▼ SIDE 憂

 ルン!ルン!ルン! ぬウフフフ、たまげたかァああ!
 ついにこの時がやってきた。
 なんら違和感なく、一糸纏わぬ姿のお姉ちゃんをこの目に焼き付けられる瞬間だ!
 え? 普段から一緒にお風呂入ればいいって?
 やれやれだぜ。これだから無脊椎動物は。
 梓ちゃんが一緒なのだ、これを忘れてもらっては困る。

 元々、お姉ちゃんと梓ちゃんの二人だけで入る予定だったらしいけれど、
 脱衣所覗き込んで上目遣い余裕でした。

憂「……」

 ……こんなキャラじゃないだろ。しっかりしろ私!
 テンションが高まるあまり、自分を見失っていたようだ。

梓「えーと……、本当に三人で入るんですか?」

憂「そうだよ梓ちゃん、ほら脱いで」

唯「おっ風呂♪ おっ風呂♪ あずにゃんとおっ風呂♪ うーいとおっ風呂♪」

 なんという破壊力。

 歌いながら服を脱いでいくお姉ちゃん。

 ここがヘヴンか。

梓「なんなんですかその歌は」

憂「おっ風呂♪ おっ風呂♪ さあ脱げ今脱げ」

梓「う、ういまで……、って、ちょっと!じ、自分で脱ぐから!」

 いけない。おててが暴走した。
 これでは梓ちゃんに嫌われてしまう。


 あ。そうだ。


 ここから先は乙女の花園となります。
 描写なんぞしようものなら、左右十本の指を一つ残らず
 間接とは逆の方向に曲げた上、漬物石ですり潰しますのでご了承ください。

 ▼ SIDE 梓

 さすがに湯船に三人は少し窮屈だったけれど、密着すれば入れるもので。
 唯先輩も憂も細いし、背も高くないからなぁ。……自身の名誉の為に、一応私も。

 憂のテンションが異様に高かったおかげで、私は意外と冷静で、
 特に変な気を起こすこともなく、お風呂から上がることができた。

憂「はい、お姉ちゃん。イチゴ牛乳」

唯「おおぅ、さすが憂。気が利くねー」

憂「梓ちゃんもどうぞ」

梓「あ、ありがと」

 腰に手を当て、三人で牛乳を飲み干す。

唯「ぷはー!」

憂「ぷはー!」

梓「……」

 おっさんくせえ。

唯「……」

憂「……」

 いや、そんな何かを期待するような眼差し向けられても。
 私はやりませんから!!
 決して私の心は折れませんからっ!!

唯「……」

憂「……」

梓「ぷ、ぷはー」



 折れた。

唯「よくできましたー」

 お風呂あがって一発目のスキンシップ。
 なでなで。にゃあにゃあ。

唯「ういー、あずにゃん、ゲームでもやろっかー」

憂「私はいいよ?」

梓「いいですよ。なにやるんですか?」

唯「Wii」

梓「ああ、憂だけに」

憂「えっ?」

唯「えっ?」

梓「……ごめんなさい」

唯「……」

憂「……」

梓「ごめんなさいってばあああっ!」

唯「(あずにゃんかわいよあずにゃん)」

憂「(お姉ちゃんかわいいよお姉ちゃん)」

 テレビ画面の中で、緑色の服を纏ったエルフの青年が
 『しゃあああああ!』と回転しながらまっさかさまに落下していく。

唯「そっちじゃないよ!どこ行くんだよ!!」

梓「操作してるの唯先輩ですよ。完全に自爆じゃないですか」

憂「あ、子犬でてきた……」

唯「かわゆすのう かわゆすのう」

 うっとりする二人。

梓「いや、二人ともサイズ!サイズよくみて!明らかにでかすぎるからこの子犬!!」

 なんか、じゃれる振りして画面揺らしまくってるし。

唯「ああっ!また死んだ!!」

梓「近づきすぎなんですよ」

憂「梓ちゃんもね」

梓「うぐ」

 ホームランバット携えたキャプテン・憂におもっきりしばかれた。

唯「むぅ、やっぱり憂は強いなー」

梓「……」

 明らかに言わせようとしてますよね?
 だけどもう『Wiiだけに』とか言いませんからね。

唯「言わないの?」

 ぶっちゃけやがった。

梓「言いませんてば」

唯「ちぇー」

梓「次は負けないよ、憂」

憂「ふふっ、かかってらっしゃい……といいたいところだけど、もう二時半だよ?」

唯「あ、本当だっ!」

 楽しい時間はあっという間というけれど。
 私もまだ一時くらいかと思っていた。

梓「そういえば、明後日って勉強会やるんですよね?」

 既に日付が変わっているので、正確には明日という。

憂「勉強会?」

唯「そうだよー。軽音部の皆でね」

憂「でも、期末までまだ一ヶ月はあるのに……」

梓「ムギ先輩がね。やりたいって言い出したの」

憂「ふーん、そうなんだ」

唯「憂も来る?」

憂「え、私軽音部じゃないけど……」

唯「いいんだよ。皆でやったほうが楽しいし、和ちゃんも誘ってあるんだー」

憂「そっか、それじゃあ私も行こうかな」

 時刻は深夜三時過ぎ。
 ベッドに三人は入りきれないので、布団敷いて三人で並んで寝ることになった。
 唯先輩も憂も自分のベッドがあるんだから、私だけ布団でも良かったのだけど。
 ……どうして一緒に寝たがるかなこの人達は。
 憂に至っては、横になった直後に唯先輩の布団に潜りこんでるし。
 そしたら、敷かなくていいじゃん!!とか思ったり思わなかったり。

唯「ほら、あずにゃんもおいで」

梓「え、いや、私は……その」

唯「皆で寝た方が暖かいよぅ」

憂「お姉ちゃんのお布団、気持ち良いよ、梓ちゃん?」

 唯先輩に甘えたい気持ちは勿論ある。
 憂の言ってることも良く分かる。
 今日は本当に楽しかったし、この二人に救われたと思ってる。
 けれど、私はもう自分の気持ちに気付いてしまったから。

 ちっぽけなプライドが、邪魔をする。

梓「私は、いいです……」

 そう言うと、私は反対向きに寝返りを打って、唯先輩と憂を無理やり視界から外した。

憂「……」

 憂は何も言わなかった。
 或いは、姉のことに敏感な彼女だからこそ、
 私の気持ちに気付いているのかもしれない。

唯「あずにゃん……」

梓「……」


 沈黙が、場を支配する。

 私は一体なにをやっているのか。
 唯先輩なら、ここで私の布団に潜りこんできて、抱きしめてくれるだろう。
 自ら拒絶しておきながら、そんな期待を抱いている自分が確かに居る。

 傲慢だ。

 唯先輩は女で、私も女だ。
 確かに、超えてはいけない禁忌の壁がそこにある。
 だから私の気持ちは唯先輩に伝わらない。伝えてはいけないのかもしれない。
 けれど、今必要なのはそんなことじゃないだろう?

 ――だって、唯先輩が私を呼ぶ声は、あんなにも寂しそうだったじゃないか。

 大好きな人を傷つけてまで、守りたいプライドなんて――。


梓「……き……です」

唯「……え?」

 覚悟を決めて唯先輩の布団に潜り込む。
 たった一言で良いんだ。
 それだけで、きっとこの人は笑ってくれる。

 だから――。

梓「好きです、唯先輩」

 私はこの日初めて、自分から唯先輩を抱きしめた。

唯「……私もだよ、あずにゃん」

 きっと、私の好きと、唯先輩の好きは、違うものだろう。
 だけど、それでいい。

 今はただ。
 この人の笑顔をずっと隣で見ていたい。
 一緒に居られれば、それで――。


終わり



最終更新:2010年01月04日 02:49