だった。

「お前もスーツを没収されたみたいだな」
「さあどうかな。お前らみたいにスーツを忘れるようなヘマはやらかしたことはねえからな。もしかしたらデイバックの中にあるかも」
「誤魔化すな。俺たちの中では誰よりも経験のあるお前がこんな異常事態にスーツを着ない訳がないだろう」
「...チッ」

加藤と西。彼らはガンツの星人討伐任務に挑む際、支給された特殊スーツを常に着用していた。
この特殊スーツは着用者の身体能力を底上げすることができるものであり、これの有無で任務の難易度が大きく変わるほどの代物だ。
しかし、この催しではそれは没収されている。
この時点で、彼らは現在の状況が従来のガンツの任務から外れていることを認識していた。

「それで、お前はどうするんだ」

だから加藤は不安だった。
西丈一郎。彼は、加藤から見て非情且つ異常な面の目立つ少年だった。
デマを流し他者を囮に使う、人の死を語り興奮する。そんな少年が殺し合いに放たれればどうなるか。加藤は想像するだけでも嫌だった。

「んー...それって、殺し合いに乗るかどうかってこと?」
「ああ」
「興味ねーな。俺の邪魔しなけりゃそれでいい」

だから加藤は彼の意外な返答に思わず面喰らってしまった。
てっきり、この機に殺人を愉しむだろうとばかり思っていた。

「意外だな」
「別に今までと変わらねーもん。今回は赤い首輪が『星人』で、殺したら点数の代わりに特典が貰える。それだけだろ」

同時に、最も彼らしいこの言葉に落胆を覚えずにはいられなかった。

(そうだ...こいつはこういう奴だった)
「けど、今回はどんな奴がターゲットか分からないんだぞ」
「今までもそんなのバッカだったろ。ガンツのいい加減な特徴が役に立ったことがあるか?」
「それはそうだけど...」
「それに今回は一匹殺すだけで100点相当の大盤振る舞いときた。尚更狩らずにはいられねえよ」

西の言葉に、加藤は思わず言葉を詰まらせる。
これから先も自分はガンツに呼ばれ続ける。その中には千手観音のような強敵もいるだろう。
その時に充分な装備が無ければ、また全滅寸前にまで追い込まれてしまう可能性は高い。
それに、この場に呼ばれてしまった玄野やガンツに呼び出される度に心配をかけている弟の加藤歩のこともある。
この機に装備を充実させるという西の言葉に間違いはないのだ。

「...けど、赤い首輪の参加者だって」

ガサガサガサ。

加藤の言葉を遮り、何者かが草木をかき分け近づいてくる。
加藤はデイバックからPLUCKと血文字が記された剣を、西は懐から拳銃を取り出し臨戦態勢にはいる。

「使えるのか?」
「どう思う」
「...難しそうだ」

ガンツの任務で支給された銃は、未知の技術によるものか、残弾や反動といった拳銃特有の弱点がなかった。
だが、西が握っているのはなんの変哲もない拳銃。引き金を引けば弾丸が発射され、反動により隙も大きくなる現代の武器だろう。

もしも近づいてくる足音が赤い首輪の参加者、若しくは殺し合いを肯定した者であれば、自分が前に立つしかない。
足音が近づく度に、加藤の鼓動は大きく波打った。

「助けてくれ...赤い首輪の参加者に襲われた...!」

現れたのは、息を切らし、肩の怪我を抑える少年だった。



「青い髪の少女に上半身だけの老人?」
「はい。女の方はどこからともなく剣を出してきます...いてて」

少年、相場晄の応急手当を施しつつ、加藤は相場から事情を伺っていた。

「俺と一緒にいた仁美って緑色の髪の子もソイツに殺されました。彼女は俺を庇って...」

相場の声に陰りが生じる。
既に犠牲者が出ているという事実に、加藤は歯噛みするほかなかった。

「だから言ったろ、いつもとなんにも変わらないって」

西はヘラヘラと薄ら笑いを浮かべつつ加藤を挑発するかのように声をかける。
当然ながら、彼が相場の手当を手伝うことはない。

「...そいつらは、あっちの方角にいるのか?」
「...我武者羅に逃げてきたからあまり自信はない」

申し訳なさげに俯く相場だが、加藤はそんな彼に非難の目を向けることなく、相場の走ってきた方角へと顔を向ける。

「おっ?偽善者が珍しく殺る気になったか」
「......」
「それとも、赤首輪の連中にも事情があるとか言っちゃうわけ?」

加藤は答えない。しかし、その姿勢が全てを物語っている。
そんな彼に西は溜め息をつかずにはいられなかった。

「あいつらのところに行くつもりですか?」

心配そうに問いかける相場に顔を向ける加藤の額には緊張による冷や汗と脂汗が滲んでいた。

「...できれば味方は欲しいが、いまは俺しかいないから」
「無茶ですよ。せめてもう少し仲間を増やしてから」
「もう被害者も出ている。一刻も早くそいつらを止めないと」
「でも...」
「別にいいんじゃね。死にたい奴は勝手に死なせとけ」

二人の言い合いを止めたのは、現状をじれったく感じた西。
元々彼は加藤と組むつもりはなかったし、いまの段階で赤首輪の参加者を狙いにいくつもりもなかった。
いざ赤首輪を狩ろうという時に割って入るであろう偽善者を切り離すにはいいタイミングだ。
西にとって、そんな死にたがりを止める理由など一切なかった。

相場は諦めるように加藤から僅かに目を逸らし、やがて視線を再び合わせた。

「...野崎って女の子を見つけたら、俺が探していたことを伝えてください。待ち合わせ場所はD-5でお願いします」
「野崎...春花と祥子って子だな。わかった」

加藤は名簿の『野崎春花』と『野崎祥子』に印をつけ、すぐに踵を返す。

「精々楽に死ねるよう祈っとけよ、偽善者」

激励のつもりは一切無い。
そんな調子で嘲笑う西に、加藤は一度立ち止まり、一度だけ視線を向け言い放った。

「...お前がなんと言おうと俺のやり方を変えるつもりはない」

それだけ告げると、加藤は闇夜へと駆けて行った。

(赤首輪の参加者だって、人間じゃない奴にだって感情はある)

森を駆ける中、加藤は今までの戦いを思い返す。
ネギ星人との戦いは、子供を殺された親の怒りによってヤクザ達は殺された。
田中星人も、肩に乗っていた鳥を西が殺したことにより戦いが始まってしまった。
あの恐ろしい千手観音でさえ、仲間を失ったことを嘆いていた。

(この状況は完全なイレギュラーだ。赤首輪の参加者とだって、戦わなくて済む道もあるかもしれない)

加藤は、星人たちと殺し合うことに常に疑問を抱いていた。
なぜ戦わなければならないのか。誰がこんなことをさせているのか。
星人たちを好き好んで殺したことは一度たりとてありはしなかった。

ガンツの時と同様、理不尽に開催されたこの催しでも同じ。
例え赤い首輪が人外の証だとしても、同じ被害者であれば彼はそれだけで敵視しようとは思えなかった。


(俺は俺のやり方で戦う。―――そして計ちゃん)

玄野計―――この名簿に連ねられた親友を想い馳せる。
彼は酔っ払いを助けようとした加藤に巻き込まれる形でガンツに呼ばれ、幾度か共に戦った。
加藤が先に死んでしまってからも、彼を生き返らせるために奮闘していたという。
そんな彼も、今では加藤を蘇生した後に仲間に見送られ元の生活へと戻った。
そう。ガンツのことなど、一度死んだことなど忘れ去ってしまった平穏な日々へと。
加藤は思った。計ちゃんには頑張ったぶん平和に過ごしてほしいと。
だが、その矢先にこの殺し合いだ。いまの計ちゃんはガンツでの戦いの記憶が無いため振りは免れない。
危機に晒されるほど力を発揮するのが玄野計という男だが、それもどこまで通用するかわからない。

(計ちゃんは俺が守るから、無茶はしないでくれ!)

もう彼を傷付けるのは御免だ。こんな理不尽なゲームで誰かが傷つくのは嫌だ。
必ずこの殺し合いを止めてみせる。加藤は拳を握りしめ心中で誓った。


【G-2/一日目/黎明】

【加藤勝@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ブラフォードの剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:相場の語った赤首輪の参加者に注意。できれば説得して止めたいが...
1:計ちゃんとの合流。

※参戦時期は鬼星人編終了後。そのため、いまの玄野はガンツの記憶を無くし普通に生活している状態からの参戦だと思っています。



「あんたは行かなくていいのか、仲間なんだろう?」
「冗談。俺に要るのは使えるか使えないか、邪魔になるかならないか、それだけだ」

西は銃を磨き、時には構えて撃つ練習をしつつ相場と言葉を交わす。

「それとあいつよりはお前の方が話が解る。それがあいつを追わなかった理由でもあるな」
「...どういうことだ」
「お前さ、人の死体とか見たことある?」

人の死体。
相場の脳裏によぎるのは先程ボウガンで撃った志筑仁美―――ではなく、火に包まれた春花の父と妹。

「俺はあるぜ。ニュースとか写真なんかじゃない。本物の人間が切り裂かれ、破壊される現場でだ」

炎に包まれる春花の家へ、彼女の家族を救助へ向かった時。
彼は見た。炎に包まれる春花の父と妹の姿を。

「さっきまで生きてた奴らが破壊されて肉塊になるのを見てるとさ、興奮するんだ。テレビなんかじゃ出せない本物の死体がここにあるって」

不謹慎だとは思った。しかし、気が付けば彼らを助けることすら忘れてカメラを手にしていた。

「それでそいつらと俺を見比べて思うんだ。『俺は生きている、こいつらよりも優れている』って」

その時の自分はどうだったか。
この姿はカメラに収めなければならないと無我夢中だった。
身体を張って娘を助けようとした父の勇姿に感動していた。
そんな父親の姿を愛する春花に見せてやりたかった。
彼らが消えたことにより春花にとっての自分の存在は確固たるものとなったと密かに喜んでいた。

「お前はどうだ。もしも死体を見たら、どうなると思う?」

その時の自分は有体にいえば興奮していたのだろう。


「...下らない。俺をお前と一緒にするな」
「どーだかね。...まあいいや。とりあえず、準備ができるまで赤い首輪の参加者の悪評を振り撒くつもりなんだろ?」
「...!」
「偽善者にはわからなくても俺にはわかんだよ。お前が狩られるんじゃなくて狩る側だったことくらいはな」

相場の目が驚愕に見開かれる。
自分の演技は完璧だったはずだ。言葉にも矛盾はなかったはずだ。なのになぜ...

「あの偽善者が手当してた時、お前は頑なにデイバックを奴の視線から外そうとしてたよな。なにか見られたくねーもんでもあるんじゃねえか?例えば、血の付いた凶器とか」
「それは...」

相場は確かに、万が一にも加藤にデイバックを探られないよう無意識的に言葉を交わすことで彼の注意力を散漫させデイバックが視界に入らないよう位置の調整をしていた。
現在の唯一の武器である血濡れの弓が見つかれば化け物たちの悪評を振り撒くどころではなくなるからだ。

「...だとしたらどうするんだ」

しかし、だからといって狼狽えるほどのことでもない。
言葉を交わした範囲で判断する限り、この男は自分と春花の生存においては重要ではない存在だ。
邪魔するなら殺せばいいだけのことにすぎない。

「俺もお前もまだ準備不足ってトコだろ。だから俺の狩りの準備が整うまでは口裏合わせてやるよ」

そんな相場に協力の提案を申しかけたのは西。当然ながら、彼には彼の思惑がある。

前述した通り、いまの西は赤首輪を狙うつもりはなかった。
西の武器は拳銃のみである。当然ながら残弾はあるし、ガンツから支給される銃とは違い、当たったところで確実に仕留められる保証もない。
また、スーツも無いため近接戦闘もたかが知れている。赤首輪はおろか、大人一人にも勝てないだろう。
こんな状態で赤首輪のもとへ出向けば返り討ちにされるのがオチだ。
以前なら己の腕に過信し加藤の後をつけた可能性もなくはないが、田中星人の時に死んだ経験が彼を慎重にさせた。

いまの彼が欲するモノは力と最小限の手ごまである。
力。まず第一に強力な武器だろう。スーツが手に入ればいいが、せめてガンツの任務で使用する銃くらいは欲しいものだ。
手ごま。これは数があればいいというものではない。
数があれば囮として使うにはイイかもしれない。しかし、任務では点数が配分されるのとは違い、今回のゲームでは『赤首輪を殺した者一名』のみが報酬を得るシステムになっている。
前者では多くの数を倒さなければならない代わりに全員が100点を達成できるケースがあったが、今回は泣いても笑っても一人だけだ。
報酬を得るために諍いが起こり足を引っ張る可能性が高くもある。最小限の数で効率的に狩りができるのが一番イイ。
加藤は赤首輪を守るだけでなくそういう輩も分け隔てなく連れてくる可能性が高かった。だから単身赤首輪のもとへ向かわせ死んでくれることを願った。
その点、相場はまだやりやすい。狩るにも躊躇いはなさそうだし加藤よりは合理的に行動ができそうだ。
だから、西は相場への協力を提案したのだ。扱いやすい駒の先駆者としてだ。

「......」

当然、相場も西になにか裏があることは勘付いている。だが、このまま一人で目的を達成できず協力者が必要なのは言うまでもないこと。
断れば容赦なく悪評を振り撒かれるであろうことから、彼は西の提案を飲まざるをえなかった。

「...よろしく頼む」
「交渉成立だ」

握手は決して交わさない。互いに信頼の二文字はありえないのだから。
一人は新たなる力を手に入れるため、一人は愛する者のため。
二人の男子中学生は偽りの契約をここに締結した。

【G-2/一日目/黎明】

【西丈一郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ポンの兄の拳銃@彼岸島
[道具]:不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:赤首輪の参加者を狙い景品を稼ぐ。装備が充実したら赤首輪の参加者を殺すなり優勝なりして脱出する。
0:邪魔する者には容赦しない。
1:相場は利用できるだけ利用したい。
2:いまは準備を整える。

※参戦時期は大阪篇終了後。


【相場晄@ミスミソウ】
[状態]:右肩にダメージ
[装備]:真宮愛用のボウガン@ミスミソウ ボウガンの矢×1
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針: 春花と共に赤い首輪の参加者を殺し生還する。もしも赤い首輪の参加者が全滅すれば共に生還する方法を探し、それでもダメなら春花を優勝させて彼女を救ったのは自分であることを思い出に残させる。
0:春花を守れるのは自分だけであり他にはなにもいらないことを証明する。そのために、祥子を見つけたら春花にバレないように始末しておきたい。
1:赤い首輪の参加者には要警戒且つ殺して春花の居場所を聞き出したい。
2:俺と春花が生き残る上で邪魔な参加者は殺す。
3:青い髪の女(美樹さやか)には要注意。悪評を流して追い詰めることも考える。
4:カメラがあれば欲しい。

※参戦時期は18話付近です。


時系列順で読む
Back:口は災いのもと Next:[[]]

投下順で読む
Back :神よお導きをNext:[[]]


GAME START 加藤勝
GAME START 西丈一郎 泥の船
Decretum 相場晄 泥の船
最終更新:2017年07月10日 21:54