未だ日が昇らない早朝、新都の空を赤と銀の二つの影が跳ねるように進んでいく。
 あれは忍者か怪盗か、はたまたご町内の平和を影から守る正義の味方か?

「バーサーカーさん、このまま真っ直ぐ?」
「ああ、もう少しで橋が見えるはずだ。その橋を渡った先が深山町で、その先の森との境に学校があるらしい。人が来ずに寝られる場所はそこしかなさそうだな。」
「うーん‥‥夏休みだからだれもいないと思うけど、いいのかな‥‥」
「野宿よりはマシだな。」

 否、二人は今回の聖杯戦争の参加者であるマスターとサーヴァント。『妖界ナビゲーター』こと竜堂ルナと、『魔王』ことバーサーカー、ヒロだ。
 私略による食事を終えた二人は一先ずの拠点を得るために冬木西岸にある学校へと向かっていた。どことなく会話が家出少女のようだが侮ってはいけない。二人はそれぞれ世が世なら王として君臨するに値する血筋にある。ほっぺに青のりを着けてパルクールの要領で移動する姿からは想像しがたいがガチで本当である。
 もちろん、こうやって移動しているのも考えがあってのことだ。ビルの屋上伝いに高速で移動している二人を補足できるのは、サーヴァントかよほど注意深くかつ明確に偵察の意図のある人間のどちらかだろう。確かに二人は狙撃される可能性をほとんど考えていないが、拠点と共に同盟相手も探している現状、打てる手としては致命的とはいえないレベルの悪手で済むだろうし━━


『━━パパ、サーヴァントを見つけたけど━━』


 少なくとも今回は事態を好転させることにつながった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



(なるほど、今度は冬木市を丸々一つ再現してみせたのか)
 薄暗い小部屋でパソコンの前に座る衛宮切嗣はそう心の中で呟くと冷めたコーヒーを飲み干して立ち上がった。電源を落とすと少ない荷物を抱えてカウンターへと向かう。
 新都にあるインターネットカフェ。その喫煙ブースにある部屋ともいえない一画が彼と彼のサーヴァントの、本選最初の拠点だった。予選突破後、直ぐに舞台が冬木市だと気づいた切嗣とアーチャーは、双方の知る冬木市との違いを調べていたのだ。もっとも、改めて把握できたことは数少ない。精々どちらかと言えばアーチャーの時代の冬木市に近いことと、かつて爆破したハイアットホテルが再建されていたことぐらいである。

(やっぱり、これ以上は実際に行ってみないとわからない‥‥霊脈まで再現されているかは未知数か。)

 会計を済ませると足を西へ━━自宅として設定されている家のある深山町方面へと向ける。その歩みはかつての聖杯戦争時のものに比べていくらかぎこちない。自分の娘ともいえる存在を矢面に立たせることへの抵抗か、それとも彼自身の衰えか。

(だいぶ様変わりしたんだな‥‥)

 ゆっくりと後ろに流れる町並みを見ながらそんなことを考えつつ、かつての自分ならこんな弛んだことは考えなかっただろうか、などとまたとりとめのないことを考えつつ進んでいく。その姿から『魔術師殺し』などという物騒な二つ名は感じられないだろう。

『━━パパ、サーヴァントを見つけたけど━━』


 ピン。あるいはリン。


 その声を、かつて全くといっていいほど使わなかった手段で聞いて、衛宮切嗣の中でなにかが動いた。
 雑然とした頭の中で古びた歯車が回りぎりりとバネが軋みをあげて戦闘のための機構を用意していく。言葉にするならばそんな感覚。

(━━人間、そんなに簡単には変われないか。)

 自分の身体、精神、感覚を平時(クール)から戦時(ホット)へ。息するようにただの中年男性から神秘に身を置くもののそれに変わっていくその様に、切嗣は薄く苦笑いを浮かべる。

(よし、行こう━━)
「クロエ、今の敵の場所と様子は?」

 元『魔術師殺し』、衛宮切嗣。
 武器も持たず、体は衰え、魔術は失われたも同然。
 それでも、錆びきらなかった心一つで行動を開始する。



【新都・冬木大橋東岸から徒歩15分地点/2014年8月1日(金)0411】

【衛宮切嗣@Fate/zero】
[状態]
五年間のブランク。
[残存霊呪]
三画。
[思考・状況]
基本行動方針
聖杯戦争を止め、なおかつクロエを元の世界に返す。
1.クロエから敵サーヴァントの情報を確認したのち接触するか判断。
2.仮に敵サーヴァントが前衛を勤められると判断した場合、聖杯狙いでも一時的な不可侵を結ぶのもあり。
3.戦闘は避けたいが協力者を募るためには‥‥?
4.装備を調えたいが先立つものが無い。調達しないと。
5.自宅として設定されているらしい屋敷(衛宮邸)に向かう。
[備考]
●所持金は約4万円。
●五年間のブランクとその間影響を受けていた聖杯の泥によって、体の基本的なスペックが下がったりキレがなくなったり魔術の腕が落ちたりしてます。無理をすれば全盛期の動きも不可能ではありませんが全体的に本調子ではありません。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



『━━パパ、サーヴァントを見つけたけど━━』

 ビル街を跳ねるように行く二つの影を見つけたクロエはすぐさま切嗣へ念話を送った。
 先行すること約500m。移動を始めた切嗣に合わせて警戒と偵察のためにクロエも移動していたが、それが功を奏した。元は冬木大橋を伺っていた彼女の視界を高速で横切るように向かってくる二つの物体は、明らかに人外の速さで、それでいて人間じみた動きをしている。彼女の、ある意味オリジナルともいえるアーチャーほどではないが、それでも確かにその目はそれが今回の自分達と同じ存在、参加者であると見抜いた。

『━━もしかしたらもう同盟を組んでるかも。』

 だがしかし、見抜けたのはその二人が参加者というところまで。その二人、銀色の影と赤色の影のどちらがマスターでどちらがサーヴァントか、あるいはどちらもマスターかそれともどちらもサーヴァントか。両者人間離れした動きをしているだけに、クロエには判断することができなかった。またクロエ自身もある種イレギュラーなサーヴァント。その在り方はマスター以上サーヴァント未満の半端なものであり、自分を基準とすることもできない。加えて、純粋に距離が遠い。今だ二つの影とは数百mの距離があるが、目視ではなく魔力から判断をつけようとすればこちらの存在にも感ずかれる可能性はある。

(あんまり考えてる時間は無さそうね、さて━━」

 彼女の、クロエと切嗣の目的は聖杯戦争の打破。
 そのためには協力者の捜索や聖杯についての調査が必須となる。
 しかし、大前提として考えなくてはならないのは自らの生存。本選が始まって以来初めて会うことになる参加者によっては、その後の展開は大きく変わってくるだろう。


 クロエ・フォン・アインツベルンが赤と銀、二つの影と接触するまであと30秒。気づかれる前に引くのか、あえて会話を試みるのか、あるいは彼女が予想しない選択肢をとるのか。
 少ない残り時間で衛宮切嗣と共に下す結論は━━。



【新都・冬木大橋東岸と衛宮切嗣の現在地の中間地点/2014年8月1日(金)0411】

【アーチャー(クロエ・フォン・アインツベルン)@Fate/kareid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]
筋力(10)/E、
耐久(20)/D、
敏捷(30)/C、
魔力(40)/B、
幸運(40)/B、
宝具(0)/-
[思考・状況]
基本行動方針
衛宮切嗣を守り抜きたい。あと聖杯戦争を止めたい。
1.切嗣と情報を共有したのち接触するか判断。
2.‥‥あれってどっちがマスターでどっちがサーヴァント?
[備考]
●赤色の影(バーサーカー)と銀色の影(ルナ)を目視で発見。どちらがマスターかサーヴァントかは判別不能。また後30秒でほぼ確実に鉢合わせになる。


【竜堂ルナ@妖界ナビ・ルナ】
[状態]
封印解除。妖力消費(小)。お腹いっぱい。ちょっと眠い。移動中。
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
みんなを生き返らせて、元の世界に帰る。
1.学校の保健室を基地にする‥‥いいのかな‥‥
2.誰かを傷つけたくない、けど‥‥
3.バーサーカーさんを失いたくない。
[備考]
●約一ヶ月の予選期間でバーサーカーを信頼(依存?)したようです。
●修行して回避能力が上がりました。ステータスは変わりませんが経験は積んだようです。
●新都を偵察した後修行しました。感知能力はそこそこありますが、特に引っ掛からなかったようです。なお、屋上での訓練は目視の発見は難しいです。
●第三の目を封印解除したため、令呪の反応がおきます。また動物などに警戒されるようになり、魔力探知にもかかりやすくなります。
●身分証明書の類いは何も持っていません。また彼女の記録は、行方不明者や死亡者といった扱いを受けている可能性があります。


【バーサーカー(ヒロ)@スペクトラルフォースシリーズ】
[状態]
筋力(20)/D+、
耐久(30)/C+、
敏捷(20)/D+、
魔力(40)/B++、
幸運(20)/D、
宝具(40)/B+
魔力消費(微)、移動中。
[思考・状況]
基本行動方針
拠点を構築し、最大三組の主従と同盟を結んで安全を確保。その後に漁夫の利狙いで出撃。
1.誘い出されてくる他の参加者に警戒。砲撃や爆撃に対応するために魔力を溜めてる。でも狙撃のことは考えていない。
2.学校に拠点を構える。
3.マスターがいろいろ心配。
[備考]
●新都を偵察しましたが、拠点になりそうな場所は見つからなかったようです。
●同盟の優先順位はキャスター>セイバー>アーチャー>アサシン>バーサーカー>ライダー>ランサーです。とりあえず不可侵結んだら衣食住を提供させるつもりですが、そんなことはおくびにも出さずに交渉する予定。
最終更新:2016年06月28日 02:49