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The Keeper of ArcaneLore(後編)◆Jnb5qDKD06




 ───ストレングスが固有結界を展開してから10分経過───


 虚ろな世界に劈くような銃声が響いていた。それも一つではなく複数。銃声一つで金属質な床や壁が破砕し、破片が天高くまで舞い上がる。とても銃弾が作り出せるような弾痕ではなく戦車の滑腔砲に近いだろう。しかし、それも違う。金属を破砕しているものの正体は岩石だ。


「っう!」


 ストレングスの肩を砲弾が掠った。肉が抉れ、疑似的な神経が激痛を伝えてくる。それでも目の前の敵から目を離せない。離せば死ぬ。
 ブラック★ロックシューター。彼女は「虚の世界」における死神(きゅうさいしゃ)である。もっともこれはキャスターの宝具によって形成された偽物だがストレングスはそれで相手の実力を測ったりしない。
 というよりも、これはもしかして。


(本物よりも───強い!?)


 ストレングスの四指。両手合わせて八門の銃口から弾丸が放たれる。そのどれもが当たらない。速いのではなく早い。発射する前に回避されている。
 接近してきたブラック★ロックシューターの銃剣とストレングスの鉄拳がぶつかり、そしてストレングスが弾き飛ばされる。膂力も本物より強い。出鱈目だ。
 二撃目を避け、三撃目も鉄拳で防ぎ、弾き飛ばされて、四撃目は防御も回避もできない体勢。だが、ここはストレングスの世界である。この世界で唯一の地面である浮遊した巨大なルービック・ミラーブロックスを自在に動かすことが可能だ。
 右へ、前へ、左へ。
 一瞬で空間跳躍にも等しい位置替えをし、ブラック★ロックシューターの背後に回り、その拳がブラック★ロックシューターに突き刺さる。ブラック★ロックシューターは突如前方に生えてきた金属の壁にめり込んだ。上半身がぐちゃぐちゃに潰れて然るべき鉄拳を叩き込んだが、頭を失った昆虫のように手足をばたつかせながらその砲をストレングスへと向けた。


「────っ!」


 急いで後方へ跳ぶことで岩弾を回避する。金属壁から起き上がり、ストレングスを補足したブラック★ロックシューターは再び岩弾を発射した。厚さ1メートルを越す金属が次々を撃ち抜かれ、土埃の如く金属片が巻き上げられる。ストレングスも位置替えによる回避を行うもブラック★ロックシューターの青い瞳は猟犬の如く逃さない。
 遂にストレングスの肩が、脇腹が、太ももが撃ち抜かれ、機械の手の指一本が被弾して吹き飛んだ。金属の壁5枚を生えさせて更には自身も位置替えによる空間転移をするが無意味。壁は貫かれ、青い炎を灯す瞳からは逃れられない。

 ストレングスではブラック★ロックシューターに勝てない。
 それは純然たる実力差以前に二人の、いや彼女と虚の世界の住人の関係性が原因だ。

 ──ブラック★ロックシューターは虚の世界の住人を殺(いや)す──

 それがこの世界の住人の描く彼女の形であり、タタリが再現したものである。
 だから勝てない。だから敵わない。だから殺せない。
 故にストレングスは虚の世界を解除して逃げるくらいしかない。


「これがブラック★ロックシューターだって……」


 だが、ストレングスにはそんなものはどうでもよく。
 それ以上に一つの激情が彼女を埋め尽くしていた。


「これがマトだって……」


 その両眼からは赤い涙を流し、三日月に開いた口は血の海の如く真っ赤で、涎のように血を垂れ流しながらストレングスを見下してケラケラと笑っている。
 こんなものを私の友達だと認めるものか。彼女の形をしていることすら冒涜だ。
 キャスターのマスターを狙うという選択肢は既に消えた。キャスターの術中に嵌っていると頭が理解できても見逃せない。1秒でも長く存在させてなるものかとストレングスは吼える。
 その怒りに呼応した地面全てが噴火し火山の火口と化した。


「許さない」


 竜の如く炎の帯が天を舞う。
 一面火の海の世界の中、四腕の機人がオレンジの眼をタタリに向けていた。




 端が燃える包帯を千切って捨てながらシュバルツ・バルトはつまらなさそうに溜息をついた。いや、実際につまらないのだ。こんな何の益もない茶番に付き合うつもりはないのだから。
 暴き立てることこそがシュバルツ・バルトの目的であり、暴れ回ることは手段にすぎない。つまり、外に出来事が露出しない心象風景内部の戦いなど何の意味もない。かと言って脱出する手段がないのもまた事実。


「犬め。銀の鍵に繋がれた犬め」


 戦況はキャスターが優勢に見えて常にこちらが不利なのだ。なぜならアーチャーがシュバルツ・バルトに狙いを絞れば即座に決着がついてしまうから。まさに牙を剥く犬に警戒する人間の気分であり、それが何ともしがたい屈辱感を与えている。
 背後からカツンという音がした、


「だが、ああ。ちょうどよい暇潰しが現れたわ。そうだろう、腐った町と犬共の親玉よ!」


 シュバルツ・バルトが腕を組みながら振り向くと、先ほどまで無人だった空間に人物が現れていた。
 キーパー────シオン・エルトナム・アトラシアが立っていた。手には銀の鍵、その双瞳は包帯男を厳しく睨んでいる。


「答えろ、シュバルツ・バルト。キャスターを使い、町中にタタリを発生させ、その神秘を秘匿しない理由を」
「犬共の親玉に相応しい傲慢な問いかけだ。だが、答えてやろう。
 真実を暴くため、そして楽しんでいる観客共を引きずり下ろすためだ。
 この舞台が一体如何なるものかを蒙昧な人々に知らしめるためだ」
「真実……だと?」
「そのために用意したのだろう?
 腐った町を! 狂った者共を! 下らない催しを!!」


 シュバルツ・バルトはそのままニタリと嗤いながらキーパーを嘲る。


「だいたい神秘の秘匿……神秘の秘匿だと!?
 見れば狂人と化してしまうようなプロテクトを掛けておいて笑わすな。
『恐れ』で人は止められない。止まってはならない。真実に恐怖し、袋小路に逃げ込んだ時、人間は待つだけの哀れな───」
「黙るがいい、狂人。これが、最後の警告だ。今すぐにアーカム全域にまで展開したキャスターの宝具を解除しろ。さもなくばここで殺す」


 シュバルツ・バルトの言動に何か逆鱗に触れるものがあったのか、濃密な殺気が溢れかえっていた。恐らく常人であれば気が狂わんばかりの恐怖に襲われただろう。事実、シュバルツ・バルトは心臓を握られているに等しい圧迫感に襲われていた。


「貴様もまたメガデウスを操るか」


 そう、彼女の背後に。巨大な機械の掌。世界を摘み取るデウス・エクス・マキナの如く。それが極大の魔力と物理的大質量を伴って顕現していた。掌だけでこの圧力。間違いなく大いなる(ザ・ビッグ)に匹敵する何かに他ならない。


「回答しろ、シュバルツ・バルト……いや、マイクル・ゼーバッハ!!」


 アーチャーの固有結界が軋む。
 そこに在るだけで世界が壊れるような超質量が矮小な男一人を狙っている。
 シュバルツ・バルトは回答する内容次第で象に踏み潰された蟻と同じ運命を辿るだろう。
 もはや拒否権は存在しない。助かる見込みはたった一つしかない。他に何一つ、黙秘すらも許されることはない。


「フ、ハハ、ハハハハハハハ!」


 しかし神の如き掌を見てもシュバルツ・バルトは哄笑し、そしてキーパーを嘲笑った。


「ノーだ!」


 答えた瞬間、あるいは答え終わるより早く顕現していた手が振り下ろされる。
 神の鉄槌が如く、シュバルツ・バルトに超質量の何かが落ちてくる。
 誰であろうと絶望するような事態を前に、しかしシュバルツ・バルトは聖母像にクソを塗るが如く悪意を盛って言葉を紡いだ。


「貴様のような、『恐怖のあまり逃げ出した者』に意味はない。
 人とは恐怖のあまり真実から逃げ出した瞬間、無価値な存在になる。
 故に────貴様の持つもの、語る者全ては無価値だ! 理想も! 願望も! 全て!!」


 狂人の紡ぐ言葉は一瞬でキーパーの怒りを頂点へ迎えさせ───


「貴様はこの聖杯戦争の果てに! 無価値に! 無意味に!! 何も得ないまま死ぬだろうさ!!!
 ハ、ハハハ、ハーハッハッハッハッハ」
「────黙れ」


 ──まるで勝利者の如く高らかに笑いながら、巨大な掌に圧し潰された。




 ほぼ同時刻。自身の固有結界が軋み始める以上をストレングスは感知した。
 そしてブラック★ロックシューターに化けているキャスターもまた同じく。


「これはこれは。予想外の展開だ。まあ、即興劇にアクシデントは付き物だがね」
「な、なんで? ここは私の世界。私の心象風景。呼んでもいない人なんか入って来れないのに」
「まあ、予想はつくがね。恐らくは監督役……キーパーのサーヴァントだろう。神秘をばら撒く我々を追ってきたというわけだ」


 アーチャーでも知っている。神秘とは秘匿せず衆知されるほど薄れゆくものであることを。喩えこの舞台が■■であろうと変わらず、故に神秘を隠匿するための特権を有した存在がいる。
 それがキーパー。ルーラーならざるエクストラクラスであるが既存サーヴァント達を滅ぼせる権能を有していることは想像に難くない。
 なのに愉快そうに言葉を放つキャスターに嫌悪を催す。


「自分のマスターが心配じゃないの?」
「いいや、サプライズもまた良い刺激となる」
「もしかしてあなたはキャスターじゃなくてバーサーカーなのか?」
「いいや、ちゃんと狂った魔術師だとも。だが、君に正気云々を言われたくはないな」
「何……?」


 訝しむアーチャーにキャスターは嗤って答えた。


「この固有結界。この心象風景。詳細は分からないが言わんとしていることは分かる。
 己の周りは炎の如き激痛。逃げ出したい。だが逃げ場がない。だからルービックキューブのように自分の代わりに表で受けてくれる何かが欲しい。
 ハハハ。つまり『身代わり』が本質なのだろう、君は。いいや、もしかしたら『君たち』かな?」
「黙れ」


 本質を突かれたこと以上に、それをマトの、ブラック★ロックシューターの姿で嘲われることが許せなかった。


「彼女の姿を真似て、そんな最低な表情を浮かべるお前なんかに何が──」
「分かるとも。何せ私も死から逃れるためにタタリという皮を被る者だ。
 だが、君と私は延命手段が同じでありながら道は全くの真逆だ」


 浮かべていた嘲笑が消えると同時に周囲の温度が下がった気がした。
 キャスターの声が嘲笑と侮蔑から極寒の激怒に変わる。
 人々の心に巣食う固有結界。他者の皮を被り、自らの身を守る。
 ある種の同族嫌悪。自分と似通う属性であるが故に余計に許せないことがある。


「私が延命として皮を被るのはその先にある未来を救わんと挑むためだ。人々を、霊長の未来を救うために己という概念を捨て、そして人類救済の計算式を求めるためだ。そこに恐れはない。逃避もない。諦める道理など微塵もなかったとも。
 永遠の逃避を願い、未来からも現実からも逃げ出す君とは違うのだよアーチャー。
 未来はおろか前すら見ていない愚か者に人の正気・狂気を語る資格などあるものか」


 その口から洩れる熱情。狂気。そして怒り。
 何度挑戦しても挫け、それでも諦めきれずに狂い落ちた魔術師の残影がそこにいる。
 だが、ストレングスは決して怯まずにキャスターを見据えて言った。


「言ってくれるね……これでも変わったつもりなんだけどね」


 かつて、神足ユウという女の子がいた。
 彼女はいじめられっ子だったんだ。現実は辛い。逃げ場はない。毎日何かが壊されて、毎日が痛い。だから私が生まれて、彼女の代わりを引き受けた。だけど今は────


「あんたが声高に言ってくれた事はもうとっくに乗り越えたんだよ。私達は。
 だから、ここにいるのはもう、あんたの言う身代わりじゃない。ここにいるのは彼女を救い上げた、彼女のための、彼女のためだけの英雄だ!」

 四つの鉄腕が唸る。
 ストレングスの気炎を具現して固有結界内部の炎が猛り狂う。


「大体、あなたは好き勝手言ってくれたけどさ」


 足に力を入れて地を踏む。


「英霊(こんなもの)になってもまだ未来だのなんだの言って暴れているあなたはどうなんだ」


 そして地を蹴る。
 ニトロをくべたレーシングカーの如く爆発的に速度が出た。


「いつまでも惨めな有り様で、人に迷惑をかけて、正気を語る資格が無いのはどっちだ!」


 己が固有結界の炎を焼かれようがその激痛すらも乗り越えて。


「英霊になっている時点で、あんたの挑戦とやらはとうの昔に失敗して終わってるんだよ!」


 アーチャー・ストレングスは最後の吶喊を果たした。
 アーチャーの啖呵。決死の吶喊。それすらも己の熱意に足らずとキャスターは言った。


「だが、それでも諦めないのが魔術師の宿業というものだ」




 ワラキアの夜───ズェピア・エルトナム・オベローンと呼ばれていた魔術師の話をしよう。
 その男はアトラス院と呼ばれる魔術協会に所属していた。
 根源と呼ばれる世界の深奥にたどり着くことが一般的な魔術師の悲願であるがアトラス院の魔術師、いや、ズェピア・エルトナム・オベローンの願いは違った。
 人類滅亡の未来を変える。ただそれを願い、求めた───だから狂った。
 何をしても変えられず、何をしてもより酷い未来が生み出される。
 なんという悲劇。
 なんという皮肉。
 なんという憐れさ。
 未来を救いたいあまり、未来をより凄惨な終わりにするなど悪辣にも程がある。
 それでも。ああ、それでもと諦めきれず未来を計算する。計算する。計算する。計算スル。計算スル。計算スル。計算スル。計算スル。計算スル。ケイサンスル。ケイサンスル。ケイサンスル。ケイサンスル。ケイサンスル。

 狂った思想で精密な機械の如き思考。
 寿命が足りなければ寿命を超越する死徒となり、それでも足りなければ現象となって計算し続け。


「時計を回せ、針を回せ、廻セ……廻セ廻セ…………廻セ廻セ廻セェェェ!!」


 こうしてズェピア・エルトナム・オベローンはワラキアの夜と呼ばれるモノになった。
 森羅万象未来永劫を計算し尽くす思考機械。呪われたエルトナム。一夜限りの虚言の王。死徒二十七祖の一角。それが■■に滅ぼされても尚、英霊として在った。


 ───だからこそ、この舞台(セカイ)はオカシイのだが。




 ブラック★ロックシューターがガトリングを構え銃身を回転。物理的にあり得ない連射速度での掃射を開始する。
 同時に決着をつけるべく未来の計算も始めた。


 ───分割思考展開。計算開始。計算終了。


 コンマ2秒で計算終了。この5秒間で起きうる可能性(シナリオ)を四桁ほど演算し、統計でまとめ上げる。
 アーチャーが星(ルービックキューブ)を回し位置を変えるだろう。その軌道すら計算範囲の中だ。


(右からのフェイントの左、上、前、右、更に右……いや、これは左のシナリオか。そして左下。
 狙いは側面から拳による殴打か。蛮脳な)


【一秒経過】


 アーチャーが固有結界の効果を使い、計算通り位置を変える。
 どの道を使うのかは計算済みである故、脅威ではない。
 迎え撃つべく、重火器を長大な剣に変形させ切先を天へと向けた。炎が更に燃え盛り、熱風が二人の肌を焼くも互いに斟酌しない。
 台本通りに動かねば死ぬことは明白。裏を返せば台本通りならば死ぬことはない。偽肉がいくら焦げようとどうでもいいことだ。


【二秒経過】


 ガシャン。ガシャン。ガシャン。
 星が、ルービック・ミラーブロックスが回転する。
 この体(タタリ)であれば恐らく目で追うことも可能なのだろうが、計算しきれている未来に対し、無駄なことはしない。
 ただ振り上げた長剣の刃を巨人が如き膂力と迅雷の速度を以て振り下ろすだけ。


「幕といこう」


 その言葉と共に断頭台の刃の如く振り下ろされる黒鉄の剣。その剣の軌道上にストレングスの首が来ることをワラキアの夜は算出していた。
 そして、それはストレングスの生前、ストレングスの身体を使っていた神足ユウをブラック★ロックシューター葬ったのと全く同じ動作。故に客観的に見ればこの結果は順当だろう───前のままのストレングスならば。


「何?」


 ワラキアの夜の口から驚愕の声が零れた。
 振り下ろした刃は無為に虚空を裂いて金属の床へと突き刺さり、そこにあるべきアーチャーの首も胴体も存在しない。
 理不尽極まる結果に怒りと焦慮が湧く。


【三秒経過】


 さあ、思い知るがいい。稀代の錬金術師。未来を計算する者よ。

 ストレングスの本質は見抜いた。固有結界の構造も見抜いた。

 そのどれもが正答であると同時に誤答である。

 故に───

「ぐぅぬ!」


 落石の如き轟音。続いて骨が砕ける音。肉が潰れる音。体が木端の如く吹き飛ぶ風切り音。最後に金属の床へとめり込む音。
 間違えた者へ下される鉄拳制裁。
 それはワラキアの夜が計算した結果に含まれていたが、あまりにも可能性が低いために排除したシナリオだった。
 すなわち正面からの殴打。

 ワラキアの夜の計算ミスの原因。それは己が舞台観で世界そのものを知り計算したことにある。
 この舞台は旧い。この固有結界が形成されたのは神足ユウという少女が成長する以前に形成されたモノである。
 だからこそ、計算できても誤差として消してしまう。
 現実から逃げ出した者が『正面から飛び込んで来る』などという未来が。


【四秒経過】


「やっとその面を殴れたね」


 魔力を乗せて怪力スキルを発揮したアーチャーの拳はキャスターの殻に重度のヒビを入れていた。ノイズが走り、輪郭そのものが不安定となっていく。
 ワラキアの夜の耳にはドシドシと死神の足音が聞こえてくる。


「私たちの世界に祟りはいらないよ。ことりとりが来るから」


 自らの炎で焦げた衣服を纏い、オレンジ色の瞳を煌かせる魔人がタタリを滅ぼすべく近付いていく。
 どうするかなど明白だろう。これまで虚の世界の住人を廃棄した方法と同じ方法でタタリを滅ぼすだけだ。
 すなわちルービック・ミラーブロックスの下で煮えたぎる灼熱地獄への廃棄。
 掴んで投げて落とすだけ。ただそれだけ。


「なるほど」


 ダメージが大きかったのか、足が崩れていっているキャスターに逃れる術はない。
 にも関わらず不気味な笑みを浮かべていた。
 生理的にこれ以上見ていたくないと思ったストレングスはブラック★ロックシューターの首へと手を伸ばし。


「こういう"枝"か」


 その時、キャスターが訳の分からないことを呟き。


"貴様はこの聖杯戦争の果てに、何も無価値に! 無意味に!! 何も得ないまま死ぬだろうさ!!!"


 そして誰かの高笑いが響いた瞬間、天地が波打った。
 ルービック・ミラーブロックスの足場が吹き飛ぶ。衝撃波で空が割れる。
 吹き荒れていた炎は残さず消し飛び、嵐の如く空気が吹き荒れた。


「え、な、何で!?」


 未曽有の大災害を前にストレングスは焦った。
 そしてそれを事前に計算していたワラキアの夜は嗤いながらタタリの皮を剥がして──


「では、ここで死ね」


 悪性情報によって形成された爪がストレングスの肉体を抉った。





「やはり狂っていたか」


 巨大機械人形の掌の下。肉が潰れた確かな感触を感じ取るとキーパーの溜飲が下がった。最後に何やら囀っていたようだが、所詮狂人の戯言に過ぎない。そう判断して忘却しようとた時、眼前、機械人形の手の甲上部の景色が歪む。
 それは靄の如く朦朧かつ無形であったが徐々に形を取り始め、色が付き始め、そして成った。その姿は先ほど叩き潰したはずの男であり、今は機械の掌の下で肉塊になっているはずの男である。


「シュヴァルツ・バルト……」


 見間違えようがない。そのぎらついた、そして果て無い宇宙の深淵のような狂気とその中核で常に沸騰し続けている汚泥のようなおぞましい情熱を宿した瞳を見間違えようもない。
 キーパーは何故生きているなどという疑問を溢さなかった。なぜならばこれは馴染み深い現象だったからである。すなわち──


「タタリとして具現できるほど『包帯男』の噂が浸透したということか。であれば今潰したのも悪性情報で生み出したタタリというわけか」
「ほう。その真実の映らぬ眼でよくも理解できるな、狂った犬共の親玉よ」
「ならばキャスターの方を排斥すれば問題ない」
「しかし、もう遅い」
「キャスター、ワラキアの夜がまだ此処にいることはわかっている」
「我らは誰も止められぬ」


 二人の間に飛び交った言葉は全く噛み合わなかった。
 手の甲に立っているシュバルツ・バルトを払いのけ(少し払うだけで砂の城のように弾けて肉片が舞った)キャスターへと向かって歩を進めるその二歩目で、世界が歪んだ。
 まるで濁水を純水へ濾過するように固有結界が現実世界へと変わっていく────






 苦しい。
 熱い。
 悶えたいのに体が動かない。
 胸元から夥しい血が流れていく。
 胃から血が逆流して口から溢れる。
 こんなに血が出ているのに痛みが無いのが気持ち悪い。

 ストレングスはエーテルで構成された肉の感触に苦しみながら、どうすればよいのか頭を必死に動かしていた。
 奇跡的に霊核は無事だが、立ち上がることすら困難な今、目の前の怪物と戦うことなどできない。顔を上げればふわり、ふわり浮遊霊のようにキャスターが近づいてくるのが見えた。勝利を確信した笑みが張り付けられたその顔が無性に癪に障る。
 だが武器のOrgaArmsは指一本動せない。


(負けた……)


 大衝撃によって天地が揺れた瞬間に動けなかった。それが敗因だった。浮いているキャスターと足が接地していた自分とでは影響度が違いすぎる。だが、戦いにそんなものは関係ない。バスケの試合じゃないのだ、不幸な事故だったからノーカンとする審判は此処に存在しない。
 そう、戦いとは結局は死ぬか生きるかだ。そこに善悪の優劣は存在しない。死にたくないなら抗うか逃げるしかない。


「さて、サーヴァントの血というのはどんな味かな?」


 グイッと首を掴まれて持ち上げられる。
 逆流していた血液が喉に詰まり、溺死の如き息苦しさが襲う。サーヴァントが窒息死することは無いが耐え難い。


(いいや……駄目だ。まだ……終われない……)


 マスターを置いて死ぬわけにはいかなかった。故に───


(固有結界、『解除』)


 世界が渦巻く。光景(いろ)が変わる。空の色が炎のオレンジから曇った鉛色へ。
 夢から覚めるように、ストレングスはロウアー・サウスサイドの小汚い路地へと吐き出された。固有結界の解除と同時にキャスターとストレングスが現実へ吐き出される位置を極限まで引き離すことでキャスターから逃げることに成功したはいいが、魔力の消耗が激しすぎた。傷の再生が遅く、これ以上は行動できない。単独行動スキルがなければ既に消滅していただろう。悔しさで奥歯を噛みしめながら霊体化する。




 俯瞰的に見ればワラキアの夜の大勝利だった。
 マスター(の形をしたタタリ)を守るためにブラックロックシューターの姿を取って煽りつつ、さらにアーチャーを打ち負かした。アーチャーから何発かは喰らったものの耐久値EXランクのワラキアの夜にとっては重傷ですらない。事実、傷もまた人々の噂の如く消え去っていた。
 しかし───


「ふむ。これは詰んだという奴かな?」
「そうだ。キャスター・ワラキアの夜。貴様をここで処分する」


 固有結界から吐き出された直後。巨大な機械の掌を浮かべるキーパーとキャスターは出会ってしまった。
 アーチャーが意図的に同じ場所へ出したのか、それとも神の悪戯か。ともあれ逃げられそうもない。


 問答無用で落ちてくる鉄槌。

 分割思考展開────回避不能。死確定。


 即座にワラキアは逃れられぬ死と敗北を認めた。未来を諦めぬ妄執によって吸血種になった彼であるが、計算結果には真摯に向き合う魔術師でもある。もしもこの聖杯戦争が人類の未来を左右する戦いならば、人類を救済する聖戦ならば足掻いただろうが、そうでもないならあっけなく諦める。
 ああ、すまないねマスターと僅かばかりの懺悔して自らの終焉を待った。


 しかし、いつまでもその衝撃はやってこない。
 鋼の腕が止まっていた。そしてワラキアの夜の前には────


「なんのつもりだ。ナイ神父」
「いやいや、君こそ何をやっているんだ?」


 黒き衣を纏った男──後姿だけでは見えないがおそらく声からして──がいるからキーパーの攻撃は止まったのだ。その隙をワラキアは見逃さない。
 再び巨掌が動き出す前に霊体化し、姿を消す。消える間際、キーパーから奥歯を噛みしめる音が聞こえたのは非常に心地よかった。




「答えろ、神父。監督役でありながら神秘を漏洩させているワラキアの夜を見逃したのは何故だ」
「それはこちらのセリフだキーパー。常識的に考えて審判がプレイヤーを殺すゲームが存在するか?」
「これはゲームではない」
「いいや、ゲームだとも。果てしない悪意と想像を絶する神意とスズメの涙ほどの誠意によって紡がれる見世物(ショー)だ。
 故にこのような筋書きは認められん。初の脱落者がキーパーによる殺害などと言う無粋極まる流れはな」
「正確に言えば6人目だ、ナイ神父。お前の理屈はどれも的を射ていない。ゲームであれば規則正しく動くべきであるし、見世物であれば醜悪極まるタタリなど存在する価値などない」
「それは価値観の相違だな。混沌と醜悪を楽しむ者もいよう。というか私がそれを見たいのだ」


 まるで表情が罅割れた如く、怒りで血管が浮き出た。
 怒りのみならず極寒の殺意がキーパーから発せられる。キーパーの殺意に応じて一度は停止していた鋼の手が再び動き出した。超質量。超魔力。それが軽く動くだけで嵐の如き暴威が吹き荒れる。ほんのわずかに手を振るのみで足下のコンクリートに罅すら入れるほどの物理的な圧力すら伴うそれを浴びてもナイ神父は凪いでいる。


「這い寄る混沌……貴様は聖杯戦争そのものを台無しにするつもりか」
「阿呆か。まさかお前、せいぜい国を滅ぼせる程度の力でこの舞台が壊れると思っているのか?」


 ナイ神父は冷笑しながら愚者へと諭す。
 お前何を勘違いしているんだと小馬鹿にした態度で超弩級の、サーヴァントすら殴り殺せる武装を展開しているキーパーに向かって。
 第三者が入れば神父の嘲弄は狂人の振る舞いにしか見えないが、さてそれは本当なのだろうか。
 仮にキーパーの強さを理解した上でそんな態度を取っているとしたら───


「ならば────」

【ロウワー・サウスサイド・???/1日目午後】
【シュバルツ・バルト@THEビッグオー】
[状態]健康
[精神]狂人(正気度判定を必要としないが、いつでも物語の表舞台から姿を消す可能性がある)
[令呪]残り3画
[装備]ガソリンを染み込ませた包帯
[道具]望遠レンズ付きカメラ(キャスターの道具作成によるもの)、ライター、替えの包帯
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:真実暴露
1.金木研をモデルに邪神の情報を流布し、邪神の存在を知らしめる。
[備考]
※金木研の中にある邪神の触手を視認しました。
※ウォッチャーの存在を認識しました。
※この世界の仕組みを大体知っています(登場話より)
※ラヴクラフト小説を読んだためEランク相当の「神話技能」スキルがあります
※タタリとなるほど『包帯男』の噂が浸透しているためもしかしたら何処にでも現れるかもしれません


【キャスター(ワラキアの夜)@MeltyBlood】
[状態]健康(戦闘分の魔力を消費)
[精神]Bランク相当の精神汚染
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]一文無し
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争の筋書きを書いた者を探し出し、批評を叩きつける
1.タタリの範囲を広め、よりイレギュラーを生み出す乱数を作り出す。
2.いっそのこと『邪神』をタタリで出すのも面白い
[備考]
※固有結界タタリより以下のかたちを取ることができます。
(〝白髪の喰屍鬼〟、〝包帯男〟)
※亜門鋼太朗&リーズバイフェ・ストリンドヴァリを認識しました。
※金木研を認識しました。
※スキル「吸血鬼」より太陽が昇っている間はステータスが下がります。(タタリのステータスも下がります)
※キーパーを認識しました。


【アーチャー(ストレングス)@ブラック★ロックシューター(TVアニメ版)】
[状態]ダメージ(中)、魔力消費(大)、OrgaArms破損(小)
[精神]正常
[装備]OrgaArms(小破)
[道具]黒いフード
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:仲間としてマスターに協力する。
1.一騎の指示に従う。
2.ワラキアの夜への敵意
[備考]
※三好夏凜を見ましたが、マスターとは認識していません。
※キャスターとシュバルツ・バルトを認識しました

【キーパー(シオン・エルトナム・アトラシア?)@MELTYBLOODactressagain】
[状態]健康
[精神]健康
[装備]エーテルライト、永劫刻む霊長の碑
[道具]エーテルライト
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の完遂と邪神の隠蔽
1.シュバルツ・バルト&キャスターペアの処分
[備考]
※ある程度の情報があれば何が起きたかシュミレートできます
※シュバルツ・バルトを処分対象としました
※どうするかは次の書き手にお任せします。

【ナイ神父@邪神聖杯黙示録】
[状態]?
[精神]?
[装備]?
[道具]?
[所持金]?
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争の行方を最後まで見届ける
1.?
[備考]
※神崎蘭子&ランサーに出会った直後、時間的かつ物理的にありえない速度で商業区域からロウワー・サウスサイドへ移動しました。




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025:Shining effect]] 投下順 027:Rising sun(前編)
025:Shining effect]] 時系列順 027:Rising sun(前編)

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013:The Keeper of Arcane Lore アーチャー(ストレングス 0:[[]]
シュバルツ・バルト&キャスター(ワラキアの夜 0:[[]]
021:Pigeon Blood ナイ神父 0:[[]]
004:アーカム喰種 キーパー(シオン・エルトナム・アトラシア? 0:[[]]



最終更新:2018年03月10日 19:49