桜ヶ丘 琴吹邸
第二日
PM12:26:32
終了条件1 最後の封印を解く
終了条件2 怪力屍人を倒す
───────────
律「ついた…ムギの家。多分ここであってると思う」
唯「そう言えばムギちゃんの家って来たことなかったよね」
律「だな。住所は知ってたけどやっぱり突然は押し掛けにくいっていうか…。一回家に電話はしたことあるんだけどな」
唯「へぇ~そうなんだ」
律「そしたら執事みたいな人が出てさ。ビックリしたよほんと」
唯「なんとなくそんな気はしてたけど…やっぱりお嬢様だったんだね、ムギちゃん」
律「別荘何個も持ってる時点でそうだとは思ってたけどな」
唯「でも……それを鼻にかけてたことなんて一度もなかったよね」
律「ああ。好奇心だけは人一倍あったけどな」
唯「そこがムギちゃんの可愛いところだよぉ」
律「だな」
唯「……封印はこの中だよ、りっちゃん。近くって言ってたけどこんなにもムギちゃん広いって思わなかったから」
律「まさか敷地内とは思わなかったか」
唯「そういうこと」
律「唯、先に言っとくよ。何があっても封印を解け、何があっても……だ」
唯「りっちゃん…それって…」
律「わたしはみんながいる世界がいい。一人も欠けてない…元の世界がいい」
律「だからその世界に、お前が導いてくれ。唯」
唯「…うん」
律「行こう。終わらせるんだ、この世界を」
唯「うん!」
車にあった役に立ちそうなものを一式持ってゆき、広大な敷地に足を踏み入れた。
律「……」
律が片目を閉じる。
律「多いな…執事とか使用人が屍人化したのか?」
律「唯、封印されてる場所は?」
唯「真ん中の中庭辺りかな?」
律「ならど真ん中を突っ切った方が早そうだ」
拳銃の弾の残りは後5発、それが切れたら後はバットで押すしかない。
唯は何故か車の中に入っていた火かき棒を新たな武器として持っている。
「ッラハギッ」「ラハギッ」「ギッ」
律「番犬の登場ってわけか!」
無駄撃ちは出来ない…。銃をスカートとおへその間にし舞い込むと両手で金属バットを握る。
律「唯!」
唯「うんっ!」
左右から攻めてくる犬屍人に対抗するため唯と背中合わせになりながら迎え撃つ。
「ギイイイッ」
律「なろっ!」
飛びかかって来た一匹目を平行にスイングして弾き飛ばす。
「ッギ!!!」
続けざまに襲って来る犬屍人。
こっちに二匹来てくれたのは都合がいいが後ろに唯がいるから避けるわけにもいかないっ!
律「くっ」
バットの端と端を持って壁を作り、
律「てやっ!」
なんとか押し返す。
唯「このっ! このっ!」
片目を閉じ、唯の視界をジャック。
火かき棒を振り回して何とか近づけさせてないようだ。
ちょっと可愛いな、なんて思ってたのは内緒。
「ッラハギッ!!」
律「来たか…!」
押し返した犬屍人が勢いをつけ、もう一度飛び込んで来る。
もう片方の目でも同じような光景が繰り広げられていた。
こうなったら…!
1 このまま迎撃だ!
2 唯を信じてしゃがみ、犬屍人同士の相討ちを狙う
※2
ここは唯を信じて……!
律「そりゃっ!」
一気にしゃがむ……もし唯がここでしゃがまなかったら…。
唯「わわっ」
おおっ! さすが唯! わたしの意思を読み取ってくれたか!
「ギャンッ」「キャウンッ」
私達の上空で凄い勢いでぶつかり合う犬屍人達。
それぞれ明後日の方に弾き飛ばされたのを見て、一気に仕留めにかかる。
律「唯! そっち任せた!」
唯「う、うん! わかったよりっちゃん!」
弱っている犬屍人にわたしの必殺技が襲いかかる!
喰らえっ!
律「はかいこうせん!!!」
「フクラハギッ」
律「決まった……」
打撃なのにこうせん? って質問は受け付けな、い、
唯「なんかちょっと触っただけで倒しちゃったよ~。あれ? りっちゃんなにやってるの?」
律「……反動で動けない」
唯「ふえ?」
律「恐ろしい技だ……」
犬屍人を撃破した私達はいよいよムギの家の中に潜入を開始する。
律「おじゃまします!」
唯「おじゃましませんよ~」
律「それ小さい時に澪ん家でやったやった」
唯「わたしも和ちゃん家でおじゃましま~すって言うと邪魔になるなら帰ってって言うからおじゃましませんよ~って言ってよぉ」
律「和は厳しいな~。あっ! そう言えば和から電話があったんだよ!」
唯「えっ?! いつ?!」
律「朝方だったかな。何でかわからないけど交番の電話から」
唯「う~ん……携帯も圏外でかからないはずなのにね」
律「謎だな…」
途端、体が震える。
律「唯! 伏せろ!!!」
唯「えっ?」
反応しきれていない唯の頭を掴んで無理矢理下げさせる。
チュインッ──
間一髪と言った具合にギリギリかわし、わたしと唯は左右に別れ、壁に隠れた。
律「唯、わたしが囮になるからお前は中庭の封印を解きに行け!」
唯「そんなの無茶だよ! 相手は銃を持ってるんだよ!? りっちゃんが死んじゃうよ…!」
律「唯…車で言ったろう!? 何があっても封印を解けって!」
唯「でも…やっぱりやだよ!! りっちゃんを置いてなんていけないっ!!」
駄々を捏ねるように首を振り拒否する唯。
1 それでも行くんだ、唯
2 全く…お前が死んでも知らないからな!
※2
律「全く……お前が死んでも知らないからな!」ニヤッ
唯「りっちゃん…」
律「わたしが銃を撃って間を作る。その間に唯は中に入って隠れるんだ。そして視界ジャックで様子を見て後ろを取れそうならそいつで一発頼む。くれぐれも無茶はするなよ!」
唯「了解でありますりっちゃん隊員!」
律「幸運を祈る、唯隊員!」
敬礼を交わし、りっちゃんの拳銃の音が合図になった。
パァン──
よーい…どん、まるでかけっこが始まる時の前みたいに緊張していて…ちょっと転びそうになったりした、けど…!
何とか中に入ることに成功した。とりあえずすぐ側にあった部屋へ逃げ込む。
唯「わぁ…本がいっぱい」
律「唯は上手くやったか…」
弾は後一発…陽動に使うにしては勿体無い。
私は再びそれをスカートにし舞い込むと、機会を伺う。
バァン───
バァン──
律「くっ…」
鈍々しい音を上げながら玄関、いや、門の方が表現は正しいかもしれない。を削り取っていく。
撃たれるごとに自分の居場所が削り取られているみたいで悪寒が走った。
律「だけど…ここがチャンスでもある」
あの猟銃は古いのか弾が二発しか込められないようだ。その証拠にどんな時でも二発撃つとその後若干間があった。
律「その間にわたしも飛び込めれば…!」
次だ…次に来たら飛び込む。出る振りをして陽動をかける、すると、
バァン──
律「(一つ…)」
すかさず陽動、
今度はギリギリまで行く。
バァン──
律「(二つ!!!)」
一気に飛び出し手短な部屋へと、
バァン──
律「なっ……」
ズウッ───
律「あ゛あ゛あ゛があああっ」
足を撃たれた……。
痛い……痛いよぉ……クソッ……何で三発目が…。
部屋に転がり込みながら片目を閉じ猟銃を持っている屍人の視界ジャック。
──【フエッヘッヘッ……】──
屍人は弾を一発だけ入れ、また狙いをつけている。
そうか……普段は一発づつにしておいて……わたしが出てこようとした時に素早く二発弾を入れたのか……なんて
それにこの知能……並みの屍人レベルじゃない。何だよ……こいつ!!!
律「クソ……立てよ…立てよわたし!!」
足から大量の血を流しながら、それでもバットを支え棒代わりにして立ち上がる。
幸い弾は貫通しているらしく、風通しはいい…かな。
──【死ね…殺してやる…幸せそうな面をしたやつなんてみんな死ね…】──
エントランスを降りてこっちに来ている…わたしを仕留めるつもりだろう。
律「な…ろうっ!」
バットを下手に持ち構える、唯だけはやらせない…!
相討ちになってでも倒す…!
ギリギリの所で視界ジャックか切れる、なるほど…体力がなくなると出来なく…なるのかな?
ただ扉に向かって走り、敵が見えたところでバットを大きく振りかぶる。
律「持っていけ!!!」
わたしの命と引き換えだ!!!
カチャリ……
コンマ数秒、多分テレビでよく言われてる百分の何秒ってやつ足りない。
このバットが当たる前に…やつは引き金を引くだろう。
そうわかっていてもわたしはもう逃げない。この一発にはわたしだけじゃない、澪や梓…みんなの気持ちが込もってんだよ!!!
律「届けええええええええええええええええ!!!!」
バァン──
律「……」
「…………オゥ…」
唯「間に合っ…た?」
律「…………」
糸の切れた人形みたいに倒れ込む律。
唯「りっちゃん!!!!」
頬と足から血を流し、眠ったように倒れている。
唯「…り゛っち゛ゃん……」
律の頬にポタリと落ちる……
律「……」
鼻水。
律「やけにねっとりしてると思ったら鼻水かよっ! 視界ジャック損だよ!」
唯「りっちゃん!!! 生きてて良かったよぉ……」
律「ギリギリな。唯がなんか投げつけたおかげで射線がズレたみたい。てか何投げたんだよ?」
唯「火掻き棒!」
律「あの車に入ってたやつか……救われたな、火掻き棒に」
唯「だね!」
律「」ビクッ
律「唯、わたしは動けないから一人で封印を解きに行ってくれないか?」
唯「でも……りっちゃんの手当てしなきゃ!」
律「それぐらい自分でできらぁい。心配するなよ。人間頑丈に出来てるからこれぐらいじゃ死なないよ」
唯「……ほんとに?」
律「ああ。りっちゃん嘘つかない」
唯「…………うん、わかった。じゃあ行ってくるね! 封印解いたらすぐ戻ってくるから!」
走り去る唯の後ろ姿を見て、安心した。これでもう大丈夫だな。
律「さて……と。いるんだろう、ムギ。出てこいよ」
怪力紬屍人「オギャアァァァァァ……」
律「変わり果てちまったな……ムギ」
よっこらしょっと。
バットを杖がわりにして立ち上がる。このバットには本当世話になったな…。
律「今……楽にしてやるから」
ごめんな……唯。わたしは結局生きられる運命じゃなかったみたいだ。
でもここまでお前を守れて良かったよ。
あの時光る世界でしたみんなとの約束……守れたかな?
予告ホームランの構えでいい放つ。
律「りっちゃん甲子園、開幕だぜ」
唯、後、任せた。
──
唯「早く……早く封印を解いてりっちゃんの手当てを…」
ドアと言うドアを、扉と言う扉を開け、白色の光を追う。まるで江戸時代の殿様みたいな絵面だなんて思いながら、ようやく中庭へ辿り着いた。
唯「この噴水を壊せば……!」
目に入った大きめの石の目の前でしゃがみ込み、
唯「ふんすぅぅぅぅぅぅぅぅいっぱああああああああああつぅぅぅぅぅぅぅぅ」
ありったけの力で持ち上げる。
よたよた歩きながら水を溜めてる要因となってる噴水の段差に上り、石を、
憂「やめて、お姉ちゃん……」
唯「憂……?」
──
律「どうしたよ!? そんなもんかぁ!? 今のりっちゃんは絶好調だぜ!?」
怪力紬屍人「アアアアアアアア」
なんとかキッチンまで誘導出来たのはいいけど……そろそろ立ってるのも限界くさいな。
ここに入って回してから数分……そろそろいいか。
律「どうしたよ! そんなもんか!?」
ひたすら煽る、もっと近づけないと……!
怪力紬屍人「ウキャアアアアアア」
中華鍋を投げつけてくるムギ。それを弾かずかわす……。
律「あっ……」
余程足に来てたのか避けた拍子に尻餅をついてしまった。
その間に距離を詰められ、
紬「シャランラァァァァァァァァァァ」
首を締め上げられたまま持ち上げられる。
なんて力だよ……、こりゃ後数秒持たずにへし折られるな。
他人事みたいに洞察した後、スカートとヘソの間にある拳銃を取り出す。
これで仕上げだ……。
また、救えなかったな……ちくしょう。
でもまあ……いっか。
次こそは……必ず。
全員助け出すんだ……。
その時力を貸してくれよ……わたし。
意識が消える前に、引き金を、引いた。
ズオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンン
───────────
唯「憂……なんで」
憂「お姉ちゃん……。どうして諦めてくれないの?」
唯「諦められるわけないよ!!! みんながこんなことになる世界なんて……」
憂「それが現実なんだよ」
唯「違うっ! わたしの知ってる世界は……もっと希望に溢れてた!!!」
憂「絶望は希望、一緒なんだよ、お姉ちゃん」
唯「ちがうちがうっ! わたしは……わたしは……みんながいない世界なんて絶対に認めない!」
憂「……じゃあ私が消えてもいいの? お姉ちゃんは」
唯「えっ……」
憂「お姉ちゃん、私は……」
堕辰子なの──
唯「堕辰子…?」
憂「そう。この世界を作って、みんなを苦しめてる元凶なんだよ?」
唯「そんな……嘘でしょ…?」
憂「……嘘じゃないよ。その証拠に」
憂が何かを差し出して来る。
青い炎……。
唯「宇理炎……?」
憂「それで私を焼けばこの世界は終わる。安心して、お姉ちゃんは死なないから」
唯「……?」
憂「終わらせたいんでしょ? なら封印を解くなんてまどろっこしいことしないで私を焼けばいい」
唯「憂……」
最終更新:2011年03月19日 03:14