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Moral Hazard - (2013/04/07 (日) 14:44:08) の1つ前との変更点

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*Moral Hazard  ◆shCEdpbZWw ---- 草木も眠る丑三つ時という言葉がある。 その丑三つ時もとうに過ぎたというのに、未だ眠らぬ者が一人。 「あー、くだらねーwww ちょっとコラ雑すぎんよーwww」 クックッ、と笑いを噛み殺しながら、布団に丸まっている男。 当面の安全を確保したつもりになっている彼――ゆうすけは、腹ごしらえの後再びPDAでの2ちゃんねる巡りに精を出していた。 この見ず知らずの家に立て籠もり、周囲が疲弊しきった頃を見計らって攻勢に転じて優勝を狙う。 ゆうすけは自らが立てたこのプランに絶対の自信を持っていた。 その自信の裏付けの一つが、ゆうすけの立て籠もった家が住宅街であったということだ。 「何もない野原に一軒だけポツンと建ってるんならまだしもな。  こんな無数にある家の中から、俺のいるこの家を引き当てるなんてよっぽどの事じゃなきゃ出来ねえよな」 もちろん、ゆうすけも用心には用心を重ねている。 ドアも窓もしっかりと鍵をかけ、部屋の電気や支給品のランタンだって点けずに息を潜めているのだ。 恐らく外から見れば、ゆうすけのいる家は他の家となんら変わらない家に見えるだろう。 「それに万一家に入られたとしても、ドアぶっ壊すとか、窓ガラス割る音くらいするはずだよな。  そうすりゃ、銃のある俺がそいつが来るのを待ち構えていりゃいいんだしな」 ゆうすけが潜んでいるのは2階の寝室だった。 侵入経路を考えれば、まず間違いなく1階からの侵入になるとゆうすけは考えていた。 突然の侵入に狼狽えたとしても、侵入者が2階に来るまでの間に気持ちを落ち着ける時間はあると踏んでいた。 「……だいたい、自分の部屋なんて今まで誰の侵入だってさせなかったんだぜ」 ゆうすけにとって自室は絶対の不可侵領域であった。 両親はもちろんのこと、盆暮れ正月に訪ねて来る親戚連中が来ても自分の部屋にさえ閉じこもっていれば、自らの安寧を保てていたのだ。 自室のPCからは2ちゃんねるをはじめとした各種のwebサイトにアクセスし、部屋から出ずともゆうすけは世界との繋がりを感じられていた。 いわば、ゆうすけにとって自らの部屋というものは、最強無敵のシェルターのようなものである。 さらにその手には強力な銃が握られているのだから、ゆうすけからすれば「鬼に金棒」のようなものであった。 ふと、PDAを見つめる顔を少し上げてみた。 これまで部屋にほとんど光が射していなかったが、少しばかり明るくなったのが分かった。 「もうすぐ朝か……朝にさえなれば光を気にして隠れる必要もなくなるよな」 ゆうすけの日常では朝が来ることが憂鬱だった。 現実から逃避する自らの人生を象徴するかのように、朝が来てからドアの前に置かれた朝食を貪ってから光を避けるように眠りに落ちる日々。 だが、今はそうではなかった。 いつ殺されるかわからないという恐怖を、外の闇は増幅させ続けていた。 そんな圧迫感からももうすぐ解き放たれそうだということを、ゆうすけは本能的に感じ取っていた。 朝が来ることがこんなに待ち遠しかったのなんていつ以来だろう、ゆうすけはそう思った。 「どれ、たまには朝日でも拝んでみるとするかな……」 のっそりと体を起こし、窓の外に目を遣ったその時だった。 #aa(){{{   | ∧         ∧   |/ ヽ        ./ .∧   |   `、     /   ∧   |      ̄ ̄ ̄    ヽ   |             ヽ   |               ヽ   |ヽ-=・=-′ ヽ-=・=-  /   やあ   |::    \___/    /   |:::::::    \/     /                                             i   ┌─┐   .| |. |. 7                                            l    |  └―‐┘└┘ {                                             l 仁二_   r―‐┐ r┐  '                                              l     |  {__| |.| ./                                         l 仁二二      └┘/                                    \    l     、    .r―キ⌒i{                                 \、_ \ー '      、  .|                                   \  ̄      ト、  、  |                                    \       i \  \|    「 i 「 i                                      \      \ \   厂 ̄ ¨ ¨¨¨                                       ヽ       ー =--L. ィ .i  rミ  ,,  ,,,,                      ,,,,  ,,            }       /7   .| .|i / Lノ   ''';;;;;;;;;,,,,,,,,,,,,               ,,,,,,,,,,,,;;;;;;;;;'''    \ー _ノ     仁   二ニ=- { |{  ,,,;;;=''''=;;;;;;○;;;,,,,,,,,,,        ,,,,,,,,,,;;;;;;○;;;;;=''''=;;;,,,    \            } L_   /       ,,,;;;;==''''''''''=,,,    ,,,='''''''''==;;;;,,,           \        /    ヽイ/                                       \      ./ r~、 |> . \           ,,,;;;;;;,,,,     ,,,,;;;                        ヽ    .' {_/ ./> ,、 ヽ            '''=;;;;,,    ';;;;                     、    ゝ..__/ ./ { ヽ |              '';;;;,    ;;;;,                        、         |  |  }/              ;;;'    ,;;;''                           、   .r――― '  .L__,、              ;='   ,,;;;''                 、    、    }   Lr------、  r--ァ /             ,;;'   ,,;;;''                      \    \ー‐'       .> '   ̄  /            ,,;;;;;;;;;='''''                     \ー- '     _  / .r‐┐   〈                                      \   _  ,/ ( {  `¨´  r 、 i                                        ヽ (   ̄   L_ミァ イ⌒  )/                                         }  ̄ ‐┐       7  / ̄)                                           /   , -┘  [フ  .厂 _」  ∠                                         /  /  r―、    /  L  _.二                                       /    、    ̄    く   __」  | ./                                   <       ー―  'ヘ  }/    `´                                     \           L__  ○    く }}} 思わずゆうすけは悲鳴を上げて飛び上がってしまった。 窓の外にはニヤニヤと笑いながら部屋の中を見下ろす猫耳の生物。 (あ、あれはモララー……!? ……って、なんでAAが動いてやがるんだ!?  それに……こ、ここは2階だぞ!? なんで窓の外にいるんだよ!?) 慌てふためくゆうすけを他所に、モララーはやたら長い銃を手にし、その銃床をガツン、ガツンと窓ガラスへと叩きつける。 「ちょっ、やめろ!!」 ゆうすけの制止も空しく、程なくしてガシャンと音を立てて窓ガラスは砕け散った。 「わわっ!?」 降りかかるガラスの破片を避けるようにゆうすけは床へと転がる。 そんなゆうすけを見下ろしながら、モララーは自分のデイバッグを乱暴にベッドの上に投げ捨てると悠然と口を開いた。 「見ーつけた。ダメじゃないか、こんなところで隠れてちゃ。これは殺し合いなの、バシバシやろうよ」 「な、なんなんだよお前は……ど、どうしてここに俺がいるって……!?」 すっかり腰が抜けてしまったゆうすけがあとずさりしながらモララーに問い質す。 「どうして、ってねぇ。見えてたよ、うっすらと窓から光が漏れてるのが。  ランタンを使ってないとこを見ると、PDAか何かかな?」 「う、嘘だろ!? なんであれっぽっちの光で……!?」 確かに布団に包まっていた程度だが、PDAが発する僅かな光だけで居場所が分かるわけない、ゆうすけはそう考えていた。 それを受けたモララーがふふん、とせせら笑う。 「僕の仕事は反乱分子を始末することだからねぇ。夜目も利くし、あの程度の光を見つけることくらいわけないってことさ。  どうしても知られたくなかったんなら、押し入れに隠れるか何かしてもっと徹底しとくんだったね」 さらに言えば、跳躍能力をはじめとする身体能力ではモララーは人間の比ではないほどに高い。 夜明けの住宅街でうっすらと漏れるPDAの光を目ざとく見つけ、その部屋の窓ガラスに向かってジャンプで昇って行ったのだ。 結果、レベル男を葬り、タガの外れかけた一条三位との交戦を避けたモララーからすれば、美味しい獲物の発見となった。 当然、ゆうすけの両親や親戚が2階の窓から接触を試みたことなど無く、そんな事態を想定さえしなかったゆうすけにとっては晴天の霹靂である。 「ううう動くんじゃねえ!! こ、こっちにだって銃はあるんだからな!?」 床にへたり込んだままの体勢で、ゆうすけが最早唯一の拠り所となったH&Kを構える。 それを見たモララーが思わず目を細める。 「いい物持ってるじゃん。アンタを殺してそいつをいただくとしようかな。この銃、弾が少ないんだよねぇ」 モララーが窓ガラス越しに狙撃をしなかったのは手にしたモシンナガンの装弾数が少ないからであった。 優勝狙いで行くために、無駄玉を惜しんだ結果の押し込み強盗である。 (おち、落ち着け俺……! 相手はたかがAAじゃねぇかよ……! AAの分際で人間に敵うわきゃねえだろ!?) 奥歯をカタカタ鳴らしながら、ゆうすけは銃を真っ直ぐモララーへと向けていた。 既に逃げられないであろうことは悟っていた。 僅かな光も漏らさないその目、2階の窓からの侵入を可能とするその身体能力。 (背中を見せたら……殺される! コイツはここでぶっ殺さねえと……!) そしてゆうすけは自分に言い聞かせる。 (大丈夫だ、大丈夫……! 俺にはこの銃があるんだよっ……! これさえあればコイツなんてっ……!) 覚悟を決めたゆうすけの瞳に光が宿る。 それを認めたモララーがへぇ、と声を漏らした。 「やる気だけはあるみたいだね。でも、アンタに俺が殺せるのかな……?」 「うるっせえ! いいからお前は死ねよ!!」 そう叫んで引き金にかけた指にゆうすけが力をこめようとしたその瞬間だった。 モララーが跳んだ。 そのまま壁を蹴り、天井を蹴り、床を蹴り、器用にガラスの破片を避けながらベッドを蹴り…… 寝室を文字通り縦横無尽にモララーが跳び回り始めたのだ。 「なっ……!?」 ゆうすけは思わず声を漏らす。 どうにか跳び回るモララーの動きを追おうとするが、目で追いかけるのが精一杯だった。 「てっ、てめえ! 動くなっつっただろうがよ!?」 ゆうすけがぎこちない動きでモララーに向かって銃を構える。 そのまま引き金を1回、2回と引き、バン、バンと銃声がこだました。 だが、どちらの弾もモララーを捉えることなく空しく寝室の壁にめり込むこととなる。 (あーあ、バッカだねー。あれはアサルトライフルだよね……だったら、せめてセミオートじゃなくてフルオートにしないと。  ずぶの素人が俺の動きを点で捉えるなんて無理に決まってるじゃない、面で捉えないとねー) 余裕の笑みを見せながら、モララーが襲撃のタイミングを計る。 跳び回りながら、右手にはいつものように赤い刃を展開させた。 その刃を見たゆうすけが身の危険を感じ取ったのか、より一層大きな声で叫ぶ。 「あああああああああっ!!!」 半狂乱になりながらさらに引き金を引く。 銃声が数発住宅街に鳴り響くが、モララーにかすり傷一つ付けることが出来ない。 下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、と言うが、完全にゆうすけの動きを見切ったモララー相手にはそれすらも叶わなかった。 何発撃ってもモララーを仕留めきれない現実、つまりそれは自らの死が近づきあるという事実を前に、ゆうすけの目には涙が浮かび始めた。 「現実は理解できたかな? アンタじゃ俺は殺せない」 「うるっせえよぉ!! いいから止まれよぉっ!!」 跳び回りながら少しずつゆうすけとの距離を縮めてきたモララーが挑発する。 それに反発するかのように放たれたゆうすけの何発目かの銃弾が、モララーが割らなかった方の窓ガラスを打ち砕く。 そのガシャン、という音を合図にするかのようにしてモララーは一気にゆうすけに飛びかかった。 (さっきの奴みたいに一思いに首を落としてあげよっか。  痛みも感じずに逝けた方がいいもんねぇ、俺って優しいなー) 勝利を確信したモララーが赤い刃を手にした右手を振り上げる。 部屋の壁を蹴り、ゆうすけの左側から迫る。 ゆうすけはモララーのその動きについていけない。 やられる、そう思ったゆうすけがギュッと目を閉じた。 モララーの攻撃は空を切った。 ここに来て、初めてモララーの表情が驚きに満ちたものへと変わる。 (なっ、なんだと……!?) ゆうすけは微動だにしていなかった……つまりモララーの攻撃を避けたわけではない。 振り抜いたモララーの右腕からは赤い刃が綺麗サッパリ消失していた。 モララーがトドメにと振りかぶったその瞬間から、まるで空気が抜けるかのようにモララーの手からは力が抜けていった。 そのまま赤い刃は霧散するかのように消え去り、刃の間合いで踏み込んだモララーの攻撃はあえなく空振ることとなる。 「わっ、わああああああっ!!!」 これで仕留めたつもりだったモララーの動きが一瞬止まったところだった。 この上ない声で叫びながら、ゆうすけがモララーへと銃を向ける。 H&Kが火を噴くと、バンという音と同時にモララーが吹っ飛んだ。 「へっ?」 撃ったゆうすけの方が驚いた顔に変わる。 ほんの数秒前まで、自分は絶対に殺されると思っていたところからの逆転だ。 弾を受けたモララーはそのままベッドの傍らに転がっていた。 撃たれた右肩からはツー、と血が流れ出していた。 「……は、はははっ、やっ、やったぜチクショウ!」 今の今までへたり込んでいたゆうすけが立ち上がる。 右肩を抑えて蹲るモララーを見下ろし、先ほどまでモララーが見せていたのと同じ表情を浮かべた。 愉悦に顔を歪ませるゆうすけを、モララーが憎々しげに見上げるという構図がここに成立した。 「なーにが、『アンタじゃ俺は殺せない』だ? え? AAのくせに人間様にデカい口聞いてんじゃねえよ!」 人生で初めて拳銃を使った、さらに弾を相手に命中させた、その事実がゆうすけの精神を高揚させていた。 2ちゃんねるで喩えるなら、相手を論破してみせた時に感じるような感覚に包まれていた。 ゆうすけの脳裏に"大勝利"というフレーズがグルグル回り続けた。 だが、これで勝負がついたわけではなかったことにゆうすけは気づいていなかった。 ニヤリと笑いながら、ゆうすけはモララーにH&Kを向けた。 「脅かしやがって……でも、これで俺の勝……」 完全に勝利を確信していたゆうすけが高らかに勝利宣言を発しようとしたその時だった。 モララーがベッドに散らばるガラス片の1つを素早く右手にする。 痛みが体を駆け抜け、モララーが顔を歪めるが動作を止めることは無かった。 すぐさま体を起こすと、左手でゆうすけの右手にあるH&Kを叩き落とす。 「痛っ!?」 予想外の反撃にゆうすけが床に落ちたH&Kを拾おうと手を伸ばす。 そんなゆうすけを尻目にモララーが流れるような動きでゆうすけの背後を取った。 そして、無事な左手をゆうすけの首に回してあっという間に絞め上げてしまった。 「ぐぅぇっ!? は、離っ……!」 ゆうすけがモララーを振りほどこうとモララーの左腕を掴もうとした時にはもう遅かった。 モララーの右手に握られていたガラス片が、寸分違わずにゆうすけの頸動脈を切り裂いた。 ゆうすけの首筋から血が噴き出した。 「ぎゃあっ!?」 悲鳴を上げてゆうすけがジタバタともがく。 その拍子にゆうすけの頭がモララーの顔面にめり込む。 「ぐっ!?」 はずみでモララーはゆうすけを離してしまう。 そのままモララーは尻もちをつき、ゆうすけは俯せになって寝室の床に倒れ込む。 「痛え……痛えよぉ……」 ドクドクと脈打つように自分の首から血を流しながら、ゆうすけは這いずって先程取り落したH&Kへと向かう。 だが、視界はぼやけ、次第にかすみ始めていった。 徐々に意識が遠のいていくのをゆうすけは感じ取っていた。 (チクショウ……こんなとこで死にたくねえよ……  まだやってないゲーム、見てないアニメがごまんとあるんだよ……) それでもズッ、ズッと身体を引きずりながら銃へとゆうすけは近づいていった。 ふと、そんなゆうすけの脳裏を無数の映像――いわゆる走馬灯が駆け巡った。 ――それはまだ自分がインターネットなんて知らなかった幼少の頃。 父と母と手を繋いでピクニックや遊園地に行ったこと。 夏休みに祖父母の家に遊びに行き、親戚中からゆうちゃん、ゆうちゃんと可愛がられたこと。 ――それはいつしかゆうすけが自ら投げ捨ててしまった周囲の人たちとの繋がり。 ゆうすけの瞳から大粒の涙が零れていた。 殺されるのが悔しかった。 死ぬのが怖かった。 ……そして、もう二度と親や親戚に会えなくなるのが寂しかった。 「な……んで……なんで……俺はぁっ……」 それら全てを投げ捨ててしまった自分を責めながら……伸ばしたゆうすけの右手が力なくパタリと床へ落ちた。 自分の意思で大事なものを捨て続けたその手は、最後に頼りにしたH&Kにさえ届くことは無かった。 一言で言えば場数が違った。 現実と向き合うことなく、外部の接触を拒絶し続けたゆうすけ。 自分に都合のいい情報だけを選び取り、一方的に勝利宣言をしたところでそれは真の戦いとはほど遠いものであった。 潜伏するにしてもモララーに指摘された通り、それを徹底できなかった。 覚悟を決めるにしても、即座に追撃をかけずに確定もしていない勝利の味に酔おうとした。 その日常を、生きる意味を戦うことに向け続けてきたモララーとの差を、ゆうすけは最後まで埋めきれなかった。 &color(red){【ゆうすけ 死亡】} &color(red){【残り 52人】} 事切れたゆうすけをモララーは忌々しそうに見下ろしていた。 撃ち抜かれた右肩からは依然として血が滴り落ちている。 それだけではない、咄嗟に掴んだガラス片のせいで右の手のひらからも血が流れ出していた。 寝室の床はモララーの血とゆうすけの血で真っ赤に染まっていた。 チッと舌打ちをしながらゆうすけが落としたH&Kへと歩み寄る。 「戦利品がこれだけじゃ割に合わないや」 モララーはそう呟くと、ベッドの上に置かれていたゆうすけのデイバッグへと目を遣る。 H&Kと一緒にデイバッグも拾い上げると、表面に散らばったガラスの破片を振るい落とす。 そして、その中にH&Kのものと思しき予備マガジンを認めると、ようやくやれやれと安堵の溜め息をついたのだった。 「とりあえず……動脈はやられてなさそうだね」 肩から腕にかけて走っている大動脈をやられていれば、自分の命も危なかったかもしれない。 それを把握してモララーはもう一つ溜め息をつきながら、今度は自分のデイバッグを開いた。 中から取り出したのは白地の細い布……その中央部には黒字で"根性"としたためられていた。 「こんなもん役に立たないかと思ってたけど……この際こう使わせてもらおうかな」 ブツブツ呟きながら、モララーは根性ハチマキを包帯代わりに自分の右肩にクルクルと巻き付け始めた。 こうした傷の手当ても手慣れたもので、モララーはさほど苦労することなく肩の止血を終えることが出来た。 「それにしても……」 モララーは不思議そうな顔で自分の両手を見つめた。 どんなにグッと力を籠めても、使い慣れたあの赤い刃が出てこないのだ。 先刻百貨店で二人連れの女と戦った時も、アパートの近くで男の首を刎ねた時も。 そして、もちろんここに来る前も含めて問題なく使えていた自分の力が使えないことにモララーは気づいた。 「……ま、考えてみればこうなる可能性も無くは無かったかもね」 自在に刃を生み出し、時にはそれを投擲することで攻撃が出来るモララーの能力。 それはつまり、ある意味では無限にリロード可能な遠距離武器を持ち合わせているということになる。 「確かにこれじゃあ、俺ばっかりが有利になっちゃうかもしれないけどさ……何の説明も無しに急に使えなくなるとはね」 モララーは度重なる戦闘で赤い刃を使い続けたために、エネルギー切れを起こしているのではないかと推測した。 ふとモララーは顔を上げてみると、部屋の時計がもう数十分で6時を指そうとしていた。 文字盤にゆうすけの放った銃弾が1発めり込んでいるが、それでも変わらずにチクタクと時を刻んでいる。 「6時間で3人か……悪くないペースだとは思うんだけどなぁ」 欲を言えばもう何人かは仕留められたのではないか、という思いにモララーは駆られた。 「でも、他にもやる気のある連中がテキトーに掃除してくれてたらいいんだけどねぇ。  出来ればもう20人くらい減ってるといいんだけどなぁ」 そこまで呟いたモララーが、よし、と一声発した。 「とりあえずちょっと休憩しようか。肩の傷も治したいし、休憩すればまたいつものやつが使えるようになるかもしれないし。  あとは、6時の定時カキコだね、それを見てどれくらい減っているかを見て次の動きを決めようっと」 自分に言い聞かせるように呟いたモララーが立ち上がる。 とりあえず寝転がろうかとベッドの方に視線を向ける。 ……ベッドの上はモララーがぶち撒けたガラスの破片で埋め尽くされていた。 「……別の家で休も」 モララーはなかなか思い通りにいかない苛立ちをふんだんに籠めた溜め息をついたのだった。 【C-3・民家/1日目・早朝】 【モララー@AA(FLASH「Nightmare City」)】 [状態]:右肩に銃創、赤い刃使用不能(数時間で再使用可能) [装備]:H&K G36(18/30)@現実、根性ハチマキ@現実(肩に巻いてます) [道具]:基本支給品一式×2、PDA(忍法帖【Lv=03】)、ランダム支給品0~2、モシン・ナガンM28(4/5)@現実、H&Kの予備マガジン [思考・状況] 基本:優勝狙い 1:まずは傷が治るのを待とうかな 2:殺し合いに乗る、強者はなるべく後回し ※出典元により、自在に赤い刃を作り出す能力を持っていますが、連続して使用するとしばらく使えなくなります。 ※日本鬼子、鬼女の姿のみ覚えました。一条三位に関しては正確な姿を覚えられませんでした。 <支給品紹介> 【根性ハチマキ@現実】 白地の布に豪快に「根性」としたためられたハチマキ。中央の日の丸がチャームポイント。 外国人が見たらウキウキしてお買い上げしそうなこちらの品は、映画版の原作でも支給された品。 支給先の生徒が恋人と一緒に崖から身を投げちゃったので活躍の場?は無かったけれども。 |No.65:[[人間の証明 ~ A place in the sun~]]|[[時系列順>第一回放送までの本編SS]]|No.:[[]]| |No.65:[[人間の証明 ~ A place in the sun~]]|[[投下順>51~100]]|No.:[[]]| |No.44:[[で、出たーww家から一歩も出ないでずっと隠れて奴wwwww]]|&color(red){ゆうすけ}|&color(red){死亡}| |No.38:[[Bump of Belgianeso]]|モララー|No.:[[]]|

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