こんにちわ。ロックです。
ロックと言いましたがアメリカ人ではありません。日本人です。
 昔は岡島緑郎という名でした。もうこの名前は捨てましたがね。
 何故捨てたかと申しますと、早い話が首きりですよ。文字通り、俺の命は上司に捨てられたんです。
まあその時の心境とか経緯は長くなるので機会があればおいおい語るとします。
そんなこんなで俺はリストラの元凶となったおっかない運び屋さん『ラグーン商会』に再就職となりました。
 新たな勤め先では仕事柄色々と危険な目に遭うのが日常茶飯事で、最近は割りと慣れてきたんじゃないかと思ってます。
そんな俺ですが、現在かつてないほどのピンチです。
 突如巻き込まれたバトルロアワイアル。誰かを殺さなきゃ自分が死ぬ最悪のゲーム。
...まあ、命賭けのゲームならロアナプラで嫌というほど経験してきました。違いは首輪の有無くらいですか。
けれどいくら慣れてても危険であるのは変わりません。
 一緒に連れてこられた先輩やお得意様なんか構わず銃をブッ放してる姿が目に浮かんで困ります。絶対に俺に飛び火する。
ともかく、そんなサバイバルの最中で俺は。

 「やだ!もう痛いのやだ!」

 小学生を騙る不審者と。

 「巻き込まれたくなければ早く離れなさい。死ぬわよ」

 貧乳コスプレ中学生と。

 「一度だけ警告したるわ。そこをどかんかい」

ごてごてアーマー野郎。

そんなイロモノ三人衆に囲まれて絶体絶命の身です。

...俺って不運の星に恵まれてるのかな。



時は遡る―――

場所はE-5エリア。

 「あーもう...拳が出ちゃいそう!(半ギレ)」

これ以上虐待されてたまるか―――そんな想いを体現するかのように、悪魔と化したひでは岡へと殴りかかる。

 岡の着用しているハードスーツは並大抵の衝撃では壊れない。
しかし、岡は多くの経験から直感していた。奴の攻撃をなんども喰らうのはマズイと。
スーツの強度に過信せず、避けられるものは避けリスクを最小限に抑える。
それが今回の岡の戦法であった。

 拳を躱され隙だらけになったひでの腹部に岡の拳が叩き込まれる。

 「俺はな、こう見えても学生時代はピンポンやっとったんや!」

ピンポン。即ち卓球。
 何故ここでピンポンが?という疑問は当然湧いてくるだろうが、おそらく動体視力と腕の振りには自信があるということだろう。
 実際、スーツを着ていることを差し引いてもその容赦ない一撃は見事としかいいようがない。

 「ヴォエッ!おじさんやめちくり~(挑発)」

 悶絶するひでに次々に叩き込まれる拳。
その一撃一撃が必殺の威力を有し、ひでの身体に傷を、痣を刻んでいく。

(...今の内に退くべきかしら)

その様を遠巻きから見守っていたほむらは、この場から退散することも視野にいれる。
 彼らの戦いに割って入るのは骨が折れるしなにより理由が無い。
ほむらの第一優先は鹿目まどかの保護であり、危険な雰囲気を醸し出すひでを殺すのはあくまでも二の次。
ここで自分が死んでしまえば元も子もないし、あのスーツの男がひでを殺してくれるならそれで済む話だ。

ほむらがひっそりと後ずさりしたその時だ。


「やだ、やだ、ねえ小生やd―――ッダァイ!!」
 「ッ!」

 感じた殺気に、ほむらは反射的に横に跳ぶ。
ひでが四散すると共に奔る閃光がほむらの髪先を焼ききった。
あとほんの数瞬反応が遅れていれば、額に風穴どころか頭蓋を四散されていただろう。

 「チッ、外したか」

 下手人は岡。その右腕に装着されたレーザーで、ひでごとほむらを撃ち抜こうとしたのだ。

(あの男、私ごと殺そうと...!)

なぜ彼は自分を狙ったか―――想像に難くない。ほむらとひでの共通点は、赤い首輪である。ならば、あの男の狙いはおそらく首輪。
それも、脱出用ではなく情報若しくは新たな道具を得るためのだ。

 自分を狙ってくる以上、反撃するべきなのだろうがそれは難しい。
ほむらの見る限り近接戦で一番劣るのは自分だ。ひでは技術こそないもののパワーとスピードに優れ、岡はスピードと技術がピカイチである。
それに比べて、ほむらは特筆すべき点はなく、加えて武術のような心得もない。この有り様では近接戦の不利を覆しようがない。
 遠距離戦ではどうか。駄目だ。あのスーツに銃弾が通用する気がしない。
 仮に時間を止めようと、攻撃が通用しなければ意味が無い。

では、ひでと手を組み岡を撃退するのはどうか。不可能だろう。
 生理的嫌悪を除いても、つい先ほどまで殺し合っていたもの同士。一時的にでも協力できるはずもない。

(やはりこの場にいるのは危険...けれど、どうやって離れれば...)
「痛いっていってるのに...この人頭おかしい(小声)」

ほむらの思考を中断するかのように再生するひで。
 気のせいだろうか。先程に比べて再生速度が遅く見える。

 「やはりお前にも限界はあるようやな」

 岡は、ひでの再生能力にも限界があると認識。この調子でいけば限界まで削りきれるかもしれない。



 (けど、まずはお前からや!)

ひでの特性を把握したところで、岡は突如としてほむらへと殴りかかる。
 先程、ほむらはこの場から逃げようとしていた。
この状況で逃げようとするのは、おそらく有効な戦闘手段を持ち合わせていないからだろう。身体能力もさほど高くはないと見た。
この中で一番弱い彼女を逃がせば、他の者に狩られてしまうかもしれない。
そのほんのちょっぴりの欲が、ほむらへの攻撃に繋がったのだ。

ほむらは眉をひそめ盾に触れる。
なにをする気か―――その答えを知るためにもまずは殴り飛ばす。
 中断できたならそれでよし。仕留められたならなおのことよし。仕留められずともダメージがあれば構わない。
 高速で振るわれる拳。ひでにも劣る彼女のスピードでは完全に躱しきるのは困難だろう。

―――カチリ

 しかし、岡の拳が彼女を捉えることはなく。
ほむらは、既に岡の視界から消えひでの背後に隠れていた。

(瞬間移動か!?)

振り向きざまに放たれるレーザーがひでに直撃する。

 「やめてGwtit!」

 絶叫と共に四散するひでを無視し、ほむらは巻き添えを回避するために横にとび、ついでに岡へとサブマシンガンを浴びせる。
が、やはり無傷。軽傷ではない。まったくの無だ。あのスーツ相手ではダメージが通らない。
いま力技で来られれば逃げ切れるかわかったものではないだろう。

しかし、ほむらにとっては幸運だろう。岡はほむらの能力を警戒し動きを止めていた。

(奴の動き...瞬間移動かと思ったが、ならあの男の拳を受ける理由がわからへん。それにんなもんあるならさっさとソレ使って逃げればええ筈や。なにか使えん理由があるんか?それとも使えない振りをして俺を騙し取るんか?)

「うぅうぅうう......」

 思索する岡を余所に、ひでの泣き声にも似た呻き声が空気を震わす。
 殴られ続けた上にレーザーで三度も爆発四散させられたのだ。流石に辛くなってきたのだろうか。
 身体を丸めて蹲るひでを見て、つい先ほどまで彼を殺そうとしたほむらも流石に憐憫の情が湧いてきた。

(いや、よくみたら半笑いねアレ)

訂正。やはり同情は湧かない。元からニヤけた顔をしているせいかやはり演技なのかはわからないが、歯をむき出しにして笑みを浮かべているのを見て、哀れむ気持ちはすぐに霧散した。

「どうやらそろそろ限界のようやな。いま楽にしたる」

 岡は油断のない足取りでひでのもとへ足を進める。
この隙に逃げられないか思案するほむらだが、下手に動き狩られるのを避けるため、岡の隙を窺う。
 逃走のチャンスはひでにトドメを刺したその時だ。このタイミングで時間を停止させればおそらく大丈夫だ。

 「ヤダッキッヤダッイウコトキクネッチョ、イ”ヴゴドギグガラ”ヤ”メ”デ!(高速詠唱)」
(この狼狽えよう、演技やないな。本当に限界が来とるようやな)

まくし立てるひでにも構わず、岡は拳を振り上げる。
ほむらはひでの潰れる音を聞き届けた後に時間を停止し逃走する腹積もりだ。

 「やだ、やだ、やだぁ~~~↑ぁぁ~~↑」

クッソ腹の立つビブラートをかますひでに、岡は躊躇いなく拳を振り下ろした。

キンッ

「...???」

 響いた音は、今までの轟音には程遠い空しい金属音だった。流石の岡もこれにはビビッた。

この金属音は、ひでが発した能力『ヤメチクリウム合金』によるものだ。
ヤメチクリウム合金とは、ひでが限界まで追いつめられた時に限り偶発的に発動する能力である。
ヤメチクリウム合金は、早い話が短時間だけ全身を硬くする技であり、その硬度はまさにダイヤモンド以上!
この能力によりひではハードスーツの攻撃を防いだのだ。

(わけがわからんがこの硬さはパンチじゃ無理や。こいつで)
「誰か助けて!!」

 掌からレーザーを出そうとした岡を異常な力で突き飛ばし彼方へと駆けていくひで。
その様脱兎のごとし。

 呆気にとられていたほむらは、ふと冷静に返り改めて自らの置かれた状況の危うさを自覚する。
ほむらが狙われなかったのはひでの影響だ。そのひでがいなくなれば狙いは自分に移る。
そして、岡相手に一対一で易々と逃げられるとは思えない。

 「くっ!」

ひでを利用しなければ現状を脱することはできない。
 不本意だが、重ねて言うが心底不本意だが、ほむらはひでのあとを追う。

(..大丈夫や。奴らの能力は未知数だが現状は俺の方が有利。退く必要はあらへん)

岡もまた、冷静に現状を分析し、獲物をとられてはたまらないと二人の後を追った。


 ☆


「どーするかな...」

 青年、ロックこと岡島緑郎は溜め息と共にそんな言葉を吐いていた。
 突如招待された血と硝煙の入り乱れるこのクレイジーパーティに対する感想である。

 煙草でも一服ふかしたい気分だが、生憎没収されており、なによりこんな場所で吸えば匂いでここにいることが危険人物にバレる恐れがある。
そんな自殺行為はするべきではないだろう。

(俺意外にもレヴィ、シェンホア、バラライカさんが呼ばれている)

名簿を取り出し連れてこられた彼女たちの行動を予測する。
 答えはみんな同じ。彼女たちが大人しく他の参加者と手を取りあって脱出を目指す像が思い浮かばない。
シェンホアは見返りがあればまだ協力してくれるかもしれないが、他二人はその希望は薄い。
 放っておけば確実に血の池地獄のできあがりだ。できれば早めに合流し止めたいが...

ロックとしては可能な限り死者を減らし、協力者たちと共に元の場所へ帰りたい。
しかし、この殺し合いのルールがそれを困難にさせている。

まず、赤い首輪の参加者は狙われやすい。この時点で彼らは身を守るために疑心暗鬼となる。
では、仮に赤い首輪の参加者の命を諦め普通の首輪の参加者の脱出のみを考えるとしよう。
あの主催の男は『赤い首輪の参加者が全滅したら優勝者が決まるまで殺し合いは続く』と言っていた。
おそらく参加者の過半数が赤い首輪で占められている訳ではないのだろう。つまり、全員が赤い首輪で脱出できるわけではないのだ。
そしてなにより懸念されるのは『誰が最初にトドメを刺すか』で揉めることである。
 仮に六人で赤い首輪の参加者を虫の息にしたとする。しかし脱出若しくは報酬を得られるのは一人だけ。
となれば、誰がその権利を得るかでもめ、その流れで殺し合うのは必然である。
では一人で戦えばいいのではという疑問もわくが、赤い首輪の参加者は吸血鬼のような化け物だと言っていた。
ただのハッタリかもしれないが、なんの前触れもなく突如連れてこられたことを顧みると、その超常的な存在もあながち嘘ではないと思えてくる。
 結局、組んで戦うことを強いられるのだ。

(俺たちはあの主催の駒として掌で踊らされるしかないのか。そんなの)

 "面白くない"
そう考えがよぎった時、ロックの背に冷たいものが走った。

(面白い面白くないの問題じゃないだろう。こんなことは間違っているから止めなきゃいけないんだ)

そう。こんな殺し合いなど間違っている。だからこそ、ロックは止めようと考えているのだ。
だが頭の片隅では。
"どうやってあの主催の男の間抜け顔を見られるか"
 "如何に自分があの男を出しぬき嘲笑(わら)ってみせるか"
 "そのための駒をどう動かそうか"
そんな、まるでゲーム依存者(ジャンキー)ような考えばかりがよぎってしまう。

ここに連れてこられる前、ファビオラとガルシア、そして張に指摘されたことがある。

 『お前は人の命をチップに乗せる悪党だ』。
 『お前の語るソレが本当に善意か考えろ』と。

 自分が殺し合いを止めようとするのは何故だ。
 本当に死者を出したくないという善意なのか?
それとも脳が蕩けるようなギャンブルを興じたいだけなのか?
―――あるいは両方か?

いまの彼にはわからない。いまの自分が求めているものはいったい―――

ドォン

少し離れた場所から戦闘音らしき音が響く。それは凄まじい速さでロックのもとへと近づいてくる。

(もう始まってるのか...!)

このままではマズイ。もし銃撃戦などに巻き込まれればロックに抵抗する術はない。
 逃げている暇はないが、だからといって立ち往生している訳にもいかない。いまはひとまず身を隠すべきだ。ロックは岩陰に身を潜めた。

 「やだ、もうやだ!!」

しかし時既に遅し。
 逃げてきたひではとうにロックを視界にとらえていた。

 「お兄さん助けて!!」
 「なっ!?」

ひでは隠れたロックへと飛びつきその背に隠れる。

(あの男は―――いた!!)
 (また1人参加者か)

ビームの発射エネルギーが尽きた岡の拳を避けつつほむらもまた彼ごとロックへと距離を詰めていく。
そのハードスーツと常人では捉えきれない拳を振るう岡も、防戦一方且つ辛うじてでも躱し続けられるほむらも、ロックからしてみれば十二分に怪物である。
すぐにでも離れようとする―――が、服を掴むひでのせいでロクに動けない。

ロックはどうにか振りほどこうとするも、ひでの力が異常に強く離れてくれない。どころか、迫る二人の盾にするかのようにロックを突き出している。
そんなひでに怒りを覚えるよりも早く、二人の戦線は辿りついてしまった。

ひでとロックを挟む形で向かい合うほむらと岡。そしてそれを牽制するかのようにひでに付きだされるロック。
 完全に巻き込まれた―――ロックは己の不運さを嘆かずにはいられなかった。


 ☆

そして現在。

 「ううううう...」

ひでの泣き声がのみが空間を支配する。
 岡。ほむら。ロックの三人はそれぞれの様子を窺い一様に沈黙していた。

ほむらは思った。
ひでと共にいる男の首輪は赤ではない。しかし、この場を退かないところをみるとなにか策でもあるのだろうか。

ロックは思った。
ここは彼らの言葉に従い素直に退くのが一番安全である。しかし、ひでがシャツを握って離さないためロクに身動きがとれない。
さてどうする...どうすれば生き残れる。

 岡は思った。
この男は普通の首輪である。殺しても大した意味はない。しかし邪魔をするなら排除するのみだ。

 「警告はした。二度目はあらへん」

 拳を握りしめ標的を見据える。
ひでは弱っているはずだ。見逃す理由はどこにもない。奴を庇う男ごと殺し、女の方も殺す。

 「いいのかよそれで」

 良心にでも訴えるつもりか。無駄だ。そんなものはとうの昔に置いてきた。ロックの言葉にも耳を傾ける必要などない。

 「こんな茶番に付き合っててツマラナイと思わないのか」

はず、だった。

 「いまの俺たちはあいつの小屋の家畜だ。しかも従ってもなんの利益も得られない最悪のな。あんたにはそれで満足できる程度の安いプライドしかないのか」

 岡は眉をひそめた。この男の狙いがわからない。
なぜそんな挑発的な言動で止めようとする。なぜもっと言葉を慎重に選ばない。

 「どうせあの主人は俺たちを逃がしはしない。どこに転んでも逃げられないなら、賭けてみないか。俺たちが死ぬか、主人が死ぬか。このクソッタレな状況でそんな対等な賭けが成立したら、最高だと思わないか?」

なぜ、そんな笑みを浮かべている。


パ ァ ン


一瞬。ほんの一瞬だけロックへと気が向いて気が付かなかったのか。
 突如飛来したなにかが岡のフェイスヘルメットを弾き飛ばした。

それはひででもほむらでも、ましてやロックでもない。

 凄まじき速さで回転するそれは、バシィンと気持ちの良い音を響かせ主のもとへと舞い戻った。

 「これはまた、奇妙な参加者がお揃いのようだ」

 岩山に立つ乱入者―――雅は、愉快気な笑みを浮かべ四人を見下ろしていた。


「赤首輪が二人に、男が二人か」

 岩山から跳び下り、四人を品定めするかのように視線で舐めまわす。
 四人は身動きすらとらない。この男に空気を完全に変えられたことを実感した。

 「女ならば犯してから食おうとも考えたが男ではな。とりあえず...弱らせておくとするか」

 雅は戦場を凱旋する王のようにゆったりと岡への距離を詰めていく。

 岡のもとまであと五歩、四、三...

ブンッ

放たれる拳。

 岡の鉄拳が雅の顎を砕いた。
ぐらりと上体を揺らがせる雅の胴体に、続けざまに岡は拳を放った。

 「やるじゃないか、人間」

だが、拳は届く前に掌で止められる。雅は顎を砕かれながらも笑みを浮かべていた。

 「フンッ!」

 雅による投げ―――それも、柔道のような洗練された技術によるものではない。ただただ圧倒的なパワーにより岡の身体が宙を舞った。
 通信教育で空手を習っている岡でさえ、受け身をとる間もなく地面に叩き付けられる。
ハードスーツはまだ無事だが、その衝撃は並の人間であれば致命傷なほどの威力だ。

 「これが衝撃を吸収しているのか?変わった服だ。だが、これに覆われていない部分を攻められればお前はどうなるか...」

 愉快気に嗤う雅の掌が岡の眼前にまで迫ったその時だ。

バシュッ

突如、ハードスーツの背より排出された煙が辺り一帯を覆う。
 思いもよらない反撃に、雅は思わず目を瞑り、他の三人も煙を吸い込んだのか咳き込み始める。


 (なんだこれは!?煙たいぞ!)

ゴッ

顔に鉄腕のフルスイングを受け地面に転がる雅。
 岡はその手応えだけを感じ取ると、すぐに起き上がり、次いで近い順にほむら、ひでへと拳を叩き込む。
しかし威力はそれまでのパンチとは比べものにならない。牽制のために当てたという程度の威力だ。
 岡は拳を浴びせた三人へ深追いはせず、ただ一人『人間』であるロックを掴みあげ、そのまま全速力で逃走した。

 煙が晴れた後に残されたのは、赤首輪の三人だけ。

 「...フン。逃げたか」

 落胆の色を乗せつつ雅は一人ごちた。
もしもアレが明ならば、地を這おうが絶望に身を転がそうが意地でも自分に食らいついただろう。
だが、あの男は逃げた。数度拳を交えただけで敵わないと悟ったのだ。つまらない。ああ、なんともつまらない男だ。
そんなツマラナイ男には興味が湧かないしわざわざ追う理由がない。

 「それよりは―――こちらの方が楽しめるか」

 雅は殴られた頬を抑えるほむらとひでへと振り向く。

 「......」
 「ぼ く ひ で」

 警戒心を露わにするほむらと歯をむき出し自己紹介をするひで。
 両者の対応はやはり正反対である。

 「ひでか。私の名は雅。彼岸島を治める吸血鬼だ」
 「きゅ、吸血鬼...?」

ほむらは思わず呆けてしまう。
 自身も魔法少女という人外であり、魔女という異形も散々目にしてきた。この会場でもひでという生命体に最初に出会っている。
しかし、改めて伝承上の怪物だと公言されるとやはり早々に受け入れられるものではないのだ。

 「ワ~オ、吸血鬼はじめて見たぁ~!」

 対するひでは無邪気にハシャいでいた。彼がなにも考えていないのは一目瞭然である。


「吸血鬼以外の人外と接する機会など中々ないのでな。そういった輩とはこの機に色々と話をしてみたいと思っている。少し話を聞かせてもらえると嬉しいのだが」
 「ぼくもしゅる~」

 雅を気に入ったのかそれともやはりなにも考えてはいないのか、ひでは間もおかず雅に賛同した。

 「......」

 残るほむらは考える。いまの彼らには交戦の意思はないようだ。
 雅という男は危険なニオイがするが、いま無理をして戦うのは得策ではない。
 選択肢としては、大人しく彼の『お話』に付き合うかすぐに去るかだが...

さて、どうするか。


 【F-6/一日目/黎明】 


 【雅@彼岸島】 
 [状態]:疲労(小)
[装備]: 鉄製ブーメラン
[道具]:不明支給品0~1
 [思考・行動] 
 基本方針:この状況を愉しむ。
 0:主催者に興味はあるが、いずれにせよ殺す。 
 1:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない 
2:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。 
 3:あのMURとかいう男はよくわからん。 


※参戦時期は日本本土出発前です。 
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。


 【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】 
[状態]:内蔵にダメージ(中)、疲労(中)、右頬に痣 
[装備]:ソウルジェム、ひでのディバック 
[道具]:サブマシンガン 
[思考・行動] 
基本方針:まどかを生還させる。その為なら殺人も厭わない 
0:この男と情報交換をするか、無視して去るか...


【ひで@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】 
[状態]:疲労(大) 
 [装備]:? 
[道具]:三叉槍 
[思考・行動] 
基本方針:虐待してくる相手は殺す 
1:この白髪のおじさんとお話しゅる~


※ヤメチクリウム合金
ひでが追いつめられた時に限り偶発的に発動する能力。
 己の身体をオリハルコンの如く硬化する。これを直接破壊するのはかなりの力を要する。ただし、毒や音のような身体の内部に届くものへの抵抗力は薄く、この状態で首輪が爆発すれば死ぬ。
これを発動している時はひでからは攻撃できず、また長時間持続することはできない。


「この辺りなら大丈夫やろ」

 岡はロックを地に下ろし、ふぅ、と一息ついた。
あの場での逃走に間違いはないと確信している。未だ未知数の赤首輪が三匹を相手にするのはリスクが高すぎる。
 特に新たに現れた白髪の男...奴が一番危険な臭いを感じた。

やはり対抗するには、ガンツの任務のようにチームを組むべきだ。それも足手まといのいない実力派のチームを。

(そのためには...)

岡はロックへとチラリと視線を送る。


(俺は、やっぱり...)

あの追い詰められた場面で、彼は何故か笑みを浮かべていた。そのことを自覚しつつも疑問を抱かなかった。
 理由はなんとなくわかっている。
 赤い首輪の二人と情け容赦のない男を懐のチップケースに入れる。
その賭けに、その後に待ち受ける更に強大な、脳髄を蕩けさせてくれるだろう大博打に期待していた。
 善意などではなく、純粋に己の享楽のために。
 人間、追い詰められた時に本性が出るという話もあるが、やはりそういうことなのだろうか。

 「お前、名前は?」
 「...ロック。名簿上は岡島緑郎」
 「俺は岡八郎や」

 「岡、さんか...なあ、あんたから見て、俺は悪党に見えたか?」
 「見えたわ。それがどうした」

 間髪入れずの返答にロックは思わず「へっ」と言葉を漏らしてしまう。

 「いや、なんで助けてくれたのかなって思って...」
 「お前に利用価値があると判断しただけや。善悪問答なら仏様にでも尋ねたらええ」

 岡からしてみればロックの素性や悩みなどどうでもいい。
 必要なのはチームを作るために交渉できるかできないかというその一点のみだ。
しかし、大阪のチームは大半がイカレていたため交渉なしでも任務という一点だけでそれなり(岡基準)に纏まっていた。
もしもチームが普通の感性を持つ者で構成されていれば、口達者ではない岡では纏めることができなかったはずだ。
この男は悪党クサイが、あの状況で勧誘を選ぶ程度には度胸があるのはわかった。自分の代わりの交渉役としては不足はない。

 「お前、主催の男と賭けがしたい言うたよな。ならチームを作るつもりはあったんやろ」
 「あ、ああ...」
 「ならソイツはお前がやれや。俺はそういうのはあまり好かん」

ひとまずは協力してくれる。ロックはそう解釈した。

 「...感謝するよ、岡さん」
 「呼び捨てでええ。堅苦しいのは苦手や」
 「わかった。岡、しばらくよろしく頼む」

 一人はただミッションクリアを目指すために。一人は己の本性とはかくあるかを思い悩み。
 二人の岡はここにひとまずの協力を結ぶことにした。



【F-5/一日目/黎明】 

【岡八郎@GANTZ】 
[状態]:健康 
[装備]:ハードスーツ@GANTZ(フェイスマスク損失、レーザー用エネルギーほぼ空、煙幕残り70%、全体的に30%ダメージ蓄積)
[道具]:? 
[思考・行動] 
基本方針:ミッションのターゲット(赤い首輪もち)を狙う 
1:赤首輪に対抗するためにチームを作る。


【岡島緑郎(ロック)@ブラックラグーン】 
[状態]:健康、不安(小)
[装備]:
[道具]:不明支給品1~2 
[思考・行動] 
基本方針: ゲームから脱出する。
 1:とりあえず岡と行動する。
 2:レヴィとバラライカと合流できればしたいが...暴れてないといいけど

※参戦時期は原作九巻以降です。



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GAME START 岡島緑郎 夢や愛なんて都合のいい幻想
悶絶開戦 岡八郎
暁美ほむら ホモコースト勃発!
ひで
帝王とは
最終更新:2018年01月25日 23:15