―――ほたーるのーひかーりーまどのゆーきー


「アニキ~~~ッ、やめてくれ~っ!」

あいつの声が木霊している

―――ふみーよむーつきーひーかーさーねーつーつー


「もうやめてくれよぉ~~~っ!!」

口腔に広がるのは生臭い血、肉、臓物、骨の味、臭い。


―――いつーしかーとしーも、すぎーのーとーをー

それらを咀嚼する度に身体は喜びに震え、思考能力さえも彼方に吹き飛んだ。

―――あーけーてぞーけーさーはー


我に返った時にはもう遅い。

―――わかーれゆーくー

辺りに散らばるのは、かつて命だった友達と先生。

みんなを殺したのが誰なのか。それを理解してしまったオレは、ただ泣き叫び、怒りと絶望に身を委ねるしかなかった 。




ばさり、と旗がたなびいている。
記念写真のように貼り付けられた老婆の笑顔が彼を見下ろしていた。

彼の名は不動アキラ―――否。勇者アモン。
不動アキラの身体を触媒とし、現世に蘇った悪魔(デーモン)である。

「ククッ...」

彼は両の口端を極端に釣り上げ笑う。

「殺しあえ...あいつらを殺したこのオレに!殺し合えだと!?」

それは歓喜でも愉悦でもなく、怒り。一周回った怒りがかえって彼に笑みをもたらしたのだ!

「ふざけんじゃねえ、ミキまで巻き込みやがって!友達だけじゃなくアイツまでオレに殺させるつもりか!!」

魔鬼邑 ミキ。不動アキラが家族として愛し、アモンもまた一人の女として愛した少女。
その彼女が、この殺し合いに巻き込まれている。
許せない。このアモンの手でミキを殺させようとするその狙いが、なによりも許せない。

「てめえらだけは道連れにして死んでやる。オレを再びけだものに戻したこと...地獄で後悔するがいい!!」

脳裏に浮かぶ憎き仇敵の顔。


シレーヌ。
雷沼ツバサの身体を密かに乗っ取り今までいけしゃあしゃあと過ごしてきた女。
ミキの前ではお互いに悪魔であることを隠すという約束もすぐに破られた。

ヴィルフェ―――もとい、守城ケイ。
悪魔の力を手に入れながら人の人格を保ち悪魔と戦う存在、悪魔人間(デビルマン)でありながら、悪魔族に人類を売った裏切り者。
その理由も「デビルマンでヨーヨーの世界王者である自分がちやほやされないのが嫌だ」というクソのようなものだった。

クルール。
悪魔族の元老院の実質的トップの女。
恐らく、悪魔族による人類への一斉攻撃はこいつの主導だ。あれさえなければ...オレはあいつらを食わずに...!!

そして―――神子柴と名乗った老婆。
覚えがない顔だが、新たに生まれた悪魔なのだろうか―――どうでもいい。どのみち殺すだけなのだから。


目尻に涙が浮かび頬を伝う。怒りでガチガチと牙が鳴る。

感情の赴くまま、アモンは駆け出した。
目指すは、憎き老婆の描かれたクソみてェな旗。

「勝負だ!元老院!!」




ピピピ

国会議事堂へと踏み込もうとしたアモンの首輪から警告音が発せられる。
さしもの頭に血の登ったアモンでも、これには警戒心が高まり警告音の射程圏外へと離れる。

「近づけねぇ...そうだよなぁ、臆病なてめえらならそういう仕組みにするよなぁ」

わざわざ首輪をつけたのだ。殺し合いをさせたい連中からすればこの程度は当たり前の備えだ。
アモンもそんなわかりきっていることで諦めるはずもない。

「なら建物ごと燃やし尽くしてやる!」

アモンが飛び上がり、その口から灼熱の炎が放たれる。その勢い、まさに地獄の業火!しかし

「なにっ!?」

業火は壁に弾かれた。石造りの為に火が燃え移り難いだとかそんな話ではなく、そもそも触れる寸前に四散してしまったのだ。

「防壁かなんかを張ってやがるのか...遠距離からは壊させねえってハラか。だったらよぉ~」

―――断空翼(スラッシャーウィング)!!!

アモンは背中の翼を広げ、高速で国会議事堂へと突撃する。

「中からぶっ壊すだけだ!」

外から壊すのが無理なら中から。無論、首輪の警告音が流れるが、そんなものは関係ない。1分。それだけあれば勇者アモンの力を持ってすれば、内部を荒らし回り破壊できる。
仮に間に合わずとも、国会議事堂にダメージを与え、ミキの助けになれればそれでいい。
彼女は強い女だ。脱出の足がかりさえあればきっと生き残れるだろう。



―――六十秒。

ベンっ

琵琶の音が鳴り、部屋の景観がまるきり変わる。
庭園だ。草木生い茂る室内庭園だ。
突然の出来事に、アモンの動きが一瞬止まる。

ボゴッ

そのタイミングを狙っていたかのように、地面が盛り上がり弾けるように飛び出す。
人の顔にすね毛の生えた足がついた、ほぼ丸形の異形がアモンの右腕に噛みついた。

「チッ、こんなもの」

異形を払おうとした瞬間、異形の身体が茹で蛸のように赤く染まっていく。

パ ァ ァ ァ ン

そして爆発!四散した異形の破片と爆風はアモンの身体を傷つけ削り取っていく!

「ぐあっ!!」

苦悶と共にのけぞるアモンの身体。
それに合わせて、同じ形の異形が地面を突き破り次々に飛び掛かっていく。

「なめるんじゃねぇ!!」

激昂と共に、アモンの額、1対の触覚がピンと張り、大気を震わす。

―――震空音檄(ソニックアロー)!!!

アモンが頭を袈裟懸けに振り下ろせば、触覚から放たれる真空の刃が異形を纏めて両断した!!

「ホーホホホ!!!」

一息着く間もなく、間髪入れずの襲撃。
巨大な鳥のような形状をした異形が、アモン目掛けて高速で飛来した!!
その体当たりをアモンは両腕を交差し防ぐ。

「悪魔族の勇者アモン!お初にお目にかかる、私は吸血鬼の」
「邪魔だ!!」

名乗りを上げようとした吸血鬼の顔目掛けて拳を振るう。
高速で動いていた吸血鬼は防御の構えすらとれず、あわれその顔面を陥没させた!



―――四十秒

ベンッ

アモンが拳を引き抜くと同時、再び鳴る琵琶の音。
変わる光景。
今度は松明だけが頼りの薄暗い部屋だった。

鼻をつんざく腐臭。ああ、うぅ、ともがくようなうめき声。
ゾンビ。グール。アンデッド。
呼び方は人それぞれだが、死にぞこないの屍たちが蠢いていた。

「ウヒヒヒヒヒ!あったけー血がすいてェーぜ!悪魔族の血はどんな味がすんだろぉなぁ~~~!!」

一人だけ流暢に言葉を発する屍生人が、異様に長い舌と共にアモンに飛び掛かり、それを合図に四方八方から屍たちも飛び掛かる!
常人ならば悲鳴を上げ失禁し一目散に逃げだすこの場面。
しかし、それに臆するアモンではない。

「今更こんなもので怖気づくと思ってんのか」

口内に充満する屍肉の臭いに構わず、息を大きく吸い込む。

―――焼滅光線(ターミネーション・ビーム)!!!

「地獄へおちろ屍ども!」

放たれるは炎。敵を地獄へと送る浄化の炎!!

「ギャアアアアアア!!!」

湧き上がるのは悲鳴、悲鳴、悲鳴。
屍生人とて生き物。それを焼けばこうなるの必然。
アモンはそんなことを気にも留めない。それに、彼らも。

「ぐっ!」


降りかかる矢の嵐。
武装した獣人共がボウガンを構え、アモン目掛けて一斉に射撃したのだ!
さしものアモンもこの物量の攻撃には防御に回るほかなし。



―――二十秒。

(あのゾンビ共は囮で、本命はこっち。なかなか考えているが...だが!)

そんなもので勇者アモンは止まらない。留まらない。
防御に回ったままでも放てる技はある。
コオォ、と小さな音が鳴り、アモンの腹部が光だす。

「くらえ!斬肉―――」

目を見開き、獣人共を一掃しようとしたその瞬間だ。
アモンの眼前に奇妙な液晶画面が舞い降りた。
小型のテレビ。アモンは構わず獣人諸共破壊しようとする。が

『―――――』

声が聞こえた。
ノイズが混じり、しかし確かに聞き覚えのある声が。

『――――キ』

画面の砂嵐が収まっていくにつれ、声も鮮明になっていく。

『――アニキ!』

砂嵐も消え、ノイズは取り除かれ。画面にはその正体がはっきりと映った。

「あ...ああ...」

それは悪夢だった。

爪を、牙を振るい暴れ狂う自分。
恐怖と困惑に包まれても、自分を止めようとしてくれる友人たち。
大切な人を護ろうと立ちはだかった先生。

それらを。愛しい者の、なにより自分にとっても大切な日常を。
引き裂いた。消し飛ばした。バラバラに引きちぎり、中に詰まっていたものを嬉々として引きずりだし貪った。

悪夢だった。
既に起きた現実が、再び悪夢として襲い掛かってきた!


「わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ !!!」

あの時の光景がアモンの脳内を支配する。
皆の悲しみが。苦しみが。怨嗟の声となりアモンの精神を侵食する。
例え見せられているのが幻覚だとわかっていても、アモンに抗う術はない。
矢の嵐が、いつの間にか収まっていたことにすら気が付かない。

そして―――

―――零。


ホ ホ ホ ホ ホ ホ ホ ホ

堕ちていく意識の中、最後に聞いたのは、どこかで聞いた高笑いだった。





「―――という顛末ですよ」
「なるほど。よぉくわかった。そこの馬鹿がなぜ沈んでいるのかもな」

月光の下で四つの影が浮かんでいる。

ひとつは、水色の髪の小柄な少女、雷沼ツバサ。
ひとつは、半裸で白目を剥き倒れ伏しているアキラ。
ひとつは、大柄なジャマイカ人の男、ウサミミン。彼がアキラを連れ出してきた。
最後のひとつは―――大きな手に妖艶な顔を合成した奇妙な姿の怪物。

「サイコジェニー、幾つか質問があるがいいか」

ツバサ―――否、鳥人族シレーヌは、怪物、サイコジェニーをジロリと見下ろした。

「ちょっと待ってくださいね、主に許可を貰うので」

主。その言葉に、シレーヌの眉根がピクリと動いた。

(主だと?神子柴の裏を引いているのはクルール達ではないのか?)

もしも神子柴やサイコジェニーを操っているのがクルール達なら、わざわざ『主』などと遠回しな言い方はしない。
奴らなら神子柴のような替え玉を立てず、元老院の名の下に勅命を下すはずだ。
いや、そもそも今の悪魔族は最終戦争に向けて準備を進めている。だが、気を抜けばダンテ率いるデビルマン軍団に殲滅されるほどに綱渡りなのが現状だ。
そんな中で、貴重な一大戦力である自分になんの通達も無しに切り捨てるだろうか。否、奴らも流石にそれほど阿呆ではない。
ならば、この殺し合いの裏に潜んでいるのは奴らではない―――のだろうか。

「お待たせしました。『同郷のよしみとして、殺し合いに関わること以外で簡潔手短に済ますならば良い』だそうですよ」

ニヤニヤと笑みを浮かべるサイコジェニー。
恐らく念話で『主』とやらに確認をとったのだろう。

「...この殺し合いから生還するにはやはり優勝しかないのか?」
「はい。優勝者以外にその権利は渡しません」
「首輪は優勝すれば外せるのか」
「外します」
「貴様はなぜ私と接触した?」
「偶然です。本当なら誰にも会うつもりはありませんでした」
「この殺し合いを開いたのは悪魔族か?」
「答えられません」
「私は元老院に切り捨てられたのか?」
「答えられません」


こちらを小ばかにするようなサイコジェニーの笑みにも、しかしシレーヌは怒りも見せず淡々と受け流す。

「時間です。これが最後の質問です」


「サイコジェニー...貴様は、悪魔族を裏切ったのか」

シレーヌの問いに、それを待っていたと言わんばかりにサイコジェニーの笑みは更に深まった。

「知ったことじゃありませんよ。私は今が楽しければそれでいいんです」

ホ ホ ホ ホ ホ ホ ホ ホとひとつ高笑いをあげると、サイコジェニーはウサミミンを連れ闇夜に消えていった。


「......」

シレーヌは考える。

(開始数分で本拠地に殴り込みに行く。そんなタブー中のタブーを犯したこいつがなぜ五体満足で放り出された?)

サイコジェニーの話が本当ならば、アキラの身体にはもっと怪我があるはずだ。
それが今のアキラの身体には湿布ひとつすらない。わざわざ治療までしたのか。
なぜか。国会議事堂の恐ろしさを伝え、踏み入る輩を減らすためだろう。
確かに、アモンのように死なば諸共、あるいは考えなしで国会議事堂に攻め込む輩も他にいるかもしれない。
そう考えれば、アモンほどの悪魔でもなすすべも無かったという広告塔にはうってつけだ。

(あるいはそうせざるを得なかった、か。奴らはあくまでも殺し合いを見たがっている。極力、禁止エリアに踏み込んで自爆、なんて展開は望まないだろうよ)


シレーヌは、傍らで失神しているアキラにチラ、と視線を移した。

「アモン、お前は変わらんな。昔も今も衝動に任せて暴れるばかりで、自分が勝てる戦を作ろうともしない」

アキラの目元は赤く腫れ、涙の痕が微かに残っている。
彼が無謀にも主催の本部に殴り込みをかけたのは、つまりはそういうことなのだろう。

「だが、そのままじゃ誰と何べん戦おうがなにも守れんぞ。一度アタマ冷やすんだね。...さよなら」

シレーヌはアキラのデイバックに手をつけず、かといって彼を起こすのでもなく、自分の荷物だけを纏めて背中を向けた。
アモンと協力は難しいだろう。恐らくアモンはこの殺し合いに元老院が絡んでいると思い込んでいる。
いまの奴の状態で冷静に話し合うなど、とても出来たものじゃない。
だから、放っておき好きにやらせておけばいい。その果てに途中で力尽きるも自分と決着を着けるのも、一人で決めさせればいい。

「殺し合い、か」

シレーヌは己の首に手をあて、ぽつりとひとりごちる。

首輪を嵌められてのこの殺し合い。数多の殺戮と虐殺を経験してきた彼女にとっても気に入らないものだ。
自分の意思でなく、顔も知らない誰かさんの命令で殺す。そんなもの気分がいい筈がない。
無論、己の命が脅かされるようなら殺し合いに乗ることも辞さない。が、結論を出すにはまだ早い。
アモンのお陰で主催側にも相応の戦力が揃っているのがわかった。神子柴含む主催陣を殺すにしても、今回ばかりは一人では不可能だろう。

優勝か、主催の打倒か。

なんにせよ、彼女の方針で確かなものはひとつ。

―――生き残るのは、私だ。



【D-3/1日目・深夜】


【不動アキラ(アモン)@デビルマンG】
[状態]肉体的には健康、精神的疲労(大)、気絶中
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~3
[行動方針]
基本方針:元老院(主催)を殺す。
0:......
1:ミキは死なせない。

※参戦時期はチェーン万次郎、カミソリ鉄、アオイを食い殺した直後。
※主催を元老院だと思っています。



【雷沼ツバサ(シレーヌ)@デビルマンG】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~3
[行動方針]
基本方針:生き残る。手段は択ばない。主催陣は殺したい。
1:殺し合いに乗ってやってもいいが...どうするかな
2:アモンとは次に会った時に決着をつける。次があれば、だがな。

※参戦時期は18話以降。


※国会議事堂に

【噛みつき爆弾型吸血鬼@彼岸島】
【善が初めて殺した吸血鬼@血と灰の女王】
【トロール@ベルセルク】
【アダムスさん@ジョジョの奇妙な冒険】
【グール@HELLSING】
【ゾンビ@チェンソーマン】
【ハコの魔女@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
【サイコジェニー@デビルマンG】
【ウサミミン@神緒ゆいは髪を結い】

の存在が確認されました。国会議事堂に踏み入った者に襲い掛かります。殺された者が復活するかは不明です。





前話 名前 次話
START 不動アキラ(アモン) [[]]
START 雷沼ツバサ(シレーヌ) [[]]
最終更新:2020年01月24日 22:39