先程和達が来た道からまた二人の人影が現れる。
梓「唯先輩は楽しくなかったんですか? みんなで過ごした日々が」
唯「あずにゃん…」
嘗て誰よりも可愛がっていた後輩の登場に複雑な笑みを浮かべる唯。
純「間に合った~…。おいてけぼり食らわなくて良かったぁ…」
ヘナヘナとその場に崩れ落ち、これで一安心とばかりに安堵の表情を浮かべる純。
和「良かったわね、純」
元気そうな梓を見て、和がそう告げた。
純「はい。和先輩も無事で何よりです」
唯「楽しかった…。毎日がいつもキラキラ輝いてて…」
それに同調するように律も続ける。
律「だから私達はこの異界に落ちても…何回絶望しても、戻ろうとした」
ゆっくりと律の隣まで歩いて来た澪も、
澪「軽音部で過ごした三年間は私の宝物だよ」
後ろから律と澪に飛びついた紬も、
紬「それにまだ最後の学園祭も残ってるわよ唯ちゃん」
その後ろから来た和、純、梓もその列に加わる。
和「私は唯に笑っていて欲しいの。軽音部にいた時の唯みたいに」
梓「帰って練習しましょう。学園祭に向けて」
純「わ、私も軽音部入りますから!」
授業参観で親御さんが見てる中、真っ先に手を挙げる子のような挙手を見せる。
「だから……」
全員の言葉だった。
「一緒に帰ろう」
唯「んっ……そうだよね……」
この世界に来た私達がどうして諦めなかったのか。それは帰る場所がわかっていたからだ。それは羽生蛇村じゃない、桜ヶ丘高校、そして軽音部……。
それが本当に堕辰子が造り出したものだとしても、ううん、もしそうなら逆に感謝しなきゃ。あんな楽しい世界をありがとうって。
だから……
唯「憂、帰ろう。私達の場所に」
手を伸ばす。
憂「私も……いてもいいの? みんなと一緒に……? 私……堕辰子だよ…? 人間じゃないんだよ……?」
声を震わせながら問う憂に、優しくこう告げた。
唯「憂はわたしの妹だよっ! たった一人の大切な妹」
憂「お姉ちゃん……って……呼んでもいいの?」
唯「当たり前でしょっ」フンスッ!
憂「う……うっ……ありがとう……」
両手で目頭を抑え泣く憂。
憂「お姉ちゃ……」
憂「ア」
憂の体が激しく震える。
唯「憂……?」
憂「アア……逃げて……お姉ちゃん…」
憂「クル…………堕辰子が」
憂の後ろに出来た暗闇から何かが出てくる。それは本当に生物なのかもわからない奇怪な姿をしていた。
背中に木の枝のような羽根を持ち
下腹部は蜂の様に膨れ
その上から人が伸びている。
しかし人のような顔ではなく、尖っており、狐のようだった。
唯「これが……堕辰子」
何もない一面の野原。その上に広がる暗闇の中、堕辰子は降臨した。
堕辰子「人間ノ真似ヲサセ過ギタヨウダナ。余計ナ事ヲ。所詮お前ハ私カラ産マレタ分身デシカ過ギナイト言ウノニ」
憂「アア……アア……ダメ……消さないで……」
堕辰子「私ノ血肉ニ還リナサイ」
憂「アアアアアアアアア……あああああああああああっ!」
唯「憂っ!!!」
憂「お姉……ちゃん…」
唯「憂いいいいいっ!!!」
伸ばした手は虚しく空を切り、さっきまで憂がいた場所にはもう何もない。
唯「憂……」
堕辰子「又性懲リモナクソレデ私ヲ焼クカ? 結果ハ見エテイルダロウ」
唯「憂を返して……!」
宇理炎を突き出し、堕辰子にそう要求する。返さないのなら……!
堕辰子「無駄ナ事ヲ。モウ次ハ無イ。お前ノ仲間達ノ様ニインフェルノニ閉ジ込メテヤロウ」
唯「次こそみんなで一緒に帰るんだ!!! 憂も一緒に!!!」
その言葉がきっかけとなり、後ろのみんなもそれぞれの武器を構える。
堕辰子とにらみ合う。どっちから仕掛けるか、その均衡がまだ場を支配していた。
しかし、その均衡を崩したのは思わぬ人だった。
「あんたは神なんかじゃないわっ! ただの薄汚い虫よ!!! 消え去りなさい!!!」
その声の持ち主が投げたものが破裂する。それはこの暗闇を一瞬だけだが光に変え、辺りを包み込んだ。
堕辰子「オオオオオオ体ガ焼ウウウウウウ」
次に見た光景は堕辰子から白い煙が挙がり、苦しんでいる様子だった。
唯「あっ……!」
左手に持っていた宇理炎の感触がなくなる。
さわ子「悪いわね、唯ちゃん。この役目だけは譲れないわ」
ポン、ポン、と右手で宇理炎を宙に上げたりキャッチしたりを繰り返しながらさわ子が告げた。
唯「さわちゃん……どうしてここに」
さわ子「どうして? 面白いこと言うわね唯ちゃん。こうなった全ての元凶は私とも言えるのよ」
唯「どういうこと……?」
和「やっぱりそうなのね…。でなきゃ桜ヶ丘が異界に飲み込まれたりしないもの…」
純「分家になった八尾の血筋でも探し当てて儀式を行なったんですか…!」
さわ子「その通りよ。当然そんな薄い血じゃ儀式は失敗するのはわかってたけどね。ただ異界が発生すれば堕辰子も出てくる…そう踏んだのよ。そしてそれは見事に当たった」
純「一体何のために!?」
さわ子「何のために? 全てのためよ!!! 私と云う存在理由が堕辰子を許せないの!!! 27年前のあの日、村を消し去ったその時から私の復讐は始まってた! まだ赤子ながらに覚えてるわ!!! あの忌まわしきサイレンの音を!!!」
そうか……あの時最後まで生き残ったのはさわちゃんだけだったのか…。
さわ子「だからいくら唯ちゃん達がこいつを許せないとしてもこの役目だけは譲れない!!! さあ宇理炎!!! こいつを焼き殺しなさいっ!!!」
宇理炎が青白く発光し始める。
唯「さわちゃんダメッ!!!!」
制止の言葉も虚しく堕辰子が青い炎に包まれる。
堕辰子「ウオオオオオオオオオオオオオ」
苦しむ堕辰子、だが、
さわ子「消えない…どうして……」
逆にさわ子の体に青白い火がつき、存在を燃やして行く。
唯「宇理炎だけじゃあいつは倒せないんだよ……さわちゃん……」
さわ子「そんな……それじゃあ私がしてきたことって……いった」
いったい、の最後の文字を言うことも出来ず燃やし尽くされたさわ子をただどうすることも出来ず見ているしかなかった。
堕辰子「人間ト云ウノハバカナ生キ物ダナ。自分ノ存在ヲ消シテマデ物事ヲ成ソウトスルトハ」
炎が収まった堕辰子がそう言う。
律「あんたにはずっとわからないよ。さわちゃんの気持ちも、私達の気持ちも」
澪「もし私がさわ子先生の立場なら……もしかしたら同じ過ちを犯していたかもしれない」
紬「確かに桜ヶ丘を異界に飲み込ませたのはさわ子先生のせいかもしれないけど……元を正せば全てがあなたに繋がるわ!」
堕辰子「器風情ガ。私ノ分身ガ創リアゲナケレバ存在サエ出来無カッタト云ウニ」
律「関係ないねそんなこと。わたしはわたしの意思で生きてんだから。それに良かったよ、私達を造ったのがお前じゃなくて憂ちゃんで」
堕辰子「同ジ事。憂ハ私デアリオ前達ノ言ウ堕辰子デモアル」
梓「あなたみたいなのと憂を一緒にしないで!」
純「そうだよっ! 憂は料理も得意で掃除も得意で勉強も出来るんだから! あんたなんかよりよっぽど凄いよっ!」
梓「そういう意味じゃないんだけど……」
堕辰子「……」
和「憂は返してもらうわよ。私の可愛い妹でもあるんだから」
唯「憂はわたしの妹だよ和ちゃんっ!」
和「私のでもあるってことよ」
堕辰子「ナラ私ノ存在ヲ消スカ、人間ヨ」
唯「あなたから憂を引っ張りだした後、ね!」
堕辰子「ナラバコノ先、インフェルノデ待ツ。今度コソオ前達ヲ消シ、二度ト我ノ前二現レヌ様二シテヤロウ」
そう言い残すと黒い空間の歪みを残したまま堕辰子はどこかへ消えていく。多分、いんふぇるのへ向かったのだろう。
唯「みんな、この先は一つの光も届かない世界……多分堕辰子を倒すまで出られない。覚悟はいい?」
律「ここまで来たら後は行くだけだ。今更後戻りなんてしないよ」
澪「ああ。終わらそう、この絶望を」
紬「堕辰子が来てから始まり…変わってしまったこの世界を元に戻しましょう」
純「でも憂は助けないとね!」
和「ええ、勿論」
梓「どうやって助けるんですか?」
純「わたしが梓を助けたみたいに純度100%の血を堕辰子に…!」
梓「多分無理だと思うよ…。そもそも口とかなかったような」
純「!? じゃあ一体どうやって喋っていたのか…謎だ」
うん、みんな大丈夫そう。これならきっと帰れるよ。また、あそこに。いつかきっと。
唯「じゃあいこう! いんふぇるのへ!」
いんふぇるの
第三日
AM3:33:33
終了条件1 U&Iを歌い憂を取り戻す
終了条件2 堕辰子を倒す
────────────
ついた先はまるで幻想のような世界だった。
上下に赤、黄、白の花のような模様が蠢き、万華鏡を覗いてるかのような気分になる。
唯「さわちゃん……」
さわ子の魂も宿った宇理炎を手に抱き、虚空に浮かんでいる堕辰子を視界に捉える。
これが最後の戦いだろう……後にも先にも。
唯「みんな……行くよ!!!」
律の装備を選択
1 エクスカリバット
2 エクスカリバール
3 ヒカキボルグ
※3
唯「りっちゃん、これを! 私には宇理炎があるから!」
律「おうよっ!」
魔剣とも恐れられた最強の武器の一つ、ヒカキボルグ。その流用さは武器だけに留まらず、灼熱をつついたりと云う荒業とて可能とする伝説の武器。
それが今、律の手に宿る!!!
律「よっしゃあっ!!!」
澪の装備を選択!
1 エクスカリバール
2 エクスカリバット
3 自分の詞
※1
澪「よし、私は自分の書いた詞で……」
律「澪……やめとけ」
澪「律がそういうなら……」
瞳を閉じ、念じる。
澪「こい……!」
その手に収まったのはエクスカリバール。カリバーンの原点とも言われるその武器の威力は深く刺さり込んだ釘さえも引き抜くっ……!
澪「よし、いくぞ!」
紬の武器を選択!
1 エクスカリバット
2 ネイルハンマー
※2
紬「気づいたらこんなものが……」
ネイルハンマー、怪力のものにしか扱えないと言われる重槌。
このメンバーでは唯一彼女にしか扱えないであろう代物。
その一撃は本当に岩さえ砕くっ……!
紬「いくわよ!」
和の装備を選択!
1 エクスカリバット
2 山口組のドス
※1
和「来なさい……」
その手に来れりはエクスカリバット。木製バットに釘が無造作に打ち付けられており、持つと思わず……クソすぎだろ!!! と言いたくなるような代物。
和「…………」
言いたくなるような代物。
和「……言わないわよ」
梓の装備を選択!
1 猫の手
2 孫の手
3 猫耳カチューシャカッター
※3
梓「よーし私も!」
梓「えいっ!」
猫耳カチューシャ
梓「…………」ポイッ
梓「もう一回!!! えいっ!」
猫耳カチューシャ
梓「…………」
純「……どんまい」
純の装備を選択!
1 モップ
2 モップ
3 モッ(ry
純「モップしか出ないようっ~!」
仕方なくモップを担ぐ純。髪の毛と御揃いで実に凛々しい。
ここに、また一人モッパーが生まれた!
唯「みんな!!! 堕辰子には宇理炎か宇理炎を纏った攻撃しか効かないから! 下がってて!」フンスッ!
律「えっ」
澪「えっ」
紬「えっ」
和「えっ」
梓「えっ」
純「えっ」
唯「ん?」
一同の心の声が聞こえるようだ。先に言えよ、と。
堕辰子「……来ナイノナラ此方カラ行クゾ」
その瞬間、堕辰子が消える。
この攻撃パターンは前と同じ……通じないよ!
静かに瞳を閉じると、
唯「視界ジャック!!!」
──【】──
私の後ろ姿が映し出される。
唯「後ろっ!!!」
何もない場所に宇理炎を翳す。すると消えていた筈の堕辰子が一気に青白い炎に巻き込まれる。
律「とりゃあああああああっ!」
その炎が残っている内に律がヒカキボルグで切り裂くと、斬撃が生まれ更に堕辰子に追撃をかけた。
堕辰子「ウオオオオオオオ」
そしてまた消える堕辰子。
律「ちっ、一回でダメになるか。もう使えないな……」
唯「りっちゃん!」
律「宇理炎を纏ってればいいんだろ? ならさっきみたいにやればいい。私達にも手伝わせろよ、唯」
澪「唯!!! 左だ!!!」
その声に反応してすぐさま宇理炎を翳す。
堕辰子「ノオオオオオッ」
紬「とやーーっ!」
澪「やあああっ!!!」
律と同じように炎が残っている内に二人同時の斬撃。
堕辰子「グウウウウウウ」
そしてまた堕辰子は消える。
澪「唯だけに背負わさしたりしないよ」
紬「みんなで戦いましょ♪」
唯「みんな……」
律「梓達もあっちで応援してくれてるしな」
──応援班
梓「フレーフレー唯先輩っ」
梓は猫耳カチューシャをつけながら、
純「頑張れ頑張れ唯先輩っ!」
純はモップをやんやと上げ下げしながらの応援だ。
和「唯! 上よ!」
唯「うんっ!!!」
上に宇理炎を翳し、堕辰子を炙り出す。
堕辰子「オオオオオオッ!!!! 何故ダ……何故ワカルウウウウウウ」
和「視界ジャックはね、あなたを倒すために用意された必然なのよ!!! はあああああっ!!!」
和のエクスカリバットが天空を裂く。
堕辰子「ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」
サイレンにも似た叫び声をあげる堕辰子。もう消えることも出来ずただ蠢いている。
和「唯! 憂を!!!」
唯「うんっ!」
憂、憂のこと思って考えた歌だよ。
受け取って……。
「キミがいないと何もできないよ
キミのごはんが食べたいよ
もしキミが帰ってきたらとびっきりの笑顔で抱きつくよ」
堕辰子「……」
「キミがいないと謝れないよ
キミの声が聞きたいよ
キミの笑顔が見れれば それだけでいいんだよ」
堕辰子「ヤメロオオオオオ」
「キミがそばにいるだけでいつも勇気もらってた
いつまででも一緒にいたい
この気持ちも伝えたいよ
晴れの日にも 雨の日も
キミはそばにいてくれた
目を閉じれば キミの笑顔 輝いてるっ!」
堕辰子「アアアアアアアアアアアアアアアア」
憂「お姉ちゃんああああああああああああああああんっ!!!」
そこにもう実体はないけれど、間違いなく憂はわたしの目の前にいる。
唯「憂……戻ってこれたんだね」
憂「お姉ちゃんの中にある私の血が私をお姉ちゃんに宿らせたの」
唯「そうなんだ…。憂……聞いてくれた?」
憂「聴こえたよ……! お姉ちゃんの歌!」
唯「憂。大好きだよ」
憂「うんっ……わたしも……わたしもっ!」
姿形はないけれど、私達はこの時確かに抱き合っていた。
終了条件1 達成
最終更新:2011年03月19日 03:24