一人の少年が街中を歩いていた。
味気ないレーションを時折噛りながら、周囲の気配を窺う。
そびえ立つビル群は墓標のように静まり返り、本来ならあるべき人混みのようなものは一切なかった。
建物のどこにも電気は点いていない、電源を入れれば点けられるのだろうか。
広い間隔で立つ街灯だけが淋しげな光を放っていた。

「殺し合いか、やべぇなぁ~」
誰かが今にも少年を殺すかもわからぬ、そのような状況下で少年――デンジは呑気に呟いた。
「やべぇなぁ」
もう一度、デンジは呟く。
やはり、そこに悲壮感や恐怖、あるいは恐怖などの感情はなく、どこまでも脳天気なように思えた。

(どうすっかな、マジで)

デンジに殺人に対する忌避感はそれほど無い。
殺そうと思えば、知り合いでもなければ殺せるだろう。

知り合いがいた。
同僚であるパワー(彼は難しい漢字を読めなかったが、カタカナは読むことが出来た)
そして、職場の先輩である早川アキ
(少し悩んだが簡単な漢字なので、やはり読むことが出来た)

デンジは考えた。
――アイツの名字だろうと読めねぇ漢字は読めねぇ、
――川は三本線が引いてあるだけなので良い、早は日と十が合体していてややこしいんだよな。
――叶は口と十が横に並んでるのにな、早は日と十が縦だぜ。おかしくねぇか。
――気に食わねぇ名字だ、川川になればいいのに。

閑話休題。
デンジは名簿を読み、知っている人間の名を確認する。
同姓同名ということは考えられなかった、自分を呼んだんだから知っている人間を呼んだのだろうとシンプルに考えた。
何故、自分を呼んだのだろうか。
考えを巡らせたが、それはわからない。
デビルハンターという仕事をしている以上、どこで悪魔の恨みを買ってもおかしくはない。

「あ、そうか」
デンジは納得する。
悪魔の仕業なのだ、この殺し合いは。
なれば、わざわざ殺し合いなどしなくてもオババと名乗った悪魔を殺せば解決である。

「なんで悩んじまったのかな~!最近生活が良くなっちまったもんで、変に色々考えちまったかぁ?」
(ニンジン食ってるもんなぁ俺、キャベツも食ってる、ビタミン取りまくってるしまぁ、しょうがねぇかぁ)
デンジの足取りは軽やかに、デイパックよりレーションの2個目を取り出し、咀嚼する。

「おっ、デンジじゃ」
「げっ、パワー」

冗談のように、あっさりとデンジは知り合いに再会した。
髪をセミロングにまで伸ばした少女。
イタズラっ子のように緩めた口元から伺える歯は鮫のように鋭利だ。
胸部は平らであり、その代わりであるかのように頭部からは角が2本生えていた。

その角が示すように、普通の人間ではなく、魔人であった。

「ちょっと、とまれ」
すたすたと自分の側に寄ろうとするパワーを制止するように、デンジは手を伸ばす。
「嫌じゃ!」
すたすた、すたすた、すたすた、その歩みは止まらぬ。
パワーがデンジに従う道理はない。

「お前、俺を殺すつもりだろ!」
「バカ!殺さんわ!」
「じゃあ、なんだよそれは!」
「関係ない!殺さん!」
パワーが片手に携えていたものは手斧であった。
片手で持てる程度の大きさであっても、人の頭などを砕くのに不足はない。

「ぜってぇ殺すだろ!」
「殺さんと言っているのがなぜわからん!これはたまたま持ってるだけじゃ!」
デンジが駆け足で逃げ出すのに、合わせてパワーも走り出す。
静かな夜の街に二人の靴音がやけにうるさく響き渡り、闇を染め上げるかのように荒く白い息が発せられた。

「この殺し合いに乗る気かテメェ!」
「乗らん!!」
「お前さっきからクソみてぇな嘘ついてんじゃねぇ!」
「わかった、乗ろうと思っておったが今は思っとらん!じゃから止まれ!」
「絶対殺すからやだ!」

二人は夜の街をひたすらに走り続けた。


(くっそ~!キリがねぇ!!)
デンジは考える。
出来ればパワーのことは殺したくない。
死んでもしょうがない面はあるので、積極的に助けようとも思わないが、パワーを殺せば、
マキマ――彼の敬愛する女性が悲しむ。デンジはそう考える。

(ん、マキマさん……?)
マキマのミステリアスで憂いを帯びた顔をデンジが思い浮かべると同時に、脳に電撃が走った。
パワーを止める名案が閃いたのである。

「おい!パワー!名簿は読んだか!?」
デンジは立ち止まり、くるりと振り返って、大声で叫ぶ。

「名簿ォ?何か言うとったが、そんなもんは読まん!」

読まないのではなく、読めないのだろう。デンジはそう考える。
パワーはあまり、賢くない。

「マキマさんもこの殺し合いに参加してるぞ!」
「なんじゃとぉ!」

パワーが叫ぶと同時に、闇の中に白いものが浮かび上がった。
夜闇の中にあって、その全身が薄っすらと輝いているようである。
陽光に疎まれているかのような乳色の白い肌、色素のない銀の髪。
強膜は赤く、紅く、それは血の色だった。瞳孔が金色に妖しく輝く、魔性の証明だった。

雅と言う。吸血鬼と言う。

その雅の頭に手斧が突き刺さっていた。
デンジも、パワーも気づかなったが、雅はデンジの道の先に居た。
そして、今まさに姿を現そうとした瞬間に――パワーが衝撃のあまりに放り投げてしまった手斧が命中したのだ。

噴水のように血が溢れ出た。

「やっべぇ~!殺っちまったな!」
「わ、わしは……わしは悪くないぞ!デンジが殺れって言ったんじゃ!」
「言ってねーよ!とにかく血だ!血ぃ止めろ!マキマさんに怒られんぞ!」
「いや……あのオババとか奴願いを叶えるとか言っておったな!今こそ下剋上のチャンスじゃ!
 悪いのデンジ!そこの男には死んでもらう!」
「そのオババとかいう奴がお前の願いを叶えると思ってるのかよ!この前言われたろ!」
「なっ……ワシの方が先に気づいておったが!?」
「いいから早く血ィ止めろ!」

わちゃわちゃと動き続け、
いざパワーが雅の元へ向かおうとした瞬間、雅は平然と立ち上がった。
手斧を引き抜き、地面へと放り投げる。

「……人間でも吸血鬼でも邪鬼でも無い気配、何なんだ、お前たちは」
「血の魔人、パワー様と愉快な下僕じゃ」
「あ~~死んでねぇ!!死んでねぇってことは多分殺して問題ねぇ奴だなぁ!」

突如として、彼らを包む闇が牢獄になったかのようだった。
吸血鬼の王、雅が発する雰囲気は鋭い。地獄とは、彼のいる場所なのだろう。
もしも、この場所にいるのが普通の人間ならば血を吸われるまでもなく失禁は逃れえぬ。

勿論、雅に対峙する者が普通の人間であるはずがなかったが。



「興味が湧いた」
すらりと、雅が銃剣を抜き払う。左に一、右に一。二刀流である。
その銃剣の本来の所持者の名はアレクサンド・アンデルセン、吸血鬼を殺す者である。
吸血鬼の王は両の手に吸血鬼殺しの武器を構え、悪魔と対峙する。

「俺は男に興味なんてねぇけどなぁ~~~~!!」
躊躇はない、そのような余裕はない。
デンジは本能的に、心臓から伸びるスターター・ハンドルを引いた。
重厚な音がした。始まりの音だった。

デンジの頭蓋を斬り裂き、内部からチェンソーの刃が現れる。
右腕を斬り裂き、左腕を斬り裂き、やはりチェンソーの刃が生じる。

激しい痛みと重厚なるエンジン音の中、彼は覚醒する。

雅を悪魔と呼ぶものもいる。
しかし、それは彼らが本物の悪魔を知らないだけのことだ。

チェンソーの機械を模した異形の頭部、両腕から突き出たチェンソーの刃。
チェンソーの悪魔はデンジであり、デンジはチェンソーの悪魔であった。

「先に言っとくけどよォ!俺の勘違いなら謝っとくぜェ~!!」
「ハ、心配することはない……私はこの場の人間を皆殺しにするつもりだよ」
「そうか~!だったら正当防衛って奴だなぁ~~~!!!」

「ところで……先程の彼女はいいのか?」
雅が銃剣を構え、デンジが悪魔へと変じた時。
パワーの姿は既になかった。逃げていた。

「アイツに期待する奴ァ!バカってもんだぜ!!ハハッ!!つまりテメェは俺よりバカってことだな~!!」
獣のごとく、デンジが雅へと迫った。
雅もまた、デンジに応じる。

(宮本明……私はずっと病に侵されていた。退屈だ、退屈というどうしようもない病だ。
 だが、この殺し合いに呼ばれ、お前がいると知った時……そして、今、この瞬間。宮本明、宮本明よ。)

雅は心の中で宮本明に語りかける。
吸血鬼の王は日本を滅ぼし、玉座へと座った。
しかし、玉座には何も無かった。ただ無限の退屈の日々だけがあった。

(私の退屈を殺しに来い、宮本明)

【F-2/1日目・深夜】

【デンジ@チェンソーマン】
[状態]チェンソーの悪魔化
[装備]なし
[道具]基本支給品(食料消耗済み)、ランダム支給品1~3
[行動方針]
基本方針:主催の悪魔をぶっ殺して全部解決だぜ~!
1.目の前の雅を正当防衛でぶっ殺す

※参戦時期は永遠の悪魔以降

【パワー@チェンソーマン】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~3
[行動方針]
基本方針:最強のわしが全員ぶっ殺して願いを叶えて下剋上じゃ!
1.デンジと雅の戦いから逃げる
2.マキマが怖い

※参戦時期は永遠の悪魔以降

【雅@彼岸島】
[状態]健康(手斧による頭部粉砕)
[装備]アンデルセンの銃剣@HELLSING
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[行動方針]
基本方針:宮本明を探す
1.デンジとの戦いを楽しむ
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