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汚いなさすがひろゆききたない - (2013/02/05 (火) 21:23:38) のソース
*汚いなさすがひろゆききたない ◆shCEdpbZWw ---- 「おいィ? どうなってんだこれは!」 その声と共に銀髪の男がデイバックを叩きつけた。 叩きつけた先はなんとゴミの山……だが、男は自分に支給された物の数々をゴミ同然にしか見ていなかった。 彼の外見はすらりとした長身の体で、尖った耳と風になびく美しい銀色の髪が特徴的だった。 顔つきは黙っていれば精悍なものであったが、今やその顔には怒りのためにいくつもの皺が刻み込まれている。 ヴァナ・ディールに生きる誇り高きナイト、その名はブロントといい、人によっては敬意を込めてブロント"さん"と呼ぶこともある。 ブロントさんは深い悲しみに包まれていた。 それにはいくつかの理由が存在する。 一つは、自分が殺し合いを強制されたことである。 ヴァナ・ディールにおいては基本的に他の冒険者に直接危害を加えることは出来ない。 いわゆるPK行為を強制する、そんなミッションなどブロントさんは耳にしたことなどなかった。 周囲からの尊敬を一身に集めるブロントさんからすれば、こんな得体のしれないミッションなど受ける理由が無い。 二つ目は、自分の今いる場所がゴミ溜めだったことである。 見知らぬ空間で殺し合いを命じられ、次にブロントさんが意識を取り戻した時には周囲がゴミで埋め尽くされていたのだ。 鼻を突く不快な臭いに、思わずブロントさんは顔をしかめてしまった。 何の因果でこんな環境に身を置かなければならないのか、ブロントさんはそう思わざるを得なかった。 三つ目は、ブロントさんが何よりも愛し、そして信頼を置いている装備一式が失われていたことである。 LSのメンバーのみならず、ヴァナ・ディールに生きる者全てから羨望の眼差しで見られる愛剣・グラットンソードだけではない。 眩い黄金の縁取りのケーニヒシールド、そしてガラントアーマーをはじめとしたナイトのアーティファクト一式まで取り上げられている。 強力な装備は力ある者の下に集う、それがブロントさんの持論だ。 「グラットンをはじめとした装備を所持している=装備が良い=上手い=うらやましがられて尊敬される=モテモテ」 これを信じてやまないブロントさんからすれば、その装備が失われたことはアイデンティティ消失の危機ともいえるのだ。 グラットンが無いことはつまりスキルが低く、ブロントさんに言わせればそれは面白味の無い奴と同義である。 四つ目は、それならばと中身を検めてみたデイバッグの中身の一つ目である。 プラスチック製の円錐型の筒、その細い側からは持ち手が伸びており、スイッチと音量を調節するつまみが付いている。 そう、いわゆる拡声器がブロントさんに与えられた一つ目の武器であった。 とてもではないが、武器としての役割など期待できないものではある……が、ブロントさんはそれでもメゲない。 ヴァナ・ディール屈指の人望を誇る自分なら一声かければ、ブロントさんを慕う者たちがたちどころに集まるはず…… それを思えばまだこれは悪くないものだ、ブロントさんは自分にそう言い聞かせ、デイバッグ漁りを再開したのだった。 五つ目は、拡声器の次にデイバッグから出てきた中身の二つ目であった。 一見して、鉄で出来ているように見える兜に小手、鎧に盾とブーツ、そして剣……並の参加者なら重さこそネックだが当たり武器と思ってもいい代物だ。 だが、これを手に取ったブロントさんにはそれらがすぐにグラットンソードをはじめとした愛用の装備品とは似ても似つかないなまくらということが分かった。 精々がレベルの低い雑魚どもが、グラットンを手に入れられないばかりに身に着けざるを得ない、そんな装備だとブロントさんは断じた。 おまけに、兜の中からピラリと落ちてきた一枚の説明書には、それが「そんな装備」としか記されていない。 まともな名前すら与えてもらえない装備品を身に着けることなど、ブロントさんの誇りにかけて許されないことであった。 まるで自分を否定するかのような仕打ちの数々の前に、想像を絶する悲しみがブロントさんを襲っていた。 だが、諦めてしまってはナイトとしての名折れである、そう思い直して取り出したデイバッグの最後の中身。 それを目にした瞬間にブロントさんの怒りが"有頂天になった"。 十字型で金属製の小型武器がブロントさんの手に収まっていた。 それは、ブロントさんが最も忌み嫌う職業を象徴する武器。 "手裏剣"がゾロゾロと束になって出てきたのだ、その数は実に20個にもなる。 手裏剣、それは忍者を象徴する武器の一つと言ってもいい。 そして、ナイトであるブロントさんと忍者はヴァナ・ディールにおいては商売敵とも言える関係にあった。 ナイトも忍者も最前線に立って敵の攻撃を引き付ける、あるいは引き受けるという「盾役」を担うことが多い。 ナイトの場合はその身体能力や恵まれた装備品を生かし、時に味方を庇って身代わりになることも厭わない、そんな盾役だ。 それでいて、強力な武器を振るうことで敵の体力を削ることだって出来る、決して守るだけに留まらないのだ。 ブロントさんはそんな盾役のナイトにこの上なく誇りを持っており……同時に忍者の盾役をこの上なく見下していたのだ。 忍者が最前線で盾役、というと違和感を覚える人もいるかもしれない……が、ヴァナ・ディールでは一つの常識である。 最前線で空蝉の術という、分身を生み出す術を使うことで敵を幻惑し、攻撃を引き付けながら華麗にかわす……それが盾役の忍者だ。 回復手段も自前のものがあるとはいえ、ある程度ダメージを受けてしまうナイトとは対照的に、忍者の場合はその気になればノーダメージだって可能である。 もっとも、攻撃面では威力より手数で勝負するタイプなので、ナイトなら削れる敵でも忍者なら削れないことがあったりする。 さらに、分身をまとめてなぎ倒してくるような相手の場合は忍術が追いつかないなどということもあったりするので決して万能ではない。 だが、忍者というジョブがナイトに比べ、後発のジョブであったことから、ブロントさんは忍者にいい印象を抱いてはいない。 自らの牙城を崩さんとする忍者に対してはしばしば辛辣な言葉を浴びせることさえあった。 自称、謙虚なナイトであるブロントさんだが、術というまやかしに頼って盾役を自称するような卑怯な忍者に対しては謙虚である必要はない、そう考えていた。 その、忍者が使うような武器が自らに大量に支給されていたのだ。 ただでさえ、ある種自分の拠り所であるグラットンをはじめとした装備が奪われて悲しみに包まれたところへのこの仕打ち。 殺し合いを命じられたことと併せ、ブロントさんの怒りが"有頂天になる"のも無理ないことであった。 ここで、場面は冒頭のシーンへとさかのぼる。 怒りに身を任せたブロントさんはデイバッグごと手裏剣をゴミの山に叩きつけたのだった。 ブロントさんは、先ほどの舞台で自らに殺し合いを命じ、そして自分をゴミ溜めに放り込み、 ナイトの誇りである装備を奪ったばかりか忍者の装備を押しつけたひろゆきなる男の顔を思い浮かべる。 「汚いなさすがひろゆききたない、俺はこれでひろゆききらいになったなあもりにもひきょう過ぎるでしょう?」 誰にともなく言い放って歯噛みする。 そして、手裏剣など持つ気になれなかったブロントさんはそれを再びデイバッグに放り込んだ。 本当なら捨ててしまっても構わなかったのだが、万に一つ何かの役に立つこともあるだろうとグッとそれだけはこらえたのだった。 「とりあえず殺し合いは俺が止めるそしてひろゆきは倒す」 そう言ってブロントさんは立ち上がった。 どこかで誰かが命の危険に晒されているのだ、それを守ってこそナイトだ、という使命感が半分。 そして、装備を奪われ、忍者の道具を与えられるという屈辱を晴らすという私怨が半分といった具合ではあるが、決意は固い。 渋々ながら支給された「そんな装備」を身に着ける。ブロントさんにとっては"苦汗の選択"である。 やはり普段身に着けているものと違って違和感はあるが、何もないよりはマシであるとブロントさんは思うしかなかった。 少しばかり体を動かして感触を確かめると、勢いよくゴミ処理場を飛び出したのだった。 * * * 勢いよくゴミ処理場を飛び出して数時間。 ブロントさんは船着場のベンチで佇んでいた。 本来ならば、一分一秒でも早く誰か他の参加者の下へと駆けつけてしまいたいところだった。 「もうついたのか!」「はやい!」「きた!盾来た!」「メイン盾来た!」「これで勝つる!」 そんな称賛の声を浴びたいが為に、ブロントさんはとんずらも駆使して辺りを駆け回ったのだ。 とんずらさえあれば普通は到着しない時間でも"きょうきょ"駆けつけられる……そんなブロントさんの常識は、しかしあっさりと裏切られる。 まず、とんずらの効果が出ている時間が普段の半分程度しかなかったということ。 そして、そのとんずらを再度使えるようになるまでの時間は普段の倍近く要したということ。 さらに、とんずらを使っただけで感じる身体の虚脱感があったということ。 どれもこれも、ヴァナ・ディールでは決して起こり得なかったこと。 これをブロントさんは運営側がかけた制限であると断じた。 「なるほどバレバレにナイトは高確率で最強をジョブだがその圧倒的な戦力を抑えるだなんてをは不公平だろ」 とんずらそのものはサポートに設定したシーフのジョブアビリティだが、ブロントさんにとってはそんなことは些末な問題だ。 独特の言い回しで毒づきながらも、ブロントさんは懸命にこのゴミ処理場のある一角からの脱出を図った。 だが、北側にある一番大きな陸地のエリアの方へ向かって行くと、行く手を川に遮られることになってしまった。 真夜中ということもあり、水面は辺りの闇と同じように染まっており、その底を窺うことが出来ない。 ブロントさんは決して泳げないというわけではないが、こんな真夜中に川を泳ぐのは危険であると判断した。 ならば、対岸へと渡れる橋は無いかと川沿いを行くのだが、結局そのようなものを見つけることが出来なかった。 仕方なく、ブロントさんは踵を返して今度は南にある船着場へと足を向けた。 途中でゴミ処理場の脇を通り過ぎ、ようやくたどり着いた南側には人がすれ違うのがやっとというほどの小さい橋がかかっていた。 「こんな小さな橋しかないをかよ」 ブロントさんはブツブツ呟きながらその橋を渡り、そのエリアの南側にある船着場にようやく到着したのだった。 支給品の確認に加えて回り道をしたこともあって、ブロントさんが目を覚ましてからすでに2時間が経とうとしていた。 一刻も早く戦場に馳せ参じたいブロントさんからすれば、まるで笑えないロスタイムである。 悪いことは続くものだ。 ブロントさんが船着場を視界に捉えたその時、まさに一隻の船が出港しようとゆっくり動き出していたのだ。 「おい、やめろ馬鹿」 思わず叫んでしまったブロントさんが、とんずらを発動させようとする……が、前回の使用時間から十分な時間が経過しておらずに空振りに終わる。 なんとか船着場に駆け込んだ時には"時既に時間切れ"、漆黒の闇に彩られた海に微かに航跡が残るのみであった。 苛立ちを抑えながら、ブロントさんが船着場を探索する。 そして、そこに立つ看板に船の航路が示されている。 「ここの出ればB-5に行けるんだな」 どうやらここの船はB-5→F-6→C-6をグルグルと回っているらしいことが分かった。 今ブロントさんがいるC-6の船着場からB-5の船着場までは15分、B-5→F-6は45分、F-6→C-6は30分とある。 B-5の船着場からはC-5との間を往復する別の船も出ているらしいが、ひとまずその船のことは置いておくことにした。 そして、そこからブロントさんは船の待ち時間を計算する。 「90分でいい……良いわけないだろちょとsYレならんしょこれは・・?」 謙虚なナイトはノリツッコミだって完璧だ。 誰も聞かせる相手がいないのが空しいところではあるが。 「こんなに待ち時間があるなんて止めてもらえませんかねえ・・? 事前に分かっていれば反抗も出来ますがわからない場合手の打ち様が遅れるんですわ?お?」 憤ったところで今はただ待つしかなかった。 この一帯はひとしきり探索したのだが、ブロントさん以外の参加者にはついぞ巡り合うことが無かったのだ。 つまり、こうしている間にもどこかで「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいる者がいるかもしれない。 それを思うとブロントさんに焦りと苛立ちが一層募るのであった。 ――船がやって来るまであと1時間以上。 まだまだもどかしい思いをし続けることになりそうなブロントさんであった。 【C-6 船着場/1日目・黎明】 【ブロントさん@ネトゲ実況】 [状態] 健康、苛立ち [装備] そんな装備@エルシャダイ [道具] 基本支給品一式、PDA(忍法帖【Lv=00】)、拡声器@現実、手裏剣@AA(20/20) [思考・状況] 基本:殺し合いを止め、ひろゆきを倒す 1:早く船に乗り込んで誰かの下へときょうきょ駆けつける 2:拡声器で仲間を集めるのも一つの手かもしれない 3:汚いなひろゆきさすがきたない ※おなじみの装備は一切合財剥がされています。 ※とんずらの性能が抑えられています。効果時間は通常の半分の15秒、再使用可能時間は通常の倍の10分、使用すると普段以上に疲れます。 ※B-6のエリアには地図に載らないほどの小さな橋が架かっており、ゴミ処理場とC-6船着場の一角を結んでいます。 ※B-6のエリアから廃ホテル方面、B-5の船着場方面には直接渡るルートがありません。 ※ブロントさんが乗り損ねた船にはカーチャンが乗っていました。どうやらC-6では降りなかったようです。 <支給品紹介> 【拡声器@現実】 声を増幅して発するための機械。 パロロワにおいては拡声器=死亡フラグという定番があるが果たして。 【そんな装備@エルシャダイ】 エルシャダイのトレーラームービーで主人公・イーノックが最初に身に着けていた装備。 見た目は鉄製の兜に鎧、盾、小手、ブーツに剣という構成だが、地上界に降り立ってすぐに敵にあっさり破壊されてしまう。 普通の服よりは強度はありそうだが、全幅の信頼を置けるような代物ではなさそう。 なお、小説版ではこのあたりの描写は一行でサラッと済まされてしまっている。 【手裏剣@AA】 #aa(){{{ X ←コレ。 ∠ ̄\∩ |/゚U゚|丿 ~(`二⊃ ( ヽ/ ノ>ノ UU }}} 「+激しく忍者+」というAAが手にしているもの。 手裏剣と言えば忍者がよく用いる武器、FF11にも登場する武器である。 が、ナイトには投てきスキルが無い。ロワでは投げることさえ出来ない、というわけではないだろうが、命中率はお察しください。 一応20個まとめて支給されている。 |No.38:[[Bump of Belgianeso]]|[[時系列順>第一回放送までの本編SS]]|No.40:[[If you were here]]| |No.38:[[Bump of Belgianeso]]|[[投下順>00~50]]|No.40:[[If you were here]]| ||ブロントさん|No.:[[]]|