~澪の部屋~
澪「梓、はいお茶」
梓「…………」
澪「飲んでいいぞ?」
梓「…………」ゴクゴク
澪「喉渇いてるのか。おかわりあるぞ」
梓「…………」ゴクゴク
澪「梓、あの首輪やら何やらは──」
梓「」ビクッ!
澪「あ、ごめんな……ごめん……」
梓「…………」
澪(どうしようか……)
梓「…………」グゥ~
澪「ん? お腹空いてるのか」
澪「じゃあちょっとコンビニで何か買ってくるよ」
梓「……!?」
梓「…………」ギュッ
澪「…………」
梓「…………」ギュー
澪「……おい梓」
梓「…………」ギュー
澪「抱き付いてたら私がコンビニに行けないぞ」
梓「…………」ギュー
澪「…………」
梓「…………」ギュー
澪(……まあいいか)
梓「…………です」ギュー
澪「ん?」
梓「……離れたくないです」ギュー
澪「ん……そうか」
梓「……そうです」ギュー
澪「…………」
梓「…………」
澪「…………」
梓「…………」
澪「…………」ナデナデ
梓「……えへへ///」
そうして、しばらく2人並んで座っていた。
その間、梓はずっと私に抱き付いていた。
時々、にゃーにゃー言いながら頬をすり寄せてきた。
その顔がすごく嬉しそうで、代わりに頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに微笑んでいた。
なんというか、本当に猫みたいだった。
その後、遊び疲れた子供のように眠ってしまった梓を布団に寝かし、私は唯の家へ行くことにした。
~唯の家~
紬「やっぱり警察に連絡するべきじゃないかしら」
唯「そうだよ澪ちゃん、あずにゃんがそんな酷い目にあわされてるなら尚更だよ」
澪「やっぱりそうかな……」
律「まあでも澪が心配してることも分かるぜ」
律「もし梓に暴力を振るった人間が警察を欺いて、シラを切り通せた場合」
憂「怒ったその人は、梓ちゃんに更に酷い仕打ちをしそうですね」
紬「猫を被った礼儀正しい大人と、必死に説明してるその親の子供なら、警察は前者を信じるでしょうね」
澪「…………」
純「それでその犯人は梓の母親なんですか?」
澪「うん。それは間違いないと思う」
澪「でも断定はできないから、明日できたら梓と話してみるよ」
唯「できたらって……やっぱりあずにゃんは頭おかしくなっちゃったままなの?」
澪「私の家では無口だったけど普通だった。廊下でヘッドスライディングしてた奴とは別人みたいだ」
唯「そっか~よかった~。でも何で急に戻ったんだろうね?」
律「澪に会って安心したんじゃないか?」
憂「今までずっと殺されるかもしれない恐怖の中にいたんですもんね……」
紬「安静にしてれば回復するかもって話だから、梓ちゃんを自分のお家に帰すのはやめたほうがよさそうね」
「じゃあ私はそろそろ帰るよ」
唯「え~、澪ちゃんも泊まってこうよ~。明日お休みだよ~」
律「唯ー、いま澪の部屋では梓が一人っきりなんだぞー」
唯「あ、そっか~」
憂「澪さん、無理しないでくださいね」
澪「うん。ありがとう憂ちゃん」
澪(……帰りにコンビニでおにぎりでも、あと梓の歯ブラシも買っていこう)
~澪の部屋~
梓「うぅ……ぐすっ……みお……ひっく……」ポロポロ
──ガチャ
澪「!? お、おい梓!」
梓「うわああああああん!」
澪「ごめん梓。一人にして」
梓「みお……ヒック……みお……グスン……」
澪「うん。澪だぞ」
梓「うぅ……」ギュー
澪「…………」
梓「…………」ギュー
澪「梓」
梓「……?」
澪「一緒にご飯食べよう」
梓「…………うん」
澪「梓、どれがいい? おにぎりを色々買ってきたんだ」
梓「……みおは?」
澪「ん? 私はどれでもいいぞ。梓が先に決めてくれ」
梓「……みおが先に決めて」
澪「…………じゃあ、このシーチキンにしようかな」ビリビリ
梓「…………うん」
澪「…………」パクパク
梓「…………」ビリビリ
澪(なんだ、梓もシーチキンじゃないか)モグモグ
梓「…………」パクパク
澪「梓、飲み物もあるぞ。午後の紅茶のストレートとレモン、どっちがいい?」
梓「…………」
澪「…………」
梓「…………レモンがいい」
澪「じゃあはい。ここに置いとくぞ」
梓「…………ホントは」
澪「……ん?」
梓「ホントは一緒の、おそろいが良かったです……」
澪「…………」
梓「///」ゴクゴク
澪「梓の分の布団を敷いて、と……」
私と梓の布団を2つ並べて床に敷く。
澪「ほら梓、遠慮しないでここで寝ていいからな」
梓「…………」
澪「よし、じゃあ電気消すぞ」
梓「みっ! み、みおも一緒の布団で……」
澪「…………」
梓「1つの布団で……一緒に……」
澪「…………」
梓「…………ダメ、ですか……?」
澪「…………」
澪「……いや、一緒に寝ようか」
梓「うん……」
寝てるときの梓は、私を抱き枕か何かと勘違いしたかのように抱き続けていた。
ちょっと苦しかったけれど、梓の寝顔を見て、なんだか急に嬉しくなった。
頭を撫でてみると、寝ているにもかかわらず、前みたいに嬉しそうにしていた。
もしかしたら、梓は頭を撫でられるのが好きなのかもしれない。
翌朝、梓が寝ている間に、こっそりコンビニにご飯を買いに行った。
因みに家のパパとママは、昨日、泥だらけの制服の梓を見た際に、なんとなく察してくれたみたいだ。
もし必要なら相談しなさい。いつでも力になる、と言っていた。
今日、梓から色々聞けたら相談してみるのもアリかもしれない。
いや、本当は一目散に相談して、警察に連絡するべきなんだろうけど、まずは梓と話をしてみたい。
幸い今日は土曜日で、明日も休みだ。
月曜日の学校、それまでには何とかしないと。
~翌朝・澪の部屋~
澪「梓、なに食べる?」
梓「えと……」
澪「二つずつ買ってきたから」
梓「じ、じゃあこのメロンパンで!」
澪「ふふ……じゃあ私もそれだな」
梓「うぅ……///」
澪(結構、元気になってるみたいだし……そろそろ聞いてみようかな)
梓「……」パクパク
澪「梓、昨日のことなんだけどな」
梓「…………」
澪「聞いてもいいかな?」
梓「…………うん」
澪「あんなことをしたのは、梓のお母さんか?」
梓「……うん」
澪(やっぱりか……)
梓「あの首輪なんかを嵌められたのは……もしかして一ヶ月くらい前から?」
梓「……うん」
澪(梓の父親が自殺したあたりだな。やっぱり原因はそこか)
澪(制服が汚れてたのはつい最近だったから、最初のほうは虐待する時わざわざ私服に着替えさせてたのか)
澪(泥だらけの制服なんかで登校してたら親も怪しまれるしな)
澪「それで梓、ここ一週間の記憶ってあるか?」
梓「…………よく覚えてない。思い出せない夢みたいな。何かしたことは覚えてるけど」
澪「じゃあここ一週間あたりで一番鮮明に覚えてることってなんだ?」
梓「…………確か、家に帰ったらお母さんが誰かと電話してて、そのあと急に怒り始めて」
梓「いつもは着替えてから首輪を付けるのに、その日は制服のまま首輪をつけられたです……」
梓「……その日はいつも以上に色々されたです」ガクガク
梓「……その前後の記憶はあやふやで、そこだけ鮮明に覚えてるです」ブルブル
澪(梓の口調が以前のに戻り始めた……)
澪「大体わかった。梓ありがとう。この話はここで終わりな」
梓「…………はい」
梓の話をまとめるとこうだ。
今日が土曜日で、制服が汚れていたのが木曜日。(参照>>65)
参照>>65
しかし翌日以降、6人の言動に反して
梓の奇怪な行動は日に日にエスカレートしていった。
教室のゴミ箱に頭を突っ込む、シャーペンの芯や蚊取り線香を食べる、そこら辺はまだ序の口。
2日後、ついに授業中に奇声を発し始める。
お昼休み、廊下に野球のベースを持ち込み、ヘッドスライディングの練習を始める。
もちろん廊下を全力疾走する際の奇声はデフォ。そして、職員室へ連行される。
3日後、ヘッドスライディングの練習を、授業を途中で抜け出し廊下でやり始める。なぜか制服は泥だらけ。
各教室で授業中の生徒の耳に、キェー!という奇声がドップラー効果に従い走り抜ける。
4日後、自分の手足を縄で縛って登校する。指先が血で滲んでいる。
授業でノートを取ることが出来ない。
縛った状態でのヘッドスライディングの練習も欠かさない。
しかしバランスが取れないため、そのまま顔面強打。のた打ち回る。
ということは、帰宅して母親が誰かと電話していたのは水曜日。
電話が終わったと思ったら、急に激怒。その日から制服のまま首輪をはめさせられる。
ひと月ほど前は学校側に怪しまれないように私服で首輪を付けさせられていたが、
その電話以降、制服に泥が付こうがおかまいなし、暴力も盛んになった。
そして電話の相手は──学校だろうな。
水曜日に本格的にヘッドスライディングの練習を始めた梓は、そのとき職員室へ連行された。
そして放課後、担任の先生か誰かが梓の家へ電話したんだろう。
『家でおかしな点はありませんか』とか何とか言って。
それ以前から学校で色々とおかしかったが、先生が梓の家へ電話するレベルじゃなかったしな。
そして担任の電話以降、梓の母親が自棄になり、梓への暴力が加速した。
澪「梓、ここでちょっと留守番しててくれないかな?」
梓「…………」
澪「嫌か?」
梓「…………平気。みおの部屋、好きだから」
澪「じゃあちょっと待っててな。そこのテーブルの上にある昨日買ったやつも適当に食べていいぞ」
澪「あ、あとそこの本棚にある漫画とか雑誌も読んでいいからな」
梓「…………」
澪「じゃあ、ちょっと出掛けてくる(何も聞かないのは、何となく察してくれてるんだろうな)」
~梓の家~
澪「」ピンポーン
──ガチャ
梓母「はい、どちらさまですか」
澪(この人が……)
澪「あの、高校の同じ部活の者ですけど、梓ちゃんは……」
梓母「ごめんなさい。梓は昨日の夜から帰ってきてないんです」
澪「そうですか。携帯のほうに連絡を入れてみたんですけど、電源が入っていないらしくて」
梓母「本当、何処にいるんでしょうね。あの子」
澪(やっぱりどこか他人事だな。こうなったら──)ガサゴソ
澪「あの、この鎖に見覚えはありませんか?」ジャラジャラ
梓母「さあ、何のことですか?」
澪「梓が全部話してくれました。母親に酷いことをされたって」
梓母「さあ、ちょっとよく分かりません……」
澪「本当、ですか?」
澪「梓は母にこの鎖で傷付けられたと言ってましたけど」
梓母「いったい何のことですか? 第一、娘を鎖で繋げる親なんて、普通そんな人いませんよ。常識で考えて下さい」
澪「…………」
澪「あの、一ついいですか?」
梓母「はい、何でしょう?」
澪「私がいつ鎖で『繋げる』なんてお話しました?」
澪「この鎖で傷付けるといえば、縛り上げる、叩きつける、普通はそっちを想像すると思うんですが」
梓母「え、あ……」
澪「私は、あなたを捕まえて警察に連絡しようとか、そういうことは考えてないんです」
梓母「…………」
澪「ただ梓を、あなたの暴力から解放して欲しいだけなんです」
梓母「くっ……」
澪「お願いします!」
梓母「わ、分かりました。警察に連絡しないという約束なら、そうします」
澪「そうしますって、どういうことですか?」
梓母「梓に暴力は振るいません」
澪「ありがとうございます」
梓母「じ、じゃあ用は済んだわね!」バタンッ
梓母(ふう……)
梓母(一時どうなるかと思ったけれど……)
梓母(あんな口約束守るはずがないでしょう)
梓母(今度あの小汚いドブ猫が帰ってきたら、絶対に逃げないようにしないと)
梓母(学校も辞めさせて、ずっと犬小屋に繋げておこうかしら)
梓母(そうね、それがいいわ)
梓母(ご飯は情から猫飯を一日二食与えてやってたけど、今度からは一日一食キャットフードでいいわね)
梓母(そうと決まれば、新しい首輪や鎖、キャットフード、今から色々買いに行きましょう。ふふふ……)
最終更新:2011年03月21日 01:37