憂「お姉ちゃん!また来たよ!」
唯「……どうして、そうやって普通に来れるの?」
憂「えへへ。分かんない」
憂「いつの間にかね、お姉ちゃんのところに来ちゃうの。変かな?」
唯「……変だよ」
憂「変じゃないよ?」…キョトン
唯「なんで……」
憂「なにが?」
唯「憂が訊いたんだよ? 変だよねって。気づいてるんでしょ、自分でもおかしいって。なのに……どーして、そんな顔できるの?」
憂「……」
憂「ごめん、おねえちゃん。なんのこと?」
唯「憂……私、もう眠いや」
憂「へ? もうそんな時間?」
唯「うん。寝る時間はもうとっくに過ぎちゃったよ」
憂「そうだ、お姉ちゃん。前みたいに一緒に寝ようよ!」
唯「やだよ」
憂「ど、どうして?」
唯「……こっちのベッドは凄く小さいからね。二人も入っちゃいけないの」
憂「私は狭くても良いよ。気にしないよ。なんにも、気にしない」
唯「私は、やだ。そんなのやだよ……」
憂「どうして? 前はいっつもお姉ちゃんの方から一緒に寝ようって誘ってくれたのに……」
唯「……ごめんね。今日は、もう帰って」
憂「そっか……お姉ちゃんがそう言うなら仕方ないよね……」
唯「……もう、こないで」
憂「……うん」
唯「じゃあね、憂。ばいばい」
憂「ばいばい、お姉ちゃん」
憂(ごめんね。……また、来るよ)
どうしてだろ。
私ね、何か忘れてる気がするの。でも思い出せないや。
お姉ちゃん。私、本当に分からないんだよ? 信じてよ、お姉ちゃん。
ねぇ、梓ちゃん。
どうしてあの時泣きじゃくってたの?
どうしてそれを笑顔で宥める私を――恐ろしいモノでも見るように凝視したの?
お姉ちゃん――どうして、そんな恐い顔で私を見るの?
そんなのいつものお姉ちゃんじゃないよ。
お姉ちゃん、少し怖いよ。
おねえちゃん。ごめんね。
なにも、思い出したくないんだ。
…
憂「お姉ちゃん、また来たよ。……ごめん。来ちゃった」
唯「……言わなくても分かると思うけどね、」
憂「……」
唯「私、凄く怒ってる」
憂「分かるよ。お姉ちゃんがそんな恐い顔してるの……見るの初めてかも」
唯「だって、そのくらい怒ってるんだもん」
唯「憂、もうこんな時間だよ。そろそろ、寝かせて
…
憂「お姉ちゃん!また来たよ!」
唯「……」
憂「お姉ちゃん。私ね、帰って色々考えたんだ」
憂「ねぇ、私もここに住んで良いかな?」
唯「……え?」
憂「私もここに居れば、一々会いに来なくっても毎日お姉ちゃんに会えるんだもん」
憂「いつまでも、いつまでも、お姉ちゃんと一緒になれるんだもん!」
唯「う……い……?」
憂「良いでしょ?」
唯「良くないよ!! 絶対、絶対だめーっ!!」
憂「わがまま言わないでよ、お姉ちゃん」
唯「わがままなのは憂の方だよっ!」
唯「憂にはやらなくっちゃいけない事がたくさんあるでしょ?」
憂「ないよ」サラリ
唯「やりたい事だって、たくさんあるでしょ?」
憂「そんなの、ないよ」
唯「うい……嘘つかないで。そんな嘘、私、いらないよ」
憂「嘘じゃないよ? 本当だよ?」
憂「だから、お姉ちゃん。そんな事言わないで?」
唯「……」
憂「私、気づいたよ。気づいちゃったんだ」
憂「今のお姉ちゃんなら、私をここに連れて来られる」
憂「だから私は毎日ここに来るんだよ。ねぇ、そうでしょう。そうなんでしょう」
唯「ち……違うよっ!」
唯「憂が勝手に来ちゃうだけなんだもん」
憂「くすくす」
唯「……うい?」
憂「お姉ちゃんだって、嘘つきじゃない」
憂「私に会いたかったんでしょ」
唯「……」
憂「恥ずかしがらなくても良いよ、お姉ちゃん」
唯「……ちがうよ」
憂「私もね、毎晩こうしてお姉ちゃんに会うの、楽しみにしてるんだ」
唯「……ちがう、のに」
憂「ねぇ、お姉ちゃん」
唯「うぃ……」グスッ
憂「だいすきだよ」
唯「私も、憂のこと、だいすき……なのに……」ポロポロ
憂「それなら、お姉ちゃん」
憂「今のお姉ちゃんがやらなきゃいけない事……分かるよね?」
唯「……」
憂「私の事は気にしないで」
憂「お姉ちゃんがしたい事はね、私のやって欲しい事なんだから」
唯「……」
憂「ねっ。お姉ちゃん」ニコッ
唯「……」
唯「……憂は」
唯「私の事、なんにも分かってないんだね……憂のこと、信じてたのに……」
憂「どういうこと? お姉ちゃん……何言ってるの?」
唯「そのままの意味だよ。憂は、なんにも分かってないんだっ」
憂「わかるよぉ。だって、お姉ちゃんの事だもん」
憂「お姉ちゃんの好きな事嫌いな事、好きなものも嫌いなものも、やって欲しいことも嫌なことも」
憂「私には全部分かるんだよ」
憂「だって、生まれた時からずーっと一緒なんだもんっ」
唯「……」
憂「これからも、ずーっと一緒」ニコニコ
唯「……う、い」
憂「だから、私のことを離さないで。ねぇ、お姉ちゃん?」
唯「……帰って」
憂「お姉ちゃん……っ」
唯「帰ってよ!!」
憂「……」
唯「帰ってよ。お願い。こんなのやだ。憂、こんなの、いらないのに……っ」
憂「お姉ちゃん……」
唯「うぃ……やだよぉ……」…グスッ
憂「……わかったよ」
唯「ばいば……ぅうっ、ぐすっ、えぐ、ぇう……ううっ……」ポロポロ ポロポロ
憂「泣かないで、お姉ちゃん」
憂「また、来るから」ニィー…
……
憂「お姉ちゃん!会いに来たよ!」
唯「……うぁ、ぐすっ……ういぃ……」
憂「あれ? お姉ちゃん、今日も泣いてるの?」
唯「うぃ……ごめんね、ごめんね……」ボロボロ…
憂「よしよし。もう大丈夫だよ」ナデナデ
唯「……やだ、よ」
憂「だいじょうぶ、だいじょうぶ」ナデナデ ナデナデ
唯「憂……やめて……」
憂「よしよし よしよし」ナデナデナデナデ
唯「……ゃ、めて」ガクガク
憂「おねえちゃん? 震えてるの?」
唯「ぁ、ぁぁ……ぅ、ぁ……」ガタガタ ブルブル
憂「よしよし。ひとりぼっちは怖いもんね」
憂「とっても……怖いもんね」
唯「い、ゃ……やだ……」ガクガクガクガク
憂「遠慮しないで? 私、お姉ちゃんのためならなんだって出来るんだから」
唯「やだよ……うい、こんなのやだ……憂と離れ離れなんてやだー……っ!」ギュー
憂「……」
憂「えへへ。お姉ちゃんったら、すっごく可愛いよ」
唯「うい、うい、うい……やだやだ、離れちゃやだぁ……っ!」
憂「……えへ、へ」
憂「何があっても、ずーっと一緒だよ。お姉ちゃん」…ギュ
―びょうしつ!―
律「……」
律「……唯」
…がちゃっ
澪「律、いたのか」
律「あぁ……」
澪「唯は?」
律「……相変わらずだよ」
澪「……。……そっか」
律「……」
澪「……」
がちゃり
紬「りっちゃん、澪ちゃん……唯ちゃん。こんにちは」
律「ムギ、授業は?」
紬「良いの。大丈夫」
紬「見て、唯ちゃん。綺麗なお花、持って来たわよ」
澪「……ムギ」
紬「前のお花も元気がなくなっちゃったし、代えてあげるね」
律「……いつもありがとな、ムギ」
紬「いいの。唯ちゃんが喜んでくれるなら、なんでもするわ」
澪「……」
律「だってさ、唯。お前ってさ、愛され上手だよなー」ニシシッ
唯「……」
律「………だから、早く目を覚ましてくれよ」
律「お前がいなくっちゃ、演奏だってできないんだ」
律「私たちは……なにも、できないんだよ……」
唯「……」
律「だから……はやく……戻って来いよぉ……」グス…ッ
澪「……」
紬「……」
律「唯……」グスグス
澪「律、泣くなよ」
律「……ないてない」プイッ
紬「きっと唯ちゃんは大丈夫よ。だから……ね?」
律「……ごめん。カッコ悪いとこ見せて」…グシグシ
紬「お医者さんも言ってたじゃない。あとは目を覚ますのを待つだけって」
澪「そうだぞ。手術は成功したんだから」
律「だけど……だけどさ……」
律「それなら、なんで唯は目を覚ましてくれないんだ?
あの事故からもう何ヶ月経ってると思うんだよ。もう目を覚ましても良い頃だろ!?」
澪「……」
紬「……」
澪「……なぁ、あとで憂ちゃんの様子も見に行かないか?」
紬「そう、ね。
梓ちゃんが今日もお見舞いに来るって言ってたから、会えるかも知れないわ」
澪「二人とも、無事に目が覚めるといいな……」
律「……そう、だな」
澪「……」
澪「……」
―放課後の或るびょうしつ!―
梓「……ねぇ、憂」
憂「……」
梓「私、あの時の憂になんて言えば良かったのかな?」
憂「……」
梓「何を言っていれば、こんな風にならなかったのかな」
憂「……」
梓「……どうして、憂まで死のうとしたの?」
憂「……」
梓「そんなことしなくても……唯先輩は、目を覚ましてくれる筈だよ」
憂「……」
梓「どうして唯先輩を信じてあげようとしなかったの?」
憂「……」
梓「……憂、答えてよ。憂」
憂「……」
――私は、何かを忘れかけてる気がする。
こうやって憂と毎日会う前に何をしていたのか、それすら分からなくなっていく。
だけど、それが怖いと思う瞬間も段々少なくなって来た。
どうして私は憂が来るのをあんなに拒んでたんだろう?
ここに居さえすれば、憂とずっと一緒でいられるのに。
おかしいな。
だけど、本当におかしいかな?
分かんないよ。
どうして今、私がギターを持っているのかも。
どうして自分が泣きそうになっているのかすら。
あっ、今日も憂が来てくれる時間だ。
まだかな。まだかな。待ち遠しいな。
……だって、ひとりぼっちは淋しいんだもん。
…
憂「お姉ちゃん!会いに来たよ!」
唯「ういー」ギュー!
憂「えへへー、おねーちゃんっ」ギュギュッ!
唯「なんだかね、憂が居てくればどうでも良いような気がしてきたよ」
憂「もう、お姉ちゃんったら///」
唯「だけどね、憂」
憂「なぁに、お姉ちゃん?」
唯「私ね、なんだか大切な事を忘れちゃった気がするんだ」
憂「そっか。私もね、おんなじだよ。何か、忘れてる気がするの」
唯「なんだろうね?」ニコニコ
憂「ねぇ」ニコニコ
最終更新:2011年02月24日 23:56