羽生蛇村 屍人の巣 中枢
第三日
AM3:00:00
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……また、ここか。
もうどこが本当の世界で、どこが戻るべき場所なのかさえ忘れてしまった。
唯「どんなに悲しくても涙も出ない…」
私はまた起きて、この宇理炎と共に屍人を狩り続けるのだろう。
唯「死にたくても死ねない。帰りたくても帰れない。誰も…いない」
絶望。
まさにその二文字が相応しい。
唯「……堕辰子倒せば終わる……」
でも、それは二重の意味で出来なかった。
一つは今のままじゃ勝ても負けれもしないってこと。
一つは堕辰子を殺せば……。
その分身である憂が消えてしまうってこと…。
唯「憂、いるんでしょ? 出てきなよ」
憂「やっぱり気づいてたんだね……」
唯「ここへ来て二つの記憶が一つになった今、全部わかったんだ」
憂「……」
唯「答え合わせをしようか、憂」
唯「…現代時間で言えば27年前、私達は羽生蛇村の人間だった。私達4人は肝試しに出かけたところで異界に呑み込まれる。ここまで合ってる?」
憂「うん……」
唯「そして私達はここまで何とかたどり着いた……宇理炎を手にして」
唯の左手の青白い炎が輝く。
唯「四人で堕辰子に挑んだ……けど…私達は敗北した」
憂「……」
唯「一回打てば命を失う宇理炎を3回分、当てても敵わなかった……りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃんがいなくなり……怖くなった私は堕辰子に祈った。やり直させてくださいと……」
唯「そうしてやり直した世界が……あの世界なんだね」
憂「うん……。私はそれを管理するために堕辰子から産まれた分身…」
唯「妹って役割で入り込んで来たんだ。通りで憂に話しかけられるだけで心が安らぐと思った…。脱け殻のみんなを見る度に違うと思った……! そんな造られた世界を本当の世界だとずっと思ってた!!!」
憂「お姉ちゃん……」
唯「……答え合わせを続けよう、憂」
憂「…………お姉ちゃんがそれを望むなら」
唯「今私が不死身なのは憂のせい?」
憂「せい……だなんて言わないで欲しい」
唯「……じゃあ言い方を変えるよ。憂のおかげ?」
憂「うん……。部室で屍人化しそうなお姉ちゃんの血を抜き取って……私の血を…」
唯「私は他の三人と違って生身だったってわけだ」
憂「……うん。律さんや澪さん、紬さんは宇理炎で体を焼かれてしまったから……どうしようも出来なくて……」
唯「違和感を与えないように脱け殻を設置したってわけだ……」
憂「……」
唯「それで? いつまで続けるつもりなの? こんな終わらない世界をいつまであなたは繰り返すつもりなの?」
憂「私は……ただ……お姉ちゃんに生きて欲しかっただけなの」
唯「私だってそうだよ……! ただみんなと普通に暮らしたかった! 憂とだって……」
憂「でも……もう知っちゃったよ? お姉ちゃんは全て……それでも……また……やり直したい?」
唯「……私は……」
「おいおい、聞いてたら勝手に人を脱け殻だの何だの……言いたい放題だな、唯」
「いつからそんな口達者になったんだ? 唯」
「唯ちゃんはそんな辛そうな顔して周りに心配かけたりしない子でしょ~」
唯「みんな……」
憂「……」
律「よっ、久しぶり。唯も憂ちゃんも」
澪「それにしてもここ不気味だよな……」ガクブル
紬「じゃあとりあえずお茶にしましょうか!」
律「ムギー。さすがにそれは無理があるぞー」
澪「唯。私達のことが偽物だとか本物だとか……そんなことは大したことじゃないだろう?」
唯「澪ちゃん……」
律「澪の言う通りだぜ。それともなんだ!? 偽物だからってじゃあもう遊ぶのやーめたか?! そんなのわたしは寂しいぞ唯っ!」
紬「どこの世界だろうと、私達が友達っていう事実は変わらないわ。だからこうしてまた私達はここにいる」
唯「……でも……」
「全く……視界ジャックがなかったら死んでたわよほんとにもう」
唯「!?」
和「唯が勝手に否定するのは構わないけど、私の記憶にはちゃんと幼なじみの唯がいるんだから。それまで奪わないでよね」
唯「和ちゃん……!?」
和「私は何がどうなってるのかとか全くわからないけどね……。ただ唯やみんなが心配だからここまで来たの。それ以上もそれ以下もないわ!」
唯「……」
憂「ありがとう、和ちゃん。来てくれて」
和「憂。無事で良かったわ。なんだかよくわかんないけど喧嘩は駄目よ?」
憂「うんっ」
唯「……じゃあ今までのこと全部忘れて……また繰り返せって言うの? もうやだよ……わたしには……」
羽生蛇村
第三日
AM1:00:00
終了条件1 梓に自分の血を飲ませる
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純「あ~ずさ~」
純「あずさ~」
純「梓二号~」
純「あずにゃ~ん」
純「駄目か」
一時間色々な呼び名で叫んでみるも反応なし、か。
純「半屍人は生前の記憶に反応するらしいけど……もう屍人になっちゃったかな……梓」
純「ううん諦めたら終わりだよっ! ここで取り出したりはわたし愛用のベース!」
純「これを楽しそうに引けば梓も寄って来るかもしれない!」
純「~♪」ベンベンベベン
純「……アンプないから寂しい」
バサバサバサ……
純「はあ……」ベンベンベベン~♪
バサバサバサ……
純「梓~」ベベンベベン♪
「シャアアアアアア」
純「うわっ!」
上から急に何かに掴み上げられ、わたしの体は宙へ浮いた。
純「な、なにっ! 屍人!?」
羽根梓屍人「シャアアアアアア……」
威嚇する猫のような声を出しながらわたしをどこかへ連れていこうとする屍人。
純「ってよく見たら梓じゃん!!! わたし! ほら! 純だよ!?」
羽根梓屍人「」バサバサバサ
純「聞いてないしっ! クソ~こうなったら!」
1 暴れてやる!
2 梓の口に無理矢理手を突っ込んで噛ませて血を飲ませてやる!
※2
純「とりゃっ!!!」
羽根梓屍人「ンン!?」
純「ほら噛みなっ! そして純度100%の血を飲むんだよ!」
羽根梓屍人「ンン……ンンッ!」
純「っつ……そう……それでいいよ…。わたしは屍人にもならない体らしいから心配しないで」
羽根梓屍人「ンン……ンン……」
純「ありがとう、梓。わたしのことをあんなに思ってくれて。それがきっと神様に届いたからわたしはここを出れたんだよ」
羽根梓屍人「んん……ん……」
純「でもね……やっぱり駄目だった。梓がいなきゃ生きててもつまんなかった。だから今度はわたしが神様に願うよ」
神様、いるのならどうか梓を元の姿に戻してあげてください……!
純「届いて……っ」
ゆっくりと失速して行く二人。やがて木にぶつかると、長い遊飛行は終わりを告げた。
梓「……」
純「あ、梓……元に」
梓「殺す気か!」
ペシーン
純「あいたっ! ここは感動の再会の場面でしょうが! それを平手打ちってあんたね!」
梓「うるさいうるさいっ! せっかく出られたのに戻って来たりして! 私のことなんてほっとけば良かったのに!」
純「それが出来なかったから今ここにいるんだよ、梓」
梓「……う、…うん…」
純「奥さん見ました? これが噂のツンデレ」
梓「デレてないから」
純「相変わらず厳しいな~梓は」
梓「純……ありがと」
純「ん」
学校の中みたいなやりとりをした後、二人は光を遮る為に造られた屍人の巣に目を向ける。
純「行こう、梓。先輩達の助けになりにさ」
梓「うん。みんなで帰ろう。私達の場所に」
終了条件達成
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最終更新:2011年03月19日 03:23