唯「りっちゃん顔真っ赤だね…苦しいの?」
律「なんでもない、なんでもないから!唯お前はもう帰れ」
放課後の教室でりっちゃんと2人っきり、今日は澪ちゃんとムギちゃんに用事が
あるので部活が休みになりました。
仕方ないからりっちゃんを誘って帰ろと思ったんだけど…
唯「そんな…だって、りっちゃん凄く苦しそうなんだもん、ほっとけないよ…」
律「うう…唯ぃでも私ぃ…」
潤んだ瞳に上気した顔、今まで見たことがない色気を含んだ表情を向けるりっちゃんに抗えない魅力を感じた私は、引き寄せられるように隣の空いている席に座りました。
律「唯、駄目だ、今近づいたら…」
隣でじっとりっちゃんを見つめる。やっぱり何だかおかしい。
顔が赤いし息は荒いし、時折切なそうな顔で体をもぞもぞさせてる。
いつもの元気で明るいりっちゃんとは違って、何というか、すごく……変な気持ちになっちゃいます。
唯「ねぇりっちゃん、どうしたの?顔真っ赤だし……お熱あるのかな?どれどれ……」ピトッ
律「ひゃっ、ひゃああああっ!ゆ、唯っ!何でもないからやめろってぇ!」ビクンビクン
唯「ごっごめんりっちゃん!嫌だった!?ごめんなさい!」アタフタ
熱を計ろうと思っておでこをくっつけたら、りっちゃんがもの凄い勢いで引いちゃいました。
いつもならもっと引っ付いたり抱きついたりしてるのに……
一体どうしたんだろう。一緒に部室に来るときはいつものりっちゃんだったのに。
部室についてから何かあったかな?二人でいつもみたいに騒いで、
やっぱり皆がいないとつまんないねって言って……
えっと、それから戸棚を漁って、ムギちゃんが持ってきたクッキーとか
私が置きっぱなしにしてたポッキーとかを食べて……
あっ!!そういえばりっちゃんが戸棚の奥から見つけた変な瓶に入った液体、あれかな?
…
……
………
律「おっ、何か見つけた!可愛い瓶だなぁ」
唯「何それー?ムギちゃんのかな」
律「だろうな。どれどれ……おおっ!何だかすごく甘くていい匂い!これ紅茶に入れて飲んでみようぜ―!」
唯「ええ―!?やめときなよー!よくわかんないし、高いものかも……」
律「ちょっとなら大丈夫だって!唯が飲まなくてもあたしは飲む!」
唯「もー!りっちゃんのいやしんぼさん!!」
………
……
…
結局、りっちゃんはあの液体を紅茶に入れて飲んでた。
実際すごくいい匂いだったし、りっちゃんもおいしそうに飲んでたけど……
思えばあの二人っきりのティータイムの後からだった気がする。
りっちゃんの様子がおかしくなったのは。
そんなことを考えてるうちにも、りっちゃんは私の隣で苦しそうにしてる。
さっきよりも更に顔を真っ赤にして、足をもぞもぞさせてはハッと気づいたようにやめる。その繰り返し。
唯「ねぇりっちゃん!本当に大丈夫!?保健室行こうよ!」
律「大丈夫だって!///てかお前帰るんじゃなかったのかよ!///」モジモジ
唯「二人しかいないのに……何でそんなに私のこと邪険にするの……?」
律「何でもないよ!あたしまだ残ってるから先帰っていいよ!///」モゾモゾ
唯「しんどそうなりっちゃん置いて帰れないよ!ほらっ、一緒に帰るか保健室行くかどっちかだよ!」グイッ
律「んあぁっ!!///ゆっ唯っ引っ張っちゃダメだってぇっ!!///」ビクビクッ!!
唯「!!ごっごめんっ!!」アワアワ
私が立たせようとして腕を引っ張ると、りっちゃんは体を痙攣させてへたりこんじゃった。
どうしよう……そんなに強く引っ張っちゃったかな……?そんなに辛いのかな……?
でも、床にへたりこんで肩で荒い息をするりっちゃんを見てると……
何だか私も体が熱くなって……胸の奥というか、お腹の下あたりというか……
よくわからないけど、体の奥の方がすごくジンジンする。
私も顔が赤くなってきてるのがわかる。
さすがに今やトマトみたいに真っ赤な顔のりっちゃんほどじゃないと思うけど……
律「ハァ……ハァ……んんっ!///……ハァ……ハァ……」ビクビク
唯「ごめんねりっちゃん!そんなに体調悪いとは思わなくて……」オロオロ
律「いや……だいじょぶ……ちょっと休めば……大丈夫だから……」
唯「ねぇりっちゃん、歩けないなら先生か誰か呼んでこようか!?」
律「い、いや!それはやめて!本当に大丈夫だから!そっとしといてくれぇ!///」
唯「う、うん……でもりっちゃん、とりあえずソファーいこ?床に座ってたら冷えちゃうよ?」
律「えっ……う、うん……わかった……んんっ!///……た、立てないよぉ……///」プルプル
りっちゃんは何とか立とうとしたけど、足に力が入らないみたいですぐにまたへたりこんじゃった。
唯「ほらりっちゃん、肩貸すから……そーっとね……」
律「ひゃっ///……うう……ありがとぉ……」ガクガク
りっちゃんの腕を私の肩に回す。またビクッてしたけど、
そーっとしたからさっきよりはマシかな?
唯「ゆーっくり、ゆーっくり……はいりっちゃん、ついたよー」
律「んっ!///サ、サンキュー唯……ふぅ、ふぅ……はぁ……」
ソファーに座って息を落ち着けるりっちゃん。
ちょっとはマシになったみたいだけど……それでもまだ辛いみたい。
体を動かす度にビクッってなって、足をモジモジさせてる。本当にどうしちゃったんだろ……
私はりっちゃんが紅茶に入れた不思議な液体が入った瓶を手に取ってみた。
前にテレビで見た昔の香水瓶みたいに凝ったデザインで、
中の液体はトロッとしていて薄いピンク色。
瓶の蓋はちゃんとしまってるけど、それでもお花みたいな、桃みたいな甘い香りが微かにする。
何だかその匂いを嗅いでると……さっきのりっちゃんを見た時みたいな変な気持ちになってくる。
これはどういう気持ちなんだろう……今まで経験したことのないような……
……ううん。本当は分かってる。これは……
唯「えっちな……気持ち?」
律「!!」ビクッ!
唯「いっいやっりっちゃん!何でもない!何でもないからね!?」アセアセ
律「あ、ああ……わかった……あはは……」
思わず声に出ちゃった。りっちゃんがすごくビックリしてたみたいだけど……聞かれちゃったかな?
でもこの気持ちは確かに、エ、エッチな気持ち……だと思う。
憂と一緒に映画やドラマを見てて、キスシーンになった時とか。
夜中にベッドの中で、つい手がお股にのびちゃった時とか。
あの恥ずかしいような、切ないような……そんな気持ち。
恋なんてしたことないけど、あんな感じなのかな?それとも全然違うのかな……
気持ちを落ち着けるように、もう一度瓶を見てみる。
よく見ると、瓶の真ん中には、弓を持った天使に囲まれるようにして、小さな文字で何か書いてある。
筆記体かな?何だか踊ってるみたいな字で、読みにくいけど……
唯「ぴー、えいち、あい……ぴ、ぴるたー?ふぃるたー?」
読めた……ような気がするけど、意味はわかんない。
ふぃるたーって、トンちゃんの水槽に乗ってるブクブクのことかな?
あずにゃんがそんなことを言ってた気がする。
でもそれが何の関係があるのかな?よくわかんないけど……
どうもただのクリームや蜂蜜やジャムみたいな、
普段紅茶に入れてるものとは違うみたい。
私はその瓶を元々あった戸棚の奥に戻した。
考えてもわかんないなら、もっと考えても仕方ないよね。
私はりっちゃんの座ってるソファーに戻ろうとした。
何をしてあげたらいいかわかんないけど、とりあえず一緒にいてあげよう。
病気の人は、誰かが一緒にいて、手を握ってあげたり、
背中をさすってあげるだけで楽になるんだよって隣のおばあちゃんが言ってたし。
だから「手当」って言葉は、病気の人に手を当てるって意味から来てるんだよ。
私ってかしこい!フンス!
そんなことを考えながら振り向くと、ふとりっちゃんがへたりこんだ床の辺りで何かが光った。
唯「なんだろうこれ……あれ?りっちゃんの椅子の下……何か濡れてる?」
律「!!!」ビクビクーン!
唯「なんだろこれ……なんかトロッとして……」
律「ゆっゆゆゆゆ唯!!それはさっき私が垂らしたヨダレだ!!汚いから触んな!!」アセアセ
唯「え~っそうなの~!?りっちゃんバッチぃ~」ケラケラ
私は笑いながらそれを制服の裾で拭いた。
ばっちぃなんて言ったけど、私もりっちゃんの顔に
鼻水ひっかけちゃったことあるし、ヨダレくらい別に……
でもりっちゃんはそうは思わなかったみたい。
今までにないくらい、人間の顔色なの?ってくらい顔を真っ赤にしてる。
律「ゆゆゆ唯!///そんなとこで拭くなぁ!ちゃんと洗えぇ!///」アタフタ
唯「え~そんなに慌てる~?ヨダレくらい別にいいよぉ~」
私はそう言いながら、なんとなく指を顔に持っていった。
匂いフェチ?ってのかはわかんないけど、ついつい指先の匂いを嗅ぐ。
唯「りっちゃんのヨダレ~……くんくん。あれ?ヨダレにしては匂いがしないというか……」
律「ぎゃあぁああぁぁぁ!!やっやめろ唯!!マジでやめろぉ!!」
りっちゃんはそう叫んで立ち上がると、私に向かって走ってきた。
あれっ?りっちゃん、さっきまで一人で立てなかったのに、もう大丈夫なのかな?
そんなことを考えてると、案の定……
律「んあっ!///ひゃうううっ!///」ビクッ!!
りっちゃんは私に向かって一歩踏み出した時点で大きく痙攣してバランスを崩した。
唯「りっちゃん危ないっ!!」ダッ!
私はとっさにりっちゃんに近づいて大きく手を広げる。
幸い距離があんまり離れてなかったからか間に合ったみたいで、
倒れこむりっちゃんをギュッと抱きしめる。
唯「りっちゃんだいじょ……」
律「んひゃぁぁあぁっっ!!!らめぇぇギュッてしないれぇぇえぇぇえぇっっ!!!」ビクッビクビクッ!!!
唯「うわっりっちゃ……」
私が抱きしめた瞬間、りっちゃんの体が大きくはねた。
言葉とは真逆に、私の体をものすごい力で抱きしめ返してくる。
唯「い、痛っ……りっちゃんどうしたの!?大丈夫!?」
律「ら、らいじょう……ぶりゃ……にゃいよぉお……」ビクッビクッ
りっちゃんの体はなおもはね続ける。呂律もちゃんと回ってない。
唯「あわわわわ……どっどうしよ……私なにしちゃったの!?りっちゃああああん!」ユサユサ
私は不安でたまらなくなって、思わずりっちゃんの体を大きく揺さぶる。
慌てていた私は、「りっちゃんに触れるときはそーっと」なんてすっかりどこかに飛んで行ってた。
律「んひゃあっ!!///らめぇっゆひっらめらよぉぉおぉっっ!!」ビクビクッ
りっちゃんの体がまた大きくはねて、すごい力で私の腕を掴んでくる。
まるで崖から落ちかけて、必死に生にしがみつこうとする人のように。
まるで戦争に向かう父親を必死で引き留める子供のように。
私の貧相な語彙ではそんな表現しかできないような、そんな力だった。
唯「り、りっちゃん……痛いよぉ……」
律「ごめ……ごめんにゃ……しゃい……れも……ゆひが……つよくしゅるかりゃあ……」ビクンビクン
りっちゃんは私にしがみついて少し落ち着いたみたいだけど、その体はなおも痙攣を続ける。
私はりっちゃんを刺激しすぎないように、そーっとそーっと頭を撫でてあげた。
りっちゃんはまだ「ふにゃあ……」なんて言いながら時折痙攣してたけど、何とか落ち着いてきたみたい。
最終更新:2011年03月21日 19:42